陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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アニメでクレアの出番が少ないので入れてみました。


シャドウガーデン、いざ出陣

 【シャドウガーデン】という組織が結成されてから三年。オレとシド、そして最初の仲間となったアルファは十三歳になっていた。

 

「今日こそは一本取るからやられなさいよ!」

「この前はわざと負けるなとか言ってなかったか?」

 

 ちなみに今オレがカゲノー家の屋敷の庭で手合わせをしているシドの姉クレアは十五歳になった。

 別にオレはクレアと仲が良い訳でもない。むしろオレはコイツに心底嫌われている。理由は単純、シドのことだ。

 超が付く程のブラコンであるクレアがシドとよく関わっているオレを嫌っている。

 

 出会った初日に手合わせすることになったのも、シドが口にした「ヴァイスと姉さんどっちが強いのかな?」という言葉に反応し、オレを負かしていいとこ見せようとしたのだがあえなく失敗。

 それ以来、オレと顔を合わせれば睨むかそっぽを向く、因縁をつけて勝負を挑んでくるなど態度を隠さないのだ。

 

「ちょっとアンタ本気でやる気ある?」

「あるぞ?今もこうして剣を防ぐのに手一杯だ。手が痺れてきた」

「……私を馬鹿にしてる?」

「何故そうなる……」

 

 しかも勝たせろと言うくせに少しでも手を抜いてやればそれも怒るという理不尽。どっちが年上かわからない。

 

「今日はもうここまでにしないか?」

「なんでよ!?私はまだやれるわよ!!」

「今日はもう遅い。それにこれ以上やると今夜の準備ができない。どっちにしたって終わりだ」

「むぅ〜……分かったわよ」

 

 オレの言葉に頬を膨らまして渋々だが納得してくれた。

 

「あと、シドが『姉さんが明日からいなくなると思ったら寂しい』と言って――――」

 

 言い終わる前にクレアは既に走り出していた。

 取り敢えずシドへのささやかな復讐は上手くいくだろう。

 

 貴族は十五歳になると三年間王都の学校に通うことになる。クレアはカゲノー男爵家期待のホープ(?)で、出立の前日にカゲノー家とネーベル家で送別会をやり、見送りも一緒にやるということで、オレ達はカゲノー家の屋敷に一泊することが決まっている。

 

 日常と化していたあれとのじゃれ合いも暫くはない。

 時の流れと共にいろいろ変化していくものだな。

 

 

 変化するといえば、シャドウガーデンのメンバーが増えたことだ。

 

 シドとアルファがまるで捨て猫を拾う感覚で、次々と『悪魔憑き』となった少女達を元に戻しては『ディアボロス教団』に関しての説明をして憎悪を植え付け、シャドウガーデンのメンバーに迎え入れていった。

 

 

 何事も『堅実』にこなせる程の記憶力と理解力を兼ね備えた、銀髪ボブカットエルフの『ベータ』。

 

 アルファ以上の頭脳を持っているが、戦闘能力は最弱。何も無い所で転ぶ天才、黒髪ロングエルフの『ガンマ』。

 

 「力と強さこそ正義」という考え方のコミュニティで育った脳筋思考のアホの子、黒い狼の獣人の『デルタ』。

 

 ずば抜けた魔力コントロールの才能を持つ青緑のツインテールエルフの『イプシロン』。

 

 隠密行動を得意としており、情報収集をさせれば右に出る者は居ない、猫系の獣人『金豹族』の『ゼータ』。

 

 技術的な面に優れ、建築家としても優秀だがマイペースな性格で、一度寝るとなかなか起きず、寝たまま歩き回るなど寝相も悪い、赤紫髪ロングのエルフ『イータ』。

 

 アルファを含めて合計七人。最初にシドが悪魔憑きを治したアルファをシャドウガーデンのNo3にして最高位指導者の立ち位置にした『七陰』 を名乗るようになった。しかも女子ばっかり。

 

 ちなみにシドが適当にでっち上げた『ディアボロス教団』は実在しているようだ。

 

 以前ジャンとアンナ、二人の間の実子でオレの義理の妹にあたるアリスと共に王都に観光に行った際、オレはたまたま教会の裏で覆いで隠された檻をこそこそと運んでいる連中を見かけた。

