今回はちょい長いです。
「あ、扉間!あれ、ここどこ?」
「いや、ワシにもわからんが。」
千手扉間は突然現れたうちはイズナに目を白黒させながら答えた。それにイズナも不思議そうに周りを見回した。
そうだ、自分たちはと、今までのことを思い出した。
うちはアカリこと、千手アカリに拘束され、その後気絶したのだ。が、そうであるとして、自分たちはどこにいる?
今までの、おそらく幻覚は何なのか。
「・・・・・イズナよ、お前も幻覚を?」
「あれ、扉間も?」
「ああ。色々と酷い内容だ。」
扉間は吐き気がするような内容に額に手を添えた。
そこには、目の前のクソ生意気な男はいなくて。
そこには、厳しくはあれど、自分たちを慈しんでくれた姉はいなくて。
そこには、可愛い息子は存在せず。
そうして、にこにこと笑う、駄犬、もとい妻はおらず。
「そうなの、僕は子どもの頃にまで戻って、千手と争ってたんだけど。里を作った方が兄さんの精神的に安定するって察して、古参連中に和平を押し通したところで終ったんだけど。」
「お、お前は、割り切りがあまりにも早すぎるだろう!?」
「はあ?大体、姉さんがいない時点でおかしいんだよ。千手と同盟はむかつくけど、お前らの医療技術は便利だし。主権を取れればこっちのもんだから。」
「・・・・ワシは、けっこう繊細な方かもしれん。」
「なんだよ、そういうお前は?」
「・・・・・酷い内容だ。」
「ふうん?まあ、いいけど。」
扉間の顔色の悪さを察したのか、イズナは深くは聞かなかった。
二人は改めて周りを見回した。そこは、不思議な場所だった。
足下は、まるで水たまりほどの水が延々と続いている。規模としては、湖だろうか?それにしては、深さは無く、そうして、地平線が見えるほどに広い。そうして、上を向けば、澄んだ青空が広がっている。水面に空の色が移るせいか、まるで、世界が青に染まっているかのような心地になる。
「ここも幻覚?」
「いいや、にしても、チャクラに乱れは感じられん。お前は?」
「・・・・だめだ、写輪眼は使えない。」
「こっちもチャクラが練れん。」
「なんだよ、役立たずかよ。」
「そういうお前もだろうが!?」
「こんな美少年を捕まえて?」
「くっ!姉者のせいで、妙な自己肯定感を身につけおって!」
ふざけたようにぶりっこをする男であるが、まあ、確かに本当に綺麗な顔立ちはしていた。
二人は互いの持ち物について調べるが、持っていたはずの忍具も無く、おまけに忍術の使えない状態だ。
「ともかくだ、ふざけてないでここから抜け出すことを考えねば!」
「そうだね、ともかく、周りを調べて・・・」
二人がそう言っているとき、どこからか、なんだろうか。
何か、そうだ、雪崩のような、そんな音。
扉間とイズナは思わず一瞬だけ顔を合わせ、そうして、音の方を見た。まるで死ぬ前の光景のような美しい光景の中、遠くに、何かの影が見える。
「・・・・なんだ?」
「もしや、津波か?」
思わずそう言いはしたが、現在、あまりにも情報が欠けているとひとまず音の方を見た。確かに、音の方には、何か、大量に迫っている。
チャクラが練れない今、自分たちは無力に等しい。扉間とイズナはひとまずそれから逃れようとした。
けれど、二人はその、それこそ津波に似た影の正体に思わず口をあんぐり開けた。
幅、そうして、高さも数メートルはある、そうだ、ぱっと見は津波に似ているそれの正体。
「う・・・・・」
それは大量の。
「「うさぎだあああああああああああああ!?」」
津波がごとく折り重なりながら二人に迫る、数万、いや、それ以上の数の、兎であった。
「何あれ、何あれ、何あれ!!??」
「知るか、走れ!」
二人は自分たちに迫ってくる兎の姿に慌てて走り出した。何せ、基本的に忍術で対処している身だ。ひとまず、自信のある体力で回避するしか無い。
一瞬だけ、兎ならと思いはしたが、その物量にさすがに無理だと思い直す。
「待って!?何あの兎!?いや、ここ自体幻術かなんかなの!?熱出してるときの夢みたいになってるけど?」
「そういった形跡もない!大体、チャクラ自体練れんこともおかしいだろうが!?うちはを幻術で騙せるほどの手練れがいるのか!?」
「待って、じゃあ、何、これって現実なの!?これが?え、これが!?」
イズナは扉間と隣り合って全力疾走していた。ここまで走るのなんて、いたずらがばれてぶち切れたうちはタジマに追いかけられて以来である。
