やはりカゲノー男爵家の長男シド・カゲノーは、オレがこの世界に転生することになったあの変態だった。
最初お互い初対面という形で接していたが、流れで奴の姉のクレアと軽く手合わせをすることになったとき、つい反射的に剣道の『巻き技』を使ってしまい、彼女の手から剣を飛ばして勝ったとき、
――――君ってさ、前世の記憶があるよね?
と奴がオレに小さな声で聞いてきたために確信した。
クレアがいない間に話してみると、オレが転生者だと分かった奴は『陰の実力者』なる者を目指しているヤバい奴で、前世の頃からずっと鍛錬を欠かさずに更に魔力を求めて意味不明の修行をしていたとか。
話の内容からたまたま近くを通りかかったオレの懐中電灯の光を魔力と勘違いして全裸で突撃してきたということを理解した。理解したくなかったが。
こんな変態のよくわからない願望のせいでオレは一度死ぬ羽目になったのかと思うと気が滅入る。
だがシドはそんなオレの心情に気付かないままとんでもないことをのたまった。
――――君、僕の相棒になってよ。実力者には自分を支える相棒の存在が欠かせないと思うんだよね。
当然断った。
だが奴は中々諦めずに勧誘してきた。
読書をしているときに背後から…………
『おーい、ヴァイスくーん』
ティータイムを取っているときに真横から…………
『僕の相棒に~』
トイレ中に僅かなドアの隙間から…………
『なってよ~』
しかも屋敷に帰って就寝している時になんか耳元で囁き声が聞こえてくると思って目を開けたら、
『ヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になるヴァイス・ネーベルはシド・カゲノーの相棒になる』
と、勝手に屋敷に忍び込んで洗脳じみたことまでしてきたのだ。
あまりのしつこさにオレはとうとう音を上げた。
不本意ながら陰の実力者(笑)の相棒となったのだが、変態のシドからスライムボディスーツという面白いものを貰った。
この世界には魔力が存在する。その魔力を使って人は身体や武器を強化して戦うわけなのだが、魔力を扱うときそこにはどうしてもロスが出る。
例えば普通の鉄の剣に魔力を100流しても実際に伝わるのは10程度。実に9割の魔力が無駄になる。魔力を流しやすいミスリルの剣でも100流して50伝われば高級品と言われるぐらい、極めてロスが多いのだ。
その問題点を解決できる存在が魔法生物であった。スライムがの魔力伝導率は驚きの99%。しかも液体なので自由に形態を変えられる。
シドはその特性を利用し、扱いやすく強化しやすいスライムゼリーの調合と、それを全身に纏いボディスーツ化することに成功した。
実際に着てみると鎧と違って軽く音も鳴らず快適で、むしろ身体の動きを補助してくれる。しかも防御力も折り紙付きだ。
こんなものを思いつき創り出すとは、なんとかと天才は紙一重とはこのことを言うのだろう。
スライムボディスーツという特殊兵器を着こみ、肝心の陰の実力者(笑)とその相棒の最初の活動を始めることとなったのだが…………
「ひゃっはあああ!てめぇら金目のモノを出せ!!」
廃村で盗賊団相手に盗賊するというなんとも残念なものだった。
「な、なんだぁ、このチビども!」
「おらぁ、金出せつってんだろ!」
どっちが盗賊なのかわかったものじゃない。
コイツに振り回される奴は気の毒だ。だが、オレはこの盗賊連中に同情は抱かなかった。
どうやらこいつらは最近ネーベル領とカゲノー領の間で商隊を襲っている盗賊団のようだ。商人達を全員殺し、略奪成功の祝宴の真っ最中であった。
「おらおらおらおらおらぁぁぁ!」
ハイになってるシドはスライムソードをムチのように振るって盗賊たちを一掃していく。
勿論、シドの目的は殺された商人達の仇討ち…………ではなく、腕試しと略奪品の略奪だ。
「死ねやクソガ――――」
ドシュ――――
盗賊の何人かがオレに背後から斬りかかろうとしてきたが、魔力感知で位置を把握していたオレはスライムソードで全員返り討ちにしてやった。
ただし、シドのように手に持って振るうのではなく、ハリネズミの如く背中から無数の棘状の剣を飛びさせて。
