アイリスとアレクシアとの秘密の会合で、ブシン祭にアイリスだけでなく、紅の騎士団の団員も出場するところまで話を持ち込めた。
「そ、それで…ヴァイス君の言う穴とはどういう穴ですか?勿論すぐに解決できますよね?」
「姉様、少し落ち着いてください」
餌に食いついたアイリスはやや興奮気味だ。
「そうですね。まず出場する団員の数は最低でも二人、補欠一人の合わせて三人がいいですね」
「三人?」
「全員出場すると『紅の騎士団は暇なのか?』と上から嫌味を言われそうですし…その三人には予選から出場してもらいます」
「予選?王国の騎士団内での規定では団員も本戦からの出場が可能ですが?」
「出場目的は観客達に団員の活躍を覚えてもらうことですからね。他の出場者との力量の差をはっきりさせる必要がありますのでその権利は放棄してもらいます。当然、その三人が予選あたりで負けたら意味がありません」
「それなら問題ありませんね。団員は皆優秀ですし」
優秀、ね。
「オレは他の団員を知りませんが……その人達、アンネローゼさんくらい強いですか?」
「え?」
「出場者を全員把握してませんが、その中にベガルタ帝国の元七武剣の1人、アンネローゼ・フシアナスがいるのですよ?女神の試練で古代の戦士を倒すほどの実力の持ち主である彼女と当たることになっても倒せるか、ギリギリ粘れるかぐらいの実力を見せませんと。それが出場する団員の最低基準になります」
当然あの馬鹿も正体隠して出場するだろうが、準々決勝まで当たらないように手をまわしておくか。
「はぁ!?あのアンネローゼ・フシアナスに粘れるくらいの実力者が最低基準ですって!?いくらなんでも厳し過ぎでしょ!冗談も大概にして!」
「アレクシア、落ち着きなさい」
オレが挙げた条件に、アレクシアは猫を被ることも忘れて声を荒げる。
「生憎とオレは冗談が苦手なんです。これが先ほど申しました大きな穴です。確認ですが、紅の騎士団に彼女と戦える団員はいますか?」
「……残念ながら今騎士団にそれほどの実力者はいません。グレンやマルコでも厳しいかと」
だろうな。学園襲撃事件の時点の二人なら、チルドレン3rd相手にさえ勝てずに死んでいただろう。はっきり言って、今の紅の騎士団じゃ教団に対する当て馬にすらなれない。
だが………。
「あらぁ、でも二人共ヴァイスちゃんのところで修行を積んでるので大丈夫だと思いますよ?」
オレが口を開くよりも先に、アンナが二人の状況についてアイリスとアレクシアに教えた。
「え?修行?」
「そういえば二人は謹慎を利用してヴァイス君に教えを請うと言ってましたね。手紙にもそのことが書いてありました」
「その手紙に修行内容のことは?」
「いえ、詳しいことはなにも」
良かった。ちゃんと契約は守ってるようだ。
「あの、二人はいったいどういう修行を?」
「教団との戦いに備えて、どんな不測の事態にも臨機応変に対応できるようにそれぞれの能力を伸ばす修行、と言っておきましょうか。聖地へ出発する前、二人にはオレが考えた精密な魔力制御の課題を出しました」
「精密な魔力制御?木登りで?」
「木登り?」
クレアの口から出た単語に、アレクシアは首を傾げる。
「詳細の説明は機密保持契約にサインした人間に限定しています。訓練内容を敵が真似して強く成られても困るので、どうかご容赦を」
「…なるほど、貴方が用心してるということは実りある修業なのですね。その特訓で二人はどれくらい強くなれそうですか?」
「そうですね。今から戻ってブシン祭までの残った期間内に徹底的に鍛えたとして…甘く見積もっても八割増しくらいでしょうか。本人達の頑張り次第ですが」
「「「は、八割!?」」」
アレクシアにアイリス、クレアも驚いている。
「本当なの?も、盛ってるんじゃないでしょうね?」
「まあ、こんなこと言っても信じられませんよね。本当はやりたくないですが、実際見せた方が早い」
論より証拠だ。
オレは両手を二人が見えるように上げ、魔力を練る。
「なっ―!?」
「これは、魔力っ!?」
「しかも手だけに!?」
「あらぁ、綺麗な白ね」
オレの両手の部分で白い靄の様にゆらゆらと蠢く、視界で捉えれる程の魔力を見て一同驚愕した。