イズナの振り返った先には、ふわふわとした白い毛並みの、可愛らしい兎(数万匹)が白い波となっている。
全てがつぶらな瞳(数万)で自分を見ている。小さな足はてとてと(数のせいで地鳴りレベル)と踊っている。
「悪夢!!」
イズナの言葉に扉間もちらりと後ろを見た。いいや、本当に一匹だけならイドラの土産に連れて帰ろうかと考えていただろうが、戦争は数という言葉を表すかのような迫力だ。
「お前ら森に住んでたんだろ!?兎の何か、情報無いのかよ!?」
「夏の兎は痩せておってまずい!」
「聞いてねえよ!」
「兎なんぞ、おやつ代わりぐらいの扱いだったわ!」
「使えねえな!」
「貴様がいうか!?大体、互いに、忍術も使えず、忍具もない状態で、これを打破できる方法があるとでも!?」
「忍術の使えないお前なんて、ただの筋肉達磨じゃん!」
「それを言うなら、貴様とてただの顔面がいいだけのもやしっ子だろうが!」
「うっせえ、こっちとら筋肉付かなくて大変なんだからな!」
「そう言うなら偏食を治せ!姉者が、うちはの人間は肉を食わんから献立に困るとぼやいておったぞ!」
「肉は臭いから好きじゃない!」
「そんなんだから、マダラの奴が実益かねて鷹狩りすることになってるんだろうが!」
さすがは忍というのか、二人は野生の獣に追いつかれない程度の速さで走りながらそんな会話をしている。だが、永遠に走り続けられるわけではない。
(走っても走っても景色が変わらん。このままではじり貧か。)
「イズナよ、ひとまず二手に分かれるぞ!」
少なくとも二手に分かれれば、兎が何を目的にしているのかわかる。もしも、仮にどちらかならば、一人の手は空く。
その意図を察して、イズナは頷いた。
そうして、二人は思いっきり左右に分かれる。それに、兎は二つに分かれて、イズナと扉間を追いかける。
(目的は互いか。)
扉間はそのまま自分の動きで兎の動きを鈍らせられないかと足に力を込めた。その時、だ。
影が、地面に映る。
それに扉間は思わず頭上を見た。
兎の、津波がすでに頭上に迫っている。
扉間自身、何を言っているんだと思った。けれど、大量に折り重なった兎が、扉間を飲み込もうとすでに頭上に迫っていた。
「うおおおおおおおお!?」
思わず叫んでしまうほどに異様な光景に扉間は叫んだ。兎たちはまるで雨のように扉間に降り注ぐ。
もふん。
魅惑の感触だった。ふかふかしていて、そうして、滑らかで有りながら、仄かに暖かい。何よりも、動物としての獣臭さなんて欠片も無く、まるで干したての布団のような匂いがした。
これでももふもふとした物には五月蠅いのだ、襟巻きだって厳選している。
それ故に、扉間にとってまさしく、その感触は極上であると太鼓判を押せた。
もふん、もふもふ、もふん!!
扉間は自分が毛玉の海に溺れたことを理解したその瞬間、ぽんとどこかに放り出される。
扉間はそれに体をひねり、その場に降り立った。
もふんと、そんな音を地面が立てる。
扉間はそれに素早く立ち上がるが、地面があまりにもぐにゃりと、いや、柔らかいことに気づく。周りを見回すと一面が白いもふもふに覆われている。
「おお、無事であったか!」
その声の方を見ると、そこには六道仙人が、いいや、大筒木ハゴロモがいた。
「六道仙人様?」
「ああ、そうだ。」
「ここはいったい・・・・」
扉間がそう問いかけようとしたとき、ぼすんと後ろで音がする。
そこには、ぜえぜえと荒い息を吐くイズナがいた。
「イズナ、おい、大丈夫か?」
思わずそれに近づいた扉間であるが、イズナは荒い息のままその裾を握る。
「う、兎が、兎で、溺れて!」
「落ち着け!」
「もふもふと、いいにおいで、沈んで・・・・」
「完全にトラウマになっとるな。」
扉間がイズナの背中を撫でていると、また、声がした。
「あら、そんなに恐ろしかったですか?」
「当たり前だろ!いくら兎でも、あんな数は反則だろうが!」
イズナが怒鳴った先、そこには、きゅるんとまん丸い目に、ふわふわとした白い毛並みの、兎がいた。
「うさぎいいいいいいいい!!」
イズナはまるで驚いた猫のような跳躍力で扉間の肩に飛び乗った。ふーと唸るような威嚇音を聞きながら、扉間はぐらぐらと揺れる。
「そんなに驚かなくともよろしいでしょうに。」
「お、お前は?」
扉間は目を白黒させる。その、兎から発せられるだろう、その声は、なんとも不思議な声だ。
