陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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熱が下がり、鼻水も収まりましたが滅茶苦茶だるいです。


論破

 それから2週間、周囲に見せつけるように(恋人から犬にランクダウンした)シドと(実は結構腹黒だった王女)アレクシアが仲睦まじいカップルを演じていたが、問題が発生した。

 アレクシアが突如消息を絶ち、騎士団は誘拐事件と見て捜査を始めた。そして真っ先に容疑者として挙がったのが交際相手のシドだった。

 

 別にシドがやったという証拠はないが、最後にアレクシア王女と接触した人物が浮かび上がったということで連行、事情聴取もとい中世の拷問で口を割らせようとしているようだ。

 

 このままアレクシアが見つからなければほぼ間違いなく最も疑わしき者が処刑される。

 特に王族が誘拐されたのだから、まず極刑は免れない。

 

 首を刎ねられてもあいつが死ぬというのが何故だかイメージできないが…………。

 

 オレはアルファたちには動くなと伝え、案の定シドを取り戻そうと責任者の元へ考えなしに乗り込んだクレアを迎えに行くことにした。

 

「アイリス様!話を聞いてください!」

「クレア君!何をしているんだ!」

 

 クレアを取り押さえようとして逆に返り討ちにあったであろう気絶した騎士が転がる廊下を歩いてると、扉の空いた執務室の方からクレアの声がした。

 

「…失礼します。友人のクレア・カゲノーを迎えに来ました」

「ヴァイス!?なんであんたがここに!?」

「今言っただろ」

「君!学園の生徒全員に外出禁止令が出されているのは知らないのか!?」

 

 ノックをして中を覗くと、クレアに彼女を取り押さえているゼノン、そして執務机に座る1人の女性がいた。

 背中まで伸びた燃えるような赤髪、アレクシアと同じワインレッドの瞳、そして凛々しく美しい顔立ち。その人物はこの国に住んでいる者であれば誰でも知っている。

 第一王女アイリス・ミドガル、つまりアレクシアの姉に当たる人物だ。さらに王国最強と呼び声も高い魔剣士でもある。

 

「失礼しましたアイリス王女殿下。彼女を連れてすぐに退出します」

「ちょっ、止めないでよヴァイス!私はアイリス様に話があるんだから!」

「いや、話をするも何も殿下も忙しい身だからな」

「構いません。話を聞きましょう」

「ありがとうございます!」

 

 どうやらアイリスは話が通じる人物の様で、クレアの話を聞くことにした。

 

「弟は、シドは、アレクシア王女を誘拐するような子じゃありません!きっと何かの間違いです!」

 

 クレア……お前がシドを知っているつもりでも、向こうは何も知らない。そんな根拠の薄い主張を述べたとしても相手を動かすことなんてできはしないぞ。

 

「騎士団は間違いが起こらないよう慎重に捜査しています。あなたの弟が犯人だと決まったわけではありません」

「ですが、このまま真犯人が見つからなかったら処刑されるのは弟です!」

「騎士団は慎重に捜査しています。間違いで処刑するようなことはありません」

「ですが!」

「クレア君!」

 

 アイリスに必死で詰め寄るクレアを、ゼノンが止めた。

 

「もうやめたまえ。君の気持ちも分かるが、これ以上は騎士団に対する侮辱になる」

「くっ……!」

 

 クレアはゼノンを、そしてアイリスを睨み付けた。

 

「もし、あの子の身に何かあったら……!」

「クレア君、やめないか!!」

 

 クレアの言葉を遮り、ゼノンが強引に部屋の外に追い出して扉を閉めようとしたところを、オレは扉を左手で押さえることで止めて部屋に入る。

 

「ちょっ、君!いったい何のつもりで――――」

「殿下、友人の無礼どうかお許しください。それから、不躾を承知でオレから殿下にいくつか質問したいのですが」

「私に……ですか?」

「何を言ってるんだ君は?すぐに部屋から出て――」

 

 ゼノンがオレの肩を掴むがオレを動かすことはできない。

 

「どうしましたかゼノン…?」

「いえ……力を入れてるですがびくともしなくて……ぐっ」

 

 どれだけ魔力で力を込めても微動だにしないオレとアイリスの視線が合わさった。

 

