陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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アニメでハゲでデブの爺さんが黒い全身タイツ姿は笑いましたね。



書き変わる筋書き

 アルファとデルタ、そしてネルソンが対峙する。

 ネルソンの姿がブレて2人に増える。

 

「えっ⁉︎分裂したっ⁉︎」

 

 ローズとアレクシアが驚きの表情でその光景を見ていた。

 

 デルタが身を屈めたまま、そろりそろりと間合いを詰めていく。

 アルファは相手の出方を見るため、デルタの後ろで2人のネルソンをじっと見据えていた。

 

「……シッ!」

 

 息を吐く音と共に、デルタが仕掛けた。

 低く身を屈めたその姿は、獣が地を駆るようだ。

 デルタは駆る勢いをそのままに、爪で薙ぎ払う。

 全てを薙ぎ払う暴力がネルソンを弾き、彼は吹き飛んだ。

 かろうじて防いだようだったが、その顔には隠し切れない驚愕がある。

 

「化物かッ……!」

 

 デルタが嗤いながら追撃を仕掛けようとする。

 

「ん?」

 

 だが手を覆うスライムに違和感を覚え、足を止めたデルタの背後から2人目のネルソンが斬りかかる。

 

「ハアァ!」

 

 ガキンッ!

 

 デルタは爪で難なく大剣を受け止めた。しかし、再びスライムに違和感を覚える。

 

「……っ」

 

 大剣を弾くと、後方へ飛び退いた。

 

「…………アルファさま、何かおかしいです。なんだか魔力が吸い取られるような気がするのです」

「…………なるほど。『強欲の瞳』と同じね」

 

 自身の手を覆うスライムを確認するアルファ。スライムの制御が困難になってきてスライムボディスーツの形が僅かに崩れ始めていた。

 

「気づいたようだな。聖域の中心に近づくほど、貴様らは力を失う。誘い込まれていることに気づかなかったのか?」

「貴方は逆に、中心に近づくほどに力を得るのね。なるほど……『強欲の瞳』はここの特性をもとにつくられたアーティファクトだったわけ」

「その通り!あのような欠陥品とはわけが違う!中心ではないが貴様らを片付けるには十分!」

 

 ネルソンの姿が4人に増えた。 1人を残し、3人のネルソンが前に出る。

 

「獲物が、1……2……たーっくさん!」

「……デルタ、ひょっとして数えるの諦めた?」

 

 数の不利も包囲されるリスクも関係ない。脳筋思考のアホの子は獣のように嗤いながら、ただ獲物を目掛け猛進した。

 

 

♢♦♢

 

 

「…………ふぅ」

 

 いい汗かいた後の温泉は気持ちいい。

 女神の試練の会場を出たオレ達は露天風呂に浸かっていた。勿論男女別で。

 男湯と女湯はオレ達以外他に人がおらず、殆ど貸し切り状態だ。

 

『あ~気持ちいいぃ~ヴァイスちゃんそっちはどうぉ~?』

「……良い湯加減だ」

 

 仕切りの向こうからアンナの間延びした声が聞こえた。

 

 

『あらぁ?シェリーちゃん、湯の中にタオルを入れるのはマナー違反よぉ?』

『あ、あの………私、他の人とお風呂に入るの初めで…その………』

『もう…家族も同然だから恥ずかしがらないの。それぇ~』

『はうあああ!?』

『あらぁ、シェリーちゃんお肌キレイじゃないの~触らせてぇ~』

『いや、ちょっ、あの…』

『あの、あんまり風呂でバシャバシャしないで欲しいんですけど……』

『クレアちゃんもお肌キレイね~』

『えっ』

 

 向こうは楽しそうだな。

 

 広い湯船に、眼下には雲海、上を見上げれば星空、千年間もここでなにが行われてきたか知らない連中からすれば立派な観光地だな。

 

 さて。

 

「来たか。【百鬼】」

 

 露天風呂の隅の陰で待機している人影に小声で声をかける。

 

「……悪いな。こんな格好で」

「……大将が裸で部下の報告聞くってどういう神経してるんだよ………」

「一人になる時間がそんなに作れなかったんだよ。通信機もシェリーに見られるわけにはいかないから持ち込むわけにもいかなかったしな」

 

 シェリーは一度学園で通信機を見ている。何かの拍子に持参してるのを見られれば、シャドウガーデンとの関係を疑われることになる。そういうわけで、一人になるタイミングを狙って以前のように連絡係を使ってるわけだ。

 向こうも好きでもない男の裸を見たくないだろう。嫌なことはさっさと終わらせるに限る。

 

