最終章になります。
「い、たたたたたあたたたた!声帯の無駄遣い!声帯の無駄使い!?」
「この、愚か者!何故、鳥で連想したのがこれなのだ!?」
部屋の中には、よくわからない生き物に頭を突かれながら逃げ惑う妻の姿があった。
その日、千手扉間は自分で何を見ているのだろうと、心からわからなくなった。
「うわああああああああああああ!!」
その日、扉間は突然聞こえてきた妻であるうちはイドラこと千手イドラの声に叩き起こされた。扉間は敵襲かと、飛ぶように起き上がり、辺りを見回した。
そこには、何故か、非常に慌てた様子のイドラの姿があった。
「イドラ、どうした?」
扉間は今度は何をやらかしたと恐る恐る聞いた。
「え、あの、えっと!すみません、ちょっと、広間のこと、お願いします!」
イドラは挙動不審にそう言って、部屋を出て行く。扉間はすぐにイドラを追おうとするが、さすがに寝起きにそこまで騒がれて広間が愚図り始める。
「おお、珍しいな。」
ふにゃふにゃと泣く息子の尻などを確認するが、どうやらおしめではないらしい。
(腹は、いや、少し前に乳は与えていたな。)
夜泣きは少ない広間ではあるが、さすがに授乳の時などは泣くため、イドラはこまめに起きて世話をしている。仕事のことなどを考えれば、別々で寝た方がいいのだが。
それはそれとして、自分の立場上、確実に子どもとふれあう時間なんて少ない。ならば、寝るときぐらいはという想いがあった。
元より、仕事でなかなか家に帰ることができないならばなおさらだ。
外を見れば、まだ、空が白み始めたばかりだ。この時間ならば、まだ自分たちも寝ているはずだ。
(おかしい、イドラの奴は基本的に広間が泣くぐらいせねば、起きることなどないというのに。)
扉間は軽く広間をあやしながら、泣き止んだ後にイドラを追うかと考える。そんなときだ、玄関が騒がしくなった。
「扉間!!」
玄関から聞こえる兄、千手柱間の声に、扉間は立ち上がり、そちらに急いだ。
「兄者、どうし、本当にどうした!?」
玄関に急いだ扉間を出迎えたのは、兄である千手柱間と、そうして、義兄のうちはマダラだった。彼らは何故か非常に慌てた様子で、扉間を見た。
「・・・・何か、知らせでもあったのか?」
扉間は脳内で、柱間やマダラが飛んでくるような要件があったかと考える。ただ彼らに知らせがあって、自分に知らせが無いことはおかしい。
柱間とマダラは困惑した顔で互いの顔を見た。
「いや、そのな。」
「・・・・柱間、お前も見たのか?」
深刻そうなマダラのそれに柱間も、目を見開いた。
「お前もか?」
「だから、何だ?」
扉間はすでに機嫌を直し、すやすやと眠り始めている息子を抱えて兄たちを見た。さすがに、それ相応の理由がなければ追い出すだろう。
「それがの、扉間よ!夢枕に、六道仙人様が立たれたんだ!」
それに扉間はしらっとした目をした。そうして、柱間に向けていった。
「寝ぼけておるなら、さっさと帰れ!ミト殿も心配されておるだろう!マダラもだ!お前に何かあって怒鳴られるのはワシだ!その前に、せめて着替えてから来んか!」
「いや、聞いてくれ!だが、ただの夢にしてあまりにもこう、生々しい夢だったのだ!それで、イドラの命の危機と。」
「あれなら、特に問題はないが。」
「・・・扉間、イドラは?」
「あれなら寝ぼけていたような・・・」
そこまで言って扉間も確かに起き抜けのイドラの様子に不信感を持った。そこで、扉間の耳にイドラの悲鳴が飛び込んできた。
「みいいいいいいいいい!!」
ばっとイドラのそれに扉間は振り返った。そうして、抱えていた広間を柱間に渡す。
「頼む!」
それと同時に、扉間は飛雷神の術を使い、イドラの元に飛んだ。それに柱間は思わず言った。
「あやつ、寝とる時も飛雷神の術の印しつけたものを持たせるのか。」
「イドラ!」
扉間は飛雷神の術で飛んだ先のそこで繰り広げられている光景に思わず目を点にした。そこでは、部屋の中を逃げ回っているイドラがいた。
そうして、イドラが何から逃げているのか。
(な、なんだあれは?)