 その檻からアルファたちの時と似たような波長の魔力を感じ取り、宿泊施設で三人が寝静まった深夜にオレは確認のために教会に向かった。

 

 シドの話を聞いて改めて、教会が積極的に『悪魔憑き』を集めているというのもにきな臭さを感じたのもあり、軽く調べるつもりだったが成果は大いにあった。

 

 『悪魔憑き』達から血液を採取していた自称聖職者たちとおはなし(・・・・)してみたところ、教会は『ディアボロス教団』の隠れ蓑であり、『悪魔憑き』達の体に流れる『英雄の血』をロクでもないことに悪用しようと企んでいることを親切にも洗いざらい話してくれた。

 出来る限り情報を聞き出した後は教会にいた『悪魔憑き』達を回収、後の連中は適当に処理してネーベル家のところへ戻った。

 

 どうやらオレはとんでもない面倒事に巻き込まれたようだ。領地に戻った後この事実をシドに話すべきか考えたが、あいつは言葉を額面通り受け取らないタイプであり余程のことがないと信じないだろうと判断し黙っておくことにした。

 もしオレが言い出せば鼻で笑うか、オレを同類だと認識して仲間意識を持つかの二択になる。それだけは死んでもごめんだ。

 

 一生勘違いさせたままの方がいいのかもしれない。

 

「おーいヴァイスー、そろそろ準備をするから手伝ってくれー」

「はい義父さん」

 

 ジャンに呼ばれ、オレは屋敷の中に入る。

 ちなみに送別会でオレが祝辞を述べてもクレアはいつも通りそっぽを向いた。解せぬ。

 

♢♦♢

 

 

 クレアが王都に出立するその日になって、当の本人が消えた。部屋を確認してみると部屋は荒らされていてクレアの姿は何処にもなかった。

 

「争った痕跡はないが、窓が外からこじ開けられている。クレアも俺も気づけなかった、相当な手練れだな」  

「で?相当な手練れだから仕方ない、そういうことかい?」

「そ、そういう訳じゃなくてね、ただ事実を述べたまでで……「このハゲェェェエエエーーーー!!!」ひぃ、す、すいません、すいません!!」

「ちょっ、奥さん落ち着いて!喧嘩してもクレアちゃんは戻ってこないぞ!」

 

 カゲノー男爵が夫人にボコボコにされるのをジャンが止めに入るのを見守って、隙を見てシドと共に部屋に戻る。

 

「出てきていいよ」

「はい」

 

 シドの声と同時に音もなくカーテンが揺れて、黒いスライムボディスーツに身を包んだベータが入ってきた。

 

「アルファは?」

「クレア様の痕跡を探っています。調べによると犯人はやはりディアボロス教団の者です。それもおそらく幹部クラス」

「幹部クラスか……。それで、教団はなぜ姉さんを?」

「クレア様に『英雄の子』の疑いをかけていたのかと」

「ふん、勘のいい奴らめ……」

 

 噓つけ。絶対こいつわかっていないだろ。

 前にアルファが資料とかも集めてきて『やはりあなたの言葉に間違いはなかった……』とか『千年前ディアボロスの子が……』とか『この石碑からはディアボロス教団の痕跡が……』とか伝えても反応が微妙だった。

 大方七陰がシド自身がつくった設定に付き合っているだけで、クレアを誘拐したのはただの盗賊としか思っていないな。

 

「こちらの資料を見てください。我々が集めた最新の調査の中にクレア様がさらわれたと見られるアジトが……」

 

 ベータが古代文字で記された膨大な資料を並べて説明するが、シドは適当に聞き流していた。

 

 ちらりと資料を確認すると、地図には赤い印が幾つの書かれていた。そこが『ディアボロス教団』のいる拠点の場所なのだ。

 だが暗号文の方と照らし合わせると一つおかしな点があった。

 

「ふっ、そこだ」

 

 シドもかっこよくナイフを投げてベータが説明している地図に向かってくる。

 オレはバレないようにスライムでできた極細のワイヤーでナイフの軌道を操作し、赤い印が付いていない箇所に突き刺させた。

 

