陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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祝!『陰の実力者になりたくて』アニメ第2期2023年10月放送開始!
予告での杉田ボイスに思わずワロタ。



代償

「急いで戻ったのに、ほとんど終わったのね」

 

 そう言って新聞を差し出すのは、目が覚めるほど美しい金髪のエルフ。彼女は夜の闇のような漆黒のドレス姿で、深夜のミツゴシ商会に現れた。

 

 ガンマはその美貌のエルフから差し出された新聞の記事に目を通す。

 

『学園でまたもや不祥事!王都での連続人斬り事件の首謀者はルスラン・バーネット副学園長!?』

 

 学園襲撃から一日も経たずに王都の新聞の一面に今回の事件のことが早くも飾られていた。

 

「教団でも今回のは揉み消す事ができなかったみたいね」

「あの会話が王都の市民達にも届いてたようなので」

「シャドウガーデンの手配書を発行しようとしていた役人はどうなったの?」

「紅の騎士団が取り押さえたそうです。無差別殺人、監禁、放火、強盗……学園が襲撃される前なのに既に記されていた罪状が決め手に」

「そう、あそこはボンクラの集まりではなかったのね」

「というより、ミスト様がそうするように誘導しておられたのが正しいと思います」

 

 新聞にはルスランが七年前のアーティファクト研究者殺害の真犯人であること。その研究者の一人娘を養女に迎えたという美談も実際は自分の欲望のために騙し利用していただけと、裏に隠された本性が事細かに記されていた。

 ディアボロス教団の狙いとしてはシャドウガーデンをお尋ね者にしたかったようだが、ルスランの仕業であることが暴露され、その上オリアナ王国の王女ローズを含む人質だった生徒達が全員シャドウガーデンに助けられたとはっきり証言したことで水泡に帰した。

 また、ルスランの悪事の他に騎士団の団長がルスランとグルであったことも知れ渡ったことで市民からの騎士団への信用は失墜。それと同時に団長を連行した王国最強のアイリスと、人質となっていた生徒達を救出しに駆け込んだ紅の騎士団の活躍が市民達に称賛されることとなった。

 

「そういえば、この前のフェンリル派のアジト襲撃で得た情報の中にアーティファクト研究者に関するものがあったのね?」

「はい。先日主様とミスト様がこちらに来訪された時には既にルスランの企みに気づいていたようです。あの情報が今回の件に繋がるとは思いもしませんでした」

「……流石ね。二人は奴らの計画を逆手に取るために備えをしていたのね……それくらい私達にも言ってくれれば良いのに」

「まったくその通りです。ミスト様がシェリー・バーネットなるアーティファクト研究者と親密な関係を築く必要もなかったですし、芝居をモニカにだけさせるなんて……」

「あらガンマ、ヤキモチかしら?」

「い、いえ!べ、別にそういうわけではっ!」

「……ふふっ」

 

 普段は大人びた感じのガンマが顔を真っ赤にしてあたふたする様子にアルファはついつい笑ってしまう。

 

「そ、それよりアルファ様の方は調査はどうでしたか?」

「そうだったわね」

 

 話題を変えることを促すとアルファはすぐに切り替え、懐から瓶を取り出してガンマに見せる。

 

「それは?」

「教団のメンバーが持っていたものよ」

 

 瓶の中身には複数の錠剤が詰まっている。しかしオルバやゼノンが所持していたものとは違い黒い色をしていた。

 

「今までとは違う色をしていますね」

「違うのは色だけじゃないわ。以前のは飲めば人型をある程度保ったまま魔力が向上するというものだったけどこれは摂取した人間にそれ以上の効果を与えるわ」

「どういうことですか?」

「文字通り、元が人間だったとは思えない異形の怪物(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)へと変貌を遂げたのよ。倒したもののかなり苦戦を強いられたわ」

「アルファ様が苦戦をっ!?」

 

 アルファの言葉にガンマは耳を疑った。アルファは決して弱くない。王国最強であるアイリス王女をあしらうほどの実力がある。今までのディアボロス教団との戦いでも苦戦することはなかった。とはいえアルファが冗談が言っていないことは表情を見てわかる。

 

「それほどの力を与える新しい錠剤………教団の方で何かが変わったということでしょうか?」

「いずれにしてもこんなのが教団全体に渡った場合ナンバーズでも勝てるかどうか…最悪、シャドウ達の手を煩わせるかもしれない………」

 

 それはシャドウの手足として屈辱以外の何物でもない。シャドウとミストなら負けることなどないだろうが、彼に頼るということは自分達は彼の配下として役に立たない証明。

 

「新しい錠剤が出現したとなれば何処かの研究所で作られてるようですね。そこを早急に叩く必要があります」

「そうね。一番怪しいところとなると……やはりあそこしかないわ」

 

