バタバタしており、以前からだいぶ空いてしまい、すみません。また、投稿再開です。短めです。
「・・・・わかった。」
その時、執務室には非常に苦い顔をした千手扉間の姿があった。
扉間の目の前にはしょぼくれた顔で仕事をしている千手柱間がいた。その前には疲れた顔をした扉間がいた。
それは丁度、扉間がトイレに立った折に抜け出そうとしているのを、隠れていた影分身によって捕獲をされた。
(・・・集中力が切れると逃げ出すのが本当に。)
その日は、いつもなら柱間の監視も請け負っているうちはマダラやうちはイズナはその日はいなかった。
彼らは任務の難易度に関して氏族からの聞き取りを行うためにいなかった。本来ならば、人好きの柱間がいくのが順当なのだが、それはそうとしてその男も仕事が立て込んでいることも有り、急遽マダラとイズナが抜擢されたのだ。
威圧感を感じる男ではあるが、生真面目なため、小さな氏族の声もきちんと聞くし、言われたそのままを伝えてくれる。この頃はうちはも懐に入れるとゲロ甘になるのだと察する者も多いため怖がられていない。
そのため、扉間はマダラと、記録役にイズナを送り出したのだ。
(あいつのやる気?あいつの性格からして、書類の類いは苦手だろう。それなら、報告関連についてはそのまま話をさせろ。土産話の類いなら素直に聞く。)
扉間は何か、自分以上に兄を理解しているらしいマダラのそれにため息を吐いた。
「・・・確認や認証に関してもう少し、誰がするかなど考えねばならんな。」
「そうしてくれ。里全てのことに目を通すとしてもさすがに物理的に無理ぞ。」
すでにやる気が失せているのか、青菜に塩としおしおとへたり込んでいる柱間を見た。それに扉間は苦渋の決断と、ため息を吐いた。
「・・・・今日の分の仕事を終らせれば、広間と遊べるように時間を取る。」
「本当か!?」
扉間のそれに現金なことに柱間は目を輝かせた。
そうして、それにうきうきとした状態で仕事を始めた。それに扉間は頭を抱えたくなった。
兄を動かす、わかりやすい餌が出来たのはいいのだが。
だが、これでいいのだろうか?
人なつっこい、正直、これで自分と瓜二つでなければ己の子か疑わしいほど広間は人なつっこい。
可愛いのだ。
めちゃくちゃわかる。見た目は自分に似ているのに、他人への愛想の振り方が神がかっている。
抱っこすればにこにこ笑い、微笑めば同じように微笑み、何をしてもいちいち反応をくれるのだ。
おまけに滅多に泣かないとくれば、子どもが嫌いで無ければいくらでも構いたくなるだろう。
(・・・これで己の子が産まれたときはどうする気だ。)
元々情に深いのだから可愛がっている弟と、そうして親友の妹の子が可愛くないはずが無い。何よりも、顔立ちが扉間に似ているけれど、広間が笑った瞬間は、イドラと、それと同時に弟であった千手瓦間にそっくりだった。
(・・・大人になったときは気づかなかったが。)
未来から来たという息子の笑みはイドラに似てふにゃふにゃとしていたが、赤子の全力の笑みは、幼い頃にいなくなった瓦間のくったくのないそれに似ていて。
胸の奥で、古傷が痛む気がした。
扉間は、それでも薄い笑みを浮かべた。何か、遠い昔に亡くしたものは変わりはしないけれど、それでも、巡ってきたものがあったのだと。
「広間もかわいいが。マダラと姉上の子も待ち遠しいのお。」
うきうきとした柱間のそれに扉間は頭を抱えた。
千手柱間はこの世の春を謳歌している。
自身の望んでいた里造りは順調で、親友のマダラも義兄にクラスチェンジして側にいてくれる。新しく弟と妹も増えた。
そうして、弟も嫁を貰い、甥っ子まで出来たのだ。
もう、柱間はうっきうきだった。浮かれていた。目の前の山のような仕事を別にすれば最高だった。
いや、柱間自身は自覚はないが、弟の尊厳を贄にくべているのだが。まあ、些細なことだろう。
(・・・・マダラが火影にならんかったのは、残念だが。)
柱間はそこでしゅんとした。
柱間は火影に関してはマダラを押した。その男ほど優しい男などいないのだと。
が、やはり、多数決にて柱間に決まった。
マダラ自身も、こんの忙しいときに火影業なんて出来るか、と怒られてしまっている。ちなみに、姉であるアカリにもがっつりと怒られてしまった。
二つの機関の実質的な長が出来るかと。
(・・・似合うと思ったんだがのお。)
よくわからないが、柱間はずっと、マダラこそが長という立場にふさわしいと思っていた。弱者を守るという信念、庇護者としての在り方、何か、柱間にとってマダラとは誰かを守ることに祈りを持つ男だと思っていた。
というか、何かわからないが、柱間はずっとマダラという存在の下に下ることにためらいが無かった。
それは、彼が持つ強者としても傲慢さのせいでもあるが、それと同時に、彼の奥底に眠る弟根性のたまものである。
いや、元より、里に必要ならそこら辺を気にする人間ではないのだが。
マダラという存在の下にある己というものが、驚くほどしっくりきた。というか、どちらかというと、挙動としてイドラ並みに慕うぐらいのことをしても違和感がない自分がいる。
それに彼の背後霊が、わかるぞと大きく頷いている。
というか、イドラという確変が起こった辺りで彼の背後霊はずっと泣きながらサイリウムを振っていたが、それを柱間が知ることはない。
(広間があれほど可愛いのだ。いや、大きくなった時も可愛かったが。)
それはそれとして、マダラの娘なんて絶対可愛いじゃ無いか。いいや、自分の姪っ子なのだからかわいさなんて天元突破である。
(・・・マダラと稽古でもつけてやりたいなあ。あと、菓子だとかも買ってやりたいのお。)
産まれてもないマダラの娘で有り、姪っ子についてうきうきしている兄を見て頭を抱えたくなった。
こう、色々と大丈夫なのだろうか?
