命をかけるというそれに、うちはイズナは固まった。
思わず視線を向けた、千手扉間の顔は茫然と、まるで見透かされたことに驚いたような顔をしていた。
「姉さんが!?」
事の真相をイズナが知ったのは、うちはイドラこと千手イドラがマダラの家に預けられた後のことだった。
息子のクズハを見送った後、いつもの通り、火影邸に向かおうとしていたときに使いが来たのだ。それも、内容はわからずに知らせだけが来たのだから、イズナも慌てた。
何が起きたと向かった先で聞かされたのが、イドラに起こっていることだった。
(・・・・策はあるって言うけど。)
イズナは元より、兄であるうちはマダラと千手柱間にはどうやって一族の人間を説得するのかについては説明されていた。
曰く、六道仙人の使いだという間抜けな鳥の話では、尾獣自体の大きさを変えることは可能という。
尾獣たちが何よりも目立つのは、その大きさだ。それをなんとか出来るのなら、秘密裏に尾獣を集めること自体はなんとかなるはずだ。
そうして、もしもばれたときは尾獣をネタに他里と交渉を行うことは聞かされていた。
「いいのか?」
「何がだ?」
何か、妙に据わった眼の扉間にイズナは聞いた。
「・・・・危険なはずだろ。」
「そうだ。」
「・・・反対すると思ってた。」
「・・・するか。あれにはまだまだ責任を取ってもらわんとな。」
冷たい奴だと思っていた。
姉に惚れていると言っても、どこかで、きっと冷たい奴なのだと思っていた。けれど、と、イズナはぎらぎらと怒りをたぎらせる瞳の男にこぶしを握り込んだ。
間違っているのだ。
こんな、私心を捨てて、姉は切り捨てられないといけないのだ。
今は、里のために、一族よりも優先しなくてはいけない瞬間があると、イズナだってわかっている。
けれど、その男は、姉を選択してくれたのだ。勝てる要素があるといっても、それでも、男は姉を優先してくれたのだ。
(・・・・ありがとう、義兄さん。)
ぽつんと、心の内で呟かれたそれは、イズナが初めて扉間を義兄と呼んだその瞬間だった。
もちろん、その時の扉間の脳内は、イドラを救うことに必死ではあるが、それ以上に人の女に粉をかけているらしいクソジジイへの制裁で目が据わっていたわけだが。
それを知らないイズナは健気にそんなことを考えていた。
そのまま、扉間が説得を行おうとしていたとき、悲愴な顔でそんなことを言ったうちはの人間に視線が行った。
イズナはそれに何をと思ったが扉間の珍しく動揺した顔にそれが本当であると理解した。
その顔は扉間が今までの経験で嫌な予感しかしなかったためであるのだが。
「・・・・何を言っておる。ワシは。」
扉間は誰にも知られていないが、ものすごい心臓をバクバクさせて言葉を紡ごうとした。けれど、それよりも先にうちはの男が口を開く。
「扉間様!私は知っておりますよ!イドラ様に幼少期のクナイを渡されたことを!」
クナイ、と部屋の中に動揺が広まる。
柱間やマダラ、そうしてイズナは扉間の方を見るが、男は珍しく動揺が顔にしみ出していた。
その時、扉間は滝のような汗が背中に伝っていた。
「私も、イドラ様が古びたクナイを持ってられたことに疑問を持ち、どうかされたのか聞いたのです。その時、イドラ様が言っておられました。それはイドラ様に何かあったとき、扉間様が必ずや、それこそ命をかけてでも敵を取るという証としていただいたと。」
それに部屋にいた一族で動揺が走った。
扉間はそれに一瞬だけほっとした。どうやら、後追い云々の話は広まっていないようだと。けれど、すぐに扉間は正気に戻る。
それはそれとして、やべえ内容が爆誕してるじゃねえか!?
すでに伝説は突き立てまくっているので、今更と言えば今更なのだが、それはそれとしてこれ以上立ちまくる誤解に扉間は待ったをかけようとした。
「・・・・・ですが、扉間様も立場があります。そのため、イドラ様から口止めされていましたが。ですが!尾獣を集めることによって、多くを敵に回すお覚悟を持っておられるというのなら。この身、それを伝えずにはいられません!」
男の脳裏には、何かうきうきでクナイを磨いていたイドラの姿が思い浮かんだ。
イドラ様、古くて小さいクナイですね。どうされたんですか?
