~辿り着く場所~ -Another Story-   作:ナナシの新人

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舞台が「CLANNAD」になるため別作品として投稿しました。


Prologue

 肌を焼くような暑い日差し、鳴き止むことのない蝉しぐれ波、突発的に発生するゲリラ豪雨、アスファルトに揺れる陽炎。

 今年の夏は、例年にも増して厳しい酷暑が続いていた。

 そんなある日こと。友人のたったひと言の提案から、生涯忘れることのない大騒動にまで発展するなんてことは夢にも思わなかった――。

 

 CLANNAD×五等分の花嫁 ~辿り着く場所~ 番外編。

 

 

           * * *

 

 

 三年の春、旭高校から元いた光坂高校へ復学し、そこそこの成績で卒業した年の夏。今週末から始まる初めて迎える盆休みは、自宅アパートで資格の勉強をしつつ、のんびり過ごす予定だったが。この春上京して来た二人の男子がアパートを訪ねて来たことで、事態は一転することになった。

 ひとりは、ここよりも利便性の良い都心部に住む武田(たけだ)。もうひとりは何の因果か、隣に越してきた上杉(うえすぎ)

 

「冷房いいな」

 

 麦茶を飲みながらしみじみと、上杉(うえすぎ)が言う。

 

「お前も使えばいいじゃないか。部屋に完備されてるんだから」

「電気代がバカにならない。それに大学も、バイト先も、冷暖房完備だからな。水飲み放題の図書館、最高!」

「家で倒れたら元も子もないだろ」

「正論だね。そんなことになれば、彼女を心配させることになるんじゃないのかい?」

「くっ......!」

 

 顔をあからさまに背けた。どうやら、自覚はあるようだ。

 

「で、なんの用だよ? まさか本当に、ただ涼みに来たわけじゃないよな?」

「夏期休暇の真っ只中だからね。岡崎(おかざき)君ももうすぐ、盆休みだよね?」

「まーな」

「そこで。何か、面白いことをしようかと想って。ね?」

 

 無駄に爽やかなスマイルでウインク。なんだか、久々に見た気がする。

 

「今日は、彼女さんは?」

「実家に帰ってる。親戚の墓参りだそうだ」

「そうなんだね。岡崎(おかざき)君は?」

「命日に合わせて申請してる。この時期は、どこも混み合うからな。初盆ってわけでもないし」

「なるほど、賢い判断だね。うん、好都合だよ。今のうちに話しを進めよう。付き合い始めて、一年くらい経つんだよね?」

 

 創立者祭の前だから、一年と数ヶ月くらい。

 俺が学校を卒業してからは、この小さなワンルームのアパートで同棲生活を送っている。

 

「半年近く同棲していることだし、そろそろ次のステップへ進むことを考えてもいいんじゃないかと思ったのさ」

「次のステップ?」

「決まっているじゃないか。つまり、結婚さ」

「結婚って......」

 

 様々な順序(ステップ)をすべてすっ飛ばして、話しが一気に飛んだ。

 そもそもアイツは、同棲生活を送っている古河(ふるかわ)(なぎさ)は年齢はひとつ上ではあるが、書面上ではまだ学生の身分。結婚はおろか、同棲生活も本来なら校則に引っかかる。両親から許可が下りてるとはいっても、下手すれば退学処分案件に該当しかねない。

 

「校則は、不純異性交遊。僕の主観では、二人の交際は不純に当たらないと思うけど。上杉(うえすぎ)君は、どう思うかな?」

「まぁ、少なくともチャラついた遊びじゃないことくらいは判る」

「そこで、考えたのさ。題して、プロポーズ大作戦!」

 

 どこかで聞いたようなタイトルだ。タイムリープでもするのか。訴えられても知らないぞ。

 

「一緒になるつもりはないのかい?」

「まあ、いずれはな」

 

 ただ、卒業が最優先だから早くても卒業後になる。

 何よりそこへ至るには、巨大な障害を乗り越えなければならない。一番の難所は、(なぎさ)の父親の許しを得ること。同棲することを話した時は娘の気持ちを尊重してくれたけど、結婚という話しになればどう楽観的に考えても一筋縄にはいきそうにないような相手、いろんな意味で。

 

「理由はどうあれ、相手の気持ちを知るのはいいことだと思うぞ」

 

 珍しいことに、上杉(うえすぎ)がこの手の話しにノってきた。けど、プロポーズって......具体的にどうすればいいんだ。

 

「高級レストランで食事をしたあと、ロマンチックなところでプロポーズするのが定番のようだね」

 

 スマホで調べた検索結果を、武田(たけだ)が読み上げる。

 シチュエーションはさておき、あらかじめ用意した指輪と花束か何かを差し出して申し込む、と――。

 

「なんか、普通だな」

「確かに、大作戦と銘打っている割にはマニュアル通りのプロポーズだ」

「お前なら、どうする?」

「ま、まあ、そうだな。気持ちさえこもっていればいいんじゃないのか? うん、きっとそうだ、そうに違いない!」

 

