陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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原作やアニメで制御装置がゼノンのところにあった経緯が示唆されてなかったので自分で作ってみました


強欲は身を滅ぼす

 人質が大講堂に連れてこられてもうずいぶん時間が経った。既に日は沈みランプの暖かな光が講堂を照らしている。

 

『レックスはまだか』

「はっ。そ、それが………一向に姿を見せず……他のチルドレン同様、や、やられた可能性も」

『使えん』

 

 生徒会長を務めるオリアナ王国の王女兼留学生のローズ・オリアナは黒ずくめの男たちを観察していた。

 彼女自身はいつでも動ける。だが動いても無駄だということも存分に理解していた。

 黒ずくめの男たちは数こそ少ないが、一人一人が油断できない実力者だ。しかも統率が取れている。

 中でもレックスと呼ばれていた男と、その上官と思われる『痩騎士』の力は抜きん出ている。実力を見誤り反抗した教師は何もできずに惨殺された。たとえ魔力を使えたとしても、勝てるかどうかわからない。

 幸いなことにレックスの姿はしばらく見ていない。外で騎士団に倒されていればいいが……レックスほどの実力者が不覚をとるとは思えない。レックスが戻ってくるまでに何とかしたいというのが、ローズの正直な思いだった。

 痩騎士は奥の部屋に籠っていることが多いが、時たま姿を現して大講堂を見回り、レックスが戻ってこないことに悪態をついていた。

 

 痩騎士の濃密な魔力やその佇まいから、その実力は達人の域を超えているだろう。時折ヘルムの下で咳き込む声が聞こえるが。もしかするとあのアイリス・ミドガルすら凌ぐか……それはないと思いたい。もしそうだとすればたとえ魔力を取り戻したとしても、ローズが痩騎士に勝てる見込みは限りなく低くなる。

 どちらにせよ、今はまだ動く時ではない。

 だが、時間がないのも事実だ。

 時が過ぎるにつれて、ローズは肉体から魔力が抜けていくのを感じた。おそらく魔力が使えない現象と関係しているのだろうが、確かな理由は分からない。ローズにはまだ余裕があるが、魔力量の少ない生徒は体調を崩しはじめている。あと数時間すれば魔力欠乏症になる生徒も出るだろう。

 心にこみ上げる不安と、焦り。 それを抑えるのは、身を挺してローズを庇ったシドの雄姿(本人はモブを演じたかっただけ)。彼の死を無駄にしないために(死んでいません)、その時を待つ………。

 

 そして、それは唐突に起こった。

 

 大講堂を見回っていた痩騎士の頭に何かが飛んできて一瞬大講堂が白く眩い光に照らされた。

 光がすぐに消え、同時にカツンと甲高い金属音が鳴って痩騎士が被っていたヘルムが床に落ちる。

 ローズ含むその他の人質達は隠されていた痩騎士の素顔を見て息をのんだ。

 

 

「ルスラン・バーネット副学園長?」

「え?どういうこと?」

「なんで副学園長が?」

「学園の理事長が学園を襲撃したってこと?」

 

 ルスランは慌てて顔を隠すがもう遅い。自分達で大講堂に集めた人質全員に顔を見られてしまった。

 

「くっ………うまくいっていたというのにッ、見られたからには仕方ない。――人質は全員殺せ

 

 普段の温厚なイメージを通してたのとは思えないほど冷徹な一言が大講堂全体に届いた。衝撃的過ぎてローズ達の反応が遅れてしまう。

 

 黒づくめの男達がルスランの命令に従って剣を構えようとしたその時、天井のガラスが割れて漆黒のロングコートを纏った一人の男が飛び込んできた。

 時を止めたかのように、辺りが静まり返った。

 男は真紅の瞳を光らせながら剣を天に向かって掲げた。

 

「来たれ……我が忠実なる輩下よ……」

 

 男が青紫の魔力を天に放つ。その光を浴びながら、黒装束の一団が大講堂に飛び込んできた。

 

「我等は──【シャドウガーデン】」

「「「「「陰に潜み……陰を狩る者」」」」」

 

 男の言葉に続いて綺麗に揃えられた声で告げられる。

 

「我が名はシャドウ…偽りの園を名乗ったこと…後悔するが良い。」

 

 まさか、新手が……?ローズの不安は杞憂に終わった。黒装束の一団は華麗に着地し、即座に黒ずくめの男たちと戦いだしたのだ。仲間割れ……という雰囲気ではない。騎士団の人間にも見えない。よく見ると黒装束の一団は全員が女性だ。そして。

 

「強い……」

 