「あいつらは?」

「予定通りモニカとミアは聖域に侵入。ミアは聖域システムへのハッキングに取り掛かっていて、モニカの方はアルファとデルタと一緒に第11席と交戦に入ったてよ」

「どっちも問題なさそうだな」

 

「あと、あんたの予想通りミドガル王国とオリアナ王国の姫さん達も入ったぜ」

「……そうか」

 

 大当たりだな。

 

 聖地に出発する前にアレクシアのプロファイリングをやった。

 目立った実力も無いのに、紅の騎士団に半ば強引な形で入団。偽シャドウ事件に首を突っ込んで重傷を負い、更には証拠品保管庫から勝手に錠剤を持ち出したことがばれて謹慎処分を食らった。

 少しは頭を冷やすだろうと思っていたが、なんでも今回の紅の騎士団の監査の代表に志願したという…………。

 以上のことから、彼女は好奇心旺盛で物事になんでも首を突っ込みたがる性格をしているのがわかる。

 

 ここまでくれば、彼女が聖域の扉を躊躇いなくくぐり抜けることは容易に想像できた。

 ローズ王女の方は、性格上目の前でアレクシアが一人で扉の向こう側に入ったともなれば放っておくわけにもいくまい。

 

 今頃、ディアボロス教団とディアボロスの左腕、そして英雄オリヴィエと悪魔憑きの真実を知ってしまった頃だろう。

 

「それからさっき遠目で見たんだが…………」

「なんだ?」

「シャドウの馬鹿も聖域に入ったみたいだぞ」

「……はぁ。最悪の万が一が起こってしまったか」

 

 ストレスが溜まっていく一方だ。

 まるであいつを主人公とした戯曲が繰り広げられてるようだ。本人の知る由もないまま、実誰かが用意した脚本の通りに動いている。ただし本人の心情は反映されず、周囲にはその行動が事実だと解釈される。

 実際本人はただゲーム感覚で遊んでるだけで、遊んだ後にできたものに見向きもしないガキときた。その上その場のテンションで相手を殺したり王都に大穴を開けたりと頭がおかしい。操り人形になっても死ぬまでそれに気づくことはないだろう。

 そんな奴を戯曲の主人公に選んだ何者かは、きっと道楽を好む変わり者の邪神だ。

 

 だがオレは操られるつもりはない。

 オレの物語はオレ自身が書く。筋書きもこっちで書き換えさせてもらう。

 

 

「…………予定通りミアの合図が出たら行動に移れ。どんな合図かは見ればわかる」

「了解…………はぁ、なんで七陰連中の尻拭いをしなきゃいけないんだか」

「計画遂行のためだ。お前だってこの2年にしてきたことを情報伝達ミス程度で台無しにされたくないだろ?」

 

 今から聖域に入ってあの馬鹿に注意したところで言うことを聞かないことはフェンリル派アジト襲撃の日に十分理解した。

 止められないのなら逆に利用するまでだ。

 

「…………ちっ、しゃあねぇか。それじゃああたしは行くぜ」

「ああ」

 

 すぐに物陰のいた気配が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な、なんなんだよあれ!?人畜無害に見えてそこだけ凶暴とか……うちの大将ヤバすぎだろ!?)

 

 

 

♢♦♢

 

 

「うわぁ、また悪い癖が出ちゃってるよあの野良犬。ああなると手が付けられないんだよね」

 

 その頃モニカはアルファとデルタ、ネルソンの戦いを冷めた目で観察していた。

 

「ねえ……ちょっと聞きたいんだけど……」

「ん?なに?」

 

 戦いに参加する様子がないモニカにアレクシアが話しかける。

 

「あの獣人の子って、本当にシャドウの仲間なの?」

「………質問の意図がわからないけど?」

「戦い方が全然違うわ。私が見たシャドウの剣は究極の技術「はぁ?究極?」えっ」

「ああ、うん。なんでもないよ。続けて」

「え、ええ。なのにあの獣人の子のアレって……」

 

 

 

 

「アアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 スライムボディスーツの制御に手間取って簡易のビキニアーマー姿になったデルタが咆哮を上げながら増え続ける複数のネルソンを倒していた。

 ただし、使っている武器は漆黒の大剣と爪で、型も技も無く、戦い方は人というより獣に近かった。

 

 