若くはあるが、ひどく落ち着いた女の声だ。
その場に、扉間の妻がいれば、聖女様!!と叫んでいたことだろう。
「そやつの名は月兎。遠い昔、ワシの妻であったサクヤに仕えておった存在だ。」
「うちの、ご先祖様の・・・・」
「ええ、ご紹介にあずかりました、月兎と申します。にしても、確かに強硬が過ぎて申し訳がありません。どうしても時間を窮しておりましたので。」
こてんと首を傾げて、鼻をぴすぴす動かす兎の姿が確かに可愛らしい。イズナは扉間に肩車をさせた状態で兎を見つめる。
「ここがどこ、というお話でしたら、ここは私の上ですね。」
「上?つまりは、ここは巨大な兎の上であると?」
「待ってよ、じゃあ、お前はなんなの?」
「さあ、ここにいる小さな私も私であり、この大きな私も私。多重に分かれたとしても、素が同じであるのなら、これも、それも、全てが私なのですよ。」
扉間は分身による多重思考のようなものかと考える。イズナは扉間の肩車から下りて、月兎に近づいた。
「それよりも、今の状況を教えてくれない?姉さんや、兄さん、あと、うちの義姉は!?」
「・・・・現在、他の方は無事です。ですが、時間の問題でしょう。そうして、今、あなた方は精神だけの世界に閉じ込められているのですよ。肉体は、草原に放られています。」
それに扉間も、イズナも己の体を見る。けれど、特別な感覚はない。
「現状についてお話をするのなら、ひとまず、昔、遠い昔の、全ての始まりからお話しせねばなりません。」
「そんな暇あるの?」
「それをせねば始まりません。できるだけ手短に話しますので。よろしいですね、ハゴロモよ。」
「ああ、わかっている。」
ハゴロモのそれに月兎はうなずき、そうして、語り始める。
それは、宙から女が来たことから始まったのだと。
「そうして、インドラ様とアシュラ様は後継者争いを起こされ、決別をし。生まれ変わりながら延々と争い続けておられるのです。」
短く、完結に話されたそれを聞いた扉間とイズナは、ひどく、しらっとした目をハゴロモに向けた。
「それってさあ。」
「ああ。」
「この六道仙人とか仰々しく名乗ってるじいさんが後継者教育に盛大に失敗したのが原因ってこと?」
「そうですね。忍術の開発により、争いが起こるのは絶対的にありましたが。それはそれとして、そこの老人がもう少し上手くしていれば規模も、期間も短く出来ていたでしょう。」
ぐさりと、ハゴロモに何かが刺さるのが見えた。
扉間としては、さすがに無礼ではと頭の中で思うが、それはそれとして、その意見に頷いてしまう。
「大体、息子が二人いて、長男に継がせない時点でそりゃこじれるわ。」
「おまけに、長男のインドラは、幼い頃から後継者としての自覚を持って勉学などに励んでいたわけだろう?」
「ええ、アシュラ様はインドラ様がいるからと、そういったことはサボりがちでした。」
「普通さ、そういった後継関係ってある程度資質を見て、小さい頃からどれにするか決めるものじゃないの?完璧が難しいなら、二男とか三男に補佐役として教育するとか。」
「ある程度自尊心や、積み上げたものが出てくるときにこじれるのはわかるからな。」
「だよねえ、うちだって兄さんの強さとか、諸諸あって、俺は補佐として教育受けたし。」
「資質が見抜けなかった場合や、母親の立場などでぎりぎりまで推し量る場合があるが。それはそれとして、兄弟で支え合うという建前があるのなら、兄弟で互いのことを見るように教育すべきだろう。」
「そりゃあ、天然で育てたらそうなるよ。いっくら兄弟でも立場も、建前もあるんだから。それで子孫まで割を食うとか最悪!」
「・・・・インドラの気質に問題があるとして、こじれるのも必然のような状態だな。」
月兎は目の前の会話でハゴロモにすごい勢いで矢が刺さるのが見えたが、無視した。そこら辺に関しては思うところがありすぎる。
「それで、その後継者争いが、今の状況となんの関係が?」
扉間の問いに月兎はふんすと鼻を鳴らした。
「・・・・大筒木カグヤ、忍の祖である彼女が、宙の果てから来たことはお話ししましたね?」
それについて、イズナはもちろん、扉間も想像が出来ない。ただ、ひどく遠い場所であるという感覚だけがある。
そうして、大筒木という一族についてもそうだ。
「土地の自然エネルギーを吸収して、その場を枯らしていく厄介な侵略者とお考えください。」