「そこに姉さんはいる」

「ですが、ここには何も……いえ、まさか……!資料と照らし合わせると南の地下施設に隠しアジトがあると思われます!!この膨大な資料を一瞬で読み取り、さらに隠されたポイントまで読み解くとは……流石シャドウ様です」

「修行が足りんぞ、ベータ」

「精進します」

 

 いや修行が足りないのはお前だから。

 

 

 

♢♦♢

 

 南の地下施設

 そこには牢屋があり、中には攫われたクレアがいた。だが、両腕は鎖に繋がれていた。ただその鎖は普通の鎖ではなく『魔封の鎖』という魔力を使えなくするもので、それに繋がれている間は魔力が一切使えなくなる。

 そんなクレアに一人の男が近づいてきた。

 歳は30代半ばをすぎた頃だろう。 鍛えられた体躯に鋭い眼差。灰色の髪をオールバックに纏めている。

 

「気分はどうだ?クレア・カゲノー。今日は貴様に色々と聞きたいことがある。」

 

 クレアは寝ているところを連れ去られたからか、薄いネグリジェ姿で、豊かな胸の膨らみと瑞々しい太ももが覗いている。気の強そうな目がオルバを睨み上げた。

 

「あなたの顔、王都で見たことがあるわ。確かオルバ子爵だったかしら?」

「ほう、昔近衛にいたが……。いや武神祭の大会でか?」

「武神祭ね。アイリス王女に無様に斬られていたわ」

 

 フフ、とクレアは笑った。

 

「ふん、試合という枠内ならばあれは別格だ。もっとも実戦で負けるつもりはないがね」

「実戦でも変わらないわ。決勝大会一回戦負けのオルバ子爵」

「ほざけ。決勝の舞台に立つことがどれほどの偉業か分からぬ小娘が」

 

 オルバはクレアを睨みつけた。

 

「私なら後1年で立てる」

「残念だが貴様に後1年はない」

 

 クレアを繋ぐ鎖が鳴った。

 直後、オルバの首筋ギリギリで彼女の歯が噛み合わされた。

 

 ガチン、と。

 

 オルバが僅かに首を傾けなければ、頸動脈を噛み切られていただろう。

 

「1年後生きていないのは果たしてあなたか私か。試してみる?」

「試すまでもなく貴様だ、クレア・カゲノー」

 

 獰猛に笑うクレアの顎を、オルバの拳が打ち抜いた。

 クレアはそのまま石壁に叩きつけられ、しかし変わらぬ強い瞳でオルバを見据える。  

 オルバは手応えのない拳を下ろした。

 

「後ろに跳んだか」

 

 クレアは不敵に微笑んだ。

 

「蠅でもいたかしら」

「ふん、高い魔力に振り回されるだけではないらしいな」

「魔力は量ではなく使い方だと教わったわ」

「いい父を持ったな」

「あのハゲに教わることなんてないわ、あいつに教わったの」

「あいつ?」

「ええ、年下のくせに私より強い生意気な気に食わない奴よ。いつも覇気のないような表情でなに考えてるかわからない。おまけに弟と仲が良いのがムカつくわ。だから家にきたらちょっかいをかけてるの」

 

 クレアはそう語る。確かに彼女はヴァイスにちょっかいをかけていることは多々あった。だが、その全てをヴァイスは涼しい顔で躱すのを見てクレアは内心、イライラが溜まっていた。それは剣の稽古でも同じで相手はしてくれているが遊ばれているようで気に食わなかったというのが大きかったりする。

 

「それより聞きたいことって?」

「クレア・カゲノー、貴様は最近、体に不調はないか?魔力が扱いづらい、制御が不安定、身体が黒ずみ腐り始める等の症状は?」

「わざわざ私を連れ去って、やることは医者のまねごと?」

 

 クレアは艶やかな唇の端で笑った。

 

「私もかつては娘がいた。これ以上手荒な真似はしたくない。素直に答えてくれることがお互いにとって最善だろう」

「それって脅し?私は脅されると反抗したくなる性質なの。たとえそれが非合理的であったとしても」

「素直に答える気はないと?」

「さて、どうしようかしら」

 