「わあ、魔剣士ってこういうこともできるんですね」
「い、いえシェリーさん…流石の私でも一部にだけ発生させるような操作はできません」
「え!?アイリス様でもですか!?」
魔剣士ではないシェリーが事の重大さを認識できていないのも無理もない。
この世界において魔力は体外に出てしまえば非常に霧散しやすい性質だ。それもあってか、今の時代の人間は全身の身体強化やミスリル剣に流すという大雑把な方法しか見出だせていない。
それを可視化させれるレベルにまで魔力制御が高められることは、それだけで自身の実力に箔をつけれる偉業とのことだが、身体から発汗するような感じだ。
「とまあ…突き詰めていけば、応用でこれくらいの精密な制御ができるようになります」
魔力の核心に近づけるかは別だが。
魔力を纏うのを止めて霧散させる。
「二人が受けてる修行は実際にオレがやったことを他の人間にもできるように組んでいるので、いつかはできるようになるでしょう」
「つまり…ヴァイス君の修行を受ければ、私や他の団員でも今のようなことができるようになると?」
「不可能ではありません。信じるか信じないかはアナタ次第ですが」
アイリスは真剣な瞳でオレをじっと見据える。
「信じます。では三人中二人はグレンとマルコを出場ということで――――」
「いえ、グレンさんは出ない方がいいでしょう」
「えっ、なぜ?」
「あの人は謹慎中の身とはいえ、仮にも副団長の立場ですからね。団長である殿下が出場する以上、代わりに他の団員を指揮する人間が必要かと」
「そう…ですね。ですが、マルコを出場させるとして、あとの二人は?」
その二人はもう決めている。
「…そういえば殿下、クレアは『紅の騎士団』に見習いとして体験入団してるとか」
「えっ、はい。実際に彼女の戦いを目にしたのは一度や二度ではありませんが……才能と積み重ねられた努力。学生の身でありながら、すぐに騎士団入りしても問題のない実力を持っていると見て良いでしょう」
「そのクレアがブシン祭に出場することは?」
「はい。存じていますが…あっ」
「え?え?」
「――――殿下、クレア・カゲノーを正式に紅の騎士団の団員として迎える気はありませんか?」
「ええっ!?」
当然すぐそばにいるクレアが慌て始めた。
「ちょっヴァイス、何勝手に決めてるのよ!?」
「なんだ?クレアは紅の騎士団に入るの嫌なのか?」
「い、嫌じゃないわよ。前から騎士団に入るのが目標だったし…」
「なら問題ないな。その目標が叶えられる上に殿下のお役に立てれるんだ。それに考えてみろ。田舎貴族の令嬢、魔剣士学園の特待生の他に紅の騎士団団員という肩書きが追加されるとなれば、カゲノー領を発展させる足がかりになるかもしれないぞ」
「た、たしかにそうだろうけど…」
突然のことで戸惑っているが問題ない、コイツの制御は意外と簡単だ。
「殿下、こいつに何度も勝負を挑まれてたからわかる。オレに一度も勝ててませんが「ちょっと」それでもクレアは何度も喰らい付いてきて、そのたびに剣の腕を上げていってるのを」
「え?」
「オレから見ても、今のこいつの実力ならアンネローゼと十分互角に戦えると断言します」
「…」
本心を口にすると、クレアは呆けた顔をする。
「…後は本人次第です」
「…そうですね。クレアさん」
「は、はい!」
「貴女の実力を見込んで、是非私の騎士団に正式に入団してもらいたいのです。学生の身分である貴女に頼らなければならないことも情けないと思っていますが、どうか力を貸してはもらえないでしょうか?」
「あ、頭を上げてくださいっアイリス王女!」
礼儀正しく頭を下げるアイリスに、クレアは慌てて頭を上げるように言う。
「……分かりました。クレア・カゲノー、『紅の騎士団』に正式に入団します」
よし、うまくいった。愚弟が絡むと騎士団に単身で乗り込むくらいポンコツになるが、誰に対しても人当たりがよくて愚弟に対するゼノン派閥の騎士団の愚行を代わって謝罪したアイリス王女の頼みを断れるほどの人でなしじゃない。
猪突猛進のポンコツなのは変わりないが。
「あっ、そうだ。アイリス王女、ここにいるヴァイスも『紅の騎士団』に入団させてブシン祭に出場はいかがでしょうか?」
ん?