さすがに姪や甥にかまけて実子を粗雑に扱うような男ではないが。というか、父親は自分なのに、何か色々とかっ攫われていきそうな危機感は何だろうか?
「兄者、ともかく仕事を・・・」
「も、申し訳ありません!」
突然、ノックと共に扉の向こうから慌ただしい声がした。それに扉間は入れと合図を送る。それに、慌てた様子で飛び込んできたのは、うちはヒカクであった。
「イドラ様が!」
それに扉間と柱間は目を見開き、そうして、殺気混じりに何だと叫んだ。
「・・・・すまん。」
そこには珍しく本当に落ち込んだ声音でそう言う千手アカリことうちはアカリがいた。
彼女の背後の部屋は、カオスの一言に尽きた。
「イドラ様、泣かないでください!」
「ほら、でっかい猫です!」
「こっちは、犬飼から借りてきた子犬ですよ!可愛いですよ!」
「菓子はどうですか!?」
「竹とんぼは!?非常に飛びます!」
部屋の中心には、鼻水やら涙やら、顔をぐしゃぐしゃにして泣くイドラが体育座りをしている。そうして、その周りにはおろおろとしているうちはの人間がいた。
どうやら必死に機嫌を取ろうとしているらしい彼らは思い思いのご機嫌伺いのものを持っている。
それは例えば、イドラの好きそうな甘味だとか、でんでん太鼓などのおもちゃ、そうして極めつけはよくわからんが尻尾をぶん回している子犬に、明らかにメンチを切っているブチ模様のでけえ猫。
猫に関してはどこで捕まえてきたんだ?
柱間は何となしに泣く子供を必死にあやす黒猫の集団を幻視する。
そんな疑問に首をひねりながら、扉間は姉を見た。
「のう、何があったんだ?」
柱間のそれにアカリが額に手を当てた。
「・・・・実は、その、珍しい菓子を貰ってな。」
「ふむ。」
「それだけで何故、ああなる?」
「いや、それでな。何でも、酒の風味のする、特別な香草が使われているものでな。」
「おお、あれか。ミトと食ったぞ。」
「あれか。」
「扉間は貰わなかったのか?」
「ワシは甘味はそこまででないからな。イドラも酒が好きなわけでもなし。」
「ああ、そうか。まあ、それでだ。まあ、珍しい菓子なわけだから。せっかくだからと食べさせようと思ったんだが。そのな、何でも、その菓子に使われている香草は体質によって酔っ払いのようになるらしくて。」
「つまりは、あれは酔っ払っていると?」
それにアカリは苦悶の顔で心底申し訳なさそうに頷いた。
扉間と柱間は部屋の中を見て、納得した。なるほど、あれは泥酔しているのかと。
三人がイドラが泣きじゃくるそれに飛んでいかなかったのは、単に、女という者は何故そうなっているのかと知ってから手をつけなくては痛い目に合うということを理解しているためだ。
何を怒っているんだ?
その一言で散々、姉から怒りを買った男二人は骨身に染みた。
何よりも、イドラが外的な存在により泣かされるという可能性は低いためでもある。
そこまでの命知らず、今のところ、木の葉隠れの里にはいない。
「にしても、相当の泣き上戸みたいでな。うちはの真ん中で泣くものだから、ああやって昔なじみ達が泣き止みそうなものを持ってあやしてくれているんだが。」
それはそれとしてでんでん太鼓はどうなんだろうか。つーか、正直五月蠅い。
部屋の中に響くでんでんというそれに扉間は動き出した。
何はともあれ、さすがにこんなところで泣き続けるのも体面も悪い。
何よりも、こんなところがマダラに見られればどうなるだろうか。アカリも、さすがに他の氏族の家に出向いているマダラを、こんな理由で呼び戻すのも忍びないと扉間たちを呼んだのだ。
「ともかく、イドラのことは連れて帰る。兄者、後でワシの仕事を家に送ってくれ。」
「おお、わかったぞ。」
柱間はともかくイドラの危機で無かったことにほっとしながら、扉間の仕事の割り振りを考える。
「・・・・あの、そのだな、扉間。」
「どうしたのだ、姉上?」
珍しく歯切れの悪い姉の言葉に柱間が不思議そうな顔をした。そうして、扉間もいぶかしげに振り返る。
「いや、その・・・・」
姉にしては珍しく歯切れの悪いそれに扉間はいぶかしんだが、それはそれとして早々としなくてはいけないとイドラの元に歩き出す。
「・・・・扉間、その、イドラは今、非常に機嫌が悪いんだ。」
「見ればわかる。」
その時、扉間は自分が近づけば、イドラは泣き止んで、そうしてにっこりと笑って自分に甘えてくるのだと、そう思っていた。
そのわんこからの愛を余すこと無く受け続けた男にとってそれは疑いようも無かったのだ。
「イドラ?」
声をかけたその瞬間。
じろりと睨んだ、その女が。
「扉間ざまなんて、ぎらい!」
鼻水混じりにそう言うまでは。