陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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今回ので原作第3章は終わりです。ここまで長かったです。次回からブシン祭篇に入る予定です。


噓には噓を

 ミア達は上手くやったようだ。

 

「何なのこれ…?」

 

 オレの隣にいるクレアは困惑している。

 目の前に広がる光景、夜の帳に包まれた聖地の街は大混乱に陥っていた。

 

痛いよぉ…苦しいよぉ…

どうして誰も助けてくれないの…?

いやあああああ!!!

痛い痛い痛い痛い!

 

「ひぃっ!なんだよこりゃ⁉」

「これって女神の試練の召喚に似てるぞ!」

「お母さん怖いよぉ!」

「見ちゃダメ!」

 

 街中の至る所に複数の古代文字が突然現れ、少女の姿へと形を変えた。

 人間、エルフ、獣人と種族は異なるが、成人前の少女達が皆正気を失くした様子で発狂の声を上げていた。

 苦痛から逃れるように頭を打ち付け、壁をひっかき、床を転がる。

 肉体が黒く腐り落ち始め、みるみる腐った肉塊へと化し、ガラスが割れるように光に消えていく。

 

「これって……悪魔憑き?」

おい、じっとしろ!注射の時間だぞ!

いやあ!やめてぇ!

 

 新たにいくつもの古代文字が現れ、聖騎士や白衣を着た男達へと姿を変えると、少女達を一緒に現れた台に無理やり乗せ、何本も大きな注射を刺し、何かの薬を投薬しては血を抜いてを繰り返していた。

 投薬された少女達はもがき苦しみ、腐敗の速度が急激に早まったり、膨張して破裂したりと惨い死に方をしていた。

 

「まさかこれって…悪魔憑きを使った…………」

「人体……実験?」

 

 アーティファクト研究をしていたシェリーも目の前でなにが行われているか悟った。

 

おい、採血はまだか?なにをもたついている

も、申し訳ありませんネルソン様

「え?」

 

 聖騎士達が暴れる少女を台に押さえつけるのに手こずっているところで、新たに人が現れた。

 

「おいあれって、大司教代理じゃないか?」

「ああ、女神の試練の主催してたな」

 

 女神の試練の彼の顔を見た人間たちは困惑していた。

 

 

注射針が勿体ない。面倒だ。斬れ

はっ

 

 ザシュ

 

ぎゃあああああ!

 

 ネルソンの命令で、聖騎士達は剣で少女の身体を刺した。

 臓器をやられた少女は大人しくなり、ピクンピクンと痙攣しながら傷口から大量の血を流していた。

 

「ひぃっ!」

「むごい……」

 

研究用のサンプルをもっと掻き集めろ。死んだのは廃棄処理だ

 

 教会の神父とはかけ離れた悪どい笑みを浮かべるネルソンの顔が、上手く聖地に住む人々の脳裏に焼き付いたようだ。

 

 

♢♦♢

 

 

「ミドガル王国の学園の暴露通信を少し参考にしました。今頃聖地の住民達はここで行なわれていたこと、貴方がそれに加担していたことを知ったところでしょう」

「き、貴様ぁああぁ………なんてことをしてくれたんだあぁ…!!」

 

 怒りでネルソンの髪の無い頭部に多くの血管が浮き上がる。

 だがオリヴィエよりも前に出る様子はない。

 

「こんなことをしてただで済むと思ってるのかぁ!」

「済まないのはアンタの方でしょ?アンタが裏で人体実験を行っていたことを住民は知ってしまったんだ。このことが外に伝われば、他のラウンズだけじゃない。聖教の連中がアンタを消しに来るよ」

「ッ!?」

「聖教の方は人体実験についてアンタ個人が勝手に行ったことにして宗教国家オルムに強制送還、死刑は免れないね。教団側は……雫の生成の役割があるから殺しはしないだろうけど、ペナルティとして奴隷に近い扱いになるかな?」

 

 モニカの推測を聞いてネルソンは一瞬で顔面蒼白となった。

 

 その時。

 

 

「アルファ様、調査が終わりました!」

 