「私だけじゃなくヴァイスも参加すれば、『紅の騎士団』への注目度は高くなる。私をここまで持ち上げておいて自分は参加しないなんて、流石のコイツもする訳ないでしょう」
クレアめ。ポンコツなりに知恵を使ってきたか。無理矢理でもオレをブシン祭に出場させる気なのは明白だ。
だがそれは想定内だ。
「確かに…その若さで我々の一歩先を行っていった思考、女神の試練で英雄オリヴィエを追い詰めるほどの剣の才、それでいて決して驕ることのないその謙虚さ……もはや彼は『天才』と呼んでいいほどです。『紅の騎士団』に必要な人材です」
天才……ね。
クレアの話に乗ったアイリスはまっすぐにオレの顔を見据える。
「ヴァイス君、改めて言います。『紅の騎士団』に入団しませんか?そして可能ならブシン祭に――――」
「すみませんが、ブシン祭への出場は遠慮します」
「はぁ!?」
オレの返事に一番大きく反応したクレアは、信じられないものでも見るかのような目を向け、オレの肩をガッと掴んだ。
「あんた正気なの!?アイリス王女から直接勧誘されるなんて光栄なことなのに一言で断るなんて無礼極まりないわよ!」
「落ち着けクレア。オレが断ったのはブシン祭への出場だぞ」
「え?」
「ということはヴァイス君。『紅の騎士団』への入団を――――」
「入団に関する返事は少し待ってくれませんか?」
「え?」
アイリスの口から間の抜けた声が溢れた。
「待つ?断るのではなく?」
「正直、あの時は自分から手を出さなければ痛い目に遭わないだろうと考えていましたが、今は状況が違います。ディアボロス教団の元ラウンズのルスラン・バーネットの妨害だけでなく、女神の試練で本物のオリヴィエの記憶を倒してしまいました。教団の巣窟だった聖地の方は現在混乱状態ですが、その情報が他の教団員達の耳に入るのも時間の問題でしょう。魔人ディアボロスの左腕を斬り落とした英雄オリヴィエを倒せる人間は連中にとって脅威以外の何者でもありませんからね。抗戦の意思アリと判断すれば排除しようと刺客を送ってくるか、やってもない罪で嵌めて処刑するよう裏工作を仕掛けてくるかもしれません」
「裏工作って…そんなこと」
「あり得なくもないでしょう。役人や王都の新聞社にまで連中の仲間がいたんですから…いずれにせよ、オレやオレの家族に危害が及ぶ確率が一気に跳ねあがりました」
「!!」
アイリスのこの反応、前にディアボロス教団の息のかかった連中が『紅の騎士団』の邪魔をしてくる可能性を説明したことを覚えていたようだ。
それにグレンからの手紙で死んだ暗殺者たちのことを把握しているだろうから説得力が増している。
「そ、それならご家族に24時間の警護を――――」
「落ち着いてください。団員が8人の状況で人を割くのは非常にまずいです」
「で、では『紅の騎士団』の本部に全員避難を―――」
「領地を離れるわけにもいきません。それにネーベル領は強力な魔獣達が蔓延る生息域『魔の森』と隣接しています。スタンピードなどが起こった際、真っ先に餌食になるのは領民です。わが身可愛さに彼らを見捨てるわけにはいきませんし、最悪、それを口実にネーベル家のお家取り潰しを仕掛けてくるかもしれません。そこまでの影響力があるかは知りませんが」
数か月前のアレクシア誘拐事件で、王族誘拐の首謀者がゼノンであったから連帯責任でグリフィ侯爵家はお家取り潰しというのが表向きの理由だが、裏でゼノンの所属していたフェンリル派とは別の派閥による、フェンリル派の権勢を落とすための嫌がらせだったのは明白だった。
「もはやオレにとっても教団は平穏を脅かす目障りな存在でしかありません。可能ならこの世から消えて欲しいです。ですが相手は腐っても千年以上も裏で世界を支配してた組織…どう仕掛けてくるにせよ、あらゆる最悪なケースを想定して対策を練らないといけません…申し訳ありませんが、それができるまでの暫くの間『紅の騎士団』やブシン祭などの目立った行動は控えておきたいのです」
