七陰とニュー、ラムダの水着姿………最高じゃないか。
というかニューの表情がすごかった。
『かつて、女神ベアートリクスは、魔人ディアボロスを退けるため、英雄オリヴィエに力を授けました』
『女神の試練』の当日を迎えた。
広大であり、まるで石で作られた円形の闘技場のような構造の競技場で『女神の試練』が開催されており、その中心にあるフィールド上に、今回試練に参加する150人以上の魔剣士が集っている。
彼らに向けて、聖教会の大司教
『オリヴィエはディアボロスと勇猛果敢に戦い、消えようとした左腕を聖域に封じ込めようとしたと言われています。そして今も、オリヴィエと聖戦を戦い抜いた古代の戦士達が、聖域の扉の向こう側であなた方を待っているのです!彼らの望むものは皆さんもおわかりでしょう。すなわち、その正しき道を…………』
(気に入らないわね…………)
貴賓席で他の来賓たちと共に拍手する中、アレクシアは心の中でそう呟いた。
アレクシアは現在会場の中心で偉そうに挨拶している大司教代理のネルソンが気に入らなかった。
(あのハゲ、少しは喪に服したらどうなのよ)
――――監査の受け入れを中止にとは、どういうことです!?
今朝方大司教の噂の真偽を確かめようと、騎士団員を連れて聖教会に乗り込んだものの、大司教ドレイクが昨夜、前夜祭パーティーの最中に何者かに殺害されたことをネルソンに伝えられた。
――――どうもこうも……、王国の皆様にはお目当てにされていた大司教猊下はご不幸に見舞われました。我々教会はこのような暴挙を働いた下手人を一刻も早く捕らえねばなりません。また、『女神の試練』も滞りなく進めねばならないとあれば姫様方の道楽に……
――――は?
――――おっと失礼。とにかく、これまで通り教会のことは教会にお任せあれ!
監査対象が死亡したのだからこの話は終わりだ、とネルソンが寝ぼけたことをぬかした。
なら大司教殺害事件の調査に参加させろと言っても、頑なに拒んできた。
対象が死亡したんだからさらに調査の必要性が増すだろボケ、とアレクシアはオブラートに包んで言ったのだが、ネルソンは調査するなら再度許可を取れの一点張りだった。
(急いで王都に戻ってお父様を説得して、再度紅の騎士団に監査の許可を出させて…往復だけで何日かかると思ってるのよ!その間に重要な証拠は全て消されてるに決まってる!)
学園襲撃で手に入れた通信機ならその問題を解決できそうだが、シャドウガーデンにつながる証拠品の利用は未知な部分が多い故に利用できなかった。
(このまま監査を強行して、王国と聖教の関係を悪化させるわけにもいかないし……ここで無理を通せば周辺の国々から圧力を受けることになりかねないし)
何よりも民衆の支持を失う。宗教とは味方にすると便利だが、敵にすると厄介極まりない。
(露骨に怪しいハゲがいるっていうのに、ほんっと気に入らないわ!)
なにもできずにやるせない気分になるアレクシア。
(それにしても…………)
アレクシアの視線がフィールド上にいる一人の人物へと向く。
(なんで彼が試練に参加してるの?)