 豊満な肉体の黒ずくめの女が現れた。

 

「いつでも出口が作れます!」

「イプシロン……。なら私達はそろそろ帰るわ」

 

 アルファは踵を返し引き返す。

 

「ま、待て……!か、帰る?に、逃げるつもりか……!」

 

 ほっとした声でネルソンが言う。

 

「小物の命に興味はないわ。我らの目的は力の源を断つこと。聖域の防衛がどんなものかもわかった。またお邪魔するわ……次はこちらの好きな時に」

 

 イプシロンがなにか念じると、女神の試練の会場に現れたのとは別の光の扉が出現した。

 

「こ、このまま……に、逃がすと思うのか…!」

「あら、追ってくるのかしら?」

「ひっ!」

 

 ネルソンはオリヴィエの後ろに隠れた。

 

「デルタ、行くわよ」

「ふーっ……」

 

 獣の様にネルソンとオリヴィエに向かって威嚇しているデルタの耳にアルファの言葉が届かない。

 

「はぁ…まったく」

「ああ大丈夫、こういうことも想定して…………」

 

 モニカが通信機を取り出してボタンを押す。

 

『おいデルタ、言うこと聞かないなら前みたいに蹴り飛ばすぞ』

 

 通信機からミストの声が通路に響く。彼の言葉がデルタの耳に届いたのか、彼女はビクッと我に返り、先程までの獣性が鳴りを潜めてガタガタと身体を振るわせ始めた。

 

「ご、ごめんなさいサブボス!デルタちゃんと言うこと聞くです!聞くですからどうか蹴らないでくださいです!もうお空は飛びたくないです!」

 

 先程までの威勢はどこへやら、耳を伏せ尻尾を丸めて酷く怯えるデルタの様子に、事情を知らないアレクシアとローズは戸惑う。

 

「……あの獣人の子、ミストって奴にいったいなにされたの?」

「あの畜生の自業自得だから気にしなくていいよ」

「………やっぱりあの獣人の子にだけ辛辣すぎない?」

 

 アルファに「ほら行くわよ」と言われ、デルタは大人しく彼女の後についていく。

 光の扉の奥に二人は姿を消した。

 

「皆さんもどうぞ…」

「「…………」」

 

 扉に入ることを黒づくめの女の一人に促されるも、アレクシアとローズが躊躇う中、

 

「私はついていきますよ」

「ナツメ先生!」

「アレクシア様は残られては?こういう薄暗い場所、お似合いですし」

「はぁ!?なんで私があんなハゲの隠れ家に残らなきゃならないのよ」

 

 ベータの安い挑発に乗るようにアレクシアが扉をくぐり抜ける。ベータとアレクシアの不仲の様子にローズは「はぁ……」とため息をつきながら後に続く。

 

 

 光の扉に全員入って、聖域に平穏が訪れた。

 ネルソンは座り込み、ほっと溜息を吐く。

 

「ま、まぁいい、アルファとやらの顔は覚えた。奴の血を得れば雫の完成に近づくだろう。想定の範囲内だ」

 

 ぶつぶつと呟く。

 

「ま、まず急いでシステムを復旧させねば。その後聖地を封鎖して外に漏れないよう徹底して、上に釈明せねば……そして、ん?」

 

 その時、ネルソンは聖域の違和感に気づいた。

 

「まさか……聖域の中心にネズミが入り込んだか?なぜこうも問題が次々と……」

 

 ようやく動き出したオリヴィエを引き連れ、ネルソンは聖域の中心へと向かう。

 

(そういえば通信機とやらから聞こえたあの声…………モードレッド卿の声に似てたような?)