「………つまり、ご家族や領地の安全が確保できるようになれば共に戦ってくれる、と捉えていいのですね?」
「戦い方は人それぞれですが、そうです」
「……分かりました。貴方の入団を私は心待ちにしております」
少し残念そうな表情を浮かべて、アイリスが小さく笑う。クレアの方はオレをブシン祭に出場させる空気でないことを分かりながらも凄く悔しそうだ。
「ありがとうございます………それと殿下。一つ訂正したいことが」
「?はい?」
「――――オレは天才なんて上等なものではないですよ」
「えっ、ま、またご謙遜を―――」
「いえ、そもそもオレには剣の才能なんて無い凡人ですよ」
「「え?」」
アレクシアとクレアが誤解を解くために言った言葉に大きく反応した。
「…私に一本も取らせていないアンタが凡人?冗談でも言って良いことと悪いことがあるわよ」
「自分を客観的に捉えて出た答えだ」
これに関して噓はつかない。
「そもそもクレアは天才と凡人の違いをちゃんと説明できるのか?」
「そ、それくらいできるわよ。天才は才能がある人のことよ」
「それじゃあ才能は何なんだ?」
「何って、特技みたいなものに決まってるでしょ」
「説明が大雑把すぎる。学術学園のテストなら5点しかもらえないぞ」
「なっ」
やはり脳筋はダメか。
「これはオレの持論ですが、才能とは物事を巧みになしうる生まれつきの能力であり、突出している個性の一部です。1から10やって11の事を理解できる人種を凡人と呼ぶに対し、才能で1やれば11を導ける人種を天才と呼びます。アイリス殿下やアリス、クレア、ローズ会長、シェリーも後者に入りますね」
「な、なによ。馬鹿にしてたところで褒めるとか…」
「ふふっ、ヴァイス君に言われるとなんだか照れてしまいますね」
「えへへ…」
この場にいる名指しした人間は褒められたと思ってちょっと照れている。
「凡人と天才の違いがそうだとしたら、間違いなくオレは前者です。最初のころなんて魔力の制御も剣の振り方も普通でしたし」
「そういえばヴァイスちゃん、クレアちゃんと会う前はお父さんになかなか勝てなかったわねぇ」
「「「え?」」」
アンナの話を聞いても皆半信半疑といった感じだ。少し手を抜いていたのもあるが、本物のロングソードを振ったり魔力を練ったりなどが初めてだったため、最初は下手だったのも事実。
「オレのやっていることは、今までの経験を足し合わせることで11を導けてるだけに過ぎません。分かりやすく言えば、1から10までの基礎を突き詰めつつ、もっと良いやり方がないかと模索して手数を増やし、実践しては自分にあうように最適化を繰り返すといった感じです。先程見せた魔力制御も、本当に身体強化以外の使い道はないかと疑って試行錯誤して見つけました」
嘘はいっていない。
「け、けど…そんなに強くなったアンタを凡人って呼んでいいの?」
「凡人が天才より強くなっちゃいけないのか?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
言葉が続かないクレア。
「まあ、クレアも着々と強くなってきてるようだからオレを超すのもそう遠くないかもな」
「……なんか上から目線の発言みたいで腹が立つわ」
褒めたはずなのに、テーブルの下でゲシゲシとオレの足を蹴ってきた。
「えっと、つまりヴァイス君は才能が無くても努力した結果、英雄を相手できるぐらいまで強くなったってことですか?」
「端的に言えば、まぁそうなるな」
「ヴァイス君ってやっぱり凄いんですね」
「やっぱり私達の子は凄いわぁ」
シェリーとアンナはとにかく凄いで片付けちゃってるな。
「質問ですが…ヴァイス君は何故そこまで強くなろうと?」
アイリスが戸惑いながらも真剣な眼差しで聞いてくる。
「理由はいくつかありますが…………養母と養父に家族の一員として育ててくれている手前と才能無しでどこまでの伸びるのかの確認というのもありますが、意地みたいなのが一番ですかね」