全体的に丸いシルエットのそれは、つやつやと光沢のある毛に覆われている。ずんぐりとしたそれは、背中は黒く、腹の部分は白い。細部を見るに、イドラの頭を突いているくちばしや、足下を見るに水かきの付いたそれはアヒルのようだった。
おそらく、鳥に分類されるのだろうが、明らかに手、翼に当たる部分は貧弱すぎて飛行など不可能だろう。
「この、誇り高き我が身を、このような矮小な存在に落とすとは!」
そうして、やたらといい声で話している。
動物の中には、仙人になるための修行を行い、知性や言葉を獲得する存在があるが、それもそう言った類いなのだろうか?
「うえええええええええ!声帯の無駄遣いいいいいいい!」
肩に乗られ、頭を突かれるイドラはパニックになっているのか、そう言いながら部屋の中をぐるぐると歩き回っている。
「扉間よ、なにが・・・・」
「イドラ、どうし・・・・・」
そこで一つ遅れて、柱間とマダラがやってきたわけだが。二人もその光景に固まった。
「な、なんだ、あれは?」
「見たこともない、生き物だな。」
「この、愚かな娘が!何故、鳥の連想でこれになったのだ!?」
「ごめんなさいいいいいいいいい!」
扉間はそれになんとか気を取り直し、部屋を逃げ惑うイドラに近づいた。そうして、べりっと、ペンギンをイドラから引き離す。
「とびらまざまああああああ!」
救世主の存在にイドラは扉間に飛びついた。散々その鳥?に突かれたせいで髪はぼさぼさだ。扉間はそれにため息を吐きながら、その髪を片手で整えてやる。
「この、離せ!千手の末!我は屈辱の代償を払わせている最中なんだ!」
「何が屈辱だ!貴様こそ、人の嫁に何をしてくれとる!?」
首根っこを掴んだそれに、扉間を怒鳴り、そうして手に力を入れた。
「ぺーん!!」
その鳥?の叫び声は景気よく、屋敷に響き渡った。
「・・・それで?貴様が六道仙人の使いだと?」
ぷらんと庭先につるされた、イドラ曰く、ペンギンと呼ばれるらしい種族のそれは哀れの一言に尽きた。
それを見ていたマダラと、そうして柱間もなんとも言えない顔でそのペンギンを見つめた。
「確かに、仙人様は鳥を使いに出すと言われていたが。」
「・・・鳥なのか、これは?」
柱間とマダラの夢枕に立ったという六道仙人が伝えたのは、二つだけ。イドラに命の危機が訪れていること、そうして、それを阻止するために使いの鳥が現れると言うことだった。
「他にも話しておられたようなのだが、どうも、よく聞こえなくてな。」
「ああ、そうだ!我が名は八咫烏!六道仙人の使いである!」
やけくそのようにそう言ったペンギンは、しゅんと肩を落とした。扉間はそれに、無駄にいい声だと感心した。
「かそっくの、激辛好きの外道の顔が・・・」
イドラのその言葉の意味についてはわからないが。
「八咫烏、といわれてものお。」
「八咫烏と言えば、それこそ、足が三本の大鴉のことだろうが。」
「そうだ!だが、その姿では目立つだろうと、六道仙人様がお気遣いくださり、普通のカラスの姿で現れるはずだったのだ!それを・・・」
鳥の顔でもわかる、憤怒の表情でそれは言った。
「あの娘が、口寄せ時にこの姿を想像したせいで、こんな影響が出てしまったのだ!!」
ぺーんと泣いているが、無駄にいい声のせいで思考がねじれる。
「兄様、柱間さまー、扉間さまー、朝ご飯の用意が出来ましたよー」
のんびりとした声と共にイドラが庭先に出てくる。
その場にイドラがいなかったのは単純で、朝食の準備をしていたせいだ。元より、朝はイドラが用意している。柱間とマダラも八咫烏のことが気になると、そのまま屋敷に留まっているため、二人の分も必要だろうと広間を背負って台所に向かった。