これですか、これは!えっと・・・・
どうされましたか?
ええっと、これは、その、扉間様に貰って。
ああ、扉間様に。ですが、なぜ、そんなものを?
ええっと、あの、あー、扉間様に、お守りで、貰いまして?
お守り?確かに、心強いですが。クナイですか・・・・
どうしよう、命云々については、言えない・・・・
え?
あ、あの、これは扉間様が私に何かあっても必ずどうにかしてやるって、あれです、そんな感じです!
イドラはさすがに後追い云々を言えないため、必死に言い訳を考えたが、何かふわっとしたことを言ってしまったわけだ。
が、そのうちはの青年からすれば、所々聞こえてきた単語、命、どうにかしてやる、そんな単語を自分の中で悪魔合体した結果、そんなことになってしまったのだ。
本来の意味合いと、模造された内容どっちがましかと言われると悩ましい。ただ、とんでもない玉突き事故は起こっている。
「待て、そのようなことは言っていないが!?」
その言葉は真実だ。まあ、それ以上にやべえことを言っているのだが。
「扉間!」
突然のイズナの叫び声に、扉間は肩を揺らせた。それに振り向けば、そこにはイズナが半泣きで立っていた。
何故、目にそんなに涙を溜めているのかわからずに扉間は動揺しながら振り返った。
「お前、どういうことだよ!?」
「どういうこととは、何だ!?」
「自分だけ、責任をおっかむる気かってことだよ!」
「そんなこと考えていないが!?」
扉間からすれば本当に寝耳に水だ。いいや、というよりも、イドラも救うが、それ以上に尾獣を使って戦力増強と牽制と、資金調達を企んでいる具合には図太いのだが。
あまりにも斜め上からの話で、動揺したそれが扉間の自己犠牲の信憑性を増させていた。
それにイズナは扉間の胸ぐらを掴んだ。
「お前、ふざけんなよ!そんな、なに、自分で全部背負おうとしてるんだよ!?」
「だから、しとらんわ!言っただろうが、責任は・・・」
「言ったさ!でも、それだけで本当に責任が取れるのか!?」
一族の人間は事前に責任の取り方について話がされていたことを察したが、それ以上に、確かにと思う。
扉間がどんな方法を用意していたのかはわからないが、それはそれとして、どんな方法であっても批難は避けられないはずだ。
それこそ、現在、火の国という最大の国にまつろう、忍において最強と名高い千手とうちはの同盟の要である扉間を引きずり下ろしたいと思っている存在はいるはずだ。
氏族達は、あまりにも強い千手の戦力を削り、自分たちを有利に進めたいという思い、そうして、大名達は忍側が力をつけることを避けたいという思惑は存在する。
そんな人間達に責任を問われれば?
下手なことでは収まらない。
ならば、どうするか?
部屋の人間達は、全てを察した。
それで、イドラを救うために、この男は最小の犠牲で済ませるために己の命をかけようとしているのだ。
「なんだよ、姉さんのこと!ようやく、戦の時とは違って、穏やかになって!子どもだって出来て!すっごく幸せそうなんだよ!なのに、姉さんのこと、置いていく気なのかよ!」
義兄さん・・・・
最後の、義兄という単語に、皆が度肝を抜かれていた。
イズナが千手への態度を軟化させても、頑なに扉間のことをそう呼ばないことは皆知っていた。
まあ、それも仕方が無い。
彼らの関係性もあるし、イズナの兄たちは千手との戦で死んだのだ。関係性は義兄弟と言っても、そう呼ぶ必要も無いだろうと。
けれど、彼は、イズナは、扉間を義兄と呼んだのだ。
兄と、扉間を、千手の男を、心底、家族であると認めたのだ。
「い、イズナよ、そのような・・・・」
扉間は義兄と呼ばれたことに動揺し、あとずさりをした。
やばい、非常にまずいことになっている。
「ワシは己のことを犠牲にしようなどとは思っておらん!大体、言ったが、ワシは!」
「扉間よ、もうよい。」
肩をポンと叩かれて、その、兄の声に、扉間は瞬間風速最大級に嫌な予感を覚える。
ばっと後ろを振り返った。その先には感極まったように目をうるうるさせている柱間と、そうして、何か、こらえるような顔をしたマダラがいた。
