~辿り着く場所~ -Another Story-   作:ナナシの新人

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Episode Final & Epilogue

 布団を片付け、顔を洗って着替えを済ませ。朝食の前に、散歩に出かける。

 以前散歩に出た時より遅い時間、村は既に起きていた。学校作りを終えた村人は、普段の日常の生活に戻っている。ただ一点、この村に来て間もない頃とはまったく異なる猛烈な変化を除いて。

 

「おう、兄ちゃん。おはようさん」

「おはよう。朝から精が出るな、もう始めてるんだ」

「ああ。野菜はな、朝取りが一番美味いんだよ。ほら、持っていきな」

 

 学校作りの修繕指揮を執ってくれた頭領から、色鮮やかな野菜が盛られた篭を受け取る。

 

「ありがとう。もうすぐ、朝飯出来るよ」

「ありがとさん。他の連中にも伝えておく。有子(ゆうこ)さんの子どもは、いつ頃来るんだ?」

「今日の昼頃かな」

「そうか。じゃあ、兄ちゃんたちは今日帰るのか。かなちゃんの、わっしゃっしゃって笑い声も今日で聞き納めになるなぁ」

「また来るよ、みんなで。ともに、みんなに会いに」

 

 学校作りを共にしてから、道ばたで誰かとすれ違う度に、こんな会話を自然と交わせるようになった。それも殆どが相手から話しかけてくれて、いつも間にか両手がいっぱいになるくらいのお裾分けを貰って、療養所に戻る。メニューに朝取りの新鮮なサラダが追加されて、村人の殆どが食堂に集まった賑やかな朝食。食後、洗い物の合間に智代(ともよ)が訊いてきた。

 

岡崎(おかざき)、手伝ってくれていたお前の友人たちは今日も来るのか?」

「たぶんな」

 

 昨夜の別れ際、四葉(よつば)が「また明日」って言っていたし。最終チェックに来る言っていた武田(たけだ)は、朝の散歩の中に、滞在先を出発したという連絡があった。姉妹と上杉(うえすぎ)よりも先に到着するだろう。

 

「ちゃんと、お礼を言わないといけないな。古河(ふるかわ)さんのご両親の手も煩わせてしまった」

「いえ、お父さんもお母さんも迷惑だなんてこれっぽっちも思ってませんよ」

「違いないな」

「そうか。少し出てくる。昼前には戻る」

 

 食器を片づけ、エプロンを外した智代(ともよ)は独り、食堂を出て行った。俺たちも洗い物を済ませて、寝泊まりさせて貰っていた相部屋に戻る。はんだゴテを片手にモニターの修理をしていた鷹文(たかふみ)が、顔を上げた。

 

「にぃちゃんと(なぎさ)さんだけ? ねぇちゃんは?」

「散歩だってさ」

「そっか」

「なんだぁ? 相変わらず辛気くさい顔してるなぁ。それより見てさ、これ!」

 

 鷹文(たかふみ)の憂いを吹き飛ばす、ハイテンションな河南子(かなこ)の声。部屋に入ってきた彼女の手には、クレープらしきものが握られていた。

 

「なんと、このクレープには生クリームと一緒にアイスが挟んであるのだ!」

「どうしたんだよ、それ?」

「昨日の三時休憩に、二乃(にの)さんと三玖(みく)さんがお菓子作ってくれたでしょ。その時ねだってたみたいなんだ、クレープ食べたいって」

「別にいいだろ、ふたりも作ってみたいって言ってたし。アイスは自分で作ったやつだし」

「お前、アイスなんて作れたのか?」

聡美(さとみ)さんが、作り方教えてくれた」

 

 誰のことかと思えば、洗濯機の件と、この村に来る前は教師をしていた女性のことだった。

 

「ちゃんとお礼いったの?」

「言ったって。てか、朝から機械いじりとか根暗を極めてるな」

「ほっといてよ。よし、仮組み完了。河南子(かなこ)、コンセント差して」

「自分でやれ」

「時間が惜しいんだよ。他にもやらないといけないから」

「はぁ、仕方ないな。ほら、貸せ」

 

