陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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『ようこそ実力至上主義の教室へ』アニメ3期が放送開始しましたね。
キヨポンの「ハードル高ぇ」というセリフに思わず笑っちゃいました。



人材は作り出す必要がある―F・ナイチンゲール
今後の方針


 オレ達は無事聖地『リンドブルム』から脱出した。

 重度のブラコンであるクレアがシドの安否を気にしていたが、街を水没させた馬鹿のために時間を費やしたくなかったオレが『シドなら途中で飽きたからもう帰る』と言っていたと嘘をついたことで大人しくなった。

 ミドガル王国に無事戻ったオレ達は再び王都へと足を踏み入れた。ジニアと別れてホテルに一泊して長い列車の旅の疲れを癒した後、ブシン祭の予約受付会場へと向かう前にミツゴシ商会に寄った。

 学園在学時に契約していた郵送サービスの解約を口実に、一緒に来たアンナ達と一旦分かれてガンマがいる執務室に向かうと、当の本人が何人かの部下とともに床に頭を擦り付けた状態で出迎えた。土下座である。

 

「どうしたガンマ?顔を上げろ」

「こ、この度は陰の参謀であられるミスト様に重大な情報を共有せず、更には許可もなく動いたこと、誠に、誠に申し訳ございませんでした……!!!!

「落ち着けガンマ」

「かくなる上は、この罪の償いは命で――――」

「―――落ち着けと言った」

 

 少しばかり圧をかけると、すぐにガンマは黙りこくる。

 

「もう一度言うガンマ。面を上げろ」

 

 おそるおそる顔を上げるガンマ。強く頭を地面に擦り付けたから額が赤くなっている。

 

「なにか勘違いしているみたいだが、お前を責めるために来たわけじゃない。モニカ達から聞いてると思うが、その件は既に不問にした。それにお前は聖地に行ってないし、部下を何人か貸してくれただろ?」

「で、ですが!アルファ達に錠剤の件をミスト様に報告したか、聖地での作戦実行の許可したかなど、同じ七陰として確認を取るべきでした!」

「まあ、そうだな。遠い場所にいても話ができるように通信機があるんだし」

「うっ…」

 

 親に怒られた子供のように今にも泣き出しそうなガンマ。

 皆真面目なうえに純粋だからリンドブルムの一件を重く感じているだろう。

 だがあえて事実ははっきり言わなければいけない。言わなければ彼女達のためにならない。

 後は…………。

 

「前にニューにも言ったことだが………反省はいい。後悔するのも勝手だ。だが過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのはやめたほうがいい。それはなにも生み出しはしない。ただ認めて次の糧にすればいい…………ところでガンマ、ベガルタの件はどうなった?確か、辺境のマドリーでのミツゴシ商会の新規店舗の開店についてだったか」

「え?あっ、はい。マドリー領領主の長男ルード氏との交渉ですべての物件を買い取りました。既にナール川下流域を重点的に再開発作業に入っております」

「そこにあれがあったということか?」

「はい。それもかなりの量が」

 

 ベガルタ帝国東部に位置する海運都市マドリー。かつてナール川を利用した海運業により繁栄していたが、100年前に害竜マラクが出没してからは海運が途絶えて過疎化した。それに立地が悪く、帝都で出店済みのミツゴシ商会ベガルタ帝国支店による影響で若者や商人たちが皆そちらに行ってしまう。以上の理由からそんなところに2号店を出店するほどの魅力がないのだが、イータの地質調査により油田がある可能性が浮上した。

 石油は「化石燃料」と呼ばれるエネルギー資源だ。

 太古の生物の死骸が地層の中で長い年月をかけて分解されてできたそれは地球に存在する自動車や機械向けの動力用燃料になる。

 イータによる蒸気機関の発明によりこの世界は産業革命の時代に突入しようとしている。

 いずれ地球と同じ物が登場するだろう。その前に燃料である石油を多く確保しておく必要がある。

 

 だが、オレにとって石油は二の次だ。

 