「あに・・・」
「もう、何も言うな!扉間よ!」
頼む、何も喋ってくれるなと願って柱間に声をかけようとしたが、それ以上の圧で扉間の言葉は遮られる。
「すまん!俺は、兄として、お前の覚悟を見誤っていた!今回のことで、そこまで、自身の命をかけるなどと!兄として、お前をわかってやれていなかった!お前なら、どんなことになっても全力で生き残り、敵対している奴らをついでにあぶり出すぐらいに考えていると!」
安心して欲しい、その分析で十分、弟のことは理解できている。というか、方向性としてはばっちりだ。
「兄者!ワシは、そんなことなど思ってはおらん!」
「扉間よ!」
そこで今度はマダラの声が重なる。それに扉間はせめてとマダラに助けを求めるために視線を向けた。が、マダラは感極まったように頷いた。
「もう、何も言うな!お前がそこまでの覚悟であるのなら、うちはもまた、お前と道を同じにする所存だ!」
マダラは扉間の背中を軽く叩いた。
「義弟よ。」
その言葉に扉間の目が確実に死んだ。
そんな扉間の死んだ目などお構いなしに、うちはの人間が全員立ち上がった。そうして、千手の人間に頭を下げた。
それに千手の人間は動揺する。慣れてきているとは言え、さすがにプライドが高い彼らを苦手としてぎこちない関係性になっているのだ。
それ故に、彼らがそこまで頭を下げたことに驚いた。
「・・・・頼みます。千手にとっても危険があることは理解している。だが、イドラ様は、我らのために。愛し合っているとは言え、敵対している一族に嫁がれた。それによって、救われた命がある。このまま、あの子を犠牲になど、我らには出来ない。そうして、そのために、命をかけてくださると、そこまでイドラ様を助けてくれようとしている扉間様の心を、どうかくんで欲しいのだ。」
それに、門番をしていた男は、そっと目の前のうちはの人間を起こした。それに、他の千手の人間も同じようにした。
「・・・・我らも、扉間様の花嫁を失いたいわけではない。」
立ち上がったそれに扉間は慌てて言った。
「待て!そんなことを、ワシはまったく考えていない!ならば・・・・!」
「扉間よ!」
柱間が扉間の肩を掴んだ。
「安心しろ、何を持ってもお前にも、そうして、イドラにも指一本触れさせん!皆の者!此度の件が漏れれば、扉間の命が危うい!わかっているな!」
「はっ!」
その場にいた人間が覚悟を決めて、心を一つにして頷いた。扉間は、己に抱きつくイズナのつむじを見つめて、もう、やけの域でそれを眺めた。
ここに、絶対に失敗してはいけない(扉間の命がかかっています)尾獣捕獲計画が爆誕したのだ。
扉間の命を担保に、ある意味で本当に千手とうちはの心が一つになったのだ。
酷い話である。
ああ、イドラ。旦那様に聞いています。大変なことになっていますね。
あ、アカリ様、お世話になります!そう言えば、体調は大丈夫ですか?
・・・・ああ、はい。少し、普段は使わない筋肉を使ったせいか、疲れてしまって。
そうなんですか?何かあったら言ってくださいね!体力はあるので!あと、兄様とは仲良くされていますか?
ええ、よくしてくれるが、どうかしたのか?
だって、兄様、新婚生活で話が持たないからってご飯の席で延々と私やイズナの思い出話を数時間ノンストップでしたって聞いたんですが。
ああ、いいや、それで旦那様の昔の話しもわかって楽しいし。イドラやイズナ殿の昔の話が聞けるのは楽しいからな。
でも、数時間、私たちの失敗とかの話を聞いても楽しくないのでは?
いいや、とても楽しいよ。何よりも、弱みは握っておいた方がいいだろう?
あれ?なんか、寒気がする!?
それに、ほら、あれを見てください。
え?わあ、白ウサギ!可愛い!
以前、鷹狩りの時に見つけたそうで。持って帰ってきてくださったんです。そのまま、庭で飼っているんですよ。
・・・・贈り物が生きたうさぎ。
ああ、非常時には食べてもいいしな。
いま、兄様とアカリ様が夫婦であることをしっかりと理解しました。