千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。


後悔って後から悔いると書くが、それはそれとして取り返しは大抵つかない

 

「夫の関心を取り返す方法ってありますか?」

 

そんなことを唐突に口にしたうちはイドラこと千手イドラに、千手アカリことうちはアカリは困った顔をした。

どんな返答をすれば良いのか、女にはわからなかった。

 

 

 

その日、アカリはいつも通り縫い物をしていた。

せっせと、夫であるうちはマダラを拝み倒して許可を得た、新作の衣装である。渋い、紺の着物は夫によく似合うだろうとウキウキしていた。

そんなとき、ひょっこりと訪ねてきたのは義妹であるイドラだった。

庭先から顔を出したそれはなにやらしょもくれて自分を見ていた。

 

「イドラ、どうしたんだ?広間は?」

「広間は千手の女衆に預けてきました。あの、少し、ご相談があるんですが?」

「ああ、そうか。なら、上がりなさい。茶でも出そう。」

 

アカリはそのしょもくれた女を気遣いながら、素早くイドラの悩みそうなことを頭の中で並べる。

 

(千手の人間、いや、男衆の方は柱間と扉間が締め付けている。女の方も、ミトを抱き込んだ時点で、表立って争うほどの奴もいない。なら・・・)

 

アカリは無表情のままに怒りをたぎらせる。

 

あの愚弟か?

 

(いやいや・・・・)

 

アカリはお盆を持って軽く首を振った。

散々にやらかし尽くした後だ。これ以上、なにかがあることはないはずだ。

なんだかんだで、理性の固まりの、理想主義の弟ではあるが、相当妻のことは溺愛している様子だ。

 

(・・・うちはの女を引っかけたあげく、子まで作ったと聞いたときはどうなるかと思ったが。思った以上に良い子だ。)

 

アカリはそっと、常に持っていた短刀を撫でた。

責は取らねばならないと思っていた。それは、例えば、扉間の強硬な策による無理矢理な関係からのものであるのならばなおさらに。

 

あの子達を、お願いします。

 

冷ややかな、静かな目をした白雪の髪をした女を思い出す。お願いとは、何をすれば良いのかとそう思って、それでも、必死に自分よりも立場も力も格上になる男達の尻をひっぱたきながら来たのだ。

忍であるというのなら、血に濡れた手であっても、最後の一線を越えないで欲しいと。

 

(いや、扉間はそこら辺の部分軽く飛び越えてるか。)

 

それでも、和平のためにだとか、一族のためにだとか、そんな理由でイドラに手を出したのならば、きっとアカリは扉間を赦さなかっただろう。

千手であろうと、すぐに懐いてしまう愛らしい女の顔を思い出す。

それが誰かに消費されるように使い潰されたとしたら、アカリは、赦せないと思っただろうから。

 

(何より、あの仕事大好き、兄上大好きの奴に気が抜ける存在があったほうがいいだろう。)

 

ある意味で趣味と仕事が混同している弟分はそうやって振り回されている具合が丁度良い。なにせ、正しいかどうかの理由を幾度も積み上げて結論を出すそれは、一度は出した答えを梃子でも曲げないのだ。

ならば、感情論でそれでいいのかとがなり立てる存在は必要だ。

事実は変わらないとして、正しさなんてもの、時勢で簡単に覆るのだから。

 

「イドラ?」

「はーい・・・。」

 

そこにはしょもくれたイドラがぼんやりと座っていた。

 

「ほら、顔を上げて。どうしたんだ?」

「・・・はい、その、アカリ。」

 

顔を上げてぺたりと立てた耳が伏せるのを幻視する。そんななか、アカリは表では無表情でも心の中でにっこにこだった。

 

(あー、やはり顔がいい!)

 

もしも、アカリが笑みを浮かべられたのなら、もう、それは輝かんばかりに微笑んでいたことだろう。

 

(うちはに来て、何よりも嬉しいのは歩けば美形に当たることだ。一族総出で集まれば、もう、右を向いても左を向いても、系統の違う美形に会えてしまう。いや、政略結婚万歳!)