「お時間はそう取りません」

「……わかりました。私に質問とはなんでしょうか?」

 

 オレの答えてくれるまで動かないぞ、というアピールが利いた。アイリスの指示でゼノンの手がオレの肩から離れる。

 

「まず最初に、殿下も今回の妹君の失踪を誘拐事件と捉えていますか?」

「はい。騎士団の調査によると、彼女の靴が見つかった場所の付近には争った形跡があったという報告が来ています。本音を言うと私自身が動きたいところですが……」

 

 騎士団からの報告………か。

 

「では次の質問です。これを誘拐事件とした場合、妹君を攫った犯人の目的は何なのでしょうか?」

「目的……ですか?」 

「はい。文字通り人を攫うのですからね。理由が必ずあります。勿論シドが犯人だという前提条件はなしで」

 

 アイリスは指を自身の顎に添えて数秒考え込み、口を開く。

 

「そうですね………思いつくものと言えば身代金かなんらかの要求目的でしょうか。アレクシアは私と同じ王族の人間です。こちら側が要求に従うと考えるでしょう………ですが今のところそういった脅迫文などはきていません」

 

 成程。頭は悪くなさそうだ。

 

「貴方はどう考えますか?」

「オレは殿下の言う要求目的の他にもう一つ可能性を考えてました」

 

 本当はまだ一つあるが話す必要性がない。

 

「なんですかそのもう一つの可能性とは?」

「単純な話が、私怨ですね」

「私怨………とはどういう意味でしょうか?」

「言葉通りの意味です。妹君に対して個人的な恨みを持った者の犯行だという可能性です」

「…………それはあの子が人に恨まれるようなことをしたという前提の話ですか?」

 

 オレを見据えるアイリスの視線が鋭くなるが、オレは気にせず話を続ける。

 

「いいえ。恨みといっても逆恨みというのがあります。例えば、魔剣士学園の男子生徒の多くはアレクシア王女に告白するも『興味ない』の一言で見事に玉砕されています。その彼女が平凡な田舎貴族とくっついたとなれば逆恨みしてもおかしくないです」

「じゃあ王女に振られた奴らの誰かが犯人ってわけね!早速――――」

「落ち着けクレア。あくまで可能性の話だから間違っても先走るな。お前が動くと弟の立場まで悪くなるぞ」

「うっ…………」

 

 男子たちをボコりに行きそうな勢いのクレアに釘をさしておく。

 

「それにそれで逆恨みしてるのがなにも生徒とは限らない」

「どういう意味よ?」

「そのまんまの意味だクレア。アレクシア王女が平凡な田舎貴族とくっついたことに納得いかない人間は生徒とは限らない」

「…………その言い方だと彼女の婚約者候補である私も容疑者に入るな」

 

 ずっと静観していたゼノンがここで口を開いた。

 

「確かに彼女は私のことを毛嫌いしていた。今思えば私にわざと彼と仲睦まじい様子を見せつけて諦めさせようとしているようにも見えた。だけどそんなことで私が婚約者候補だという事実は変わらない。逆恨みする理由はないよ」

 

 そうだ。ゼノンにはアレクシアを逆恨みで誘拐する理由はない。逆恨みでは……。

 

「君が友人であるシド・カゲノーを救いたい気持ちはわかる。だけどアレクシア王女誘拐の容疑を他の人間になすりつけるのはよくないな」

 

……。

 

「いえ、別にそんな意図はありませんよ」

 

 そう、オレの意図は別にある。

 

「あくまでもオレは殿下のお考えを聞きたかっただけで、その後のはあくまでいくつもの可能性を述べたまでです」

「そんなのは屁理屈だ」

「そう捉えても構いません。ですがなにか問題がありますか?」

「なに?」

「先程殿下はこう仰いました。『騎士団は慎重に捜査している。間違いで処刑するようなことはない』と、だったら屁理屈だとしても、一番怪しいからという理由だけでシド・カゲノーを容疑者扱いせずにそういった可能性も考慮に入れて捜査するべきではないのですか?」

「……っっ!!」

 

 オレの言葉に苦々しい表情をするゼノンは答えに窮したようにオレを睨んだ。

 

 