 

 

 

 その数分後、聖域が途轍もない光りに包まれ、ネルソンとオリヴィエ諸共蒸発した。

 

 

♢♦♢

 

 

「ここは………」

「外で聖域に一番近い場所に出るように設定しました」

 

 アルファたちが扉を抜けた先は、聖地の街の外れにある巨大な湖が見渡せる森の中だった。

 

「そう。ということはこの下に……」

 

 アルファは先程まで自分達がいた施設があると思われる湖の底を見据える。

 

「……聖域の調査は?」

「現段階で可能な調査はすべて終えました。全員の脱出も確認済みです」

「そう、ありがとう。イプシロン」

 

 手短に報告を済ませ、イプシロンがアルファへ軽く頭を下げている中、モニカとミアは共に聖域を脱出した王女二人に声を掛ける。

 

 

「お怪我はありませんか?」

「え、あっはい……」

「どう?世界の真実の一部を知って後悔した?」

「……え?」

「単なる質問だよ。聖地とか呼ばれているこの地が実は全ての不幸の始まりの場所で、自分達の知らないところで卑劣な研究が続けられてるんだ。教団は不老不死なんて幻想を完全なものとするための研究に力を入れている。そしてその鍵は封印されしディアボロスの身体と、英雄の血を色濃く受け継いだ子孫……つまり悪魔憑きを発症する少女達にあると連中は考えている。不老不死実現のために、千年もの間多くの少女たちが研究の犠牲になったんだ。だけど表の連中はそんなこと知らないし知ろうともしない。そんな無知な連中の代表であるお姫様達の反応が気になってさ」

「……本当に棘のある言葉を言ってくるわね」

 

 モニカの言い方にイラッとしつつも、アレクシアは嚙みつくことなく口を開いた。

 

「……後悔以前に、悔しいと思ったわ」

「悔しい……?」

「私は自分達の知らないなにかが起こっていて、それに向き合う覚悟はできたつもりでいた。だけど正直、御伽噺とされていた英雄や魔人が実在していたとかそれに教団が関わっていたとか、いろいろとスケールが大きすぎてまだ頭がおいついていない。その上、私は目の前でことが起こってもなにもできなかった。力がないのはわかっていたつもりだった。でも、それだけじゃない。誰が正しくて、誰が間違っているのか、私は善悪の判断さえできずにいるだけの傍観者だった。このままなにもできなかったら大切なモノを奪われてしまう。そんな気がする………」

「アレクシアさん……」

「ふーん………今のままじゃダメだって自覚はあるんだね。それなら向上心が高いアレクシア王女にプレゼントだ」

「プレゼント?」

 

 すると、ミアが何処からか一冊のファイルを取り出した。何重にも分厚く紙が束ねられている。

 

「それは?」

「ボク等が今まで集めた情報のうち、キミ達のためになる情報をまとめておいたものだよ。殺されたドレイク大司教含む聖教関係者の汚職、孤児達を教団の構成員育成施設へ売り払って得た金の帳簿、ミドガル王国内にいる教団関係者の主要面々のリスト、ディアボロス細胞による悪魔憑きの発症メカニズムに関する研究レポートとかその他諸々…ついでに聖域内でのネルソンとの会話を録音した通信機もつけておく」

「!」

 

 ミアが持っている紙束が示す内容。

 それはつまり、今まで知り得なかった教団の情報が今目の前にあるということだ。

 聖域内で見聞きした内容以上の。 

 

「そんなものをいったい……」

「そういえば」

「あげるよ。君に」

「え?」

「ちょっ、待ちなさい大鴉!どういうつもりなの?」

 

 モニカの話を聞いていたアルファが待ったをかける。

 

「どういうって…この前学園でボク等に手を貸したせいで紅の騎士団と学生君に迷惑かけちゃったからさ。そのお詫び?大司教暗殺で監査が有耶無耶にされて何の情報も得られなかったみたいだし」

 

「巫山戯ないで!こっちの情報を外野に渡すなんてそんな勝手なこと――――」

「ミスト様のご指示です」

「えっ」

「そもそも勝手はどっちなのさアルファ?今回の聖域調査の件、ミストに相談もせずに進めたよね。おまけに新たな脅威になるであろう例の黒い錠剤のことも報告しなかったときた」

「――っ」

「確かに大問題ですね。構成員のまとめ役であるアルファ様がナンバー2であられるミスト様をないがしろにするとは…」

「な、ないがしろになんかしていないわ!彼はシャドウ同様すべてをわかっているから報告は不要だと――――」

「はぁ?なにそれ?盲信にも限度ってものがあるでしょ(そもそもシャドウの奴はなにもわかってないし)」

 