「アンテナの方はどうだ?」

「は、はい…ご指示通り、土地の買取後最優先で設置作業に取り掛かりました。住民に見られないよう偽装工作を平行して行っておりますが来週には稼働するとのことです」

「そうか――――よくやったガンマ。お前は二つも組織にとって多大な功績を収めた。よって今回の失態は完全に帳消しとなった」

「……えっ?」

 

 ポカンとするガンマ。

 

「あ、あの……石油はともかく、あのあんてなというものを設置することがどう多大な功績につながるでしょうか?」

 

 そういえば女神の試練の準備で忙しくて、性能について詳しく説明せずに設置指示を出してたからな。頭脳担当でも装置の知識がないとわからないのは当然だ

 

「通信機の通信可能領域には限界があるのは知ってるか?」

「はい。イータから聞いております。互いの距離が離れすぎていると無線での通信が難しくなると」

「そうだ。その問題を解決するのがアンテナだ。アンテナは通信機からの情報を受け取ったり送ったりするための装置だ。それも単機だけだと送受信の範囲に限界がある。だが、それを複数一定間隔で配置すればどうなると思う?」

「複数あれば?―――まさか!」

 

 気づいたようだな。

 

「アンテナ同士で情報の送受信が可能だ。一度通信機からの情報を近くにあるアンテナに送り、アンテナから別のアンテナへと経由させることで、最終的にかなり遠くにいる相手の通信機へと届くことにことになる」

 

 地球のと同じように、基地局を複数設置すればセル方式でそれが可能になる。

 

「既に王国内の複数の地点に試作段階のアンテナを設置していた。おかげでこの前王都とネーベル領間の通信が可能になったわけだ。お前に設置させたのはその改良型だ」

「なるほど…………そうなれば王国からベガルタ帝国に潜ませているメンバーへ効率的に指示を送ることが可能になると?」

「そうだ。それでだガンマ。もしベガルタ帝国だけじゃなく、すべての国にアンテナを設置すれば今後の教団との戦いがより効率的になると思わないか?」

 

「つ、つまりミスト様が言いたいこととは……」

 

 顎に手を当てながら、真剣な表情を見せるガンマ。流石に頭が良い、オレの言いたいことを瞬時に理解してくれたようだ。

 

「世界中に潜む教団のアジトをここからの指示1つで同時に奇襲を仕掛けるのも夢じゃない」

「っ!!?世界中の教団アジトを同時に!?」

「そのようなことが可能に!?」

 

 世界同時多発攻撃に、ずっと静かにしていた部下たちもかなり衝撃を受けている。

 

「まさか、そこまで考えていたとは…………」

「表の世界でミツゴシ商会は今後より大きくなる。世界中に店舗を構えるのもそう遠くない。その時通信の要であるアンテナを設置していけばこちらの勝率は上がる。だからガンマ、お前にはこれまで以上に表の活動に尽力してもらいたい。お前の活躍がシャドウガーデンの勝利に繋がる」

「私の活躍がシャドウガーデンの勝利に……?」

「これはお前にしかできないことだ。お前のその手腕、他の七陰にも真似できない」

「私にしかできないこと……?」

「ああ。お前の替えはきかない」

「ミスト様………」

 

 ガンマの顔を見ると、彼女の頰に涙が伝っていた。

 昔のガンマは戦闘で役に立たない自分を嫌っていた。どうすれば組織(とシャドウ)の役に立てれるかを考え続け、出した答えがこうやって実を結んでいる。

 ミツゴシ商会をたったの2年でここまで大きくしたガンマをオレは高く評価しているのだ。

 

「……もったいない、お言葉です」

 

 ガンマはハンカチを取り出して涙を拭き取ると、意を決したような表情に変わった。そして、土下座の体勢から跪く形に変え、頭を下げる。

 

「かしこまりました。このガンマ、ミスト様のご期待に添えるよう必ずやシャドウガーデンの勝利のため、今まで以上に尽力します!」

「お前には今後も期待している。その命、無駄に散らすことは許さない」

「はっ!」

 