ヴァイス・ネーベル。
ネーベル家当主の養子で、数か月前まで付き合っていたシドとは幼馴染の関係で、姉のアイリスが入れ込んでいる相手(アレクシアの主観)。
アイリスとグレン副団長曰くとても頭がキレる人物で、教団の目的がアーティファクトの強奪とシャドウガーデンを犯罪者集団に仕立てることであることにいち早く気付き、更には首謀者がルスラン副学園長であることを見破った。
紅の騎士団がルスランとグルだった連中を芋づる式で検挙することができたのも、彼の機転のおかげとも言えよう。
だが、腐敗の露見で面子が丸潰れとなった他の騎士団と学園理事会が彼のやり方に問題があったとして、不当にも学園から追い出し、人質救出に尽力したグレンとマルコも同じ理由で謹慎処分を下した。
当然アイリスはこれに抗議したが、騒動の原因であるアーティファクトを学園に持ち込んでしまったことを問われ、返す言葉がなかったのはアレクシア、他の騎士団員にとっても苦い記憶である。
アレクシアは彼のことよく知らない。顔を合わせたのは食堂で一回だけだ。
入学当初これといって目立った活躍は見せなかったものの、選抜大会で入団候補生であるクレア・カゲノー相手に見せた太刀筋、シャドウガーデンを騙る教団の刺客を大勢返り討ちにした話などで、実力があることはわかる。選抜大会以降、アレクシアのいるクラスで何人かの女子の間で「すごかったね」「よく見たらかっこ良くなかった?」と話題になったり、なにか卑怯な手を使ったに違いないと妬む者までいたほどだ。
なぜ今まで実力を隠していたのか紅の騎士団に体験入団していたクレアになんとなく聞いてみたところ、田舎貴族な上に養子ということもあって余計な波風を立てたくなかった…………とのことだったが。
(目立ちたくないなら、なんで女神の試練に参加してるのよ?)
義妹の策略によるものだとは知らないアレクシアは、なにか心境の変化でもあったのだろうかと考えていた。
(何故ミスト様が女神の試練に!?)
アレクシアと同じく貴賓席にいる大人気作家ナツメ・カフカ…………もとい、七陰のベータはフィールドにヴァイスがいるのに気付いて動揺していた。
こんなの計画になかったはずだ。
シャドウガーデンを騙る偽物達のリーダーであった元ラウンズのルスラン・バーネットの野望を打ち破るため、彼はヴァイス・ネーベルとして親衛隊のモニカ、シャドウ(違います)と共に策略を巡らせ、見事成功するも魔剣士学園から追い出された。
学園の理不尽な処分に同じ七陰のガンマやイータがぶちぎれて戦争を起こそうと準備するも、リーダーのアルファに彼のことだから甘んじて処分を受けたのはなにか考えてのことだろうと諭したおかげで、ミツゴシの商品を学園に卸す話を白紙に戻したり、学園理事会と騎士団が事件解決の功労者を逆恨みで退学処分したという話を王都中に流したりとささやかな嫌がらせですませたのは新しい。
(※ヴァイスにとって退学は学園(シド)から開放されるご褒美だったので甘んじて受けたのだが、アルファ達はそれに気づいていない)
自らを犠牲にしてシャドウガーデンの名誉を守ってくれた彼に応えるため、アルファ達は聖地リンドブルムへと乗り込んだのだが…………来るとは思ってもみなかった。
それは会場にいる他の七陰やニューを含むナンバーズ達も同様である。
ミストは常に先を見据えている。シャドウの行動の意味を察する(全部外れている)アルファでも予想できない一手を常に仕掛ける。悔しいが、敬愛する主の相棒と呼ぶに相応しいほどの知謀家だ。
何の意味もなく参加するとは思えない。
義妹の策略によるものだとは知らない彼女達は、これもミストの策の一つなのだろうと彼女達は解釈するのだった。
後はここぞという瞬間に自分達はその策に従って動けばいい。それまで敵に気取られてはいけない。
というわけでベータは作家ナツメとして民衆の歓声に笑顔で応える。
「ナツメ先生~~~っ!」
「応援してます~~~っ!」
「あはは~♪ありがとうございます~♪」