 オルバとクレアはしばらく睨み合った。

 静寂を先に破ったのはクレアだった。

 

「いいわ、大したことじゃないし答えましょう。身体と魔力の不調だったかしら? 今は何ともないわ、鎖に繋がれてさえいなければ快適そのものよ」

「今は?」

「ええ、四、五年ぐらい前かしらね、あなたの言った症状が出ていたのは」

「なに、治ったというのか?勝手に?」

 

 オルバの知識の中に『アレ』が自然に治ったというケースはない。

 

「そうね、特に何も……あ、そうそう、弟にすとれっち? よくわからないけど、それの練習させてくれとか頼まれて、なんだか終わったらとても調子がよくなっていたわ」

「すとれっち? 聞いたことがないな……。だが症状が出ていたということは、まず適合者で間違いないか」

「適合者……?どういう意味よ」

「貴様は知る必要のないことだ。どうせすぐ壊れる。ああ、貴様の弟も調査する……」

 

 オルバがそこまで言った瞬間、彼の鼻骨に衝撃が走った。

 

「ぐっ!?」

 

 オルバは扉まで後退し、鼻血を押さえてクレアを睨む。

 

「クレア・カゲノー、貴様……!」

 

 四肢を鎖で拘束されていたはずの彼女だったが、右手首の鎖だけがどういうわけか外れて、そこから血が流れ出ていた。

 

「手の肉削いで、指も外したかっ……!?」

 

 彼女を拘束していた鎖はただの鎖ではない、魔封の鎖だ。つまりクレアは純粋な筋力だけで、己の手の肉を削ぎ落とし、骨を砕き拘束を外し、オルバを殴りつけたのだ。

 

 その事実にオルバは驚愕した。

 

「あの子に何かあったら、絶対に許さない! お前も、お前の愛する人も、家族も、友人も、全て残らず殺してっ……!?」

 

 オルバの全力の拳がクレアの腹を殴りつけた。魔封の鎖に繋がれている彼女に、魔力で強化されたオルバの一撃を防ぐ術はない。

 

「小娘がっ……!」

 

 オルバは吐き捨て、クレアは崩れ落ちた。

 クレアの右手から流れ落ちた血が床に赤黒い染みを作る。

 

「まあいい。これで分かる……」

 

 オルバが呟きその血に手を伸ばす。その時、兵士が息を切らせて扉を開けた。

 

「オルバ様、大変です!侵入者です!!」

「侵入者だと!?数は!!」

「か、確認できているのが恐らく7人!!影のように何処からともなく現れて兵達が次々とやられました!!」

「なんだと!?たった7人にやられた!?」

 

 オルバは部下の報告を聞いて耳を疑った。それもそうだ。たった7人で組織に喧嘩を売るなど誰が考えようか?だが、現実に今それが起きているのだ。さらにもう一人の教団員が報告に来た。

 

「報告します!迎撃に向かうはずだった兵達が黒いバケモノによって全滅しました!!」

「なに!?その黒いバケモノとはなんだ!!もっと正確に報告しろ!!」

「は、はい!その者は人の形をしていたのですが、身体から無数の触手の様なものが出ていました!!その触手で兵たちは無残な姿に………!!」

 

 その報告を聞いてオルバは混乱に陥っていた。7人の侵入者が襲撃して来ているうえに迎撃に充てるはずだった兵達が黒い何かによって全滅させられる等という訳のわからない事態になっているのだ。混乱しないほうがおかしい。

 

「私も直ちに向かう!お前達も対処に向かえ!!」

「「「はっ!!」」」

 

 オルバは部下と一緒に侵入者の撃退に向かった。しばらく走って向かうとそこで見たものは自分たちの兵達の亡骸が遺体となって転がっていた。首を刎ねられた者、身体を真っ二つにされた遺体、原型をとどめていない遺体とあまりにも悲惨な光景が映っていた。

 

「貴様等が……!」

 

 部下達の血で染められた地面に立つ八人の侵入者。全員が漆黒のスーツに身を包んでおり、異様な存在感を放っている。仮面を付けているため顔は確認出来ないが、年齢は自分よりも相当下であるとオルバは感じ取った。

 

「何者だ、何が目的だ?」

 