 他の面々も跪いて頭を下げる。

 これでガンマのメンタルはなんとか持ち直したか。後はアルファとベータ、イプシロンの三人の方も何とかしないと。

 アンナ達を待たせてるからさっさと用事をすませないと――――

 

「失礼します!」

 

 突然バタンと扉が開き、用事のある人物が執務室に入ってきた。

 

「おお!やはりここにいましたか!」

「……来たぞアネット」

「お久しぶりですア~ニキ!」

 

 灰桃髪の髪を両端で乱雑に縛り、左眼には眼帯と一風変わった風貌の小柄な少女──アネットが、天使のように無邪気な笑みを浮かべながらオレのところに駆けて来て抱きついてきた。それを見てガンマが「なっ」と慌てだす。

 

「むむ、兄貴から女の香りが……」

「ん?ああ、義母さんに向こうで抱きつかれてたからな。匂いがついたんだろう」

「おお、そうでしたか」

「アネット!ミスト様に対して無礼よ!」

「いいガンマ、これくらい構わない」

「そうですよガンマの姉貴。俺様と兄貴との仲だから許されるのです!そして、俺様は兄貴に会えなかった分頭ナデナデしてもらうのです!」

「はいはい」

 

 ぴょんぴょん跳ねながらせがんでくるため、要望通り頭を撫でてやるとアネットは「えへへっ」と上機嫌に、同時にガンマが「むぅ………」と頬を膨らませて不機嫌になった。

 

 アネットはミア達同様ディアボロス教団フェンリル派のアジトの一つである教会で実験動物扱いされていた元悪魔憑きで、オレ直属の配下の中でも最年少。二つ名は『忘我』。 

 機械工学と生物学方面の研究開発が専門で、彼女が創作する技術は七陰のイータに並ぶほど。

 発明家であるイータと気が合うため、貸し出す形でアネットには研究部門で彼女と共同研究をしてもらっている。

 とはいえ悪戯好きの無邪気な子供(サイコパス気味なところがある)であり、こうしてオレを「兄貴」と呼んでよく甘えてくる。

 

「元気にしていたか?」

「はい!俺様、イータと姉貴と一緒に夜遅くまで色々な研究したりするほど元気にしていました!」

「睡眠はちゃんと取ろうな」

 

 イータの奴にはアネットの手前、睡眠時間はちゃんと確保するように言っておいたんだがな。

 

「でも一昨日イータの姉貴がゼータの姉貴と一緒にラワガスへ出かけちゃったので研究室で一人で退屈です」

「ゼータに連れられて?ガンマ、なにか聞いてるか?」

「え、ええ。なんでもラワガスで教団の古い研究施設が確認されてその調査に向かいました」

「………そんな話は聞いていないが?」

「も、申し訳ありません!」

 

 学術都市ラワガスの研究施設といえば第二研究所か。あそこには少し厄介な魔物がいるからゼータとイータでも手を焼くだろう。誰か確認に向かわせるか。

 

「その件に関しても日を改めて聞くとしよう。それよりもアネット、例の物できたか?」

「およ?おお!!あれですね。バッチリです!」

 

 一度オレから離れ、ポケットから豆粒サイズの補聴器のような装置を二つ取り出してオレに渡す。

 

「言われた通り耳の穴に入るまで小さくしました!」

「……流石だな」

「えっへん、俺様にかかればこのぐらいへっちゃらです!」

「あの……ミスト様、これはいったい?」

「これはイヤホンってやつで、耳に密接して装着することで、耳に直接音を伝えるようにしたものだ。通信を他の奴に聞かれるとマズいからな。装着してるときはスライムで覆っておけば擬態で誤魔化せるだろう」

「…………まさか、『霧の叡智』!」

「ガンマの姉貴はそう呼ぶの好きですね」

 

 地球の物をここまで再現するとはガンマやイータ、アネットは本当に優秀だ。

 

「さて、目的の物は受け取ったしオレは行く」

「ええ~もう行っちゃうのですかぁ?」

「義母さん達を待たせてるからゆっくりできないんだ」

「むぅ。もっとお話ししたかったです」

「悪い。また今度な」

 