ついでに右隣にいるアレクシアを見ながら嘲笑ってやったらヒールで足を踏まれた。
♢♦♢
なにやってんだベータの奴。
大人気作家のナツメ・カフカ(作品はどれも地球だと著作権侵害で訴えられてもおかしくないほどのパクリ)として貴賓席にいるベータが隣にいるアレクシアとなにやら険悪な雰囲気になってるのがフィールドから見えた。
ベータはシドの奴を慕っているからな。
数か月前まであの馬鹿と偽恋人関係にあったアレクシアを妬んで喧嘩を売ったんだろう。
ドレスの上からでもわかる立派な物を強調して、それに反応したスケベな民衆からの声援のボリュームを比べ、ベータがアレクシアの方を見て嗤った。
それからすぐに痛がるのを我慢してるような引き攣った顔を浮かべ、それを見てアレクシアは嗤っていた。
…………あいつら似た者同士なのかもな。
「ちょっとアナタ」
「ん?」
正面に視線を向けると、青と白の鎧に身を包み、細い体格に見合わない大剣を腰に差した女魔剣士がいた。
「もしかしてアナタも女神の試練に参加するの?」
「まあ、はい」
フィールド上に参加者が集ってるんだからそうだろ。
「やめときなさい。そんなんじゃ死ぬわよ」
その女性はオレの方に歩いてきて、手の届く距離で止まった。
水色の髪を肩の上で切り揃え、カチューシャのような布で前髪を束ねている。気の強そうな同色の瞳でキッとオレを見上げる。
「安物の剣に、防具も無しなんて」
女性はオレの剣と身体を人差し指で軽く叩いた。
「あれ?結構鍛えてるのね」
「あの、人の身体勝手に触るのやめてくれませんか?」
「あっ、その、ごめんなさい―――じゃなくて!」
マジでなんなんだこいつ。
「アナタ素人でしょ。見ればわかるわ。半端な気持ちで挑戦するのは止めなさい。古代の戦士と戦うことにでもなれば死ぬわよ」
またオレをキッと睨む。
「………ひょっとして、心配してくれてるのですか?」
「え?え、ええ……」
他人の心配をする余裕があるのは自分の実力に余程の自信があることの表れか。
佇まいからそれなりに強いことは分かる。変に刺激するような発言は控えよう。
「お気遣いどうも。ですがはいそうですかと引き下がるわけにもいかないので」
止めたくても事前申請をもうキャンセルできないし、ドタキャンすれば教会を怒らせることになるから無理だ。
義妹に嵌められてやむなく参加しましたなんて口が裂けても他人に言えない。
「それに挑戦者自体に実力がなければ古代の戦士は呼びかけに応えてくれないようですし、出てこなかったらオレはその程度、出てきても負ければそこそこだったって話ですよ」
「……まるで死ぬのが怖くないみたいな発言ね?」
「まさか、死ぬのは勘弁です。なので、相手が自分より上だったとしても、必死に抗うつもりですよ…………ご指摘通り備えは必要なのでこの後どこかで購入しておきますよ」
「そ、そう。いい心がけね」
その女性はそれ以上何も言うことなく離れていく。
参加者に絡まられても揉めたりせずこの場を乗り切れたな。
セレモニーが終わり、試練が始まるまで時間はたっぷりあるためアンナ達のところに戻るとしよう。
「ヴァイスちゃんおかえり~」
「――ヴァイス君、先程女の人となに話してたんですか?」
「随分と余裕そうじゃない。試練まで時間があるみたいだし、少し私と勝負しても問題ないわよね?」
「……とりあえず剣を仕舞え」
なんかシェリーとクレアが不機嫌だ。なんでかわからないが誤解を解かなくては。
一難去ってまた一難か。
♢♦♢
――――はいそうですかと引き下がるわけにもいかないので
――――相手が自分より上だったとしても、必死に抗うつもりですよ
ヴァイスの言葉を聞いた女魔剣士は己を恥じた。
英雄達と勝負をして勝利することが出来たなら、どこの国の騎士団からもスカウトされるようになり、一生安定した生活を送れることだろう。他の魔剣士達もそのために参加している。彼もその一人だろう。ただ、他とはどこか違う。