 アルファの口から出た説明にモニカが呆れる。

 

「あのさ、ミストはボクらが収集した情報を元に二手三手先を読んで戦略を練るの。逆に情報を渡さなければ策を練れないのが常識でしょ」

「で、でも彼は全てを知っていて貴女達を送り込んで来たんじゃ」

「それはボクが君達の動きをミストに報告して、すぐに対応に動いたってだけだよ。なにをどうしたらそこまで勘違いするのか知らないけど、情報共有を怠った言い訳にはならないね。ここにいる全員、不服従と捉えられても仕方ない」

「せっかくミスト様が考案された通信機を貴方がたに配布したというのに、報告の義務を果たすつもりのない相手にはまったく意味がなかったようですね」

「――――っ」

 

 正論を突き付けられてアルファは何も言い返せない。

 他の面々も何も言えず気まずい雰囲気になる。

 

「でも安心しなよ。我らが陰の参謀はキミ達をどうこうするつもりはないよ」

「えっ」

「ここ数年でキミ達が上げた成果を彼はちゃんと評価していてね。ここにいる全員失うには惜しい人材だから今回の件を不問にするってさ。勿論、ちゃんと反省して今まで以上に情報共有に力を入れるのが大前提だけど」

「そ、そう……」

 

 処分はないという安心感に一同はほっとする。だがリーダーのアルファの表情は暗いままだ。

 

「彼の寛大さに感謝するんだね」

「……わかってるわ。帰るわよ」

 

 意気消沈したアルファが他の面々に指示をして撤収に入る。

 アルファ達がその場から去る中、ミアとモニカはアレクシアに再び向かい合う。

 

「ごめんねなんか揉めちゃって」

「…………ねえ、貴女達の組織大丈夫なの?」

「うーん………これは内輪の問題だからね。キミ達が心配することじゃないよ。それより、どうする?」

「どうするって…………」

「教団に関する情報、いる?いらない?先に言っておくけど、これを手にしたことを知られれば連中はなにがなんでもキミを口封じしようと動くだろうね」

「………後戻りができなくなるってこと」

「引き返すなら今の内ですよ?」

 

 ミアの手にある資料をじっと見据えるアレクシア。

 

 数秒が経った後、アレクシアの手が資料へと伸ばそうとした。

 

 

 その瞬間、湖から巨大な青紫色の光の柱が出現し、遙か夜空の彼方へと立ち上った。

 

「え!?」

「なにっ!?」

「この光―――シャドウの時の!?」

「ちっ、ミストの予想が的中したか」

 

 光の柱にアレクシアとローズ(あとナツメ)が驚く中、モニカが舌打ちする。

 

「あー…お姫様方、急いでここから離れることをお勧めするよ」

「え?」

「光の発生源が湖ってことは、衝撃で水が津波みたいに押し寄せてくるわけで…………ここまで言えば後はどうなるかわかるでしょ?」

「――っ!!」

 

 どうなるかわかったアレクシアとローズ、ナツメはサーッと顔を青褪めた。

 

「い、急いで逃げましょう!」

「で、でもどこに!?」

「と、とにかく高い山の頂上まで……って、あの二人いませんよ!?」

「えっ!?」

 

 ナツメに言われて周囲を見回しても、モニカとミアの姿は既に消えており、ミアが手にしていた資料のみが地面に置かれていた。

 

「あいつら~自分達だけ逃げ出すなんていい度胸してるじゃないの!」

「それより早くここから離れませんと!もう波が来てますよ!」

「あぁもう!なんでこんな目にぃいいい!!!」

 

 資料を手に取り、押し寄せてくる波から全速力で走り出すアレクシアとローズ、ナツメ。

 

 光がシャドウの仕業であることを知っているアレクシアの「ふざけんなシャドウ!」という怒りの叫びが山に木霊したとかなんとか。

 

 

 

♢♦♢

 

「ごめんなさいねジニアちゃん。乗せて貰っちゃって」

「いえいえ、お互い災難でしたね」

 