 不満そうなアネットの頭をもう一度撫でてやった後、ガンマ達に見送られながら執務室を出た。

 

 

「おお!そうです。オレ様が兄貴の家族になればいっぱい時間がつくれるのです!」

「なっ!?」

 

♢♦♢

 

「悪い。待たせた」

 

 売り場に戻ると早速クレア達を見つけて声を掛ける。アンナは少し離れたところで誰かと話をしているようだ。

 

「あっ、ヴァイス遅いじゃない!」

「解約手続きに少し手間取ったんだ。そっちは買い物終わったか?」

「いえ、色々な商品が揃っていてどれにしようか迷っちゃいまして…」

「義母さんは?」

「あっ、そうだった!たまたま店で居合わせた人とお喋りしてて!」

「居合わせた人?……えっ」

 

 アンナとお喋りをしている人物をよく見ると見覚えのある人物達だった。

 

「それでですね。それでですね。小さい頃のヴァイスちゃんはお人形さんみたいに可愛いかったんですよ!でも美味しいご飯を食べた時は美味しいってちゃんと顔に出てて――――」

「そ、そうなのですね」

「あの、義母さん?息子の自慢話はその辺にしような?」

「あらぁヴァイスちゃん、もう用は済んだの?」

 

 素早くアンナのところまで移動して自慢話を止めさせる。止めなければ一時間以上話し続けるしなこの親バカは。

 

「今ね。ヴァイスちゃんがお世話になったっていう人に、小さい頃のヴァイスちゃんがどれだけ可愛くて賢かったか話してたところなの。あっ、今も可愛くて賢いけど」

「せめて話す相手はちゃんと選んで欲しかったかな。恥ずかしいから」

「あ、あはは………子供想いのお母様をお持ちですね」

 

 親バカのアンナの話を黙って聞いていた相手が苦笑しながらオレに話しかけてくる。 

 

「お久しぶりですねヴァイス君」

「…どうもアイリス殿下」

 

 アンナのオレに関しての自慢話を聞かされていた相手――――ミドガル王国の第一王女にして紅の騎士団団長のアイリス・ミドガルと、第二王女にして紅の騎士団団員のアレクシア・ミドガルに会釈する。

 

「女神の試練の突破、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「アレクシアから聞いてますよ。かなりの活躍だったそうですね」

「勝てたのはまぐれみたいなものですよ。最後のあたりは当たれば普通に死んでいましたし」

「ふふっ、謙虚ですね。貴方が優秀なのは学園襲撃前からわかっていました」

「いえ、オレなんてまだまだ」

「「………」」

 

 なにがまだまだよ、と言いたげな視線でアレクシアとクレアがジト目を向けてくる。

 

「ちょうどよかったです。聖地でのことについて話があるのですがお時間ありますか?」

 

 以前と同じように真剣な表情だ。

 

「まぁ、他の皆が大丈夫なら…」

 

 当然反対意見はなく、お昼時だったため前に利用した飲食店の特別個室に入って話を聞くことにする。

 

 内容はアレクシアが聖域内で見聞きした内容についてだった。モニカから受け取った通信機の録音を再生して、聖域内でのやり取りを静かに聞く。

 

「えっと、つまりこういうことですか?……御伽噺に出てくる魔人や英雄は実在してて、ヴァイスが倒したエルフがそのオリヴィエだったと?」

「それにお父…ルスランバーネットが教団の元幹部で魔人から作った薬で長生きしてたって…………」

「私が聞いた内容だとそうなります。すみませんシェリー先輩。事件からそんなに時間が経っていないのに彼の話をして…」

「い、いえ。気にしないでくださいアレクシア王女…もうすんだ話なので」

 

 そう言いつつも、母親を殺したうえに自分を利用していた奴の衝撃的な事実にシェリーは少しばかり戸惑っていた。

 

