千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。


後数話で完結予定です。頑張って走りきろうと思います。


兄姉の前でする告白なんて地獄に等しい

その時、千手柱間と千手アカリことうちはアカリは目の前のそれを茫然と見つめた。

わんわんと泣く、うちはイドラにおろおろと困るうちはの人間。

そうして、イドラの前で崩れ落ちる千手扉間の姿だった。

 

 

 

「扉間ざま、いじわるするから嫌いです!!」

「い、いどら様・・・」

「そのようなこと!」

「扉間様はよき夫君ですよ!?」

「そうです、お優しい方です!」

 

おろおろと周りでイドラをなだめるうちはのそれを珍しく彼女は無視した。そんな反応が初めてなのか、彼らは酔っ払いの戯れ言と察しても非常に慌てている。

アカリと柱間はそっとその場に崩れ落ちた扉間に近寄った。

 

「・・・・真っ白だな。」

「灰になっとるな。」

 

その言葉の通り、扉間は白目でもむいてんじゃないかという程に茫然としていた。

アカリは興味深そうに扉間の頭をこんこんと叩くが、何の反応もない。

 

「・・・まあ、そりゃあ、普段あれだけ懐いとるからのお。よほどの衝撃だったのか。」

「ふむ、今までで扉間に膝を付かせた猛者がどれほどいるのか。」

 

アカリは滅多に見れない弟の石像化を珍しそうに眺めた。それに柱間はどうしたものかと扉間の方を揺すぶった。

 

「おーい、扉間?」

「だめだな。完全に思考を飛ばしてる。仕方が無い。」

 

アカリは扉間に顔を近づけた。

 

 

 

きらい

 

その一言が扉間の中でぐるぐる回っていた。

嫌い?

待て、イドラは今そう言ったのか?

 

嫌い、きらい、きらい・・・

 

嫌い!!

 

扉間はまるで頭を鈍器か何かで殴られたかのような心地だった。

出産の時は痛みによる錯乱でいわれはしたが、その後はちゃんと訂正があった。

 

妻にそう言われて非常に傷ついた。

 

皮肉交じりにそう言えば、好きですとミーミーと泣きながら縋り付いてくるのを見れば溜飲も下がった。

 

女のふくふくとしたほっぺたをいじりながら甘ったるい声で好きですと言われるのは悪くなかった。

そうだ、だからこそ、扉間はまるで頭を鈍器で殴られたかのような心地だった。

 

 

扉間という男は図太い男である。

それは、彼の生来の性質もある。けれど、それ以上に男の周りも関係していた。

その最たる者が、兄である柱間と、そうして姉であるアカリである。

彼らは基本的に扉間がどれだけ辛辣でも、ずっと肯定を重ね続けた。それは扉間はずっと正論ばかりを言うため、否定が出来ないためだが。

おかげで男の自己肯定感はましましになっていった。

それ故に、扉間は誰かに否定されても、気に入らないと言われても平気だ。

 

は?こちとら千手柱間と千手アカリから肯定されてるんだが?

まあ、実際そんなことは考えていないが、そんな感覚で生きている。

だからこそ、だ。

嫌いという、自分を愛してやまない女からの否定は的確に扉間の腹にダメージを与えた。

 

嫌いって、いや、ワシがお前に何をした?

嫌なことなどしていないし、父上だとかと比べて圧倒的にいい父親してる自負があるんだが?

いや、父上達にも色々とあったとはいえ、やはりクソだと思う面があるな。

いや、それはそれとしても、ワシに落ち度があるか?

イドラのこととて大事にしている。いや、溺愛していると言われる。それについては、建前もあるし、癒やしであるのだから。

いや!

それはそれとして嫌いってなんだ!?

ワシのこと大好きなくせに、あそこまで言っといて、今更何言っとるんだ!?

いや、だが、あれが嘘を言うことは・・・

基本的に素直なやつだ、嘘なんて言うはずが無い。

ならば、本当に?

は?ワシのことが、嫌い?いや、そんなことは。理由はなんだ?そこまでのことしたなど。

広間への対応もいいはずだ。イドラに全ての負担がないように、手伝いをも入れていたぞ?

一族の者の言葉も聞き入れ、定期的に家に帰るようにしていたはずだ!?

嫌いなどと、嫌い、きらい・・・・・

 

何を考えても最終的に嫌いに立ち返る扉間のそれに、ふと、何かが混じった。

 

扉間よ。

 

それは、姉の声だ。扉間はそれが聞こえても最終的に流そうとした。

けれど。

 

早く帰ってこい。でなければ、お前が幼い頃に私のことを美人だと褒めて花をくれた話をイドラにするぞ?