「意地?」
「一応、天才の義妹の兄ですからね。置いていかれないようにしないと」
とりあえずそう答えておく。
「そう、なのですか」
「………三人目の出場者から話が逸れましたね。出場しない代わりにオレがその人物を鍛えるというのはどうでしょうか?」
「えっ、よろしいのですか?」
「二人から三人に増えたところで大して変わりません。それくらいまでなら修行の片手間で教団への対策を講じれますし」
「そうですか。とても有り難い提案です。では団員達を紹介して――――」
「いえ、三人目については既に決めております」
「えっ、もう!?」
「えっと、確認ですが……ヴァイス君は『紅の騎士団』の団員のことをご存知なのですか?」
「いえ全然。アイリス殿下、アレクシア殿下、グレンさんとマルコさん以外の団員には会ったことがありませんし。ブシン祭までの期間が限られているので、ある程度知ってる人間にしたいのです」
「でも姉様は団長として出場が決まっているし、副団長は出せない。クレア先輩とマルコの出場が決まったとなると他に貴方の知ってる人間なんて――――あ、あれ?」
察したようだ。
「ま、まさか貴方――――」
「オレが鍛えようと思っている三人目は、アレクシア・ミドガル王女殿下です」
「はあああぁ!?」
一室にアレクシアの驚愕の声が響く。姉のアイリスやクレア達も驚いて目を丸くしている。
「アレクシアを………三人目に?」
「ちょっ、な、なんで私なのよ!?」
まさか自分が選ばれるとは思っていなかったようでかなり動揺してるな。
「理由は先程述べた通り、他の団員との自己紹介にかかる時間を省きたいということですが他にもあります」
「本当に?ちゃんとした理由でしょうね?」
「ええ。はっきり申し上げても?」
「い、いいけど」
「では。おそらくですが、アレクシア殿下は『紅の騎士団』の中で一番弱いと思うからです」
「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。……もう一度言ってみて?」
「あ、アレクシア!?剣を納めなさい!」
瞬間的に喉元へ突きつけられた剣が、これ以上ふざけた事を言えば殺すと語っている。
「ヴぁ、ヴァイス!?今の失礼よ!」
「だから事前に確認を取ったんだが?」
「暴言を吐かれるとは誰も思わないでしょうが!」
クレアに両肩をつかまれ、ぐわんぐわんと揺らされる。
ようやくアレクシアが落ち着いた(物凄い剣幕だが)ところで、話を再開する。ちなみに彼女の剣はアイリスに没収された。
「では改めて………今回の聖地での一件で、アレクシア殿下達は聖域で教団の秘密を知りました。それがどういうことなのか理解してますか?」
「?どういうことって、教団と聖教が繋がっているんじゃないかって話でしょ?」
全然わかってないな。
「教団が貴女達を口封じに殺しに来るという可能性があるのですよ?」
「えっ」
「自分たちの存在が表沙汰になるのを嫌っている教団が、秘密を知った貴女達をこのまま放置しておくとお思いですか?」
「で、でも今聖地は混乱状態にあるから、そこから私たちがに聖地に入ったことが漏れるなんてこと――――」
「聖域で見たことを陛下に報告したんですよね?」
「え?ええ。したわよ」
「その時他に誰か人は?」
「いなかったわよ」
「誰か隠れて盗み聞きしていないかの確認は?」
「……い、いいえ」
「ヴァイス君は王宮にまで教団の手のものが回っているとお考えなのですか?」
「わかりませんが……聖教にまで入り込んでるくらいですからね。そういった可能性も頭の隅に入れておくべきかと」
実際結構な数を見つけた。
オレの言葉にアイリスは頭を抱えだす。自分達の家に賊が紛れ込んでいるんじゃないかという不安要素がストレスになったのだろう。