「どうやら事態はオレ達が思っていたよりも深刻のようですね。千年、あるいはそれ以上前から存在していたディアボロス教団、不老不死と絶大な力を与える魔人ディアボロスの細胞、魔人の細胞を手に入れるために教団に利用された英雄オリヴィエ、そのオリヴィエの子孫らしいシャドウガーデンのメンバーアルファ、シャドウガーデンと教団との対立、ミストとシャドウ、ディアボロスの雫、黒い錠剤………」

「………あんたよくそこまで理解できるわね。私なんて話のスケールが大きすぎて混乱しそうなんだけど」

「学園襲撃事件あたりから連中のいざこざの渦中にいたからな。もう何も驚かない自信はある」

 

 そういえば、クレアはアレクシア王女誘拐の時は騎士団へ殴り込みに行った罰則で寮に軟禁、ルスランによる学園襲撃の時は課外授業で学園にいなかった。オルバ子爵に誘拐された時しか教団との絡みがない。もっとも、クレアもあの馬鹿もオルバ子爵が教団の人間だったなんて気付かずに終わったが。

 

「な、なによ人の顔じっと見て…」

「いや別に…それはそうと、千年前のことについて少し気になるところがあるのですが」

「気になるところ、ですか?」

「アルファの説明だと教団が大勢の子供を使ってディアボロス細胞の適応実験をしていたようですが、その細胞はいったい何処から仕入れてたんでしょうか?オリヴィエがディアボロスの左腕を斬り落としたのは後ですよね?」

「え?あっ…」

「それに、魔人がいったいいつ何処から現れたのかの話が出てきませんし、ふと現れた怪物の細胞を大量に都合よく入手できるとは思えないんですよね」

「た、確かに…」

 

 その場にいた当事者ならそのあたりに気付いてほしかったな。

 

「それに、災厄の魔女アウロラという人物がオリヴィエと魔人との戦いにどう関わっているのかも謎です。雫に関して簡単に吐いたネルソンが頑なに説明を拒んだということは、彼女の情報は余程漏らしたくない情報のようです。ひょっとしたら、教団全体にとっても…」

「なるほど…災厄の魔女アウロラ、そこまで教団が秘密にしておきたい彼女はいったい何者なのでしょうか…」

「それと、ネルソンとアルファとのやり取りのところなんですが…」

 

 通信機を操作して再び録音を再生。ただしネルソンが喋っている部分に限定する。

 

 

 

『まさか、貴様はエルフの……だが悪魔憑きになって死んだはず……』

 

『この魔力、やはり悪魔憑き。自力で覚醒したのか……?』

 

『よせ、見るな、実験体の末裔如きが、知っていいものではない!』

 

『本当に自力で覚醒したというのか…………だが、その手法はとうに失われているはず……』

 

 

「シェリーはネルソンのこの台詞を聞いてどう思う?」

 

 この中で頭脳労働が一番得意なシェリーに話を振る。

 

「え?え、えっと………覚醒の意味がよく分かりませんが、まるでそのアルファってエルフの女性が悪魔憑きみたいな言い方ですね」

「けどシェリー先輩、私が見たアルファと獣人は腐ってるところがなくてピンピンしてましたよ」

「……悪魔憑きが治った、と考えるのが妥当なのでは?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

 オレの言葉に一同が驚く。

 

「ちょ、ちょっと待って悪魔憑きは不治の病で治療する術なんて――――」

「そう信じ込まされていただけかもしれませんよ?教団は悪魔憑きの発症者を集めて完全な不老不死の薬の完成させたいでしょうから、治療されたら困るだろう」

「で、でもそうだとしても誰かが気付くんじゃ――」

「どうでしょう?人間は単純な生き物ですからね。誰かが言ったのかもわからない噂話も簡単に信じる。それが正しいか間違ってるかどうかなんて確証がないというのに……アレクシア王女がいるクラスも、噂や新聞の内容の真偽を確認せずに鵜吞みにする人間が多いのでは?」

「……ま、まあ確かにそうだけど」

「教団の情報操作で魔人ディアボロスや英雄が架空の存在だと信じ込まされていたんです。当たり前だと思っていることが本当に当たり前なのか、どこまでが奴らが作り上げた噓なのか、全て疑ってかかるべき………というのがあくまでもオレの意見ですが」