 その誰もが強い。ただ純粋に強かった。

 黒ずくめの男たちは瞬く間に数を減らしていく。

 

  彼女たちの剣はみなシャドウの剣と同じだ。この猛者たちを従えているのがシャドウなのだ。

 

「シャドウ様、ご無事で何よりです」

「ニューか」

 

 シャドウと名乗った男の傍らに黒装束の女性が跪いていた。

 

「首謀者は学園に火を放ち逃亡しています」

「愚かな……此処は任せるぞ」

「はっ」

「逃げられるとでも思っているのか……?」

 

 シャドウは低く嗤った。そしてロングコートを翻し、たった一太刀で大講堂の扉を切り刻む。付近にいた黒ずくめの男たちもまとめて肉塊に変える。

 ニューの剣もまた尋常ではなかった。黒ずくめの男たちが一方的に切り伏せられていく。

 

「すごい……」

 

 ローズの常識が、いや魔剣士の常識が壊れていくような感覚。

 黒装束の集団が振るう剣は、既存のどの流派にも当てはまらなかった。

 以前選抜大会で対峙した一年生のとは別の全く新たな剣の流派。

 これほどの流派が、これほどの集団が、いったいどこから現れたのか。今まで知られずにいたことが不思議でならなかった。

 

「皆逃げるんだ!急いで外に出ろ!」

「怪我をしている者には手を貸せ!」

 

 その声でローズは我に返った。見ると大講堂の奥から火の手が上がっている。駆け付けたグレンとマルコが人質たちを外へと誘導していた。

 黒装束の集団のおかげで犠牲者がゼロで済んだ。戦闘は終わりを迎えようとしている。

 ローズも負傷者に肩を貸し出口まで送る。

 大講堂から続々と生徒が助けられていく。火の勢いは強くなり、黒ずくめの男は全滅し、いつの間にか黒装束の女性たちはまるで最初からいなかったかのように消えていた。

 ローズは最後まで生徒の救助を手伝い、自分も大講堂から脱出する。

 外には副学園長の義理の娘であるシェリー・バーネットが負傷者の手当てをしており、正門から騎士団達が駆けつけてきた。

 

「グレン!マルコ!」

「団長……!」

 

 そんな中、ミドガル王国の第一王女であり紅の騎士団の団長であるアイリスが団員であるグレンとマルコの方に駆けていた。

 

「突然魔力が使えるようになったところに、この火の手……中でいったい何があったの?」

「ディアボロス教団の連中が奇襲してきて人質を取ってました」

「なんですって?でも通報ではシャドウガーデンが学園を襲撃したと――――」

 

 ディアボロス教団?

 黒づくめの男達が名乗っていたのとは別の名前にローズはなにがなんだか分からなくなってきた。

 

「やはり教団はあのアーティファクトを狙ってたようです」

「それで首謀者の正体ですが、その……」

「あ、あの!お義父様を見ませんでしたか!?」

 

 三人が話をしているところに何も知らないシェリーが割って入る。

 

「シェリー殿……その、ルスラン副学園長だが……」

「お義父様はどうなったのですか!?教えてください!」

「っ………」

 

 なんと答えればいいかわからず言葉が続かない。

 

「そ、それにヴァイス君は一体どこに!?」

「え?」

「そういえばあの後姿を見てないな」

 

 その時、突然辺りに金属を打ち鳴らしたような甲高い共鳴音が響き渡った。

 何事かとローズやアイリス、その場にいた者達が身を固くしていると、グレンとマルコ、シェリーがポケットから水晶のついた長方形の板のようなものを取り出した。

 

♢♦♢

 

 夜の副学園長室を遠くの火が薄く染めていた。

 薄暗いその室内で人の影が動いている。

 影は本棚から数冊の本を抜き取ると、それを床に捨てて火を放った。

 小さな火が次第に本を侵食し、室内を明るく照らしていく。

 浮かび上がった影はルスランだった。

 

「やっぱりアンタが首謀者だったとはな、ルスラン副学園長」

「っ!?」

 

 ルスランは驚いて反射的に振り返る。一人きりしかいなかった室内に、いつの間にかもう一人少年がいた。

 少年はソファーに座り背筋を伸ばして本を読んでいる。ルスランにも広がる炎にも目もくれず、分厚い本に向けられている。ページを捲る音がやけに大きく響いた。

 

「ヴァイス・ネーベル君…………なぜわかった」

「オレは一度会った人間の特徴をある程度記憶するようにしている。外見から佇まい、歩き方…………そして魔力の波長。アンタが不治の病にかかっているせいで波長に特徴的な乱れがある。ここから魔力感知で講堂の様子を調べた時に魔力の収束点に同じ乱れを感じ取っただけだ」

