シドと五日ぶりに再会したが、拷問を受けていた割には元気だった。
殴られた傷も、剥がされた爪もその気になればすぐ治癒できるというのにシドはモブになりきるためだという理由でそうしない。
しかも自分が犯人にされて処刑されるかもしれないという状況だというのに『中世サイコー』と言う始末。
おそらくだが、奴は無意識のうちに自分の見る世界とその出来事をテレビの画面の向こうのものとして徹底して客観的に認識してるのだろう。
盗賊を殺すときも学園生活を送ることもゲームのコントローラを握って自身の化身を操作してるような感じなのだから、画面の向こうの存在である自分の家族や友人、アルファたちをネームドキャラだの攻略対象だのとゲームのキャラクターとして見ている。
自分の興味のあること以外には無頓着なシドにとって、相手の気持ちや自分の死も望みが叶うならどうでもでよく、共感も抱かないようだ。それが災いしてディアボロス教団が存在することに気付いていないのは滑稽だ。
やっぱり放っておいて処刑されるのを見届けておくべきだったか悩んでしまう。
シドがアルファの説明を聞いた(どうせ設定の一部だと思い込んでる)後、オレは奴の陰の実力者の演出のために部屋の飾り付けを二日間手伝わされた。
アンティークランプに盗賊から略奪した絵画『モンクの叫び』、金の装飾が施されたゴツイ椅子、フレンチ南西部ポルトーのヴィンテージワイン……どれも高そうだ。
「……これらのためだけにシャドウガーデンの盟主がアレクシア王女の犬に成り下がったのか」
「ちょっ、やめてよね。人が思い出したくない過去をほじくるの………そういうヴァイスは持ち物が少なすぎるんだよ。学園に入学して数か月経つのに部屋はそのまんまだし」
「特に飾り付けたいモノが見つからないだけだ。それよりそろそろベータが来る頃じゃないのか?」
「もうそんな時間か」
シドはシャドウの姿となり、アンティークテーブルに置いたワインボトルの下に届いた手紙を置いてドカッと椅子に腰を落とした。
「ほら、ヴァイスも」
「え?」
「陰の実力者の相棒なんだからそれらしくやらないと!」
「…………はぁ」
オレはミストの姿になってシャドウの脇に立つ。ただそれだけで何の意味があるのだろうか。
それから数秒も経たずにベータが窓から入ってきた。
「時が満ちた……今宵は陰の世界……」
「陰の世界。月の隠れた今宵は正に我等に相応しい世界ですね」
ワイングラスを回しているシャドウはベータを一瞥し、ただグラスに口を付ける。
「準備が整いました。シャドウ様、ミスト様」
「……そうか」
『報告をしろ』
ミアから既に内容は聞いてるが、シャドウのサポート当番のベータの顔を立てることにする。まあ、どうせシドに説明しても内容をすぐに忘れるだろうが。
「アルファ様の命により近場の動かせる人員は全て王都に集結させました。その数114名」
「……114人?」
「ッ! も、申し訳ありません!」
シャドウがそう聞き返すと、ベータは慌てて頭を下げる。
「エキストラでも雇ったのかな……?」
「アルファたちが助けた連中だろう」
説明するのも手間なので適当に答えてやる。正式なメンバーが600人を超えていると知った時、コイツはどんな顔をするのだろうか。
「あ、あの……」
『なんでもない。続けろ』
「は、はい」
こういう時にあんまり深く詮索しないでくれて助かる。勝手に色々と勘違いするのは困るが。
「作戦は王都に点在するディアボロス教団フェンリル派アジトの同時襲撃です。襲撃と同時にアレクシア王女の魔力痕跡を調査、居場所を突き止め次第確保に切り替えます。作戦の全体指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様が取り私はその補佐を。デルタが先陣でイプシロンは後方支援を担当、ミスト様の合図の下、作戦開始となります。部隊ごとの構成は……」
ベータが詳細を語るのを、シャドウは片手を上げて制した。
彼のその手には一枚の手紙。
「招待状だ」
投げられたその手紙を受け取ったベータは、促されるままに中を読む。
「これは……」
そこに書かれた余りに拙い誘いに、ベータは呆れと同時に怒りを抱いた。
「ミストには悪いが……プレリュードは僕が奏でよう」
『別に構わない…………くれぐれもアレは使うなよ』