「全て疑うって………貴方まるで懐疑心の塊ね」

「アレクシア!失礼ですよ」

「構いません。自覚はあるので」

 

 というかアレクシア、学園での人当たりの良い王女様というイメージが崩れかけてるぞ。

 

「いずれにせよ、今あげた疑問が全部ここで答えが出るわけではないので、この話は置いておきましょう」

「…そうですね。調査を進めれば自ずと明らかになるでしょうし」

「というと………聖教を調査すると?」

「そのつもりです」

「……聖地の大司教代理と大司教を殺害した下手人は教団の手の者だった。それにあれだけの規模の施設、表の影響力がなければ隠し通せるものではないわ。あの大鴉の話を全部信じるべきかわからないけど、聖教が積極的に悪魔憑きの少女たちを集めてる理由としては筋が通ってる。王都での事件も合わせ、原因究明を旗を掲げれば無視はできないはず………なのに」

「?どうかしたのですか?」

「そのことをアレクシアと私はお父様………陛下に相談しました。ですが確固たる証拠がない限り動くなの一点張り。アレクシアがシャドウガーデンから受け取った聖教の汚職と王国内の教団に関する資料も真偽が定かではないからと突き返されました」

「「「えっ!?」」」

 

 言いにくそうなアレクシアの代わりにアイリスが説明すると、クレアとシェリー、アンナも驚いている。

 まあ当然だな。この国の国王は『事なかれ主義』の人間だ。明確な証拠を提示しなければ取り合うことすらない。しかも同盟国の王国であるオリアナ国王の来賓を控えているから余計騒ぎを起こしたくない。

 それも想定して敢えて渡すように指示したんだが。

 

「なんですかそれ?聖教が十分怪しいのに」

「それは仕方ないことじゃないかクレア、無理を通せば周辺の国々から圧力を受けることになりかねないし、何よりも民衆の支持を失う。ただでさえ民衆の現騎士団に対する信用は微妙な状況だ。これ以上余計な波風を立てたくないんだろう」

「………そうなったのはあんたの仕業でしょうが」

「酷い言い草だな。不正を働いた向こうが悪いのに……」

 

 ジト目を向けてくるクレアは放置してアイリスに話を振る。

 

「それで殿下、突き返されたということはその資料は手元にあるのですか?」

「はい。この前の火事の一件で保管場所は内密にしています。無論、今どこなのかも資料の詳しい内容も紅の騎士団に入っていない貴方にも言えません」

「聞きませんよ」

 

 そもそもその資料まとめたのオレだし。

 

「上が動いてくれないとなると、紅の騎士団だけでやる必要がありますね。その情報が確かなら先に王国内の問題を片付けることもできるでしょうし………」

「?先って?」

「?聖教とことを構えるのは王国内に潜んでいる教団関係者の排除が済んでからではないのですか?聖教と教団が通じている以上、なにかしらの妨害を仕掛けてくるでしょうし」

「「……あっ」」

「えっ」

 

 マジかよ王女達。まさか国内の問題が頭から抜け落ちた状態で聖教と対立しようとしてたのか?姉妹揃って猪突猛進だな。

 

「も、もちろん分かってるわよ…国内の教団組織を潰してから、聖教への調査に乗り込もうって話よ………うん」

「アレクシア下手な噓はやめなさい。貴女もその辺り考えていなかったでしょ」

「うっ……」

 

 視線を泳がせながら噓を吐くも、姉に注意されて項垂れるアレクシア。

 

「…危うく目先のことに囚われて肝心なことを見落とすところでした。指摘してくれてありがとうございますヴァイス君。やはり貴方に話してよかったです」

「いえそんな」

 

 本当に危なかったよ。紅の騎士団を巻き込むにしても、やはり少し教育の必要があるな。

 

