~辿り着く場所~ -Another Story- 作:ナナシの新人
「
右手の人差し指を立てて、どや顔で言い放った
「ふっふっふ、
「あ、ああー......ま、そうだな」
「大丈夫です、自信を持ってください。みんなも、お二人はお似合いだって言ってます。元気のない顔していると、本当に大事なものを掴み損ねてしまいますよ」
――誰かが言ってたな、そんな青いセリフ。まったく、返って来るだなんて想ってもみなかった。だけど――
「ん?」
「いや。そうだな、そうだよな」
不思議そうに首をかしげてた
「はいっ。ですので、私たちは全力でサポートすることに決めました!」
「いや、それは遠慮しておく」
「まあまあ、そう遠慮なさらずに」
何の見返りを求めない無垢な笑顔を崩さず、この場を動く気配もない。
これはアレだ、いつかの大掃除の時と同じで「はい」と頷かない限り永久に物語が進行しないゲーム的な選択肢。
「ハァ、好きにしてくれ」
「しししっ、お任せください!
「既に同棲してるけどな。あらかじめ言っておくけど、お前たちみたいにお嬢様じゃないから出来ることには限度があるぞ。てかお前、
「あ、あはは、それはそれ、これはこれと言うことで......」
自分たちのことは棚上げして、苦笑いでやり過ごそうとしてる。
二人の関係は、ゴールデンウィークに会った時からあまり進展は見られない。そうでなくても長期休暇以外はあまり逢えない遠距離恋愛の二人の貴重な時間を、別のことに割かせてしまっていいのかと単純に思ってしまうが。世話焼きモードのスイッチが入った
「ところで、何しに来たんだ?」
「あ、そうでした。
と言いかけたところで、ドアが開いた。
「なんだ、
「それで遅かったのね。二人とも食べずに待ってるわよ」
「そっか、悪いな」
「それは私たちじゃなくて、二人に言いなさい」
「了解。サンキュ」
頷いた
「それで、
「晩ご飯出来たよーって呼びに来たんだ」
「それこそ、電話でいいじゃない」
「そうなんだけど、
「あ、見に来たんだ。とっても素直で良い子だよ。明日一緒にパンケーキ作る約束したんだ」
「はいはい! 私も参加希望ですっ!」
「構わないけど......」
やや曖昧な返答をした
「あんたが代わりに見てくれるなら、私はショッピングに行こうかしら? もちろん、フー君を誘って」
「え......ええーっ!?」
「あら、何か問題あるのかしら? 忠告したはずよ、ゆめゆめ油断しないようにって」
「う、ううっ~」
「
「冗談だったんだっ!」
「ふん」
「まったく。明日、部屋借りていい?」
「別にいいけど」
けど、調理器具がない。ともと一緒に作るなら、コンロよりもホットプレートの方がいいだろう。スマホを立ち上げ、着信履歴から
『へい、
「客じゃない。俺だけど」
電話に出たのはパン屋を営む
『あん? 誰だ、テメェ。俺なんてチンケな名前の小僧は知らねぇな』
「悪いけど、急ぎの用なんだ」
『けっ、つまんねーな。で、何の用だ?
「違う。明日、友だちとパンケーキを作るって話しになって、ホットプレートあったら貸して欲しいんだけど」
『ホットプレートか。ちょっと待ってろ、
少しの間。代わって電話に出た
「貸してくれるってさ」
「ありがとう。じゃあ、また明日。材料買いに行かないと」
「またね。近くに、スーパーあったわよね?」
「荷物運びはお任せあれ! では
ビシッと敬礼した
「そういえば、ゴールデンウィークに獲ったぬいぐるみ。役にたったみたいだよ」
「フー君と遊んだって言ってたわ」
「おおっ! まさかの、お役立ちだね」
話しながら、隣の部屋に戻って行く三人。俺も自宅アパートに戻り、温め直してくれた食事を
眠っているともが起きないように、
「明日、ホットプレート借りに行ってくる」
「はい、ありがとうございます。パンケーキの材料は、
「ああ、話してた。
「そうですか。ともちゃん、きっと喜んでくれます。楽しい想い出をいっぱい作ってあげたいです」
「そうだな」
話しを終えて、寝ようと身体を向き直したところ、メッセージの着信を知らせるランプが光っていた。液晶画面のライトを絞り、届いていたメッセージを開く。送信者は、
そして、翌朝。午前9時を回った頃、呼び鈴が鳴った。
「はい......て、オッサン?」
ドアを開けた先に、
「さっさと手ぇ貸せ、小僧」
「あ、ああ......」
抱えている荷物の反対側を持って、室内へ運び、居間のテーブルに置く。荷物は、昨夜話したホットプレート。
「お父さん、持ってきてくれたんですか?」