 翌朝、オレ達は聖地の街中をボートで移動していた。

 街が悪魔憑きの少女達の記憶で大混乱に陥っている中、突如湖に現れた光の柱の影響で湖の水が氾濫を起こし、街はそれに巻き込まれた。

 街は殆ど水没しており、移動手段は足を水に浸からせながらの歩きかボートに乗るかの二択だ。

 ホテルで立ち往生していたところを一昨日会った女性記者のジニアにボートで拾ってもらい、駅に向かっているところだ。

 

「ジニアちゃんは取材いいの?」

「そうしたいところですが、今他の人に話を聞ける状況ではなさそうなので…………」

 

 周りを見渡すと、住民達は怪我人を運んだりと互いに助け合っている。

 その他の血の気の多い人間は教会に集まってデモ活動をしていた。

 

 

―――昨日のあれを説明しろ!

 

―――人体実験をしてたのは事実か!?

 

―――なにが聖騎士だこの人でなし共!

 

―――私達の税金を実験の費用に利用してたって本当なの!?

 

―――女神の試練の参加費もそっちに利用してたって聞いたぞ!

 

―――ネルソンを出せ!

 

―――街が水没したのもあのハゲの仕業って話じゃねえか!

 

―――で、ですから我々も所在を知らないと……

 

―――噓つけ!

 

―――お前らが匿ってるんだろ!

 

 

 

「……な、なんかとんでもないことになっちゃいましたね」

「セレモニーで見た時から気に入らないハゲだと思ってたけど、やっぱりとんだ悪党だったみたいねあの大司教代理」

「……クレア、お前のそのハゲに対する偏見どうにかならないのか」

 

 なんにせよ、概ね予定通り怒りの矛先はネルソンに向いた。

 シドが聖域に入るという最悪の万が一への対応として、ちゃんとカバーストーリーは用意しておいた。

 殺されたドレイク大司教とネルソンは税金と女神の試練の参加費、孤児の人身売買で得た金を資金源に、長年陰で悪魔憑きの少女たちを使った人体実験を行っていて、紅の騎士団の監査が入って犯罪の発覚を恐れたネルソンは、監査対象がドレイクに向いていることをいいことに手下を使ってドレイク大司教を殺害。

 だがドレイク大司教は死ぬ前に保険をかけており、自身が死んでもネルソンの悪事が聖地の住民に知れ渡るよう召喚システムに細工をしていた。

 そして悪事を暴露されたネルソンは証拠隠滅のため、研究施設に保管していたアーティファクトを暴走させ、爆破。

 爆破の衝撃で湖の水が氾濫を起こるのを利用して、秘密を知ってしまった住民達を口封じに殺そうとした。

 そして、研究施設から脱出したネルソンは聖教関係者に匿ってもらっているとも。

 

 それらの噂の前半を悪魔憑きの少女たちの霊が現れてすぐ、後半を街の水没の後に、百鬼の指揮の元にガンマから借りた構成員たちが街中に流した。

 

 光の柱の影響で聖域が綺麗に蒸発したのだからネルソンはもう死んでいるのだろう。

 だがそんなこと街の住民は知る由もない。

 理解できない真実よりも分かりやすい嘘のほうが信じやすい。それも刺激的で、破滅には至らない噓のほうが…………。

 リンドブルム内での情報操作を担当していた教団の構成員は先に始末しておいたから、教団にシャドウガーデン関与の情報が流れるまでの時間がしばらく稼げる。

 今回馬鹿がディアボロスの左腕とネルソンを消したことで物事は大きく動く。

 今までは協調性のないラウンズの連中も、自分達の寿命を延ばすディアボロスの雫の生成に問題が発生したともなれば、全力で主犯グループを潰しにかかることは間違いない。

 だが、奴らとの全面戦争にはまだ早すぎる。本格的に動き出す前にできるだけ削いでおきたい。

 本当なら潜入させていたミアがディアボロスの雫を致死性の猛毒にすり替え、不死性が切れかけの状態の現ラウンズをまとめて始末するつもりだったが、アルファ達が介入したことでそれは自然消滅した。