「…………確かに誘拐の目的がはっきりしない以上捜査の範囲を広げるべきかもしれませんね」

「っ!?アイリス様!?」

「ゼノン侯爵。彼の主張に何の間違いもありません。妹を助けるため、ほんの僅かな可能性でも調べてみるべきです」

「正気ですか!?まだ見習いの生徒の言葉を鵜吞みにするのですか!?」

 

 焦るようにゼノンはアイリスの前に出る。

 

「私は正気です。見習いの言葉だとしても無視して良い訳ではありません。さっきからどうしたのです?あなたは様子が少しおかしい。いつもの貴方なら分け隔てなく相手の話を聞いていたのに」

「あっ……」

 

 普段の人物像が崩れ始めているゼノンの様子に、アイリスだけでなくクレアも疑念の眼差しを向けていた。

 

「……っ、い、いえ、っ……私はただ、あなたの妹君が心配なのに容疑者扱いされるのが耐えられなくて…………」

「オレは一言もゼノン先生の名前を挙げていませんよ?」

「……っ!そ、それなら私の勘違いだな。失礼した」

「……そうですか。申し訳ありません疑うようなことを言って」

「い、いえ!アイリス様が謝るようなことでは!」

 

 とりあえずアイリスは納得したようだが、ゼノンへの疑念は完全には拭い切れていないようだ。

 

「……申し訳ありませんアイリス様。捜査の見直しを部下と話すので退出しても構いませんでしょうか?」

「………分かりました」

 

 気まずそうに申し出たゼノンは、アイリスへ深々と頭を下げて早足に去っていく。一瞬オレの方を睨んだ。

 

「…なんかゼノン先生怪しくなかった?」

「そう思っても口にするなクレア」

「私はできれば同じ流派の、それも何年も共に仕事をしてきた同僚を疑いたくはない。ですが、妹が攫われている以上甘いことも言ってはいられません」

 

 ゼノンのことも調べるという事か。

 

「それから、シド・カゲノーへの尋問は中断し釈放します」

「っ!?今の話は本当ですか!?」

「あくまでも仮釈放ですクレアさん、彼の疑いはまだ晴れたわけではありません。監視は続けさせてもらいます」

「は、はい!」

 

 取り敢えず第一関門は突破した。後でアルファたちにこのことを知らせておこう。

 

「…そういえば、まだ貴方の名前を聞いていませんでしたね」

 

 アイリスの視線が再びオレに向く。

 

「失礼しました。ネーベル男爵家の長男、ヴァイス・ネーベルと申します」

「ヴァイス君……それで、私への質問は以上ですか?」

「差し支えなければ最後に一つだけ。先程殿下が仰っていた監視というのは殿下の部下をつけるという意味ですか??」

「?はい。信頼できる騎士を監視に付けています」

「……そうですか」

 

 信頼、ね。この世界でどれだけの意味があるのだろうか。

 

「質問は以上です。お時間を割いていただき申し訳ございません」

「いえ、中々有意義な時間でした」

「そうですか。ではオレはこれで失礼します」

「わ、私も失礼し「いえクレアさん、貴女は残ってください」え?」

 

 オレに続いてクレアも退出しようとするもアイリスに呼び止められた。

 

「外の廊下で倒れていた騎士に関して説明願いますか?」

「あっ…………」

 

 まあそりゃあそうだろうな。

 

「え、えっと……いったい何のことやら……」

「説明、願いますか?」

「………はい、すいませんでした」

 

 執務室でアイリスに説教されるクレアを置いて、オレはその場を去ることにした。

 

 

♢♦♢

 

 蒸気機関車から降り、下町にある寮へと戻る。 

 ミドガル魔剣士学園は家の身分や実力によって格差があり、身分の高い者や実力があるものは学校から近いところに住むことができる。

 田舎貴族でしかも実力を示していないオレはシドと同じく下町の安アパートに住んでいる。

 

「─ん?」

 

 自室に辿り着いて入ろうと戸を開けようとして、ある事に気づいた。玄関に仕掛けたものが折れて床に転がっていたからだ。

 折れてるという事はオレのいない間に誰かが入ったという事だ。

 魔力感知で中の様子を確認する。魔力の波長が知っている奴のものだったため、オレはすぐに警戒を解いて中に入った。

 

「……誰かに見られていないだろうなミア?」

 