「なるほど……悪くない観察眼だ」

「それにシェリーから『強欲の瞳』の話を聞いた時におかしいと思った。国に管理されているはずのアーティファクトが盗まれたというのなら、アイリス殿下が率いる団員にも情報が届いていなければおかしい。それどころか、グレンさんたちは『強欲の瞳』がどんなものかも知らなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)。しかもそれをアンタが使っていた。つまり、最初から『強欲の瞳』は国に提出なんかされていなかった。アンタはシェリーに噓をつき、ずっと大事に保管していたわけだ」

 

 ルスランはヴァイスを見て、ヴァイスは本を見ていた。

 炎に照らされた室内で二人の影が揺れていた。

 

「オレからも、参考までに聞かせてもらう」

「なにかね?」

「なぜこんなことをした?そもそも『強欲の瞳』で大量の魔力をかき集めていったい何がしたかったんだ?」

「…………なぜ、か……………少し昔の話になる」

 

 ルスランは腕を組み呟いた。

 

「かつて私は頂点に立った。君が生まれる前の話だ」

「ブシン祭での優勝を言ってるのか?」

「ブシン祭など……頂点には程遠い。本当の頂点はずっと先にあるものだ。君に言ってもわからないだろうがな」

 

 ルスランは笑った。そこに嘲りの色はなく、どこか疲れたような笑いだった。

 

「私は頂点に立ってすぐ病にかかってね。苦労して上り詰めた栄光は一瞬で終わった…………。それから私は病を治すすべを探し求め、ルクレイアというアーティファクトの研究者にその可能性を見出したのだ」

「シェリーの母親か。アンタは彼女のパトロンだったことはシェリーから聞いている」

「そうか………彼女は賢すぎて学界に嫌われた不幸な女だ。だが研究者としては最高峰の知識を持っていて、彼女の立場は私にとって都合のいいものだった。私は彼女の研究を支援し、数々のアーティファクトを集めた。ルクレイアは研究に集中し、私は彼女の研究を利用する。彼女は富も栄誉も興味がなかったから、いい関係だったよ。そして私は『強欲の瞳』に出会った。私が探し求めたアーティファクトだ。だがね、ルクレイアは……あの愚かな女は『強欲の瞳』が危険だと言って国に管理してもらうよう申請を出そうとした。だから殺してやった。身体の先から中心へ突いていき、最後は心臓を突き刺し捻った」

「アンタが殺したのか…………」

 

 ヴァイスは本を開いたままルスランを見た。

 

「強欲の瞳は私の手に残ったがまだ研究は途中だった。だが私はすぐに都合のいい研究者に出会ったよ。ルクレイアの娘、シェリーだ。クク…………クックック……彼女は何も知らず、何も疑わず、私に尽くしてくれた。私が仇だとも知らずにね…………可愛い可愛い、愚かな娘だ。母娘二人のおかげで強欲の瞳は完成した。あとは魔力を集める舞台を整えてちょうどいい隠れ蓑を用意するだけで済んだよ。今日は……私の願いが叶う最高の一日だった」

 

 クツクツとルスランは嘲った。

 

「どうだい、参考になったかな」

「大体は。だが…いくつか気になることがある」

「言ってみたまえ」

「制御装置はゼノン・グリフィのアジトにあったのは聞いていた。しかもルクレイア殺しの捜査にも奴は参加していた。偶然とは思えない。もしかして、あいつはアンタがやったことに気づいてたのか?」

「ああその通りだ。あの当時の騎士団に金を握らせ揉み消しに協力をさせたが、あの若造だけは違った。私がルクレイアを殺す時に使った凶器のナイフとルクレイアの研究資料を目ざとく見つけてね………教団内での昇格の口利きをしてもらうために私を脅迫してきたんだ。しかも自分の身になにかあってもナイフに残った私の魔力痕跡に関する資料やルクレイアの資料……私とルクレイアの殺しに繋がる証拠が世間に公表されるよう部下たちに指示していた。あの男を学園で見掛ける度に私はもう殺したくて殺したくて腸が煮えくり返りそうになったよ」

「だがゼノンとその部下たちはシャドウガーデンに始末された。脅迫者が消えてさぞ腸も収まっただろ?」

「そうだな。その点においてはシャドウガーデンに感謝でいっぱいだ。騎士団に回収された証拠は内部にいる私の友人に頼んで燃やすことができたし、しかも何も知らない愚かな王女が求めてやまなかった制御装置を私の下に返してくれた」