「な、なんだよこいつら……」
「ば、化け物!」
ピストル型のマスケット銃を持った1人が銃口をオレに向けて引き金を引いた。銃弾はオレの腹に着弾する…が、丸弾がスライムボディスーツを貫くことは無い。直ぐに弾を指で取り出し、お返しに撃たれた弾をデコピンで弾き出す。
再装填する間もなく額のど真ん中に綺麗に着弾した盗賊は、まるでガラクタ人形のように四肢を投げ出し、そのまま地面に転がった。当然ピクリとも動かない。
意外に――人を殺してもなんとも思わないな。
殺した感触がないからか。それとも盗賊達がやった行いに腹を立てているからか。
いや、どちらでもないか。
転生前にホワイトルームで教官達を再起不能一歩手前まで追い詰めた時もなにも感じなかった。
どうやらオレはこの世界に転生してからなにも変わっていないらしい。
「いやー、我ながら中々良い物作ったなぁ!そっちも終わったみたいだね」
自己分析をしている間にシドの方も終わったようだ。この辺りにはもう盗賊の残党はいないようだ。
「仇はとったし、荷物も有効活用するから安心して成仏してくれ」
「持ってくのか?」
「陰の実力者の活動資金のためだよ」
物は言いようだな。まあ別に止めはしないが。
シドが金や美術品を袋に詰めるのに夢中になっている中、オレはあるものを見つけた。
布を被せた鉄の檻、そこから不安定な魔力の流れが感じられる。
檻の覆いを剥ぎ取ってみると、中には何というか……腐った肉塊が転がっていた。辛うじて人型は留めているが、性別も年齢もまるで分からなかった。
しかし、まだ生きていた。
「ふー大量大量」
「シド、これを見てみろ」
「ん?これは……『悪魔憑き』かな」
「これが……か」
聞いたことがある。悪魔憑きと呼ばれ、教会に処刑される化け物のことを。はじめは普通の人間として産まれ、ある日を境に肉体が腐り出す。放っておけば直に死ぬが、教会は生きた悪魔憑きを買い取り、浄化と称して処刑している。悪魔の浄化、病人を虐殺しているだけだが、それに民衆は喝采し平和が護られたと教会を讃える。
もとの世界の中世にあったセイレムの魔女狩りとなんら変わりない。どう御託を並べても、人間には人が死ぬのを喜ぶ残虐性を内に秘めていることを加害者と観衆たち自ら証明したのだ。
「この波長は覚えがあるな。魔力暴走だ」
「……魔力暴走?」
「前に姉さんが似たような症状を発症したことがあるんだよ。まあ僕がこっそり治したけど」
そんなことがあったのか。シドがいなかったらあれがこれに…………想像したくないな。
「ということはこいつを治せるのか?」
「え?」
「えっ」
「あ、ああうんそうかもね。まあ僕に任せてよ。隠れ家に持っていこう」
大丈夫なのかこいつ。
♢♦♢
結論から言って、うまくいった。
肉塊を隠れ家に持ち帰り、シドが魔力を流し込んで試行錯誤して一ヶ月。
『悪魔憑き』で身体が腐り果てていたのが元の肌色に戻り、金髪エルフの少女へと姿を変えた。身体が元に戻ったことで本来の姿になったが、その代わり生まれたままの姿になっていた。とりあえず隠れ家にあった覆いを被せておく。
「あんなに腐ってたのに元に戻るんだ」
「確証なかったのか。それよりこいつどうする?」
「そうだねぇ。肉塊じゃなくなったから実験も出来ないし、故郷にでも帰ってもらうかな」
マジかよ。なんとなく気づいていたが、やっぱり実験動物として利用していただけなのか。
そのうちオレも実験動物されるんじゃないだろうな?
「ん、ぅぅん……?」
「目を覚ますみたいだぞ」
「どうしよっかな。あっ……そうだ!」
「何をする気だ?」
「ここが陰の実力者の初舞台ってね」
いきなり距離を取って木箱の上に片膝を立てて座ったシド。形から入るタイプだな。
「あれ、私は……?うそ…………私の身体が……元に戻ってる」
意識を取り戻した少女は今の状態が信じれないのか、何度か自分の右腕を触ったり叩いたりしている。
「君を蝕んでいた呪いは解けた。最早君は自由だ」
シドはわざわざいつもより低い声を作って少女に語り出した。
呪いってなんだ?