一見覇気のない人間に見えたが、整ったその相貌には表情という表情が死滅しており、いかなる感情の欠片すらも読み取れなかった。話す時も声音にまったく感情がこもっておらず、無駄な身じろぎ一つなく、まるで彫像のように静謐なその佇まいとガラス玉の様な曇りのない澄んだ瞳は人形という評価が妥当だった。
だがあの言葉からなにか試練に挑まなければならない、果たさなければならない使命のようなものを感じられた。
(それほど歳は違わなそうだったのに………)
国に地位もなにもかも置いてきて腕試しのために来ただけの参加した自分と違い、彼はなにかを背負って来ているのだろう。
義妹の策略によるものだとは知らない女性は盛大に勘違いし、口惜しさと同時にヴァイスに対して期待と尊敬を抱いていた。
「な、なんだあいつはっ!?」
「綺麗な姉ちゃんたちとあんな仲良く」
「う、羨ましい……」
ちなみに、試練に参加しようとする戦士など男性陣はヴァイスに対し、羨望やら驚愕やら嫉妬やらを覚えていた。
♢♦♢
挨拶やら来賓紹介やらパレードやらが行われ、陽が沈んだ頃にメインである女神の試練が始まった。
豪華な明かりが会場を灯し、フィールドの床から古代文字が浮かび上がった。
古代文字は白い光を放ちながらドーム状に展開し、歓声のボルテージが上がった。
十三人の挑戦者が古代の戦士の記憶を呼び出す事すら出来ずに脱落したが……。
十四人目の挑戦者である、セレモニー中に絡んできた少女(剣の国ベガルタからの旅人アンネローゼ・フシアナスというらしい)がドームの中に入ると古代文字が反応し光り始めた。光は人の形を形成しそこに半透明の戦士が現れる。解説の話によると彼は古代の戦士ボルグというらしい。
『──勝者!アンネローゼ・フシアナス!!』
アンネローゼとボルグの戦いが終わり、アンネローゼが勝利した。
あのアンネローゼという女性はかなり強い。並みの魔剣士と比べたら。
会場のテンションが上がるなか、司会が次の挑戦者の名前を呼ぶ。
『次ッ!ミドガル王国から! ──ヴァイス・ネーベルッ!!』
オレか。
「じゃあ、行ってくる」
「ヴァイスちゃ~ん、ファイト~」
「ヴァ、ヴァイス君!あの、頑張ってくださいっ!」
「出てこなかっから鼻で笑ってやるから、安心してさっさと行きなさい」
「どこで安心しろと?」
クレアはどれだけオレのことが嫌いなんだ。
「あらあら~クレアちゃん素直じゃないんだから~」
「す、素直じゃないって、これが本心ですって」
入場通路で3人に見送られながら、オレはフィールドの方へ身体を向けた。
フィールドから出たアンネローゼとすれ違う。
すれ違いざまになんか期待を込めた視線を向けられた。なんで?
『若くも勇敢な挑戦者を拍手で迎えよう!!』
変に煽らないでほしいな司会者。
さて、ミアの調査報告によるとあの大司教代理がいるところの足元に隠されたスイッチがあり、それを踏んで結界を起動させたり、古代の戦士を呼び出すかどうかを操作できるようだ。
また、結界は障壁の他に挑戦者の体外から放出される魔力の量から保有量を逆算・解析する演算機の役割を持っており、解析結果で出た魔力量の数値が大司教で死角となるところに表示される。
大司教は挑戦者の経歴の次にその数値を判断基準にし、100人中10人の上位者を対象に戦士を呼び出している。挑んで行って誰も出せなかったら挑戦者の数が減ってしまい、その分徴収するバカ高い参加費が減ってしまうし、その辺を調整しているのだろう。また、時々気に入らない奴がいたら滅茶苦茶強い相手を宛がって始末させるか、実力があっても戦士を呼び出さずに恥をかかせるときもあるそうだ。
この情報をもとに、実力がバレないまま試練を乗り越える方法は一つ。
オレの経歴は田舎貴族でしかも養子でつい最近王都で問題を起こして魔剣士学園を退学になっている。これだけでも不合格。
あとは魔力量だが、オレは常に体外へ放出される魔力を制御しているから逆算しても演算機はそこそこの実力しかないと誤認する。
つまり、オレを始末しようと考えない限り、大司教代理は古代の戦士を出さない。
出してきたとしても、そこそこより少し強い相手を出すだろう。