 時計の針を気にする鷹文(たかふみ)を見て、河南子(かなこ)は嫌々な言葉使いながらも素直に応じた。

 俺と(なぎさ)は手分けして、部屋の掃除を始める。使わせて貰っていた布団を干して、掃除機をかけて、床と窓の拭き掃除。残りの細かな部分を(なぎさ)河南子(かなこ)に任せて、修理が完了したモニターを、廃屋をリノベーションして作った学校に取り付ける。

 

「映ったんだよな?」

「スマホはね。タブレットを使うか、パソコンを使うかは分からないけど。変換ケーブルの規格さえ合えば映るはずだよ」

「大仕事ご苦労さん、お疲れ」

「......ありがと。後は、ちゃんとともの役に立ってくれれば報われるよ」

「ここはしばらくの間、管理人の作業場になりそうだけどな」

「そうだね。だけど――」

 

 鷹文(たかふみ)は、教室内をしみじみと見つめている。

 

「この学校、本当に僕たちが作ったんだよね? 今でもまだ信じられないよ」

「そうだな。壁とか、屋根の修理はとてもじゃないけど出来なかった」

 

 電気回り改修も、芳野(よしの)さんの適確な指南があってこその賜物。誰かひとりでも欠けていたらなし得なかった。

 思えば、この突拍子のない発案をしたのも、この村の人たちと最初にうち解けたのも......キーパーソンは、河南子(かなこ)だった。

 

「凄いヤツだな、お前の彼女」

「調子に乗りそうだから黙っておくよ」

「照れるなよ」

「いや、ことある度にマウントとられそうだから言ってるんだけど」

 

 そう言いつつも、やっぱり照れくさそうだった。

 

           *  *  *

 

 十時前に村に来た武田(たけだ)から一時間遅れで、上杉(うえすぎ)と姉妹たちが到着。

 再生手術を受けたものの、さすがに頭の上までは右腕が上がりきらない俺の代わりに、蛍光灯の取り換えと火災報知器の取り付け作業を上杉(うえすぎ)が。武田(たけだ)鷹文(たかふみ)は、パソコンとタブレットの映像転送テストを行い。俺は、管理人が麓の町で調達してきた消火器などの防災設備の設置作業に取りかかる。

 諸々の作業は、一時間足らずで完了。かつて、縁側だった場所に設置したベンチに腰掛ける。

 

「......終わった」

「やれやれ、何とか形になったな」

「僕は、やり甲斐があって面白かったけどね」

「安堵と達成感で訳分かんないよ」

 

 感想は、四人四色。

 ただ、何とも形容しがたいこの達成感だけは共有していた。

 少しだけ涼しくなった風を受けながら、村を眺めていると、スマホが鳴った。相手は、早苗(さなえ)さん。最寄りのバス停に着いたという知らせ。通話を終えて、立ち上がる。

 

「着替えるか」

「......うん。上杉(うえすぎ)さんと武田(たけだ)さんは?」

「とりあえず戻るか。喉が渇いた」

「そうだね。涼をとらせてもらうよ」

 

 世話になっている施設に戻り、汗をかいた服を着替えつつ帰り支度を整えて。少し早めの昼食は、びっくりするくらい豪勢だった。

 管理人に礼を伝え、一足先に村の入り口付近で、(なぎさ)の両親とともの到着を待つ。

 

鷹文(たかふみ)智代(ともよ)は?」

「それがまだ......」

「大丈夫でしょうか?」

「あの人、結構子どもっぽいからね」

 

 昼前には戻ると言っていたが、もう十二時を回っている。(なぎさ)は、心配している。河南子(かなこ)は、やや呆れぎみで腕を組んでいる。

 

「来たみたいだね」

 

 武田(たけだ)の言葉を聞き、山道へ目を向ける。みっつの影が山道を登って来た。いの一番に、河南子(かなこ)が駆け出す。

 

「ともー! 会いたかったよー!」

「くるしーよー。もー、しょうがないなー」

 

 どっちが子供か分からないな、と思いつつ。(なぎさ)と一緒に彼女の両親の下へ。

 