 アルファには黒い錠剤の製造元に心当たりがある様子。

 

「ガンマ、手の空いている七陰を集めなさい」

「はっ、直ちに」

 

 ガンマは頭を垂れた。少し冷えた夜の風が吹き抜けた後、ガンマが頭を上げるとそこにはもう誰もいなかった。

 

 

♢♦♢

 

「つまりシャドウがルスランを殺したのは間違いないのですね」

「一部始終を見てませんがそうなんでしょう」

 

 数日後、現在オレは紅の騎士団が拠点にしている建物の執務室にて事情聴取を受けていた。前にシドが受けた尋問という名の拷問とは違い、団長であるアイリスと向かい合って座りながら情報交換をしている。

 

「……それで、何故あのようなことを?」

「シャドウガーデンから貰った道具でルスランの自白を暴露したことについてなら、理由はいたって単純です。まずグレンさんがシャドウガーデンと一時的に共闘したのですが、その時の取引には大きな穴がありました」

「穴、とは?」

「人質救出の手を貸す代わりにシャドウガーデンは無罪だと世間に広めてほしいという内容でした。ですが騎士団内部にいるスパイの問題がある限り、仮にそのまま教団の仕業である証拠を受け取ったとしてもそいつにまた処分されてしまうか、得体の知れない組織から貰ったものを証拠として認めないと有耶無耶にされてしまう可能性がありました。そうなれば大鴉の言った通り、新聞に学園占拠の責任は紅の騎士団にあると書かれるでしょう」

「……確かにそうかもしれませんが」

「それに、首謀者であったルスランとは面識がありましたからね。本人から自白を聞き出すにはオレが適任だと考え、だから代わりに始末をつけました。シェリーの母親の殺害がアイツだったとは予想もしていませんでしたが」

「私も同じ気持ちです。人格者として尊敬をしていましたが正直裏切られた気分です。アーティファクトの解析を依頼する前にちゃんと調べておけば……っ」

「皆騙されていました」

 

 実際のところ、ルスランがシェリーの母親を殺したこと、ゼノンがそれをネタに脅迫してあの制御装置を保管していたことはこの間のフェンリル派のアジトの調査で得た情報であらかじめ知っていた。

 騎士団内の教団のスパイの動きも潜伏工作員を使って監視していたため、証拠を処分する様子や、ディアボロス・チルドレンの犯行をシャドウガーデンの仕業に見せるよう証拠を捏造していたことは把握、汚職の瞬間を写真にバッチリ納めていた。

 紅の騎士団が学術学園に向かった時から制御装置がルスランのところに戻ったことをすぐに悟り、なんらかのアクションを起こすことは想像できた。

 街での人斬りはほんの前座に過ぎず、制御装置を奪うために目くらましとして偽シャドウガーデンが学園を占拠。目的を達成したら人質を大勢殺してその罪をシャドウガーデンに着せるという筋書きだ。

 その対抗手段としていくつか策を練った。

 写真をモニカにばら撒いてもらうことはもう決まったが、ルスランを潰すための有効な手段がすぐには出てこなかった。

 シャドウガーデンの連携向上のためにイータに開発してもらった通信機を使う手はあったがルスラン本人から自白を取るのは容易じゃない。

 まさに八方塞がりだった。

 だが、ルスランの義理の娘であるシェリーがオレと友人になりたいと接近してきたことで状況が変わった。

 義理の娘の友人になら警戒が緩んでしまう。特に力に固執するあまり足元が崩れてることに気付かない奴なら。

 あとは紅の騎士団に所属してるグレンを通して、黒づくめの連中はディアボロス教団の手下であると認識させるよう誘導し、首謀者がルスランであることを人質達と一緒に確認してもらうだけでよかった。

 そして最後の仕上げに人質達と騎士団、野次馬達がいるタイミングを狙ってルスランと会話を始めるだけ。

 ちなみにシドは会話を聞き流していた為、内容をちゃんと把握せずにルスランをその場のノリで殺したそうだ。

 

「裏切りと言えばあの騎士団の団長は?」

「彼は全部認めました。貴方の読み通りルスランと通じていて、彼に言われて証拠保管庫に火を点け、街での人斬りや学園襲撃がシャドウガーデンの仕業であるように証言や証拠の捏造をしていました。しかも、証拠の捏造を部下に見られてしまいやむを得ず殺したようです」

「そんなことまでしていたとは…」

 

 知っていたが驚いた反応をしておく。

 情報操作でディアボロス教団のことは伏せられ、チルドレン達はルスラン個人が雇った傭兵ということにされるだろうが騎士団の腐敗は隠し切れない。

 通信機での会話を聞いた野次馬達は街での人斬りの首謀者が学園の副学園長であることを知って怒りが爆発。暴動になりかけるも、アイリスのお言葉で思いとどまりすぐに鎮静化した。これ以上血を流すことがなくなったが、学園の生徒達や市民の騎士団への不信感は一気に強まったことは間違いない。その分オレも代償を払うことになるだろうがそれも些細なことだ。