――――いけるな。
フィールドのドームの中に足を踏み入れる。
すると、古代文字が反応し、そこから光が零れ出した。
「……は?」
光が一人の小柄な女性の姿を形作る。薄い金糸の長髪、エルフ特有の尖った耳、アルファにそっくりの顔立ち、戦乙女のような神々しさがあるがその瞳に力がない。ガラス玉のような空虚な瞳でオレを捉える女性は……。
「英雄オリヴィエ…………」
千年前に人間族のフレイヤ、デルタやゼータの祖先にあたる獣人族のリリと共に魔人ディアボロスをほぼ打ち倒した3英雄の一人。
教団の情報操作で、実在していたことと女性であったという事実は隠され、事実はおとぎ話の一つとなった。
以前女神の試練に挑戦したヴェノムがオリヴィエを呼び出したという話があったが、そのオリヴィエは教団が用意した偽物であったのは確認が取れている。
今オレの目の前にいるのは本物の方の記憶だ。シャドウガーデン、一部の教団メンバー以外の観客はそれがオリヴィエだとは気付いていないのは非常に助かるのだが……………
いや、なんでだよ。
よりにもよって二番目に強い奴が出てくるんだ。ちゃんと魔力は抑えたのに。
大司教代理の方をみると、「馬鹿なっ!?わしは動かしておらんぞっ!!」と驚愕している。あのハゲの仕業じゃないか。
なにかのバグ…………いや、聖域の方が反応したのか?
『試練開始!』
司会の合図と同時に、眼前にいたオリヴィエが視界から消えた――いや、体を沈め、華奢な身体からは想像出来ないほど軽々と剣を構え、閃光の如く駆けてきた。
――――速いな。
下段からの斬り上げを剣の腹で受け止めつつ、腕の角度を調整して受け流す。火花を散らせながらオリヴィエの剣の軌道がオレの首からずれる。
だがずらしただけではオリヴィエの攻撃は止まらない。
勢いを殺さずに身体を回転させ、横薙ぎに一閃を放ってきた。
狙いは胴。オレは数歩後退することで避ける。
「………少し服が裂けたか」
オリヴィエは逃がさないと言わんばかりに、こちらに肉薄する。
振り下ろされる剣の速度と威力は並の魔剣士を上回っており、普通なら受け止めることはまず不可能。防御の上から叩き潰されることだろう。
故に、剣を絡めて流し落とす。
流されて地面を叩いたオリヴィエの剣は、そのまま反転するかのように振り上げの一閃へと移行してきた。オレは後退して攻撃を回避した。
そのまま追撃をかけてくるかと思いきや、オリヴィエは剣を構えたまま後方へジャンプし、距離を空ける。どうやら、何か警戒している様子だ。
何故オリヴィエが出てきたのかはこの際置いておく。
今すべきことはこの状況をどう切り抜けるかだ。
出てきたからには、どちらかが敗れるまでドームは消えない。死んだ振りもできるが、その後アリスとかアリスとかアリスとかが面倒くさいことになる。
制限を解除して本気でやれば数分もかからずこいつを屠れるが、オレの本気を知った連中が余計なちょっかいをかけてくる危険性が高い。
今の制限のままこいつを倒すことはできる。
オリヴィエのことを知る奴からのちょっかいがあるだろうが、この後ミア達に始末してもらえば時間は稼げるか………仕方ない。
「いいぞ。かかってこい」
――――お前の土俵で相手してやる。
♢♦♢
剣戟が始まった。
ドーム内で閃光が煌き、別の閃光が弾く。
両者の剣がぶつかり合い、甲高い金属音が途切れることなく続いた。
まるでこの光景は剣舞だ。互いに次に何をするのかを決めあった中での行為にしか思えない。
ヴァイスが剣を振り、オリヴィエが弾く。次はオリヴィエが剣を振り、ヴァイスがいなす。ほんの一呼吸も無い、その一瞬でこれほどまでに剣を打ち交わせるものか。
剣舞といわれるならまだ納得がいく。示し合わせばこれぐらいはできるのでは、そう思いたくなるのだ。
何十と剣をあわせても互いの体に剣が触れることは無い。
両者の力量がどれほど高いのか。観戦しているアンネローゼ含む挑戦者達や教会の聖騎士から感嘆の呻きがもれた。
今何をした。当たったはずなのに避けてる?いやいなしてるんだろ?