「ああ、分かっている」
『絶対だからな』
「ああ、分かっている」
念の為釘を刺しておいたが心配だ。
「付いてこいベータ。今宵、世界は我等を知る……」
「はい!」
シャドウとベータが部屋から出る。
さて、オレも行くか。
窓から部屋を出てアパートの屋上に上がる。そこには既に先客がいた。
『来たか。ミア』
「二人が出たということはもう始まるのでしょうか?」
『ああ、だがシャドウが五日間世話になった連中へのお礼参りと同時に合図を出すことになった。そっちはもう終わったか?』
「はい、作戦開始前にこの付近をうろついていた鼠共の駆除が完了しました」
『そのようだな』
ミアの足元に、一見、何の変哲もない市民風の人間の死体が複数転がっていた。無論全員教団のメンバーだ。余計な横やりを入れた報復にオレをシドもろとも犯人に仕立て上げて殺そうと企んでいたのだろう。
皆、一様に、鋭利な刃物のようなもので急所を深く切り裂かれ、絶命している。
腕を上げたな。
「すぐに死体を処分します」
『いや、それはワタシがやる。お前はアルファたちと合流しろ。お前たちが築く死体の山に紛れ込ませておけば誰も分からん』
「っ!い、いえ、ミスト様にその様な雑務をさせるわけには……ッ」
『お前が殺気立ってることくらい魔力の乱れを見なくてもわかる』
「ッ……、本当に全てお見通しなのですね」
『全部ではない』
サインはあった。いつもの彼女なら扉に仕掛けたシャーペンの芯に気づいたはずだ。
今回の掃討作戦、シャドウガーデンの中で一番連中を多く殺したがってるのはおそらくミアだろう。
『行け、恨みを晴らすがいい』
「………ありがとう、ございますッ」
悲痛な表情になるのを堪えながら彼女はその場を去っていった。
♢♦♢
私は元々表の世界で父と共に幸せに暮らしていた。
幼い時に母が亡くなり、王都での近衛としての仕事で忙しくなっても父はなるべく傍に居てくれた。
そんな父への孝行にも魔剣士のための学園へと入学した矢先の事………私は『悪魔憑き』を発症してしまった。
『心配するな……父さんが、父さんが必ずお前を治してやるからな!』
『悪魔憑き』を発症した者は肉体が腐り果てて死ぬ運命。父はその運命に抗おうとし、そしてディアボロス教団という組織に入団した。
それからが地獄だった。
奴らは父に私の治療を約束したが、私に待ち受けていたのは治療どころか拷問にも等しい人体実験だった。
私のようなのが他にも何人もいて、血を抜かれ、薬物を投与され、もがき苦しみながら死んだものまでいた。私は父を操るための道具としての利用価値があったため他と比べて実験の回数は少なかったが、あくまでも進行を遅らせるだけで徐々に身体が腐っていく苦しみは苦痛だった。
(……助けて、お父さん……!)
私は痛みに耐えながら入学祝いに父から贈られた短剣を握り締め、父が気付いて助けに来てくれることを願った。
だけど、私たちを助けたのは父ではなく彼だった。
『お前たちはもう自由だ………』
私より年下の彼はいともたやすく連中を屠り、あの地獄から私達を救い出してくれた。更に腐っていくばかりだった私達の身体を元に戻してくれた。
歓喜した私はすぐにでも父に会いたかったが、何処にいるのか分からない上に実験の後遺症で遠出するほどの体力はなかったため、皆と共にしばらく彼の計らいで用意してくれた隠れ家で世話になった。
衣服は彼曰く盗賊から略奪した物の中にあったお洒落なのが人数分譲ってもらい、食事も川で釣った魚を調理したり週に2回くらい彼が持ってきた食事の余りでなんとかやってこれた。
前の暮らしと違い裕福ではないが皆がいて楽しく、生きていると実感できた。
それに、彼はいつもポーカーフェイスで何を考えてるかわからないが、私達を気遣ってくれてることは分かった。
日ごとに少しずつ自身の身体に残っていた痛みが消えていき、膨大な魔力が馴染んでいく感覚で快方に向かっていることがわかった。
もう少しで父を捜しに行ける…………
そんな希望も、雨が激しく降った日に彼から告げられた父の訃報で砕かれた。
どういうことなのか詳しく話を聞くと、彼の友人の姉を父が誘拐し、彼と彼の仲間が救出に向かって衝突、最後に彼の友人の手によって父は討たれたというのだった。
彼の手には父が持っていた青い宝石入りの短剣が……。
なんで?