 

養父の千手仏間が知れば血の涙を流して情けないと言い捨てるようなことを考えていた。が、安心して欲しい。

それ以上にひどいことを、扉間もしているのだからとアカリは笑う。

現在、手を出していても、扉間のやらかしは誤解であるのだが、広まってしまったものは手遅れなのだ。

悲しいことではあるが。

 

(仏間殿は草葉の陰で泣いていればいい。死んだときは、千手とうちはの合いの子だと、嘲笑いながら変化の一つで顔を見せてやるさ。)

 

そんな悪魔のようなことを考えながらアカリはイドラを見た。それにイドラはしょんもりしながら口を開き、そうして、冒頭に繋がるのだ。

 

 

「・・・・また、扉間が何か?」

 

みしりと湯飲みを持つ手が震えるのを見て、イドラが首を振る。

 

「・・・・違います。何もしてくれません。」

 

イドラはすんとしながら口を開いた。

 

「前は、帰ってこられたらずっと構ってくれたのに、広間が出来てから全然可愛がってくださらないんです。寂しいです。夜も、前みたいにしてくれません。」

 

イドラはまたくーんとしながらしょんもりとする。

前なら何よりも先に頭を撫でてくれたし、膝にも乗せてくれたが、今では全部広間にそれが向かっている。もちろん、最初の子どもは可愛いだろうし、イドラもそれは理解している。けれど、それはそれとして寂しい。

前ならば同じ布団で扉間にくっついて爆睡できていたのに、広間の授乳の関係で同じ部屋でも別々の布団になっている。

仕方が無いのは無いのだが、それはそれとして寂しい。

けれど、それを表立って言うのはさすがに大人げない気もする。そのため、イドラはその日、アカリに相談にやってきたのだ。

 

アカリはそれに思わず額を手で押さえた。

 

(・・・・いや、確かに扉間の気持ちもわからなくはない。)

 

赤ん坊を産んですぐ、イドラには静養を取らせていた。産後が一番に経過の上で気になるのだと、赤ん坊にお乳をやるとか、本人が望む限りおしめだとかはさせたが、それ以外は扉間とアカリが世話をしていた。

互いに今は亡き末っ子のおむつを替えた仲だ。そんじょそこらの新人よりは上手く出来る。

 

(いや、大変であった赤ん坊に会いたい千手やうちはの人間をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。)

 

お前ら、産後すぐに赤ん坊に会いに来た姑とか舅とかに殺意抱いただろうが、後にしろ!

 

そう言って千手の人間を黙らせたのは記憶に新しい。

そんなこんなで扉間がイドラに閨で手を出さない気持ちはわかる。というか、すけべなお前がよくぞ我慢とちょっと涙ぐんでしまいそうだった。

 

「・・・やっぱり、あっちのほうが可愛いですよね。」

 

イドラの脳内には自分だって可愛くてたまらない広間の顔を思い出した。いや、本当に可愛いのは可愛いのだ。なんといっても扉間に似ているのだからその感情はひとしおだ。

けれど、それにアカリは思わず固まった。

 

(・・・・待て、あいつ、もしかして商売女のところに通って!?)

 

仕事ばっかでそんな暇があるとでも?

そんな声がするが、いや、影分身でなんとかなるだろ、腐っても千手の男だ。チャクラなら十分にある。

一瞬アカリの瞳から感情が抜け落ちたが、待て待てと理性が止める。

 

(いや、だが、あいつだって男だ。溜まるものは溜まるだろうからなあ。)

 

実際問題、姫君であったアカリは耳年増でしかないのだが、それはそれとして男の事情だってある程度察している。

そう言った欲だってあるだろう。柱間がそういった系統の店で問題を起こした折のことを一瞬思い出して首を振った。

 

(いや、ここでちゃんとイドラの体を気遣っているのだから責めることはない。でも、確かに、女からすれば嫌だろうが。)

 

アカリが扉間に怒るのは、変な性的嗜好をイドラにさも当たり前のように教え込んだりするからだ。

もちろん、事実無根が殆どなのだが、あまりにも状況証拠が多すぎる。千手扉間という存在が積み上げた業が帰ってきているのだろう。当人は何もしてないので事故でしかないのだが。

 

「・・・・そんなに?」

 

その時のアカリは、好奇心の末にそう聞いてしまった。

 

「そんなにです!前はあんなに色々したのに!」

 

イドラはぷんすこした。

前ならば散々人のほっぺたをもちもちしていたのに、この頃はずっと広間のほっぺたと指で撫でている。

 

(赤ちゃんのつるぷに肌には勝てませんよ!)