「……技もへったくれもない、ただの暴力じゃない。強いのは分かるけど、アレでいいの?」

「あー………あの通り2本脚で立った狂犬そのものでね。加えて戦闘極振りの代わりに理解力が5歳児並だから、アホに何を言っても無駄だって皆諦めたみたいだよ」

「えぇ……」

「あと一応言っておくけど、あれが特別アレなだけだから。他の獣人もあれと同レベルだと勘違いしないようにね」

「わ、わかってるわよ……というか、私の気のせいかしら。なんかあの獣人に辛辣な気がするんだけど、なにかあったの?」

「気のせい気のせい」

 

 そう言うモニカだが、過去にデルタがヴァイスに下剋上目的で勝負を挑んだこともあり、ほんの少し敵意に近いものを抱いていたりする。(親衛隊一同で作成したブラックリストの上位にデルタの名を入れるくらい)

 

「あ、あのぉ、大鴉さん……」

 

 今度は人質(笑)のナツメ(ベータ)がモニカに声をかける。

 

「シャドウガーデンのお二人が戦っていますが、貴女は手伝わないのですが?」

「え?なんで?」

「な、なんでって…あ、貴女もシャドウガーデンの一員ですよね?」

「シャドウガーデンはシャドウガーデンでも部署が違うんだよ。それに、この戦いはあいつらが勝手に動いて勝手に始めたんだ。聖域内の調査は手伝うとは言ったけど、そこまで付き合うつもりはないね。まあ手伝ってやるとしたら…………」

 

 モニカはスッと瞳からハイライトを無くし、

 

「―――独断行動をとった連中全員の介錯くらいかな。ボク痛みなく人の首切るの得意だからさ

 

 絶対零度を思わせるような、感情の感じられない声で告げられた言葉。それを聞いて三人はギョッとなる。なにせ、ニヤリと口元を吊り上げるモニカの口調に一切の迷いはなく、目が完全にマジな感じだからだ。

 三人の目には、下手なチンピラなんぞ目じゃないくらい情け容赦のない生粋のサイコパスに映ってしまっていた。

 

(……なんか芝居がかってるような感じがしたけど、これがこいつの本性じゃ――)

(いったいなにをどうしたらあそこまで冷たい目になるのでしょうか)

(ああ…やっぱり私達処分されるんだぁ……)

 

 特にベータなんか完全に蒼白どころか顔も目も真っ白だ。

 

(短い人生だったなぁ……せめてシャドウ様戦記は完成させたかった)

 

「なぁーんてね、冗談だよ」

「へ?」

 

 すぐに目に光が戻り、はははと小さく笑い出したモニカを見て三人は目を丸くする。

 

「じょ、冗談?」

「だってそういう命令受けてないし、そんなことしたら下の連中がいろいろ騒ぎそうで面倒だしね」

「そ、そうですか冗談ですか(よかったぁ~)」

 

 内心安堵するベータ。

 

「さて、あの二人だけでも問題なさそうだけど、少しは手を貸しておかないとこっちの面目も立たないし仕方ないか」

 

 面倒くさそうにしながら前に出たモニカが両手を合わせ、指先をネルソン達の方へと向けながら魔力を込めだした。

 

「っ!?これは魔力!?」

「手だけ?」

 

 可視化するほどの膨大な魔力は全身から漏れだしたり、女神の試練でオリヴィエがやったように全力でミスリル製の剣に流し込んだりする場合に見れられるが、身体の一部のみ見えるというケースを二国の王女は見たことも聞いたこともなかった。

 

 黙って見ていると、蒼銀色の魔力がモニカの両手を合わせた掌の中に集中していた。

 

「いったいなにをするつもりなの………」

(ちょっ……まさかモニカ……あれを使うつもりなんじゃ…!?)

 

 

 

 魔力の一点収束。

 それと同時にモニカは自身の魔力で掌の中のスライムを加圧、圧縮していた。

 加圧されたスライムは体外で黒い玉に変化し、加圧が高まっていくごとにサイズが小さくなっていく。

 

「よく見てなよお姫様達。これがボク等が見出した魔力の新たな可能性の一部だ――――」

 

 

 モニカは圧縮したスライムを一点から解放。

 

 

 ビイイイイイイイイ!!

 

 空気が切り裂かれる音が響く。ウォーターカッターの要領でスライムが刹那の時間に一条の黒い槍のように飛び出し、直線上の対象を撃ち抜いた。

 

 

「んなっ…」

 

 一人だけではない。

 直線上にいた10人くらいのネルソンの胴体を貫通し、大きな穴が穿たれた。

 

 

「な、なんだ今のは…!?なにが起こったのだ!?」

「あの子…あれを使ったの」

 

 目にも留まらぬモニカの攻撃に反応できなかったネルソンは黒い線が通った程度しか認識できていない。

 それに対してアルファの方はわかっていた。

 

 

「礼はいらないよアルファ。それから、次は伏せた方がいいよ」

「なっ――――」

 

 モニカの手に再び魔力が集中しているのを見たアルファは即座に身をかがめた。

 

 

 ビイイイイイイイイ!!