 

 

「ワシの黒歴史!!」

「おお、帰ってきた。」

「やはり、これが一番効くな。」

「姉者!あれは、結婚の意味もわかっておらんかったときのことだろうが!?」

 

扉間のそれにアカリははあとため息を吐いて、己の頬に手を当てた。

 

「はあ、ひどいな。小さい頃は花冠を作って私にくれたのに。」

「いくつの話だ!まだ、戦場に出る前の話を!」

「何を、こう言った話ならば売るほどあるというのに。イドラに話さないことを感謝しろ。」

「当たり前だ、そんなこと!」

「聞いたか、柱間?姉や兄が弟の面白話をどれだけしたいか、弟はわかってくれないのだ。」

「本当にのお。弟の可愛い昔話を可愛い義妹と共有できんのは悲しいのお。」

「私だって、イドラに扉間の昔話と引き換えに旦那様の可愛い話を聞き出すのを我慢しているのに。」

「それは本当に自粛すべき事ぞ。」

 

およよと嘘泣き(無表情)のアカリを捨て置いて、扉間は改めて泣いているイドラの方を見た。

 

「イドラよ。」

「意地悪な扉間様なんて知りません。」

 

つんのすましたそれに、扉間に確かなダメージを喰らわせた。

それにうちはの面々が慌てる。

 

「ワシは何も・・・」

 

扉間はとりつくようにそう言って何をと思っていると、イドラはじとりとした目をした。それに扉間は己の記憶を探る、何をそんなに怒るのか。

 

(ワシはちゃんと・・・・)

 

そこでふと思い出す。

いや、がっちり、しっかり、確かに自分は意地の悪いことをしていたじゃないかと。

じとりとした目を感じる。

 

 

イドラが自分の膝を定位置と覚えているのはわかっていた。最初は居心地が悪そうだったが、速攻で馴染んだそれはごろごろと喉を鳴らしそうな勢いで慣れた。

 

里が出来、仕事にはやりがいはあれど、大名達からの要請に、氏族からの不満や要望、そうして任務の割り振りなどしたいこととやらねばならないことは別である。

否応もなく、ご機嫌伺いのようなストレスの溜まるものもあるわけで。

そんな中で、イドラとのふれあいはそう言ったストレスが溶けていく気がした。ぬくくてやわっこい体を抱きしめて、たわいもない話を聞いて、ふくふくとしたほっぺたを触れば疲れなんて吹き飛ぶだろう。

 

そんな中で、扉間はまあ、悪いことを知ってしまったのだ。

 

ぐずりもしない超健康優良児の息子を夜に抱っこしていた折。

ふにゃふにゃのそれに上機嫌になった。

やわっこくて、暖かくて、まあ可愛いことこの上ない。それがぱたぱたと作り物のような腕を動かしているのだから愛おしさは格別だ。

そんなときに、気づいたのだ。

 

広間の話をしながら、じとーとした目で自分を見るイドラのことを。

 

広間にばかり構うとどうなるか?

簡単だ、イドラが頑張って自分の気を引こうと、自分に必死に媚びを売ってくるのだ。

 

扉間さまーと自分に纏わり付いたり、必死に気を引こうとするイドラに味を占めたこの男、わざと、イドラに素っ気なく振る舞ったのだ。

イドラが甘えてくれば、どうしたのだと普通の顔をして。

悲しそうな顔で、扉間さまーと自分に甘えてくるその姿はまあ可愛くて。

ぎゅんと胸に湧き上がる衝動を抱えて、すました顔で受け止めていたわけだ。

 

(いや、ワシとて膝に乗せてと言えば、止めようと思っておったのだ!)

 

ただ、イドラがそれを言わなかっただけで。

そんなときだ、シャッと、何かを引き抜くような音がした。それに思わず後ろを向くと、そこには据わった眼で自分を見つめながら、短刀を鞘から引き抜きかけている姉がいた。

 

「姉上、どうしたのだ!?」

「私の中の何かが、こう、反応を・・・」

 

それに扉間の取った行動は単純だ。

 

「ワシは何もしとらん!ただ、言葉が足りんかったと思っておる。」

 

全力で誤魔化すという選択肢だ。

何と言っても、今回は何もかもが事実だ。自分も意地の悪いことをしていた自負がある。が、扉間というそれはさすがに姉が恐ろしい。

こちとら何年姉貴分と付き合ってきたのだ。いや、誤魔化す前に誤解は大量生産されているのだが。

 

「少々すれ違いがあっただけだ。」

 

それにアカリはイドラから相談があったことを思い起こす。確かに、産後の微妙な時期に外である程度発散というと、まあ、わからなくはない。

 