 動揺するオルバに返答したのは、整列する七人の前にゆっくりと出て来た唯一フローブを着ている者だった。

 

『――――我等はシャドウガーデン』

 

 フードで顔を隠した、声を聞く限り性別は男。

 後ろの七人が一歩下がって構えているところから察するに、この男がリーダー格なのだろう。オルバは鞘から剣を引き抜きながら、侵入者達へ怒声を浴びせかけた。

 

「此処がどういう場所か分かっていてこんな真似をしたのか!?」

『――――『ディアボロス教団』の支部で、そしてお前はここの頭目』

「なっ……!貴様……どこでその名を知った?」

『我々は総てを知っている。魔人ディアボロス、ディアボロスの呪い、英雄の子孫、そして悪魔憑きの真実』

「き、貴様ッ!どこでその名をッ!? どこでその秘密を知ったァァァァ!!!」

 

 気迫と共にオルバが男へと斬りかかる。真っ直ぐに振り下ろされた剣は岩も切り裂く威力、丸腰で受ければ即死は免れない。

 

 だが――

 

 男は摘んだのだ。

 ――その一撃を。自慢の一閃を。

 それも蝶の羽を摘むような優しさを持って――。

 空気が凍った。

 必死にオルバは呼吸を繰り返す。

 

「……ば、ばかな」

 

 消えゆくような声で喘ぎを漏れた。

 オルバはガクガクと震えそうな体を懸命に堪える。今、目にしたものが信じられない。だが、伸びた刀身の先にある、男の細い2本の指――親指と人差し指。

 

 まるで力を入れずに軽く摘んでいるように見える一方、オルバが全力を出して、押し切ろうとしても引き戻そうとしてもびくとも動かない。自らの数百倍の巨石に繋がれた鎖を引っ張っているようだった。

 突如、剣に掛かる力が増し、逆にオルバは体勢を崩しかける。

 

『ほう、かなり使い込んだような跡からかなり実戦経験を積んでいるのは間違いないようだな』

 

 摘んだ刀身を自らの目の前まで持ち上げ、しげしげと眺める男。

 

『だが、ワタシ達には遠く及ばない』

「な、生意気な!!」

 

 オルバは握っていた剣を手放し、近くに転がっていた兵士の剣を拾い上げて再び振るった。

 

「喰らえぇぇぇぇぇえッ!!!!」

 

 込められるだけの魔力を込めた全身全霊の一撃。

 だがそれも男には届かなかった。

 

『――――愚かな』

「──グハァッ!」

 

 男は指で摘まんでいたオルバの剣を持ち主へと投げる。柄頭がオルバの腹部に直撃した。まるで鉄球を殴りつけられたと錯覚するほどの衝撃でオルバを後方に大きく吹き飛ばした。

 

「ガハッ!――はぁはぁ」

 

 吐血をしてもオルバは意識を失うことなく立ち上がる。もし刀身が直撃していたら絶対に自分は即死していたはずだ。

 だがそれをしなかったのは情報を聞き出すまで殺すつもりはないのだ、オルバはそう見抜き、嗤った。

 

 勝ち筋が、見えた。

 

 オルバは懐から瓶を取り出し、中に入れていた赤色の錠剤を一つだけ噛み砕いた。それと同時に肉体が一回り膨張した。肌は浅黒く、筋肉は張り、目が赤く光った。

 そして、何より、魔力の量が爆発的に増えていた。

 自身の限界を無理矢理突破し、これで優勢になったと考えるオルバは歪んだ笑みを浮かべたが、すぐに崩れた。

 

『どうした?来ないのか?』

 

 対峙する男の魔力量が──爆発的に増えた。

 

「……そ、そんな。……あり得ん」

 

 視界で捉えられる程に濃密な白色の魔力。自身の魔力とは比べることすら烏滸がましいレベルで差がある。

 

『今度はこっちの番だ』

 

 男はそう言うと左手の五本の指をオルバに向ける。その次の瞬間、五本の指が超高速で伸び、オルバの身体を貫いた。

 

「がっ!?」

 

 すぐに指がオルバの身体から抜ける。まるで触手のように動き、尖った先をオルバに向けている。部下から聞いた無数の触手のようなものが出した怪物とはこの男だと確信する。

 