 

 モニカから第2射が発射された。

 ただし、今度は発射した状態で砲身兼銃口となる腕を右に振る。

 黒い線がまるで途轍もなく長く細い剣による横一閃が放たれたかのようで、通った後の40人以上のネルソンの身体が上下に綺麗に両断した。

 

 

「……危ないじゃないの」

「だから伏せなって言ったじゃん。デルタが射線に入らないように考慮したし」

 

 射線上にいたアルファから非難の言葉を受けても本人はどこ吹く風。

 

「なんだ……なんなのだ今のは!?」

 

 ネルソンの視線がモニカの方へ向く。

 

「いや、そもそもここでは魔力は制限されるはず……なのに何故貴様は問題なく魔力を練れてるんだ!?」

「ん?ああ、聖域って、『強欲の瞳』のと同じものなんでしょ?あの時の経験を下に対策してきたんだよね」

 

 モニカが懐から手のひらサイズのものを出した。それは強欲の瞳の制御装置によく似た形のアンティークだった。

 

「ま、まさか……アーティファクト!?」

「ご名答。どっかの誰かさんのおかげでまだ二つしかないけど」

 

 学園襲撃の際にルスランが使用したような魔力封じに対応できるように、研究部門のイータと親衛隊のアネットによって作られた魔力阻害を打ち消すアーティファクトの試作品。

 

「魔力使えなくしてから数で押し切るつもりみたいだったけどさ、こういうので対策されたら意味無いよね」

「そ、そんな…………」

 

 想定の範囲外の事態にネルソン達の顔が脂汗で滲む。

 

「ていうか、それ以前に聖域頼りのこの制限された状況でたった二人に滅茶苦茶手こずってるじゃん。あんたってさ、薬で寿命を延ばしてラウンズについている割に――――」

 

 

 

 

 

―――大したことないね。

 

 

 

 

 

ブチッ

 

 

 

「図に乗るな小娘がぁああああああああ!!いいだろう。そんなに死にたければ見せてやろう!これがわしの全力だぁあああああああああ!!」

 

 モニカの煽りでブチギレたネルソンの姿が増えた。

 その数はこれまでの比ではない。10人を優に超え、100人に迫るほどだ。

 

「…数を増やせばいいって問題じゃないでしょうが。そんなことしても狂犬が喜ぶだけだし」

「獲物がいっぱいぃ……」

 

 デルタはとても嬉しそうに嗤って、やはりその中に突っ込んだ。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

「っ!?」

 

 人の身長より遥かに長い大剣にスライムソードを変化させ、縦横無尽に振り回す。

 

「アアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 純粋な暴力により十を超えるネルソンが薙ぎ払われていった。

 

 

 

 

 

「――単純だね。どいつもこいつも」

 

 20人ほどのネルソンが一斉にモニカに斬りかかってくる。

 モニカの首に巻かれていた黒いマフラーが変化した。

 自立して動き出したそれが鞭の様にしなり、ビュンビュンと空気を切り裂きながら迫ってきたネルソンを瞬時に切り刻んだ。

 

「っ!?」

 

 バラバラに四散したネルソン達の身体が白い床に転がる。

 

「全力とか言いながらさっきとやってること全然変わってないじゃん」

 

 ぐしゃっ

 

 モニカは近くに転がっていたネルソンの頭部が消えるよりも先に勢い良く踏みつけ、頭蓋骨を砕いて潰れたトマトのようにひしゃげさせた。

 

「ひぃッ…!」

 

 自分の頭が踏みつぶされる光景にネルソンは怯えた。

 

 

(なんだ。なんなのだ…)

 

 聖域の中枢近くにまで誘き寄せるのはうまくいった。

 魔力が制限されている中で侵入者達を数の利で圧倒した。

 アーティファクトで魔力阻害対策されたのは想定外だったが、聖域の効果でネルソンの魔力が強くなってるからどうとでもなると思っていた。

 

 その筈であったのに……

 

(なぜだ、なぜこうも簡単に……)

 

 デルタの力押しとモニカからの3射目の攻撃でネルソンの分身が瞬く間に駆逐された。

 

 

 やがて世界が割れた。

 

 

 

 