「確かに国内の問題を解決するのが先決ですね。ですが恥ずかしい話、人手が足りないのは事実です」

「紅の騎士団の団員は何人ですか?」

「八人です」

「グレンさんとマルコさんが謹慎処分をくらって実質六人………オレがグレンさんにシャドウガーデンとの共闘を持ち掛けたのが原因ですね。申し訳ありません」

「い、いえ!元はと言えば私が学園にアーティファクトの解析依頼をしたせいであの騒動が起こったわけですし。謝るのは私の方です。ルスラン・バーネットの悪事を暴いた貴方への不当な処分を撤回させることもできませんでした。本当に申し訳ありません」

 

 謝罪の言葉を述べて頭を下げると、アイリスは慌てて謝罪する。やはりどこまでも礼儀正しく、しっかりと頭を下げてだ。

 

「頭を上げてください……殿下が気に病む必要はありません」

「ですが……」

「退学の件は別に気にしてませんよ。聖地でローズ会長にも言いましたが、オレは自分がしたいと思ったことをやったまで。結果的に退学になったとしても、悔いはありません。退学程度で絶たれる道なら魔剣士になる価値はないと思います」

「そうですよ。ヴァイスちゃんの味方になってくれただけでも嬉しいんです。ありがとうございます」

 

 アンナと共に責めてませんアピールをしてなんとかアイリスの頭を上げさせた。

 

「済んだ話はこのぐらいにしてこれからの話をしましょう。紅の騎士団の今後の課題としては人員の補充と連携の強化、あと活動資金の確保が第一となりますね。グレンさんの話だと紅の騎士団の予算案が通らないようですし」

「ええ。ですが今大きくしても仕方ありません。他の騎士団から引き抜こうにも、誰が敵も味方もわからないですし………ヴァイス君からなにか考えはありますか?」

「ちょっ、姉様…?」

「彼は私達より賢いことは学園襲撃事件で証明されたわ。それに彼はグレンからの手紙によれば領地改革を為した程の実績があるとのこと…」

 

 やはり手紙を送っていたか。

 

「…本格的に動きだす前に二つ条件を満たせば問題は解決すると思いますよ」

「なんですかその二つの条件とは?」

「まず一つ目は採用基準の変更ですね。引き抜く対象を他の騎士団からに限定せず、身分や経歴問わず実力者をスカウトするんです」

「身分や経歴問わず?」

「例を挙げるなら、他国の魔剣士や冒険者とかですかね。騎士団の殆どが貴族ばかり、上からの圧力には逆らえない。上下関係のしがらみもあって足を引っ張られる可能性もあるでしょう」

「確かに貴族の上下関係に縛られないかもしれませんが…………」

「勿論信用できないと奴は不採用ですよ。金や地位、名誉欲しさで寝返られても困りますし」

「それ、かなり基準が難しくなってきてるじゃない。そういうのに興味がない人間なんているの?」

「いるにはいるようですよ。強くなるために国を出て腕試しに女神の試練に参加するような人間。アレクシア王女も知っているはずです。オレやシャドウ以外で古代の戦士を倒した魔剣士、剣の国ベガルタ帝国七武剣の一人」

「ああ、アンネローゼちゃんね」

「……確かに彼女の活躍を観てたから入団してくれればかなりの戦力になるでしょうけど、スカウトしようにも今どこにいるかわからないでしょ?」

「こっちから探す必要ありませんよ。あの人『ブシン祭』に出場するって言ってましたし」

「言ってたって…貴方彼女と知り合いなの?」

「いえ初対面です。最初は危険だから試練への参加はやめとけと忠告してきたり、オレが試練を突破した後賛辞の言葉をくれました」

「良い人そうですね」

「良い人………かどうか判断するのはまだ早いかもしれませんが、なんにせよ今の案をグレンさんと検討してみてください」

「わかりました。彼も反対しないのなら、ブシン祭で彼女を見かけしだい騎士団の入団を持ち掛けてみましょう」

 

 大丈夫かな。この人並の魔剣士の中では強いけど、交渉事にあまり向いてなさそうだし。

 