「おうよ。ちょうどいいトレーニングになったてなもんよ」
「取りに行くって言ったのに。店ほっといていいのか?」
「細けぇことはいいんだよ、厚意は素直に受け取っておけ。差し入れだ、ありがたく受け取れ」
焼きたてのパンが詰まった紙袋。焼きたてパンのニオイにつられて背伸びをするともに、紙袋を見せてやる。
「いいにおーい。おいしそー」
「お、見る目のある子じゃねーか。そうだろそうだろ。なんせ、この俺様が焼いたパンだからな! 安心しろ、地雷は入ってねぇ。事前に処理したからな......」
「んー?」
身体を張った解体作業だった。地雷の正体を知っている
「しかし、相変わらずチンケな部屋だな」
「そんなことないです。昔住んでいたアパートも同じくらいでした」
「ああ、そうだったな。さて、公園行くぞ。野球の時間だ」
どこに忍ばせていたのか、プラバットとカラーボールを取り出した。
「また唐突に......とも、どうする?」
「ん? いいよー」
「そっか。
「はい。私は皆さんを待っています」
「頼むな。じゃあ、行こう」
「うん」
水筒、帽子、タオルを入れたバックを持って、ボール遊びを古河パンの向かい公園へ向かう。公園に到着してすぐ、オッサンのマニアックな往年の名選手のバッティングフォームレクチャーが始まった。
「こう?」
「スジがいいな。よし、始めるか。小僧、跪け」
「座れでいいだろ」
言葉のチョイスに悪意を感じる。その大人げない意地悪を、ともが粉砕。間一髪で避けるのが精一杯な痛烈なピッチャー返しが、オッサンの顔面すれすれを襲った。
「や、やるじゃねぇか」
「声がうわずってるぞ」
「いまのでいいの?」
「ああ、ナイスバッティングだ。どんどん狙ってやれ」
「うん!」
さすが、運動神経抜群の家系の血筋。とても初めてとは思えない当たりを次々と連発。威厳を保つため距離を変えないオッサンは、何球か直撃を受けていた。そしていつの間にか、近所の子ども達が集まって野球大会が始まった。そのタイミングで外れて、アパートに戻る途中、同じ方向へ歩いている買い物袋を持った姉妹五人と偶然出会った。
「とものこと、頼む」
「任せて。それじゃあ、お姉さんたちと一緒に行こう」
「うんー」
「はぁ~、可愛すぎます! ぜひ、私の妹にしたいです!」
「くるしいよ~」
「あんた、そればっかりね」
「私は、
「そう言えば
「今回も誘ったんだけどね。都合が合わなくて」
とまあこんな感じのやり取りをした後、俺はひとりで指定場所のファミレスへ足を進めた。先日、話し合いをした席に
「今、五人がアパートに向かったぞ」
「先約があることは伝えてある」
「そうか。それで?」
視線を動かして、今日ここへ呼び出した張本人、
「僕なりに調べてみたよ。想像以上に辺鄙な農村だよ。人口は多く見積もっても百名弱、村役場は療養所としても使われているみたいだね」
「療養所......病院ってことか?」
「いいや、文字通り療養所だよ。十数年前は村医者が居たみたいだけど。今は数日に一度、麓のクリニックから往診に来る程度ようだね」
本当の意味で、静かに過ごせる場所ということのようだ。
小さな集落の農村には、子どもが通うような学校もなければ、幼保育園もない。最寄りバス停まで大人の足で一時間以上かかる山道、最寄りの学校はバスを乗り継いで更に一時間以上かかる。通学だけで単純に二時間以上、とてもじゃないが、小さな子どもが暮らせる環境にない。
「仮に、
「行政手続き上、未成年に養子縁組みは不可能だ。年齢を満たしていたとしても、未婚者の場合ハードルは更に高い」
だからこそ押し付ける形ではあったが、本当の父親へ託したんだろう。おそらく向こうも、感情的になっている
「まったく、難儀な問題だ。答えがある試験の方が数倍優しいぞ」
「同感だね。憂いでいてもどうしようもないから、もうひとつの問題に移ろう」
もうひとつの問題......今の問題だけでも手一杯なのにこれ以上の問題が増えるのは御免被りたいところだ。
「僕なりにプランを考えてみたんだけど。どうかな?」
提示されたのは、盆休み前に発案されたプロポーズ大作戦の方だった。
「まだ生きてたのか、これ......」
「当然だよ。僕たちにとってはこっちが本命だから、ね?」
――また無駄に爽やかなウインクを。
「
「前に話しただろ、気持ちがこもっていればいい。
「判らん」
基本的に控えめな性格だから、それこそ
いつの間にか、真面目に考えている自分がいた。
少しだけ気恥ずかしくなった。
だけど、そう本気で考えるくらい俺は、