「あなたはきっと研究者だったのね」

 

 どこか憐れむように、アルファは言った。

 

「コピーがいくら増えても、頭脳は1つ。人間は複数の身体を制御できるほど優れた頭脳はもっていない。それが100体にもなれば、ただの案山子ね」

 

 アルファは剣を片手に歩いて行く。

 

「ひっ……!」

 

 ネルソンが後退る。 

 

「無限にコピーを生み出せるというわけでもなさそうね」

 

 その様子を見てアルファが淡々と述べる。

 事実、ネルソンにコピーを生み出す力はもうなかった。

 だから……。

 

「そうだ!オリヴィエ!」

 

 彼は聖域を守る最後の番人を呼び出した。

 

「来い、早く来いぃ……!」

 

 その情けない声に応えて、空間が裂けた。

 そこから一人の女性の姿が現れる。そのアルファにそっくりの女性は……。

 

「英雄オリヴィエ……」

 

 アレクシアが呟いた。

 それは、英雄オリヴィエだった。しかしその瞳に力がない。ガラス玉のような空虚な瞳が、どこか悲しかった。

 

 彼女はネルソンを護るかのように、アルファ達の前に立ち塞がった。

 

「英雄オリヴィエ……やはりあなたは……」

 

 アルファが唇を噛んだ。

 

「ふーっ……!」

 

 デルタは獣の様にオリヴィエに向かって唸りながら威嚇する。

 

 

「これで貴様らは終わりだ!オリヴィエ!こいつらを殺せ!」

 

 

 主人からの要求に背く意思もないオリヴィエは聖剣を構えて一歩前に進み――――

 

 

「そろそろかな――――」

 

 

 突然カクンっと糸の切れた人形のように脱力し、動きが止まった。

 

「は?お、おいどうしたオリヴィエ、なぜ急に止まった?さっさとこいつらを殺せ!」

 

 ネルソンが命じてもオリヴィエが動く気配はない。

 

「どうしたというのだ!?早くしろ!」

 

「――――残念ながら彼女はしばらく動けませんよ」

 

 通路の隅から灰色の髪を垂らした黒ずくめの女が現れた。

 

「銀閃…………これは貴女が?」

「アルファ様達がそこのゴミとと戯れている間に、聖域のシステムに少々手を加えさせていただきまして」

 

「なっ…!?おのれぇ小癪な真似を……」

「心配せずともあと数秒で彼女は再び動きますよ。そんなことのために弄ったわけではないので」

「おっ、ということは作戦通りあれが始まるわけだ」

「…えぇ」

 

 モニカとミアの2人が口元を吊り上げる。ネルソンにはそれが悪魔の嘲笑に見えた。

 

 

「な、なんだ?……貴様システムにいったいなにをした?」

 

「…………調査によると、毎年女神の試練が行われる会場のフィールドと聖域のシステムは繋がっていて、基本フィールド上の挑戦者に呼応して、聖域内で彷徨う死者たちの残存魔力から戦士を一人、霊として召喚されるようですね。しかも足元の隠されたスイッチで呼び出すかどうかを貴方がたが操作できるようにしてるみたいで」

 

「そ、それが…?」

 

「私が弄ったのは主に召喚システムの方でして、召喚範囲をフィールドから聖地全体に広げました」

 

「っ!?な、なんだと…!?き、貴様いったいなんのために…いや、なにを外にどの戦士を召喚する気だ!?」

 

 

「戦士を召喚したいわけではありません。戦士の霊はあくまでも記憶…………聖域内を彷徨っているのは、なにも古代の戦士だけではないでしょう?」

 

 そこまでミアの話を聞いてネルソンは気づいた。

 

「ま、まさか―――っ!?」

「ええ……そのまさか。私が聖地に召喚するのは――――」

「よ、よせ……やめろぉおおおおお!」

 

 

 

 

「――――千年もの間……貴方達教団に苦しめられ死んでいった悪魔憑きの少女たちです!」

 

 

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

『――イタイイタイイタイイタイ!!』

『苦しい……痛いよぉ……お母さん……っ』

『やめてぇええええ!』

『おねがい………コロシテ…………』

『いやあああああああ!』

 

 

 同時刻。

 夜に包まれた聖地の街に少女たちの怨嗟の声が響き渡った。

 

 

 





モニカの技は呪術アニメのお兄ちゃんのを参考にしました。

アニメで長い間少女たちが地下で人体実験にされていたのに表の連中は何も知らないし知ろうともしないことに少々苛立ちを覚えまして、最後はこういう感じになりました。
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