(ただなあ。)

 

普通の家ならば子どもにかかりきりで夫が外で何かしらを済ませてきた方がありがたがられるのだ。

が、うちはという家で生活していたアカリは理解していた。

が、うちはは普通とは違うのだ。

 

「扉間さまだって、わたしのことなんてどうでもいいんだ。」

 

鼻水啜りながらそう言って泣く情けないそれにうちはの人間はどうしたのだと慌てる。が、べろんべろんで酔っ払うイドラにそんなことは関係ない。

 

大好きなのに、大好きなのに、とイドラは鼻水を啜った。扉間はイドラによく好きかと聞くのだ。それをご満悦で聞くくせに、よくよく考えると自分は扉間に好きと言われたことはあるだろうか?

いや、後追いをOKされている時点で重いが、それはそれとして言葉をくれないことに不満があった。

自分には散々意地悪して、言わせているくせに。

そこに自分に追いすがるイドラ見たさに減ったスキンシップへの不満がイドラの中で爆発した。

これでもこの女、周りに愛情ならば新人に酒を飲ませる勢いで注がれてきたのだ。

 

「いいですもん!うわきしますもん!」

「イドラ様!」

「そのようなことを言うものではないです!」

「そうです!浮気をするなら?」

「死を覚悟、です!」

 

なかなかに物騒な話しも聞こえてきたが、アカリは酔っ払いの戯れとは言え、まずいことになったと柱間と共に扉間たちに近づく。

 

「と、扉間、落ち着いて・・・・・」

 

柱間とアカリは思わず固まった。扉間は、まさしく、般若の顔をしていた。それにうちはの人間も固まって扉間を見つめる。

 

「ほおおおおおおおお!?どこの馬の骨のことを言っとるんだ!?」

 

任務が失敗したときでさえもそこまで焦っていないだろう男のそれに皆が度肝を抜かれた。

イドラの性格からして浮気など考えられない。

だが、それはそれとして、その駄犬ぶりから本意はなくとも勢いで何かをしでかしそうなものはある。

というか、誰と浮気するんだ?

言い方からして相手がすでに決まっているのでは?

 

「貴様がその気ならばいいだろう!だが、一つだけ覚えておけ!貴様が浮気しようと、お前が妻であることは変わらんし、浮気相手は地獄に落としてやるからな!!」

 

それにイドラは持っていた猫を掲げた。

 

「ブチ大将と!」

 

扉間はそれに思わず崩れ落ちそうになった。いや、確かに雄ではあるが。

 

「猫と浮気など出来るか!」

「ブチ大将はどう思いますか!?」

 

猫に何を聞くのだと思うが、そのふてぶてしい猫はぶふんと鼻で笑うように息を吐き、そうしてイドラの頬を撫でた。

 

仕方がねえなあ。うちに来いよ、面倒見てやるから。

そんな発言が聞こえてきそうなふてぶてしさだ。

 

「ほら!」

「何がほら、だ!ほれ、さっさと帰るぞ!帰ったらいっくらでも構ってやるから!」

 

扉間は己に突き刺さる、後方からの、特にうちはからのキラキラとして羨望の瞳に耐えきれなくなりながらそう言った。

 

「やーです!かえーりーまーせーん!」

「どうしたらいいんだ?」

 

だめだ、女のなだめ方なんて、キレた姉への謝り方ぐらいしかわからない。このタイプの女のご機嫌を取る事なんてなかったのだ。

というか、扉間に対してここまで恥も外聞も無い対応をする人間なんていなかったのだ。

 

「・・・・私のこと、好きですか?」

 

ぐずりとそう言いながら、体格差のせいで上目遣いになったイドラのうるうるとした目が自分を見る。

それに、何か、胸にぎゅんと来るものがあった。いいや、そうは言っても、イドラの顔は顔から出るタイプの液体ならすべからく漏れ出ている状態なのだが。

 

なんだ、そのめんどくさい彼女みたいなのは。

いや、そこまでこじらせた原因はずっとイドラに意地の悪いことをしていた自分のせいなのだが。

 

(おお、言ってやろうじゃないか!こちとら、長老達の前ですでに恥など吹っ飛ばしたのだ!)

 

だが、改めて言うとなったとき。

扉間は後ろからの視線に気づく。

 

わかる。あまり、扉間がしっかりとしているのと、当人の気質でそう弟をからかうことのない柱間と、そうして、姉の特権だと黒歴史を掘り起こしていじくってくるアカリが自分を見ている。

 

絶対に、何を言っても、口止めしようとも酒の席か何かで今回の話をされる。夫婦喧嘩の何かは切り取られても、確実に今回の件が外に出る。

 

(くそが!両氏族を繋ぐ縁談だからと話をばらまきすぎた!)