「そしてシェリーに解析させた後に堂々と返還を求めることができないアンタは行動を起こした。シャドウガーデンの名を騙って」

「君は賢いな…………ああそうだ。教団の存在が明るみになるのは避けたい上に連中はこっちとしても目障りだったからな。一連の人斬り事件はすべて連中の仕業になるよう手はずを整えている。証拠も、証言も、全て用意してある。戦いでいくら強かろうとも、どうにもならんよ」

「人質達にアンタの顔を見られたようだが?」

「そんなのはどうにでもなる。ここに来てる私の友人が上手く誤魔化してくれる。シャドウガーデンが私になりすまして罪を着せようとしていたとかね」

「その友人、ひょっとして今ここに来てる騎士団の隊長なのか?」

「……君は私の心でも読めるのかな?」

「そんな人間は存在しない。カマをかけただけだ。アイリス殿下と指揮権で揉めていたあの男……前に黒づくめの連中の襲撃の後に駆けつけてきた騎士団を率いていた。問題は、そいつが一人だけオレ達の後をこっそりつけてきては盗み聞きをするという怪しい行動をとった。問い詰めたところで誤魔化されるのがオチだからその時は気付かない振りをしたが……成程。アンタの駒だったか」

「………あの男、あれほど気取られるなと注意したのにドジを踏んだか」

 

 やれやれとルスランは溜息を吐く。

 

「……どうやら君を見くびっていたようだ。シェリーから君の推理力の凄さを聞いた時、私の考えを当ててしまったことに正直戦慄を覚えた。生かしておけば危険だと判断した私は手下数十人を使って始末しようとしたんだがね…………まさか返り討ちにするとはな」

「……あの時の黒づくめの連中、シェリーじゃなくてオレを狙っていたのか」

「ああ、だが気が変わった。ヴァイス・ネーベル君。どうかね?私が返り咲けばそれ相応の地位を用意するが?君は強いうえに途轍もなく賢い…ただの魔剣士として置いておくのは勿体ない。君のその知性、我々の組織で存分に奮わないかね?」

 

 とルスランはヴァイスをディアボロス教団へと勧誘しようとする。だがあくまでも方便。教団がディアボロス・チルドレン達にやってるように洗脳教育を行って自分の命令に従う傀儡にする腹積もりだ。

 

「……その前に一ついいか?」

「ああ」

「シェリーに関してだ。アンタはトップに返り咲くために母親だけでなくその娘を利用した。そして、解析が終わった後はシェリーを始末するつもりだったのか?」

「そのとおり、制御装置さえ手に入れば私は以前と同じ…否以前よりも大きな力を手にする。しかし制御装置を解析出来る者がいては私の地盤が揺るぎかねないからね」

「義理とはいえあの子に対して情はなかったのか?」

「ふん。情ならあったさ。私なりに大事にしたつもりだよ。ただし、私が力を手に入れるための都合のいい道具としてだがね」 

 

 そう言ってルスランは口角を大きく歪ませる。ルスランがヴァイスにシェリーの友人になってほしいと頼んだ時に優しい父親の顔はなかった。

 

「……それを聞いて安心した」

「安心だと?」

「アンタを潰すのに手心を加える必要がなくなった……これはなんだと思う?」

 

 ヴァイスは開いていた本を閉じ、ポケットから水晶がついた板状の物を取り出してルスランに見せる。

 

「なんだねそれは」

「これはシャドウガーデンから貰った通信機というやつだが、これは声を離れた場所に存在する別の通信機に送る仕組みになっている。これと同じのを持ってるのは紅の騎士団のグレンさんにマルコさん、そしてシェリーだ。そしてその三人は今人質たちとアイリス殿下のところにいる」

「なっ、ま、まさかー!?」

 

 

♢♦♢

 

『まさか……貴様ぁああああ―――!いつからだ!!いったいいつから……』

『アンタに話しかけた時からだ。アンタが手下たちに人斬りをさせていたこと、シェリーの母親にしたことも全部駄々洩れだ』

『なっなっ、なんてことを~~っっ』

 

 グレン達が持っている通信機から聞こえてくる会話が学園とその周辺まで反響していた。

 

「なんだよこれ………」

「副学長がこんな奴だなんて思わなかった」

「シェリーさんの母親を殺した上に利用していただなんて……」

「……最低」

「しかも騎士団までグルだってよ」

 

 内容を聞いていた人質となっていた生徒達は戸惑いとルスランに対する嫌悪感を抱いていた。

 

「まさか貴方が保管庫に火を…?」

「で、デタラメです!あ、アイリス様ともあろう御方がこのようなのに耳を貸すはずが……!」

 

 同じく内容を聞いていたアイリスは先程まで指揮権で揉めていた団長に問い詰めていた。団長は引き攣った表情で必死に誤魔化そうとするが…………

 