 

 今のオルバは身体を斬られても致命傷でなければ再生する。もちろん限界はあるし、副作用も強い。

 しかし、多量の血を流し、肉を裂かれ骨を断たれれば、回復まで時間がかかる。

 だが、それほどの危機に陥ってもまだ、オルバは生きていた。

 

 否、生かされていた。

 

『情報を聞き出すまでは生かされると考えていたようだが、その姿になったのは悪手だったな。ワタシの攻撃を受けてもすぐに傷口が塞がるほどの治癒力―――それはつまり少し手心を入れても耐えれるということ。ならば――――』

 

 

――――喋りたくなるまで徹底的に痛めつけても簡単には壊れないという事でいいんだな?

 

 

「ひっ(――――こ、こいつは、ヤバい!)」

 

 恐怖が背筋を滲み上がる。

 まるで言葉だけで死神の鎌が首に当てられていると錯覚したオルバが取った手は一つだった。

 立っていた地面に向けて剣を振るう。衝撃で土煙が巻き上げられ、消えた時にはオルバの姿が見当たらなかった。

 

 

 

♢♦♢

 

 あの頭目がいた場所に四角い穴が開き、それは下の階層に続いていた。

 

『逃げたか』

 

 予定通りだな。

 オレは身体から溢れ出る魔力をを押さえ込み、指を元の形に戻す。

 

「すぐに追うわ」

『追わなくていい、アルファ』

「何故?」

『下には奴が居る。追いかけてもすでに終わっている』

「……そう、だから彼は単独行動をしたのね」

 

 アルファの言葉に、周りの六人も声を上げる。尊敬している主の先を見通す力に感動しているのだ。まあ実際アイツにはそんな事実ありはしないのだが。

 

 こういう地下施設なら万が一のために逃げ道を作っておくのが定石だ。ベータが解読中だった暗号資料に記されていた施設の見取図にそれらしき空洞部分が記されていた。

 襲撃を受けてその相手が格上だと分かればそこへ逃げ出そうとするのが心理。

 

 だからシドには逃げ道の方に誘導させ、オレは敵の頭目を怖がらせるだけで良かった。

 

「流石ね、ミスト。こうなると分かっていたんでしょう?」 

『……さあ、どうだろうな。それよりあれを回収するぞ』

「あら?仲のいいクレアさんを早く助けたいのね?」

 

「――――は?」

 

 何言ってるんだアルファは?思わず元の声音になった。

 

「言っておくがあいつとオレはそんな関係じゃないぞ」

「そうかしら。会ったらよく剣の稽古に付き合ってるようだけど」

「それはあいつがしつこいだけだ」

「ふふ、そういうことにしておくわ」

 

 とんでもない勘違いをしながらオレに笑いかけるアルファ。どうやらシドもこいつらも前世の世界のお笑いコンビの生まれ変わりかもしれない。

 

 さっさと帰って寝るか。

 

 どうせもう片付いていると決めつけたオレは地下牢で気絶していたクレアを抱えて退散した。シド?あいつは置き去りにした。

 

 

「ところでサブボスはどうしてその姿の時は声を変えてるのです?」

「…………念には念だ」

 

 デルタからの質問に、ただ知り合いにバレた時が恥ずかしいからなんて言えないのでオレは適当に答えることにした。その返答にアルファやガンマがまた色々と深読みをする。

 

 やっぱりこいつら○ン○○ッシュの生まれ変わりだ。

 

 

 

 

 

 その翌日、救出したクレアだが屋敷で目覚めた後ずっと不機嫌だったらしい。そのおかげでオレとの稽古では殺気立っていて、久々に緊張感ある稽古ができたと思った。さらにはクレアの怪我は一晩で治ったらしくそれを聞いたオレとシドは普通に驚いた。

 それから療養やら事件の調査やらで一週間ぐらいごたごたした後、見送りに来ていたオレに「向こうでもっと強くなってアンタを打ち負かしてやるんだから!」という捨て台詞を残して彼女は王都に出発したのだった。

 

 

 そして――――

 

「シャドウ、ミスト。私達は貴方と離れる時が来たわ。お別れよ」

 

 

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