 

いやだって、まさか、ここまで振り回されるなんて思ってもみなかった。

いいえ、初対面ですでにめちゃくちゃ振り回されていましたぞと、誰かの背後霊が言っている気がする。

だが、嫌いになるかというと、そんなことはない。

だって、それはそれとして、イドラが癒やしになっているし、当人はがんとして認めないが、その女はとっても可愛いのだ。

にっこりと笑えば、どうしたと肩の力が抜けるのは、仕事のしすぎで自分はいったい何をしているのだと思考の迷路に陥っても、このためにしているのだとわからせてくれる。

抱き上げて、やわっこくてぬくい体を抱きしめると、明日も頑張ろうと思えるのだ。

それはそれとして、頭の上がらない姉と、弟と義妹の仲の良さを自慢したい兄の前で盛大な愛の言葉なんて絶対吐きたくない。

ジジイになっても酒の肴にされるのだ。なんだ、その地獄は。

まだ、からかってくると言うのなら反発心も出せるが、弟の可愛い話として話すのだから始末が悪い。

そうして、うちはの人間にも絶対伝わる。

 

義兄と義弟から感じる生暖かい視線はキツい。戦場であった殺気混じりのそれのほうが数倍ましだ。

 

そう思っていると、目の前のイドラの顔がしかめっ面になり、少しずつ、後退していく。

扉間はそれに、ぜってえ嫌だと思いつつ、等々折れた。

 

「す、好きに決まっているだろうが。」

 

後ろで兄がはわわしている気配を感じたが、扉間は必死にそれに耐える。

 

「・・・どれぐらいですか?」

 

まだ言わせるか、この女は。そう思いつつも、全て自分でまいたタネだ。

 

「婚姻までして、敵対氏族のお前と婚姻までしたんだぞ?」

 

それにイドラは不服そうにじいっと目を扉間に向けた。扉間はそれに、ええいとやけになって叫んだ。

 

「お前のことが嫌いなら、仕事を詰め込んでわざわざ帰らんし、数時間だけでもと仕事合間を縫って帰ってもこんわ!好きだ!そうだ、惚れとるからここまでめんどくさいことでも付き合っておるんだぞ!」

 

盛大なそれに、うちはのキラキラとした瞳が最大出力になるのに扉間はなんだかその場から逃げ出したくなる。

 

「と、扉間・・・・」

 

感嘆の声が柱間から聞こえたが、もう知らんと、扉間は羞恥でここから逃げ出したくなった。そこでイドラはブチ大将を畳に置いた。

ブチ大将は行ってやれよと、イドラの足を尻尾で撫でる。

イドラは扉間に近づいた。

 

「バンザイしてください。」

 

扉間は諦めの境地でそれに従った。そうすると、無防備になった腕の中にイドラは飛び込み、そうして、にっこりと微笑んで、扉間を見上げた。

 

「私も、扉間様のこと、大好きです!!」

 

元気いっぱいにそう言われたそれは、婚姻前に、自分に言った破れかぶれの惚れた云々とは違って。

心からの言葉で、そうして、にっこりと笑ったその顔は鼻水と涙混じりなのに、愛らしいことこの上ない。

何か、婚姻前よりもずっと可愛いと思ってしまうのは気のせいだろうか?

 

扉間はなんとか妻のご機嫌伺いが出来たとほっとしながら、それと同時に周りのさすがは扉間様だという視線と、兄と姉のよかったなあという視線に死んだ目になりながら、現実逃避のようにイドラの頭を撫でた。

ちなみに、夫婦げんかの相談が扉間に飛び込んでくるようになるのは別の話だろう。

 

 

 

イドラはすやすやと寝ていた。

酔っ払い案件の後、失態についてそこそこ扉間に怒られたが、膝の上については解禁された。この頃は、広間を抱っこしたイドラがそこに乗っている。

そうして、その日も一日が終って、床についたわけだが。

誰かの声で眼を覚ました。

 

「ひゃい?」

 

イドラはむくりと起き上がった。そこはいつも通りの、自分の寝室だ。

けれど、見慣れない者が一人。

 

「ようやく、眼を覚ましたか。」

 

そこにいたのは、イドラがテレビの中で見た、忍の仙人。

 

「・・・・本当に、面差しはサクヤに似ているな。」

 

呟いたそれにイドラは夢かとうなずき、そのまま布団に潜り込む。それに仙人は叫んだ。

 

「二度寝をするな!」

 

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