「それで、二つ目の条件はなんですか?」

「二つ目は紅の騎士団の知名度を上げることですね。ルスランの仲間を捕らえたことで紅の騎士団の存在が国民に認知されたことでしょう。ここから更に国民からの信頼を高めれば、ケチな上層部も予算を出さざるを得なくなる。渋れば国民の不信感が今度は王宮側に向くことになりますからね。そうなるのは避けたいでしょう。それでも駄目なら別口を頼るまで」

「なるほど……それでしたら、『ブシン祭』の開催が今年であったのは幸いでしたね」

「『ブシン祭』……ですか。前回アイリス殿下が優勝されましたね」

 

 2年に1度行われる剣術大会『ブシン祭』。

 ミドガル王国内だけでなく、各国から凄腕の剣士たちが一堂に会し、実力を競い合う王国屈指の一大イベントだ。

 この大会に優勝したものは地位や名誉だけでなく、富も名声も全てが手に入ると言っても過言ではない。ただの平民がいきなり貴族位を得られたりすることもあるそうだ。

 

 前回の大会でアレクシアも出場したが、初戦で強い相手にあたり負けてしまった。

 

「ええ、私が今回の大会で優勝することが出来れば二大会連続の優勝となります。国際大会での連覇という栄誉を国にもたらしたとなれば、『紅の騎士団』への信頼が深まることは確実と言って良いでしょう」 

 

 目の付け所は悪くない。

 悪くないが…………

 

「惜しいな」

「え?惜しい?」

「提案ですが、どうせなら紅の騎士団から何人かブシン祭に参加させてみては?騎士団の団員が数人出場してはいけないというルールがなければいいですが」

「えっ、団員も?」

 

 理解が追い付かないようで、アイリスとアレクシア、他の面々もポカンとした顔をしている。

 

「別にアイリス殿下がブシン祭に出場することに反対してません。殿下の言う通りブシン祭連覇を狙うという考えに賛成です」

「あ、ありがとうございます」

「ですが、それだけだと国民が信頼するのは王国最強のアイリス殿下であって、紅の騎士団全体ではないのでは?」

「……えっ?」

「前回と違うのは殿下が騎士団の団長という点です。その違いを国民にはっきりアピールしなければなりません。殿下だけが勝っても、上層部は『騎士団を率いらずにアイリス様だけがいればいいのでは?』と難癖つけて予算を出さないかもしれません」

「うわ……確かにあり得るわね」

「なので、観戦する国民達には団員達の活躍ぶりを覚えてもらう必要があります。優勝できなくても、準々決勝あたりまで勝ち残れば国民は紅の騎士団そのものを信頼するでしょう」

「つ、つまりヴァイス君が言いたいこととは……」

 

 顎に手を当てながら、真剣な表情を見せるアイリス。

 

「想像してみてください。アイリス殿下が優勝し、更に出場する団員達が奮闘する姿を観れば国民達はこう思うでしょう。『紅の騎士団には実力のある人間が揃っているな』『皆王国最強のアイリス王女が信頼してスカウトした人間だそうだ』『アイリス王女は強いだけじゃなく人を見る目がある』『アイリス王女と紅の騎士団がいればこの国は安泰だ』『紅の騎士団万歳』……と」

「──ッ!!」

 

 魅力しかない餌に、アイリスの表情が崩れる。

 アイリスは理想主義の人間。甘美な理想ともなれば、心が揺れないはずがない。

 

「それにひょっとしたらですが、紅の騎士団の活躍ぶりを見れば陛下も考えを改めるかもしれません。殿下と、殿下が立ち上げた騎士団なら任せても大丈夫だと」

「っ!確かに!!」

 

 両手を口に当て、驚愕するアイリス。

 

「……まあ、これはあくまでもオレの意見です。まだこれには大きな穴があるのでやはりこの話は――――」

「い、いえ!今のはとても素晴らしい案だと思います!詳しい話を聞かせてください!」

 

 

 食いついた。

 





ブシン祭編に突入。
原作だとドMな人が登場しますね。え?ドエム?失礼しました…プッ

(私の名前のどこが可笑しいんだ?)
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