 腕を組んで、何やら言い聞かせるように頷いている。にしても、妙な説得力を感じるのは気のせいだろうか。

 

「クルーザーか、ヘリを貸し切って、ナイトクルージング中にというプランもあるようだよ?」

「出来るか」

 

 んな余裕があれば、もっと別なことに使う。あいつ、普段から贅沢のひとつも言わないし。

 

「てか。お前ら、帰省は?」

「何かと忙しくてね。上杉(うえすぎ)君は? 失敬、愚問だったね」

「まだ何も言ってない」

 

 聞かなくても察しがつく。向こうの方から訪ねてくるんだろう。つい数ヶ月前のゴールデンウィークの時のように、仲良く五人揃って。

 

「今回は、部屋に泊めてやるのか?」

「そんな訳ないだろ。そもそも、布団は一組しかない」

「つまり、寝具さえあれば泊めるということだね」

「変な解釈してくれるな。知られでもしたらシャレにならん!」

「はっはっは! テレることないじゃないか。自然の摂理さ、地球に生命が誕生して以来続くね」

 

 ただ彼女を家に泊めるか否かの話が、生命の起源まで遡る壮大な話にまで発展していった。

 

「にぃちゃん!」

 

 話が脱線しかけた時、大声と同時に玄関のドアが開いた。

 黒いタンクトップ姿、色白で体の線の細い男子が断りもなくとても慌てた様子で、部屋に上がってきた。

 

「あ、どうも。って、挨拶なんてしてる場合じゃなかった。大変なんだよ!」

 

 断りもなく部屋に上がってきたこいつは、坂上(さかがみ)鷹文(たかふみ)。ひと学年後輩の弟で、この春卒業した俺と入れ替わる形で光坂高校に入学した、三つ下の後輩に当たる。卒業後偶然、後輩姉弟と出くわしてから、なぜか妙に懐かれている。と言うよりこいつの彼女、河奈子(かなこ)の強めの愛情表現から逃げ場を求めて頼って来る、が正しい表現だろう。

 

「で、今回はなんだよ? また、河南子(かなこ)にシメられたのか?」

「違うよ。もっと大変なことなんだ。ねぇちゃんが......」

 

 深刻な表情を覗かせ。自身の実の姉であり、俺の後輩に当たる、坂上(さかがみ)智代(ともよ)の名を口にした。まさか、智代(ともよ)の身に何か――なんてことはありえない。何せ性別、体格差、人数差も関係なく喧嘩で無敗を誇る腕っ節、心配するだけ無駄というもの。

 

「ねぇちゃんが暴走する!」

「はあ?」

「ほら、とものことだよ」

 

 確かそう、冷え切っていた両親の隠し子。父親と不倫相手との間に生まれた子どもで今は、恩師の幸村(こうむら)の爺さんが都合をつけてくれたアパートで、三人で面倒を見ていると聞いた。商店街で、手を引いて歩いている姿を見かけることも何度かある、が――。

 

「ねぇちゃん、とものこと溺愛してるんだ」

「だろうな。で?」

「ともを置いて蒸発した母親を、ずっと探してたんだ。前に話したでしょ? 送られてきた手紙から、居場所を割り出したんだよ。それで、ねぇちゃんと河南子(かなこ)が会いに行ったんだけど......」

 

 一通りの事情を聞き終え、駆け込んできた鷹文(たかふみ)をともがひとりで留守番をしているアパートへ帰らせた後も、重苦しいどんよりとした空気が部屋中に立ち込めたまま渦巻いている。

 

「ふむ、これは大変なことになったね」

「俺たちが気安く口出し出来る話しじゃない。家族の話だ」

 

 険しい表情で腕を組む上杉(うえすぎ)の意見は、至極真っ当。鷹文(たかふみ)も本気で頼って来た訳じゃない、ただ、どうにも受け止めきれない感情を吐き出したかったんだろう。誰にだって、そういうことはある。

 

「今回は、問題を無かったことには出来ないぞ。バスケ部の時みたいにはな」

「ああ、判ってる」

 

 何か出来る、何て身の丈に合わないおこがましいことを思ってる訳じゃない。けど――。

 

「聞いちまったからな」

「ははは、岡崎(おかざき)君らしいね。上杉(うえすぎ)君、キミは?」

「ま、経験者としてはちゃんとした方がいいとは思う。やれやれ、進学しても振り回されれるのか、俺は......」

 

 上杉(うえすぎ)はため息を漏らし、武田(たけだ)は爽やかに微笑んでいる。ひとつ小さく息を吐き、肩越しに窓の外を見る。目映い夏の日差しに目を細める。

 

「やるか、人生相談......」

 

 学生の頃と比べると、随分と短い夏休み。

 不謹慎なのかもしれない。それでも、何処か何とも表現しがたい胸の高鳴りのようなものを感じていた。

 茹だるような夏の暑さと、夏空の蒼さの中で――。




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