「すみません。朝早く、こんな遠くまで」

「いいえ。そんなことありませんよ。ね、秋生(あきお)さん」

「おおよ。しかし久しぶりだな、我が娘よ。元気そうだな」

「はい。お父さんも、お母さんも。ともちゃんも元気そうで安心しました」

「当然よ。俺様が英才教育を叩き込んでやったからな。とも、見せてやれ」

「ん? うんっ!」

 

 オッサンからプラバットを受け取ったともは、左前に構えてる。膝とつま先を前に向けたがに股のような独特のバッティングフォーム。また昔懐かしい構え。

 

「たねだ」

「どうだ、この角度、完璧だろ」

「変なもん仕込むなよ。まったく、じゃあ行こう。お母さんに会いに――」

 

 ともの顔付きが変わった。母親が待つ療養施設の道のり。不意に触れた、小さな手。ともの手。もう片方の手は、(なぎさ)の手と繋がっていた。たったの二日間一緒に居ただけなのに、頼ってくれている。

 

「あたしらはまだまだってことか」

「よっぽど楽しかったんだね。にぃちゃんたちとの生活」

「ふむ。しかし、こうして端から見るとまるで本当の親子みたいだ」

「ふふ、そうですね。ね、秋生(あきお)さん」

「けっ!」

 

 半分くらいの所に来たところで、上杉(うえすぎ)と姉妹たちが合流。上杉(うえすぎ)は、ともと遊んだ時のぬいぐるみをプレゼント。

 

「ありがとー!」

「元気でな、とも」

「また、一緒に遊びましょうね!」

 

 四葉(よつば)が抱きつく。一花(いちか)五月(いつき)は一歩引いて見守り。二乃(にの)三玖(みく)は、それぞれノートを渡した。

 

「一緒に作ったパンケーキのレシピノート。クレープとか、カヌレとか、他のお菓子の作り方も書いてあるわ」

「こっちは、ご飯のレシピノート。大きくなって、作れるようになったら作ってみてね」

「うんー」

 

 登り道を歩き、施設の前辿り着いた。

 施設の入り口付近には、管理人と村人。

 そして、一度は手を離してしまった母親。

 母親の姿を見つけたともは、手から離れて駆け出す。止めなきゃいけない。ちゃんと真実を伝えないと、だけど......。

 

(なぎさ)?」

「大丈夫です。朋也(ともや)くん」

 

 葛藤していた俺を安心させるように、(なぎさ)は微笑んでいた。

 

「ともちゃんは、どんなことがあってもきっと乗り越えられます。見てください」

 

 母親に抱きつく、とも。その小さな身体を愛おしそうに抱く母親。

 親子の姿を、回りの村人たちが静かに見守っている。

 それは、まるで......。

 

「だんご大家族です」

 

 そう、村そのものが。まるで大きな家族のように想えた。

 

「とも」

「あっ!」

 

 手造り花冠を持った智代(ともよ)が、親子の下へ。

 離ればなれになってから一番多くの時間一緒に過ごした二人は別れの直前、ひとつの約束をした。

 この先、どんな辛いことが待っていたとしても頑張ろう――と。

 

           *  *  *

 

 シリアスなモードから一転、村の人たちを集めて、オッサン主催の野球大会が始まった。もちろん、プラバットとゴムボール。

 

「行くぜ、とも」

 

 打席に立つともを、母親が見守る。

 

「とも。次は、私だ。思い切りいけ!」

「うん!」

 

 智代(ともよ)の力強い言葉に、大きく頷く。

 

「打っちゃえー」

「ともちゃん、がんばれー」

「どんな当たりでもホームに還るよっ!」

「三人とも、ファイトですよー」

 

 一花(いちか)五月(いつき)は、ともの応援。セカンドランナーの四葉(よつば)は、やる気満々。早苗(さなえ)さんは、少し離れた場所からあくまでも中立で応援。

 二乃(にの)三玖(みく)は、給食がないと言うこともあって、とも母親と管理人、とも先生になる聡美(さとみ)さんに料理を教えている。

 