戦士たちは口々に見ているものを解説しようとして、付いていけずに口ごもる。
他の一般客はもはや凄いものを見ているという認識の段階で思考を止めている。
「……なんだ。何が起こっている!?」
来賓席でネルソンが叫んだ。
魔剣士ではない彼はまったく理解が追い付けていない。
アレクシアとローズはなんとか、ベータはしっかり目で追えている。
「なんなのあれ…………」
アレクシアは自分の目を疑った。
エルフの少女の力、速さ、体力、単純な能力の次元が根本から違う。剣術指南役にまで登りつめたゼノン・グリフィや、王国最強とうたわれる姉のアイリスすらも超える強さだというのは見ればわかる。
だがヴァイス・ネーベルは彼女と互角に渡り合っている。 いや、剣技で少女を上回っていた。
以前シャドウが見せた才能でも、力でも、速さでもなく、ただ基本の積み重ねによって辿り着ける持たざる者の剣、凡人の剣と同じ部類のようだが動きが異なる。
(ひょっとしたら、姉様どころかあのシャドウよりも―――)
「まさか彼があれほど強いとは………」
「ローズ会長?」
「あの時………どうやら手を抜かれていたようですね」
「あっ」
以前学園で行われたブシン祭選抜大会の2回戦でローズとヴァイスは対戦した。結果はローズの勝利だが、今の彼の戦いぶりを見ればあの時わざと負けたことはわかる。
ローズは生徒会長の前にオリアナ王国の王女。田舎貴族の一年に負けたともなれば王族の面子は丸潰れとなる。きっとそれを危惧してたのかもしれない。
だがそう納得しても、やはり相手をしてくれなかったローズは残念でならなかった。
「たとえ自分より上回っていた相手でも。魔剣士として全力で戦ってみたかったです」
「会長…………」
「凄いですねあの方。ミドガル王国にあのような若い魔剣士がいるなんて」
「ナツメ先生?」
口を開いたベータにアレクシアとローズの注意が向く。
「もしかして分かるの?」
「いえ、ただ先程のアンネローゼ対ボルグの戦いよりも激しいということぐらい小説家の私でもわかります」
「あっそ」
ベータを同族嫌悪しているアレクシアの反応が雑だ。
「私としてはあのエルフの少女も気になりますね。どことなくオリヴィエに似ている気がしますが?」
「!!?」
ベータの言葉にネルソンがギクッと反応する。
「言われてみれば確かに………」
「そうね。オリヴィエの像に少し………」
「な、何を言っておりますかな!!?教会の書物ではオリヴィエは男性だったとしっかり記録されているんですぞ!!」
大いに焦った様子のネルソンが彼女達に会話に割って入る。
「あら?私はオリヴィエに似ていると言っただけで、オリヴィエじゃないかとは言ってませんよ?」
「え!?………そ、そうでしたか、あ、あははこれは失礼…き、きっと親戚かなにかでしょうな?」
必死に取り繕うとしても顔から大量の冷や汗をかいているネルソンを見て、アレクシアは『キモッ』と生理的嫌悪を抱いた。
「あっ、そういえばネルソン大司教は先程”わしは動かしておらんぞっ”とおっしゃってましたね?」
「えっ!?わ、わしそんなこと言いましたかな?」
「はい、はっきりと。どういう意味なのでしょうか?」
「あっ、いや、その………」
ベータからの質問になんとか誤魔化すのに必死なネルソンであった。
観客席にて、シャドウガーデンのメンバー達は作戦開始前に密かに観戦していた。
陰の参謀が戦う姿はかなり貴重であるため、作戦用に持ち込んできたイータとアネット作の超高性能カメラという映像を動画として撮る事の出来るアーティファクトで戦いの一部始終を撮り続けている者までいる。