 残念だが仕方ない。今となってはどうでもいいことだ。

 もともとまだ下見段階で実行するまでには至らなかったし、メインプランになんら影響はない。

 

 こんなことでアルファ達を処分するのは馬鹿らしい。

 不問にした代わりに反省して次に活かすことを願う。

 

 逆に改善が見られなければ…………。

 

 

「………急いでここから出た方がいいかもしれないな」

「えっ、どういうことですかヴァイス君?」

「ここまでの惨事となると、聖教の本拠地である宗教国家オルムが出張ってくる可能性が高い。最悪、情報漏洩防止のためにここは封鎖されるかも」

「ふ、封鎖?」

「確かに他国に今回のことが知られれば聖教自体に悪影響を及ぼすかもしれませんしね」

「いや、なにも変わらないだろ」

「「「「えっ」」」」

 

 オレの一言に全員が反応する。

 

「人間は自分に火の粉が降りかからない限り無関心でいられる生き物が殆どだ。数週間もすれば別の話題でもちきりになるさ」

「そんなこと…」

「無いとは言い切れないだろクレア。現に世界の何処かで悪魔憑きで苦しむ少女たちがいても無視を決め込んでいたのに、自分達が間接的に人体実験に加担していたことを知った途端にこれだ」

 

 それも見越して今回の騒動を起こしたわけだが

 

「確かに言われてみると、いざ自分が発症したらって考えると怖いですよね。怖くて考えることを避けて、知ろうともしなかった」

「シェリーちゃん…」

「で、でも…………なんかその言い方だとまるで私達も薄情な人間みたいじゃない」

「客観的に見れば、オレも含めて皆そうなんじゃないか?悪魔憑き発症の事例が無い男性ならなおさら」

 

 そう。問題がこれだ。

 今の世界は教団の吹き込んだ噓によってできている。腐っていると言っても過言ではない。

 完全な不老不死の実現、そのために悪魔憑きの少女たちは酷い迫害を千年も受けてきた。

 例え教団を滅ぼしたとしても、悪魔憑きの問題を解決しない限り、この悪循環は止まらないだろう。アルファ達には構成員を増やすのに都合がいいからとあまり問題視していないが。

 教団を叩くだけじゃ全然足りない。悪魔憑きの問題を解決し、人々の認識を改めさせ、ディアボロス教団の支配から自発的に脱却するように促す必要がある。

 この程度じゃまだまだ足りない。

 道のりは長いな。 

 

「………この話はやめにしよう。急いで王国に戻ってブシン祭のエントリー予約をキャンセルしないと」

「はぁ?アンタ本当に出るつもりないの?」

「当たり前だ。もう女神の試練に参加しただけで十分だ」

「私が十分じゃないわよ!」

「あの、ボートの上で暴れないでくださいよ」

 

 次の舞台は数週間後のミドガル王国王都で開催される『ブシン祭』。

 オレの予感ではそこでまた騒動が起こる可能性がある。(主にシドのせいで)

 備えは十分にしないとな。

 





これにてリンドブルム編は終了となります。

原作との違いでは、シャドウガーデンの悪名は広がらず、ネルソンの悪事が暴露され、噓の情報で住民達は聖教を恨む。
ルスランがラウンズの一人であることをアレクシアとローズが知る(もし原作でアルファがルスランの話を持ち出せば、学園襲撃事件の主犯は教団の仕業だということに気づいたかもしれない)
教団に関する情報の一部がアレクシアの手に渡る。(原作では監査が有耶無耶になり、アレクシアは手ぶらで王国に帰ることに。というか、紅の騎士団を結成したのに成果ゼロってマズくね?)

 アニメと同じく街は水没。(シドの周辺への考慮ゼロの技半端ない)

本当は『共に戦いを始めた仲だ。一度は許す。二度目はない。分を弁えろ痴れ者が』ってセリフを入れたかったのですが、アルファ達との仲が険悪になってしまいそうなので検討の末断念しました。


 さて、今後の展開はどうしようか…………。
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