 

「今のところディアボロス教団に関しての情報は口を噤んでいますが、それも時間の問題でしょう。今回の件色々と助かりました」

「成り行きでやっただけですので気にしないでください」

 

 むしろ礼を言うのはこっちの方だ。オレの思惑通り、騎士団内部のスパイや手配書を発行しようとしていた役人を片付けてくれたとプランの障害となるものを代わりに排除してくれた。

 

「事情聴取は以上になります。お時間を取らせてすみません」

「いえ、ではオレはこれで……ところで、シェリーのその後の様子は?」

 

 部屋を出る前にアイリスに確認を取る。

 

「彼女はあの会話を聞いた直後お母様の事件のことを完全に思い出したようで…その、まるでずっと暗いままです。こちらからの質問にも空返事ばかりで…」

「………そうですか」

「仮眠室にいますが会いますか?」

 

 

 

「……案内お願いします」

 

 

 

 

 

 

 アイリスの案内のもと、仮眠室と書かれたプレートがついた扉の前に辿り着いた。

 アイリスが去った後にオレはドアノブに手をかけずに向こう側にいるシェリーに声を掛ける。

 

「シェリー、オレだ。ヴァイスだ」

『……』

 

 中から返事はない。 

 

「誰とも口を聞きたくないかもしれないからこのまま話すがいいか?」

 

 その問い掛けに、シェリーはなにも答えなかったが話を進める。

 

「まずオレは今回の件謝るつもりはない。あいつはお前の母親を無惨に殺し、何食わぬ顔で娘のお前を利用した上あんなことまでしていた。お前にとっては恩人だったろうが、それはまやかしに過ぎなかった」

 

 大抵の人間は相手を気遣って慰めようとするだろうがそんなものはシェリーには無意味だ。

 

「お前にはとても応えたんだろう。真実を知らない方が幸せ者だったかもしれない。だがそれだと理不尽に殺されたお前の母親は一生報われないままだった。それに無知を理由に逃げて良い程現実は甘くない。肝心なのは真実を受け止めた後どう乗り越えるかだ。

 

 

 逃げることはできるだろう。だがどこまでもそれは付きまとう。死ぬまで追いかけてくる。実際、今また、こうしてシェリーの前に立ちふさがって心に襲いかかっている。だから何処かで立ち向かうしかない

 戦うべき相手は最初から決まっている。

 自分自身。自分自身で終止符を打てるかどうか、ただそれだけなのだ。

 

 本当の意味で現実と向き合える者など、ごく僅かしかいない

 しかし乗り越えることができた時……人は一歩成長することができる。

 

 

 

 いつかお前が立ち直れると信じてる。厳しい言い方だったが、これがオレから友達に伝えられるせめての言葉だ……それだけ伝えたかった。じゃあな」

 

 伝えたいことは伝えてオレはここから去ることにする。

 

 

 

 

「ヴァイス君……!」

 

 建物から出ようとしたところで後ろから聞き覚えのある声で呼び止められた。

 どうやら自分で閉じこもっていた殻を破ることができたようだ。

 

「あ、あの……先日はありがとうございました!一緒にいてくれたことも、お母様のことも!」

 

 桃色の髪の少女はペコリと頭を下げた。

 

「ヴァイス君がいなかったら、私はきっと、前と同じように潰れていました」

「あまり感謝されすぎても困る。オレはきっかけに過ぎない。結局のところ、過去を打ち破れるかどうかは自分自身にしか出来ないことだ」

 

 これだけは履き違えてはいけない。

 

「もしも辛くなったら、オレに声をかけるといい」

「え……?」

「その時は――そうだな。話を聞くくらいならオレにも出来るはずだ」

「頼っても、いいですか……?」

「ああ、オレ達は友達だからな。お前は一人じゃない」

「それじゃあヴァイス君、早速良いですか……」

 

 そう言ってシェリーはオレの胸に顔をうずめ、今まで張りつめていたものが弛んだのかのようにしばらく泣き続けた。

 

 

 

 

 ルスラン達を計画を台無しにし、シェリーのメンタルを持ち直すことができたが、予想通りこのままハッピーエンドで終わらなかった。

 その翌日、魔剣士学園の教育委員会からオレの退学処分が通達されたのだ。

 




アニメ1期のラストでシェリーが闇堕ちしたのを見た時、『シドの奴なんてことをしてくれたんだよ!?』と正直思いました。
個人的に好きなキャラなのでこの話で救済ルートにいくように色々と練りました。
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