「なんという剣捌き…………」
ナンバーズとしては新米ながらも、しばらくの間ミストの連絡係を勤めていたニューも見入っていた。
「これが、陰の参謀の実力………」
「違うわ」
背後から透き通った湖のような髪にそれより少し深い色の瞳をしたエルフの美女、シャドウガーデン幹部、七陰の一人の『緻密』のイプシロンが、凹凸の激しい身体を揺らしながらナンバーズのカイとオメガを引き連れて現れた。
「イプシロン様……違うというのはどういう意味なのでしょうか?」
「そのまんまの意味よ。あれが彼の全力ではないわ。もし本気でやれば一分もかからず終わってるわ」
「えっ!?」
相手は魔人ディアボロスの左腕を斬り落とした英雄オリヴィエの記憶だ。並の魔剣士と比べたら間違いなく戦闘センスは超一流。なのにイプシロンはすぐに終わると言ってのけた。
「ミスト様にとって試練も遊びのようなもの…対峙する相手に合わせて対応してるの」
「…………では、イプシロン様はあの方の全力をご存知なのですか?」
「いいえ、あの方は秘密主義だから詳しくは知らないけど………まだシャドウガーデンがまだ七陰だった頃の話よ。一度デルタが下剋上目的で勝負を挑んだの」
「「「ええっ!?」」」
イプシロンの口から出た話に、ニューだけでなくカイとオメガも驚愕する。
「だ、大丈夫なのですか?一歩間違えれば不敬にあたるのでは?」
「そこはミスト様が寛大だったから不問になったわ。それで勝負の話だけど、当然ミスト様の完全勝利で終わったの。その時の戦いは一瞬だったわ、あのアホ犬がミスト様に蹴りを入れられた時、空をかなり長い距離をしばらく飛んだの」
「と、飛んだ?」
「ええ、言葉通りよ……最後に数キロ先の池に落ちたのだけれど、上半身を池に突っ込んで足だけ突き出たというむごい状態だったの」
シャドウ曰く、『まるで犬○家みたいだ』と。
「以来、私たち七陰の間でミスト様は絶対に舐めた態度を取らないことを決めたの。デルタもトラウマになってたおかげで反対もしなかったわ。それからかしらね。ミスト様と私達との間にすれ違いが起こったのは」
稽古に付き合う頻度が少なくなったこと。
七陰に黙ってミア達をかくまっていたこと。
七陰とは別に『親衛隊(仮)』を結成。彼の作戦も殆ど親衛隊のメンバーに任せている。
七陰とミストとの間の溝がどんどん深まっていくのを感じた。
いったいどこで間違えたのやら。
イプシロンの普段は見せないような悲し気な表情をナンバーズ達は初めて見た。
キィンッ
「「「あっ!」」」
そうこうしているうちに、フィールドの方で状況が変わった。
激しい攻防の中甲高い音が響き、ヴァイスの剣が折れたのだ。
安物の剣は半ばで折れ、彼の身体はドームの端まで吹き飛んだ。
壁に叩きつけられる寸前で、かろうじて受け身を取ったが。
「あの、流石にまずいのでは?」
「心配いらないわ。貴女達もよく見ていなさい。剣が折れようと、あの方には関係ないわ」
フィールドでヴァイスは焦りを見せることなく、腰に差していた鞘を手に取り、折れた刀身をそれで被せた状態で構える。
「―――さて、続けよう。ラウンド2だ」
YouTubeに配信された七陰列伝の新しい話にフシアナの人が出てきましたね。カゲマスに出るキャラクターはバニーやハロウィン衣装、水着といろいろコスプレが変わるので、フシアナさんも鎧姿以外の格好見てみたいですね(願望)。
それと、なんかガンダム鉄血のオルフェンズのウルズハントがアニメーション化するみたいなので、七陰列伝もアニメ化したら面白いのでは?
というか見たいです(願望)。