「話を戻しますが、情報がどこから教団の耳に入るかわからない状況です。ひょっとしたら、既に知られているのかも。その場合この前みたいにシャドウガーデンを騙って殺しに来るかも」
王族殺害はとても重い罪になる。学園襲撃事件で濡れ衣を着せることに失敗した教団には絶好の機会だ。
「もし暗殺者が来たとしても、アレクシア殿下は返り討ちできる程の実力をお持ちではありません」
「断定するのね……」
「グレンさんから聞いた話だと、独断先行して王都無差別殺人をやってたルスランの手下相手にやられたと聞きましたし。シャドウが駆けつけなかったら死んでましたよ?」
「彼の言う通りですよ。おまけに無許可で証拠品を持ち出したりなんかして」
「うっ………」
姉に正論を突き付けられて項垂れるアレクシア。
「これから紅の騎士団は厳しい局面に陥るでしょう。その時にいつも運が味方するとも限りません。今のレベルのままでは確実に死にますよ」
「喧嘩売ってるの?」
鋭い視線がオレを射抜くが、オレは動じずに即答する。
「事実を述べてるだけです」
「王女相手に上から目線ね………でも事実なのは否定できないわ」
はあ、と深いため息を吐くアレクシア。
「………自分がどれくらい無力なのかわかってるつもりよ。私は姉様みたいな剣の才能もないし発言権も低い。ゼノンに誘拐されて何日も拘束されて血を抜かれるわ、逃げ出そうとしてゼノンにまったく歯が立たずにシャドウに助けてもらう始末。自分達の知らないなにが起こっているのか知りたくて強引に姉様が立ち上げた騎士団に入団したけど………何もできていないし、なにも変わっていない」
「アレクシア………」
「変わりたいという意思はあるのですね?」
「と、当然よ」
「なら今よりも格段に強くなりたいと?」
「そうよ!」
「なら尚更オレの修行を受けるべきかと」
「えっ」
アレクシアにはアイリスの様な剣の才能はない。何もかも、最初から持っているものが違う。それでも姉に追い付こうと彼女なりに考えて強くなろうとした。だが周りがアイリスとアレクシア姉妹の剣を比べる時、彼女の剣をみて必ずと言っていいほど出てくる言葉は『凡人の剣』。
侮蔑を込めての言葉だろうが、彼女なりに導いた努力の結晶である。
後はより磨きをかけてやればいいだけのこと。
「先程言ったでしょ?オレには剣の才能がないと。オレはオレなりに考えて試行錯誤を繰り返して繋いでるだけだと」
「その話、まだ半信半疑なのだけど………」
「言葉で信じられないのなら、実際に受けてみればわかります。先程申しあげたとおり、オレの修行は実際にオレがやったことを他の人間にもできるように組んでいます。剣の才能がない凡人なりの」
「!」
反応したな。
「王宮ではどうか知りませんが、学園の実技授業と比べたら滅茶苦茶ハードです。途中でやめるのも構いません。ですがもし今の弱い自分を変えたいという意思が本物なら、天才を越えたいという向上心が少しでもあるのなら、自分を凡人だと馬鹿にしてる連中を見返したいという気持ちがあるなら受けるべきかと………こんなチャンスは滅多にありません」
「!!」
ムカつく言い方だろうが、今のアレクシアには効果的だ。
「勿論決めるのはアレクシア殿下ですが………敢えて聞きます。第二王女アレクシア・ミドガル。『紅の騎士団』のため、そして自分のために強くなりませんか?」
オレからの問いにアレクシアは………。
「………本当に、貴方の下でなら強くなれるのよね?」
「信じるか信じないかはアナタ次第です」
「……………噓だったら承知しないわよ」
「アレクシア?」
「――――姉様。私、ブシン祭に出場します」
アイリスを見据える彼女の目に一切の曇りがなく、決心で固まっていたようだった。
呪術アニメの「だって君、弱いもん」「弱いままでいいのか!?いいのか!?」を少しオマージュしました。
主人公が大会に参加して活躍するのは他のラノベでもよくありますが、あえて一歩引いて他の人間を鍛えるというのもいいと思い、この流れでにしてみました。