 入って目に映ったのは、学園の女子の制服を着た灰色の長髪に灰色の瞳が特徴の少女だった。

 この少女は以前ネーベル家で王都に観光に行った際、教会の地下で実験動物にされていたのを拾った『悪魔憑き』の一人だ。シドたちのとは別にネーベル領にあるオレの隠れ家にしばらく潜ませた後、時を見計らってアルファたちシャドウガーデンに加えた。このことはシドは知らないが。

 立ち位置はオレの直属の配下ということで、七陰の一個下の位置にあるナンバーズと同格。

 名前がギリシャ文字じゃないのは単にオレにシドのような趣味がないからで、本人の希望で彼女の小さい頃父親がつけた愛称で呼ぶことにした。

 

「周囲に気を配りながら中に入りましたので大丈夫です」

「だが入った痕跡は消せていなかったぞ」

「え?」

 

 オレは床に転がっているものを拾いミアに見せる。

 

「それはいったい?」

「これはイータに作ってもらったシャープペンという筆記用具に使う芯だ。普段羽ペンで文字書くのにインク付けるが、そのインクの役目をこの細い炭の棒が代わりに果たしてくれる」

「そのようなものが……もしや、ガンマ様の仰っていた陰の叡智の一つですか?」

 

 本当は前の世界の知識だけどな。

 

「…まあそんなところだ。それで、それを扉の目立たない所に差し込んで折れればわかるし、気づいて戻しても長さを見れば誰かが入ってるってわかる」

「そうでしたか……気づきませんでした」

「周囲に気を配るのはいいが足元にも注意した方がいい。相手はどんな汚い手を使ってくるかわからないからな」

「はい、精進します」

 

 己の未熟さを痛感するミアは深くお辞儀する。

 さて、反省会はこの辺にしておこう。

 

「…それで、報告はあるか?」

「はい。アレクシア王女誘拐の件で進捗がありました。ミスト様の読み通り『教団』の仕業のようです」

「そうか」

 

 ということは王女はまだ生きているという事か。 

 ミドガル王国の王家には魔人ディアボロスを倒した『英雄の血』が流れている。

 ディアボロス教団が濃度の高い『英雄の血』を欲するなら、アレクシアを生かしておかなければそれ以上血を抜くことができない。誘拐目的から言って不測の事態がなければ殺される可能性はかなり低い。

 

「王女を攫ったのは教団のフェンリル派という派閥の人間で、教団の幹部であるラウンズの地位を狙って今回このような暴挙を働いたようです」

「出世目的か……」

 

 今の地位に満足してればいいものを。それに余裕ぶっても堪え性というのを持ち合わせていないようだな。

 

「既にアジトと思しき拠点のいくつかにはデルタ様とガンマ様の配下が待機しております。ですが、アレクシア王女が何処にいるかは依然掴めておりません」

「それは問題ない。こっちが騒ぎを起こせばその首謀者が案内してくれるだろう。なにせ出世に必要だからな」

 

 既にそいつに接触されたときにマーキングをつけておいたから位置が把握できる。

 

「…成程、泳がせるというわけですね。さすがはナンバーズの方たちに陰の参謀と謳われる御方、感服いたしました」

 

 アイツらにそんな風に思われてたのか。

 

「世辞は良い。それで、シドの方は?」

「留置場から釈放され、現在機関車でこちらに向かっているところです。彼の方にはアルファ様が説明をしに向かっています」

「…なら戻った時に部屋に行けばいいか」

 

 シドのサポート当番は今はベータだったはずだが。まあ、いいか。

 

「ガンマに伝言だ。『合図と共に行動開始。思う存分に暴れろ。ただし首謀者には手を出すな』」

「かしこまりました。報告は以上となります」

「ご苦労だった」

「勿体なきお言葉です…………ところで、外でうろついている鼠共は私が始末しましょうか?」

 

 ああ、帰宅中ずっと遠くから尾行していた連中の事か。

 

「いや、今はいい」

「承知しました」

 

 ミアが制服から黒スーツへと服装を変化させ、窓から出て行った。

 

 

 別にアレクシア王女を助ける義理はないが、攫った首謀者はミアと少しばかり因縁がある。今回の作戦が上手くいけば彼女も少しは気が晴れるだろう。

 




……ヒロインどうしようかな。
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