私達は助けれたのにどうしてお父様を助けてくれなかったの?
ねえなんで?
頭の中がぐちゃぐちゃになり、私は彼に馬乗りになって皆が取り押さえるまで手に持った短剣で彼の胸を何度も突き刺した。
けど彼は痛がるような素振りも抵抗も一切せず、私にこう言った。
『オレ達は身内を守るために戦った。だがそれでお前の親父の命を奪ったのもまた事実だ…………お前にはオレに復讐する資格がある。お前の親父は生き返りはしないがそれで気が晴れるなら甘んじて受けよう』
その言葉で私は我に返り、手を止めた。
私の父は私を助けるために連中の仲間になり、そして彼から友人の姉を奪おうとした。彼も大事なものを助けるためにやった。どちらも同じなのだと。
それから私は彼に縋り付き、涙が枯れるまで泣いた。
落ち着いた後、傷を瞬時に癒した彼は私達にこの世界の真実を話した。歴史の陰で暗躍する『ディアボロス教団』や不治の病とされてきた悪魔憑きの真実、この世界の平和が連中の噓で塗り固められたまやかしだということを……。
『お前たちには選択肢がある。救われた命を大事に抱えて、何もかも忘れて偽りの平和で静かに暮らすか。あるいは同じように奴らに苦しめられている同胞を救い、奴らに目に物を見せてやるか。さあ、どうする?』
彼から与えられた選択肢に、私達は全員後者を選んだ。
♢♦♢
『始まったか……』
「ええ」
デルタの斬り込みで建物が崩壊していく様を、現場指揮のアルファがいる見晴らしのいい時計台の上から眺めていた。
『派手にやってるな』
「デルタ……あの子はいつもやりすぎよ」
『過ぎたことは仕方ない。あいつが注意を引いてくれたおかげで他が動きやすくなる』
「そうね……」
デルタを一言で例えるなら戦闘極振りの
思考も強い奴に従うという獣のソレで、以前オレに「あんまり強そうに見えないです。ミストを倒せば、デルタが群れのナンバー2ということになるのです!」と下剋上目的で勝負を挑んできたことがあり、その時に返り討ちにして以来舐めた口をきかなくなった。アルファ曰く上半身が池に突っ込んで足だけ突き出た状態になった(シドが『まるで犬○家みたいだ』と言っていた)のが相当トラウマになったらしい。
あと、アルファにも挑んでるが知能の差でいつもボコられてるとのこと。
そんなデルタの使い道と言えば、派手な戦闘とそれで注意を引いて囮になってもらうくらいだ。狩り的な行動なら気配を消すのも得意らしいが、いざ戦闘になると血に飢えた獣のようになってオレやアルファでないという事を聞かなくなる。
アルファもガンマもそれがわかっているようで、他の構成員をデルタから離れた箇所に配置されていた。
そして案の定、建物を切り刻んだデルタに連中の注意が最も集まっている。
「周辺の被害にさえ目をつむれば、彼女の働きは最高のものだわ…………貴方お抱えの子も良く働いてるわね」
アルファの視線の先に目を凝らすと、教団のアジトの一つである商会の方で襲撃を行っているミアの姿があった。
建物の崩壊に注意がむいた構成員達の間を銀色の閃光が曲線を描いて通り過ぎる。
その刹那、構成員達の身体から血が噴き出し、ばたりと倒れていく。仲間が異変に気付いた時には既に閃光が横切り、悲鳴を上げる間もなく絶命していく。
銀色の閃光の正体は短剣型のスライムソードを両手に握るミアで、灰色の髪をたなびかせる彼女の目で追うことが難しい程の軽やかな身のこなしと双剣の連撃によるものだった。
速い速度での小回りの利く動作が洗練されている。
短剣は魔剣士が使う剣よりリーチは短いがその分取り回しが容易いという利点を活用している。しかも使っているのはスライムソードなため、必要時には武器の形状を変えられる。
その剣技はシドがアルファ達に教えたものではなく、敵を多く素早く仕留めるために彼女自身が自ら考えて編み出したものだ。