何よりも、八咫烏を捕獲し、庭先につるしている最中に、イドラの腹が鳴ったため、ひとまずは食事をということになった。
それに、ぎろりとペンギンがイドラを見た。
「この、私をこんな姿にしておいて、なんと暢気な!」
「うえーん!ペン吉もごめんなさい・・・」
「誰がペン吉だ!」
「そう怒るな、ペン太郎。」
「そうだな、ペン造。」
「ここには安直な発想のやつしかいないのか!?」
悲鳴のようなそれにマダラはため息を吐いた。そうして、ペンギンを囲む面々を見た。
「それで、扉間よ、こいつは信用していいってことでいいのか?」
それに扉間はなんとも微妙な顔をした。
言葉を話すことの出来る動物は希少だ。これが敵の罠だというのなら、夢を介して、イドラとそうして、柱間やマダラに干渉を行った存在がいたということだ。
そんな忍術について、噂さえも聞いたことはない。ならば、そのペンギンの言葉通り、六道仙人からの使いということになる。
「・・・今のところ、嘘ではないのだろうな。」
「何度、言えばいいのだ!嘘ではない!まったく、今ここで本当の姿にならないことをありがたく思え!」
ペン吉はぷんすかと怒っているが、見た目がそこそこ可愛らしいので何か、生意気な口を利かれてもそこまで腹立たしく思わない。
「じゃあ、ペン吉のこと下ろしてもいいですか?」
「誰がペン吉だ!」
「ペン吉、ご飯どうしますか?生魚はないので、干物で我慢して欲しいんですが。」
「我に干物を食べさせる気か!はあ、大体、我は肉のほうが好ましい。ないと言うのなら、それで我慢してやろう。」
「お味噌汁と、ご飯でも大丈夫ですか?」
「はあ、仕方が無いな。」
「待て待て待て!イドラ!」
「はい?」
イドラは不思議そうな顔でペン吉の腹に手を回して持ち上げている。それは幼子がぬいぐるみを抱えているかのような空気感のある光景だ。
扉間はイドラを見ながら額に手を当てた。
「それを食事に誘うと?」
「はい?朝ご飯の時間なので。それに、六道仙人様のお使いなら、もてなしをと。」
それに扉間はペン吉を見る。
「我とて、もてなしを無下にするほど無粋ではない。何よりも、サクヤ様もこんな方だった。諦めもつく。」
いいのだろうか、こう、色々と。
というか、誰だ、サクヤって。
悩む扉間に許可されたと思ったのか、んしょと下ろされたペン吉はそのままイドラと手?翼?を繋いで、そのままてちてちと家に入っていく。
「のお、マダラよ。うちはの所の衣装、あの、ペンギンというのによく似ておらんか?」
柱間のそれにマダラと扉間は改めて、ペン吉とイドラを見た。それに、二人は、イドラが何から連想して、ペン吉の姿が変化したのか、何となしに理解した。
「ふむ、なかなかいい味だった。」
「お粗末様でーす。」
扉間は何か、食事の味がよくわからない感覚だった。
何故って、目の前で起こっていた光景があまりにも意味不明だったからだ。
(どうやってあの翼?で箸が持てるんだ!?いや、その前に茶碗もそうだ。いや、その前にあのくちばしでどうやって咀嚼を!?)
ペンギンが箸を操り、茶碗を持ち、そうして、咀嚼をしている光景。というか、何故、自分たちは暢気にペンギンと食事を囲んでいるのだろうか。
それに疑問を持っているのは、どうやら自分とマダラだけのようで、イドラと柱間は暢気におかずについてペン吉に薦めている。
この二人は妙なところで肝が据わっているので、素性もよくわからないペンギンを前に普通にしている。
扉間は思わず、マダラを見た。マダラはそれに同意するように頷いた。
やっぱ、この現状おかしいよな?