 パサ…。

 

「え?」

 

 突然上から大量に紙きれがひらひらと降ってきた。

 なんだなんだと地面に落ちた紙を拾う生徒達と騎士達。

 

 その紙は写真だった。ルスランと通じていたその団長が建物に火を投げ入れる瞬間。路地裏で魔剣士を背後から斬る瞬間などがはっきりと写っていた。

 

「おいこの建物、この前火事が起こった保管庫じゃないか?」

「団長の仕業だったのか!?」

「しかも斬られてる奴、人斬りに返り討ちにあったって話じゃなかったのか!?」

「アンタがアイツを殺したのかよ!?」

「あ……あ…………」

 

 自分を見る団員達の目が加害者を見る目に変わり、顔を青ざめていく団長。

 

「……どうやら貴方からじっくり話を聞く必要がありそうですね」

「く、くそおおお!」

 

 自棄になった団長は魔力を練ってその場から全速力で逃走を図るも、それよりも素早い速度で回り込んだアイリスによって地面に叩きつけられた。

 

「観念するのね……」

「うぅ……」

 

 止めに怒りを露わにしたアイリスの圧に押し負け、団長はガックリと項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

「噓………なにかの間違いだよね?」

「ちょっ、大丈夫かシェリー殿!?」

 

 シェリーは茫然自失といった様子で膝から崩れ落ちた。グレン達が呼びかけるも返事が返ってこない。

 

「お義父様が…………お母様を?」

 

 シェリーが九歳になったあの夜、彼女はドアの隙間から母親を殺される瞬間を目撃した。

 母の叫びと、母親を殺した人物の不気味なあの哄笑は今でも夢の中でシェリーを苦しめる。

 だがショックの影響でどうしても母を殺した人物の顔を思い出すことができず、記憶の中では黒い影で隠されている状態だった。

 

「あ……あ……」

 

 通信機から聞こえた会話を聞いた瞬間から記憶の黒い影が薄れだす。

 

「ああ……あっ」

 

 輪郭がはっきりしだし、

 

「…………ああ」

 

 やがて影の下に隠れた顔が明瞭になった。

 

「ああああああああ!」

「っ!?シェリー殿!?」

「しっかりしてください!」

 

 シェリーの突然の叫びに周囲の注目が集まる。封印されていた記憶が解放された影響で過呼吸をするシェリーの背中をローズがさする。

 

「はぁ……はぁ……思い出した」

「え?」

「あの夜…………お母様が殺されたあの夜…………お母様を笑いながら何度も刺して殺したのは…………お義父様だった」

 

 

♢♦♢

 

 

「………どうやらシェリーは思い出したようだな」

 

 外の様子は通信機を通してヴァイスとルスランにも聞こえていた。

 

「さっきの誘いの返答だが、答えはノーだ。アンタみたいな奴に利用されるのは御免だからな」

「き、貴様ぁああ……やってくれたな……!」

 

 なにもかも暴露されたルスランは余裕の笑みも人格者の仮面も脱ぎ捨てて、怒りを露わにしていた。

 ヴァイスの脳裏に浮かぶ前世でのある人物がルスランと少しばかり重なった。それだけでもルスランの勧誘を断固拒否する理由として彼には充分であった。

 

「こんなことをしてただで済むと思ってるのかぁ!」

「済まないのはアンタの方だ。力を求めるあまり人を利用し、切り捨てた。それに相応しい末路がこれだ。強欲は身を滅ぼすという言葉、今のアンタにぴったりだな」

「ふ、ふざけるな!」

 

 ルスランは剣を抜いてヴァイスに斬りかかる。

 

「悪いがアンタの相手はオレじゃない」

 

 ルスランとヴァイスの間に黒い人影が割り込んできて、ルスランの足を止めた。

 

「貴様は……!」

 

 奇術師の仮面で顔を隠し、フードを深く被り漆黒のロングコートを纏っているが、そのコートは赤く燃えていた。しかし男はそれを気にした素振りも見せず、漆黒の刀を抜く。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……」 

「貴様がシャドウ……」

 

 白刃を構えるルスランと、漆黒の刀をだらりと下げたシャドウはそのまま相対した。

 

「そいつの処分は頼んだぞ」

「言われなくとも……」

 

 用は済んだとばかりにヴァイスはその場から立ち去る。

 それからすぐに後方から断末魔の叫びが聞こえてきたが、ヴァイスは振り返ることなく紅蓮の炎に包まれた廊下を歩み続けた。





通信機でルスランの罪を暴露。
偶然にも他の作品と被ってしまいました。
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