『まだ2年しか経っていないのにかなり上達してるな』
「そうね……あんな子を大勢保護していたのに貴方は私達に黙っていたわね」
『まだ引き摺ってるのか』
「別に……」
アルファ達七陰が一度シドの元を離れて新たな拠点に移った後、ミア達のことをアルファ達に紹介した。
ミアの父親がディアボロス教団のメンバーだったことと、ミア達がオレ以外の奴の命令には従わないと公言したことでひと悶着あったが、オレが仲裁に入ってなんとか収まった。
とはいえ、今まで彼女たちのことを黙っていたのだからしばらくアルファ達とギクシャクしていた。
「…貴方もシャドウと同じくなにか考えがあってのことよね」
あいつに考えなんかはない。
「でももう少し私たちを信頼してほしいわ」
『信頼はしている』
アルファ達に考えを伝えるのはそれが必要かどうか判断してからにしている。
『それより……向こうもとんでもないのを放ってきたようだぞ』
ミアがいるところから少し離れた区画に、成人男性二人分の身長はありそうなほどデカい影があった。
黒く爛れた顔はかろうじて目と、鼻と、口が判別出来る。全身は歪に肥大し、丸太のように太い左腕の先は完全に変質して指先が鋭く太い四本の爪が生えた姿に変わっている。
――――グォォォォォォッ!!
異形の巨人は凄まじい雄たけびを上げて暴れていた。左腕を振るえば地面が抉れ、建物は破壊される。出動した騎士団も何人かがいともたやすく肉塊に変わった。
「あれは『悪魔憑き』の子ね。……教団の実験であんな姿に」
アルファは歯を食いしばり、表情を歪める。
魔力を感知したところ、別の魔力を無理に身体へ注入されたのが原因で化け物へと変化してしまったようだ。波長の異なる魔力を注入するということはガソリン車に軽油をぶちまけるのと同じもの。あの巨人はそれに苦しんで暴れているのだ。
そんな巨人の前に剣を振る人影が見えた。見覚えのある赤い長髪をたなびかせ、巨人に容赦なく高速の連撃を繰り出す。腕を切り刻み、脚を落とし、首を飛ばす。
だが巨人は再生能力付きで、斬られた箇所は瞬時に元に戻っていた。
「…………あれが傷付けるだけだと、何故分からないのかしら」
『あれがどんな目に遭ったのか向こうは知らないんだ。しかも仲間である騎士が多く殺されている。敵と認識するのも無理はない。で、行くのか?』
「当然よ」
オレからの問いにアルファは即答した。同じく悪魔憑きを発症した相手に仲間意識を持ってるのだから当然か。
ミアは既に巨人のいる方に向かっている。
丁度いい。あれを試させるいい機会だろう。
♢♦♢
夜空に甲高い咆哮を放った。
それに応えるかのように、月の隠れた空から雨が降り出す。
最初はポツリ、ポツリと。次第に勢いを増し、巨人の血に当たると白い煙を上げていく。
「少し時間がかかりそうね……」
巨人と対峙するアイリス。
その巨体にどれだけ傷をつけても信じられない速度の再生能力ですぐに閉じていく。
八人も騎士を一振りで殺し、建物に被害を与える怪力と再生能力を併せ持つ巨人を前に、アイリスは戦う道を選んだ。
そうした一番の理由は自分が負けるとは思っていないからだ。未だかつて、アイリスは自身が負けると思ったことは一度もない。
アイリスは剣を構え、再生を終えた化物へ疾走する。
直後、甲高い音と共にアイリスの剣が弾かれる。
凄まじい衝撃に、アイリスの腕が痺れた。
後方へ回りながら飛んでいく愛剣を後目に、アイリスは突然の乱入者を睨む。
それは漆黒のボディスーツを身に纏った女だった。顔は隠れて見えないが、声はまだ若い。 女の後方には全身を漆黒のローブで覆った人物がいて、こちらには見向きもせず巨人を見上げている。
「何者だ」
「私の名はアルファ」
女性は一言そう言って、剣を構える。
「待て、いったい何のつもりだ。騎士団に敵対するのであれば容赦は……」