「行くぜ、全盛期の江川を彷彿させる浮き上がるストレートを受けてみろ!」

「えいっ!」

 

 と、言いつつ、下手投げのスローボール。捉えた打球が、外野に飛ぶ。ゆっくりと打球を追う鷹文(たかふみ)河南子(かなこ)、二人のちょうど間で弾んだ。両方のチームから大きな歓声が沸き起こる。

 盆休みは今日で終わり、学生の頃と比べるとずいぶん短い夏休み。予定通りとはいかなかったけど、振り返れば充実した日々の中で常に傍に居て支えてくれた。

 きっと、こういうことなんだろう。だから、自然と言葉にしていた。

 

(なぎさ)、結婚しよう」

「はい」

 

 間髪入れずに返事が返ってきた。

 (なぎさ)を見る、何の迷いもない顔で微笑んでいた。

 

「い、今、スゴいさらっと言ったよね? お姉さん、思わず聞き間違いかと思っちゃった。うんうん、よかったね!」

 

 一花(いちか)は、驚きながらも賛辞の言葉を。

 

「普通もっとムードがあるものじゃないのっ? まったく。でも、ま、こういうのも悪くないのかもしれないわね」

 

 二乃(にの)からは、若干ダメ出しを貰いつつも。

 

「私は、いいと思ったよ。ちゃんと伝わってきた。シチュエーションも大事だけど、やっぱり気持ちが一番大事だと思う」

 

 三玖(みく)は、素直に褒めてくれて。

 

「わ、私は......びっくりしました。だけど、素敵でした。おめでとうございます」

 

 やや困惑気味の五月(いつき)は、以前のような丁寧語で。

 上杉(うえすぎ)武田(たけだ)は何も言わずに、軽く肩を叩いた。

 様々な反応あと、出来上がった輪の中に戻って来た四葉(よつば)は......。

 

「うえぇーっ!? そっか~。うーん、立ち会えなかったのは残念ですけど、おめでとうございますっ!」

 

 プロポーズ大作戦――理想とはほど遠いプロポーズ。

 反応は様々だったけど、みんなが祝福してくれた。

 そして、数年の月日が流れた。

 

           *  *  *

 

 ~Epilogue~

 

 家の戸締まりを確認して、昨日の夜に予め準備した荷物を担ぐ。

 

「忘れ物ないか?」

「ない」

 

 玄関先で、娘の(うしお)が頷く。

 それでも念のため、もう一度チェック。切符はちゃんとある。武田(たけだ)から預かったビデオレターも持った。財布も、スマホもある。スーツと革靴も持った。

 

「よし、じゃあ行こう」

「うん!」

 

 手を繋いで、玄関を出る。

 心地よい春の日差しが差し、春風に乗って薄紅色の可憐な花びらがひらひらと舞い落ちる。

 今日は、もう五年以上の付き合いになる友人の結婚式。

 

「あ、ママー」

「すみません、お待たせしました」

「いや、玄関のカギかけた?」

「はい、ちゃんとかけました。火の元も大丈夫です」

「そっか。じゃあ行こう」

 

 まだ、乗車予定の始発の電車まで余裕はある。

 娘の(うしお)を真ん中に、三人で手を繋いで歩幅を合わせて歩く。

 小さな手のひら。

 忘れもしない。あの時、繋いだ歩いた時と同じような感じ。

 朝日に照らされて、みっつ並んだ長い影が満開の桜並木の道を、先が見えないくらい、どこまでも遠くまで伸びていた。

 まるで、これから先のまだ見ぬ長い人生のように――。




これで完結になります。
結末は2パターン考えていたのですが、Another Storyとして本編の「汐END if」ではなく「True End」ベースの方を採用しました。これだと、タイトルが「辿り着いた場所」になってしまうのでどうかなとも思いましたが、ご容赦いただけると幸いです。
改めまして、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

――参考資料。
〇五等分の花嫁/春場ねぎ先生
〇CLANNAD/key
〇CLANNAD ~光見守る坂道で~/key
〇智代アフター It' a Wonderful Life/key
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