「呪いって・・・?」
「ああ、呪いというのは……君達『英雄の子孫』にかけられた呪いのことだ」
え?何言ってんだこいつ
「驚くのも無理はない。だが君も知っているだろう。遥か昔、魔人ディアボロスによって世界は崩壊の危機に曝されていた。しかし人間、エルフ、獣人から立ち上がった3人の勇者によってディアボロスは倒され世界は守られた」
「知ってるわ、でもあれってお伽話じゃない?」
「いいや、本当にあったことさ。もっとも、事実はお伽話よりずっと複雑だが……」
フッと苦笑したシドがなんか長々と語り始めた。
「勇者によって倒されたディアボロスは、死の間際に3人の勇者に呪いをかけた。それがディアボロスの呪い」
「ディアボロスの呪い?そんな話は聞いたことがないわ」
オレも初耳だ。
「ディアボロスの呪いは存在する。悪魔憑き……君の身体を蝕んでいた病のことだ」
絶対今考えた設定だな。陰の実力者になりたいからってそんな噓つくか普通。エルフもさすがに信じて――――
「え、そんな……」
驚愕に目を見開く少女。信じちゃってるよ。
「魔人ディアボロスを倒した英雄の子孫たちは、この病に永らく苦しめられた。しかし、昔はディアボロスの呪いは治せるものだった。君のようにね。悪魔憑きは英雄の子孫の証明だった。世界を救った者の子達として大切に保護され、感謝され、讃えられていた。昔はな」
「だけど今は感謝されることはない。それどころか……」
「何者かが歴史をねじ曲げたのだ。英雄の証明であることを隠し、呪いの治療法も隠し、それどころか悪魔憑きなどと蔑まれる存在に」
「ッ……!いったい誰が!」
「その黒幕の正体は……そうだな。黒幕は……まだ教えることは出来ない。知れば君にも危険が及ぶ」
設定の限界が来たようだな、目があっちこっちに泳ぎまくってる。視線でオレに助け舟を出すのを求めてくるが無視することにした。
「構わないわっ!!一体何者なのっ!?」
「そ、そうか……ならば教えよう」
シドはオレからの手助けがないと理解したようで、時間を稼ぐためか前髪を弄りだした。そして数秒の静寂が流れた後、何かを思いついたように口を開いた。
「──……『ディアボロス教団』」
まんまだな。
「『魔神ディアボロス』の復活を目論む組織だ。奴らは決して表舞台には出て来ない」
「くっ……!!」
やっぱり信じちゃうのか。
「我等の使命はその野望を陰ながら阻止すること……かな」
我らって、それオレのことも含めてるのか?しかも最後にかなって付けてるし、適当過ぎるだろ。
「我が名は──『シャドウ』。……陰に潜み陰を狩る者」
陰の実力者からまんま取ってるな。
「……それで……あなたは?」
この流れでオレの名前を聞いてくるか。だがバカのペースに乗るつもりはないから普通に本名を名乗ろう。
「オレは――「我の相棒だ」おい」
「相棒……?」
「そう、我と共に陰を歩む男──名は『ミスト』だ」
勝手に相棒扱いさせられた上に名前をつけられた。ひょっとしてあれか?ネーベルはドイツ語で霧を意味するからか?
いや、自分が陰だと名乗ったから相棒もそれっぽいのがいいだろうと適当に考えたのだろう。
「困難な道のりだろう。だが、僕らが成し遂げなければならない。協力してくれるね?」
「あなたがそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして咎人には、死の制裁を……」
少女は青い瞳でシドを見据え、不敵に笑った。幼くも美しいその顔は、覚悟と決意に満ちている。
もし噓だってバレたら無事じゃすまないな。
「我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩る者だ……君は今日から『アルファ』と名乗れ」
オレもう知らね。
シドにしつこくつき纏われて嫌々相棒になったオリ主の追加設定
イメージCV:千葉翔也(普段)、子安武人か阪口周平(ミスト時)
ミスト時に声を変えるのは一発でバレるのを避けるため、知り合いにバレるのが恥ずかしいから
スライムボディスーツ形状:丈長のローブで全身を包み、両目と胸の部分が赤く光る。両腕はガントレットで覆われている。