 

イドラは肌の手入れを頑張るかと悩んだ。それにアカリはそんなにも変わるのかと悩んだ。

何と言っても、子をなした後、自分も多分そうなるのだろうなあと予想をしていたせいだ。

 

所詮は政略結婚で、自分とマダラの間に愛はない。いいや、情だってない。

まあ、マダラというそれの繊細さを見るに責を取って浮気などはせずにできる限りのことはしてくれるだろうが。

それはそれとして、アカリは自分自身が結婚まで押し切った自覚はあった。

もう、それは全力で外堀を埋め立てた自負があった。

 

(だってなあ、好みだったんだ。顔が。)

 

一目見た瞬間、何かがガツンと来てしまったのだ。何か、見つめていると背後に花が咲いているのだ。

出来ればお近づきにと、そう思っていた。けれど、イドラと扉間の結婚について考えれば、千手からうちはに嫁を出したほうがと話が出たとき、しめたと思った。

柱間もマダラに執着しているのだ、ここで自分が嫁に行けば、彼の人と義兄弟になれるぞとアピールすれば弟分は嬉々としてそれを後押ししてくれた。

 

ラッキーだった。そんなこんなで自分自身で滑り込んだというか、押し切った結婚生活であるが幸せだ。うちはの人間に何を言われても、顔を眺めていればいつの間にか終るのだ。

 

(うちはは女性陣も本当に美人で。いえ、妙な色気がすごくて女の私も持ってかれそうで。)

 

別に愛されたいわけでは無い。マダラというそれに何かをしてやりたいとは願っても、何かをして欲しいわけでもない。

ただ、確かに今まであった関心が無くなりそうだと感じるのは確かに寂しいだろう。

まあ、マダラとの会話なんて半分が下の弟たちの昔話だとか柱間の愚痴だとか、もう半分は事務的な一族についての相談だとかだ。

それでも個人的な雑談がなくなればアカリだって悲しいと思うだろう。

 

数少ない、マダラの情報を確保できる場なのだ。義弟であるうちはイズナのほうがガードが堅いので情報を得るのは難しい。

 

(・・・子を数人なしたらそういった触れ合いもなくなるだろうが。いや、子どもを介して私への関心があればまだ救いか。)

 

冷たい人ではないだろうが、マダラという存在から関心を買えるほどアカリは自分が借りがある人間であるとは思っていない

良くも悪くも、子を育てる共同体として側にいれるだけ御の字だろう。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

アカリはイドラのそれに気を取り直す。ともかくだ、今はイドラの相談なのだが。

どうしたものかとアカリは悩む。

仕方が無いだとか、気にするなとかは言えない。おそらく、イドラの体調が万全になればあの弟分は嬉々として手を出すはずだ。

すけべだから。

けれど、時間が解決してくれるとは言えない。イドラだって、相当悩んでいるからこうやって相談してきたのだろうし。

けれど、悲しいかな、アカリだって夫婦間のそういったことを解決するほど経験豊富ではない。

これが子が出来て自分に構わない妻をないがしろにして女に走っているのならば、夫の方を締め上げれば済むのだが。

扉間のあの、アカリ自身もいいのかこれと思うような溺愛ぶりを見るにそれで解決とは行かないのだろう。

 

「ええっと、そうだな。」

「はい?」

 

アカリの中でぶわあああああといくつもの話題が出てくるが、すぐに女はそれを飲み込んだ。

 

「珍しい菓子があるんだ!少し、休憩しようか!?」

「お菓子!」

(ああああ、すまん。ミト、私も人のこと言えん。)

 

アカリは間を持たせるためにイドラに菓子を与える自分を嘆きながら、つい最近貰った菓子を取りに向かった。

 

(なんだったか。確かに、遠方の菓子で。酒の風味を効かせたものだとか。まあ、実際はそう感じる香草だそうだから、イドラにやっても大丈夫だろう。)

 

なんて考えた少し前の自分をアカリは殴りつけたくなった。

 

「扉間様のばあああああああああか!!」

 

目の前には顔を真っ赤にしてぐずぐずに泣いているイドラがいた。それに、アカリは思い出す。その菓子を貰った際の話を。

 

ええ、酒は入っておらず、そう感じる香草を入れております。ただ、本当に稀なんですが、酔っ払いのようになる者もいるそうで。

ええ、そんなもの、結婚相手が生き別れの兄弟だったぐらいの確率の方なので、気にされなくてもいいですから。

 

ああと、アカリは顔を真っ赤にしたそれに思う。

イドラよ、お前は泣き上戸であったのかと。

 

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