なんだかんだで、互いに兄と妹に弱いため、流されてしまっているが、やはりこのペンギンと食卓を囲んでいる現状っておかしいよな?
どっかの次元のマダラと扉間が見れば、その場で殴りあいが起こるだろうが、悲しいかな。なんだかんだで、一番に価値観の会う二人である。
「おい、それで、ペン吉。」
「八咫烏だと何度言えばわかるのだ!?」
「イドラの命の危機とは何のことなのだ?」
それに暢気な食事風景から一気に空気が戻った。それに、イドラだけがはっとした顔して、そうだったのという顔をしている。
扉間は話が進まないと、それを無視した。
それにペン吉はため息を吐きながら、啜っていた湯飲みを置いた。
「それの首筋を見ろ。」
それにマダラはイドラに近づき、着物を少しだけ捲った。そこには、薄くなっているが、確実な歯形が存在した。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
柱間と、そうして、それを止めようとしたが間に会わなかった扉間の間に沈黙を訪れる。イドラは自分の首筋なんて見えるわけもないので、現状が理解できずにそのままだ。
柱間は少しだけ顔を赤くして扉間を見た。
扉間は少しだけこらえるような顔をした。マダラはチベットスナギツネのような表情をした後に、思いっきり扉間の頭をはたいた。
「っ!」
ばしんといい音がしたが、扉間はそれに甘んじた。ちなみに、イドラは何もわからずに頭にはてなが浮んでいる。
「・・・・なんだ、これは?」
改めて見た、首筋には、菱形の奇妙な模様がそこにあった。
扉間はそれに固まった。
イドラの体ならば、それはもう、嫌ほど、いいや、嫌ではないのだが、見てきた。
けれど、男は、今の今まで、それに気づくことなどなくて。
「カーマと、呼ばれるものだ。ただ、一つ言えるのは、それはとある術の印だ。」
「術?」
「ああ、お前が気づかないのは、その術を施した存在が意図的に隠していたからな。ただ、今は我がそれを浮かび上がらせている。」
「おい、術ってどんなものだ!?」
「人格の書き換えだ。」
そのペンギンはたんと立ち上がり、そうして、てちてちとイドラの前に来た。
「それは、言ってしまえば、他人の体に己の人格を書きかえるものだ。擬似的な不死の概念をもたらすものだ。」
イドラはぞっとした。
「い、いつのまに?わ、私、その、まったく身に覚えが無いんですが!?」
いや、というよりも、聞き覚えがあったのだ。確か、それはBORUTOの時に出ていたもののはず。
ペン吉は少しだけ考えるような素振りをした後、はあと息を吐いた。
「知らん。」
「知らんって、お前な!?」
「我とて、ただの使いだ。一つ言えるのは、それをなんとか出来るのは六道仙人様、ただ一人。それ故に、だ。貴様らに役目を与える。」
ペン吉はそう言うと、びしりと、四人を翼で射した。
「これより、千手柱間、そうして、うちはマダラ、加えてうちはイドラは尾獣たちの回収を行い、六道仙人様へ拝謁すること。それだけが、うちはイドラを救う術だ。」
そのペンギンは、冴え冴えとした声音でそう言った。イドラは、それに、己の首元に改めて、死に神の鎌が向けられていることを理解した。
そう言えば兄様。
なんだ?
お一人で来られたんですか?
ああ、イズナとは別の家だし。アカリは、まあ、寝かせてきた。
そうなんですか。でも、珍しいですね。アカリ様、たぶん、こういったとき、緊急時には必ず来られるのに。
・・・・まあ、疲れてたから。
え、体力自慢のアカリ様が?うずまきだから、それだけは自慢だって言われてたのに。あれ、昨日、何か特別なことありましたっけ。
・・・・・・・・。
イドラよ。
はい、何でしょうか、柱間様。
扉間が呼んでおるぞ。
はーい、わかりました!
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
夫婦仲がよいのは、いいことぞ。
姉貴のそういった事情を察して気まずいって顔しといて、んなことわざわざ言わんでいいわ!察してんなら黙っとけ!
マダラよ、顔が真っ赤ぞ。
うるせえ!