「敵対……?」
アルファはアイリスの言葉を遮り、クツクツと、嘲るように笑った。
「何がおかしい」
「敵対……これほど滑稽な言葉があるかしら。何も知らない愚者が敵対などとおこがましい」
「何だと……!」
「観客は観客らしく舞台を眺めていればいい。我々の邪魔をするな」
♢♦♢
「ミスト様!」
アイリスの方はアルファが足止めしてくれている隙にミアが駆けつけてきた。
「これはいったい何事です!?」
『どうやらこいつはアレクシア王女の血を使って無理矢理強化された悪魔憑きのようだ』
「……あいつら人を何だと思って……ッ!」
教団で実験動物扱いされていた経験のあるミアは眉間を寄せ、ここにはいない連中に対し怒りの色を示した。
『怒るのは後だ。それよりもこいつをどうにかするのが先決だ』
「っ!はいっ!それではミスト様――――」
『ミア。ワタシが動きを止めている間にお前がこいつを助けろ』
「えっ!?」
まあ驚いて当然か。なにしろミアは悪魔憑きの治療の実践をまだやっていないからな。
「ま、待ってください!これまでミスト様やアルファ様達七陰しか行ってこなかったのでは―――」
『それはこれまでの話だ。いつまでも治療をワタシ達に頼るわけにもいかない』
「で、ですが、解呪の訓練なんてまだ途中で――」
『訓練を少し見ていたが大体できていた。あとはワタシがお前たちを元に戻した時の感覚を思い出してやればいい』
「そ、そんな無茶苦茶な…!」
『これからワタシ達は長年陰に潜んでいた連中を相手にするという無茶苦茶なことをやるんだ。こんなところでお前が躓いてどうする?』
「っ!」
『話は以上だ。すぐにこいつを――――』
会話の途中で巨人がオレに向けてその太い左腕を振り上げ、振るってきた。受け流し身をかわすこともできたが、あえて多少のダメージを負うことを覚悟で、オレは拳をガントレット付きの左手の手のひらで正面から受け止めた。
高く重い音が響く。
ジンジンと肘から肩口まで強烈な威力が突き抜ける。
『……流石に痛いな』
だが捕まえた。
拳を掴んだままスライムボディスーツを変化させ、相手に絡みつかせていく。
徐々に相手の拳から腕を伝い………相手が気付いた時は、既に手遅れ。
スライム種の本来の戦闘方法を応用して相手を拘束していた。
慌てて引き剥がそうとするが、既に全身を覆っているため効果はない。
せっかくの再生能力もこうなってはどうしようもないだろ?
『動きを抑えた。ミア、今度はお前が救う側になれ』
「――っ、はい!」
ようやく決心したミアは瞬足で巨人の懐へと潜り込み、巨人の体に触れて自らの魔力を流し込み始めた。
「グアァァァァァアアアッ!!!」
苦しみの声を上げる巨人。だが身体の中で暴れている別の魔力が外へと弾き出され、濁流のように不安定だった魔力の流れが清らかなものへと変わる。
魔力を意のままに操作するのではなく、その魔力にとってもっとも自然な流れへと導いていく。
「……あ、ああ」
巨体は白い煙を上げながら萎んでゆき、少女ほどの大きさにまで小さくなった。腐りかけた身体も問題なく染み一つない健康的なそれへと戻っている。
「…………はぁっ……はぁっ…………!」
初の治療で疲労したミアは汗を流して息切れをしながらも、倒れる少女の体を優しく受け止める。
「ミスト様……私…できました…!」
『ああ、お前が救ったんだ』
「……はいっ……はいっ………!」
雨が降り続ける中、少女を抱きしめるミアの頬を瞳から零れる熱い液体が伝っていた。
オレが彼女の父親の訃報を告げた日とは違い、希望と嬉しさから流しているようだった。
原作とアニメを把握している方もうは気付いているでしょう。
そう、ミアはあのキャラクターです。
「いつからオリキャラだと錯覚していた?」
「なん・・・だと・・・」