それが月兎からの説明で有り、扉間自身は非常に興味がそそられたが、今はぐっとそれをこらえる。
「大筒木は、人と同じような姿をしています。人との生殖能力もあるので、近しい種族ではあるのでしょう。ですが、彼らは基本的に、肉体的にも、精神的にも人とは違います。彼らは、実際、人よりもずっと優れた種族です。不老長命、いいえ、殆ど不死と言っていい。そうして、彼らは全員、万華鏡写輪眼以上の瞳術を持っているのです。」
その言葉にイズナと扉間は顔をしかめた。互いに、万華鏡写輪眼がどれほどの力であるか、知っている。そうであるが故に、不死などと言われるそれが、それ以上の瞳術を持っているという意味。
「彼らは、自分たちが優れた種族であると自負しています。そうですね、人など畜生ほどにしか思っていないほどに。自分たちを、神のように思っているほどに。」
その言い方にイズナはむすりと顔をしかめた。それに扉間は眉をしかめた。
そうであるとするのなら。
「そうですね、おかしいですね。」
月兎は扉間の顔に頷いた。
「そんな種族と、どうして、人が番い、子までなしたのか。」
とても、おかしな話でしょう?
冴え冴えとした、その兎の声は、どこか、無機質で冷たい声だった。
イズナは思わず隣にいた扉間の服を掴んだ。
愛らしい、その瞳がしんとした、ガラス玉のようでひどく不気味だった。何よりも、兎の津波に攫われたことがそこそこトラウマになっていた。
「・・・・さて、カグヤという女は大筒木という種族の中で、確かに温和な部類で有り、地位が低い女だったそうです。ですが、だからといって、畜生と交わり子をなすなど、おかしなことです。」
「何故か、知っているのか?」
それに月兎は鼻をヒクヒクさせた後、ぴょんと、一度だけ跳ねて、ぐっと背筋を伸ばして空を見上げた。
「・・・・人の体には、病魔などに対して防衛反応があるのは知っておられますか?」
「発熱などのことか?」
「ええ、それと同様に、大地にもまたそういった防衛本能があるのです。それを、あなた方は神や、運命と言うのでしょうか。」
黒々とした、ガラス玉が自分を見る。それは、ぴょんと、また跳ねた。
「ただの土や、水に意識があるって言うの?」
「さあ、私にはそこまでの理解は出来ません。もっと言うのならば、この星に住まう者からなる、集合意識、いいえ、もっと大きな存在なのか。そこまでは、わかりません。ただ、私は、その存在によって生み出されたのです。」
兎はぶるんと身を震わせた。
「何故、カエルや、その他の獣たちに仙人という高度な知恵を持った存在がいるのでしょうか?彼らの作る札や、術はどこから来たのか。元々、この星の主なる種族は彼らでありましたが。動物はどうしても欲、そうですね。どこかに進む活力が足りませんでした。そのために、次に産まれたのが人間です。」
ぴょんと、兎が跳ねる。
「カエルの見る夢は、運命である。それは、この星が指し示す、よりよき運命であり、私心なのです。さて、そんなとき、大筒木がやってきました。この星は困りました。彼らは、星、つまりは大地から生命エネルギーを吸い出してしまう。ですが、この星に、彼らに対抗できる存在はいませんでした。さりとて、カグヤをのけれたとしても、次が来る。急激な進化は難しい。そうであるのなら、何が最短であり、最善か。」
その言葉に扉間は口を開いた。
「そのための子か。」
「・・・・そうか、確かに、それは最短だ。」
子がなせるというのなら、血を混ぜることで一方的に高い能力を持った次代が生まれる。そんな魂胆があったのだろう。
「・・・・場というのは大事で。カグヤという女が、精神的にまだ情のある個体であったことが幸いしました。強いて言うならば、因果がねじ曲げられた。恋に落ちないはずの人でなしは、愛を知り、子をなした。この星という世界が、そう筋書きを書いたために。」
兎はずっと黙り込んだままのハゴロモを見て、そうして、苦々しく言った。
「ええ、ですが、幾つか予想外のことがありました。大筒木という種族は、非常に能力的に高くはありました。混血の彼らは、共感能力も有していました。ですが、あまりにも、その力は強く、その子どもたちには、特に、写輪眼を継いだハゴロモの子には、その力を受け止める力を有していなかった。」
「その未来によって、この星が産みだしたのが、インドラと、そうしてアシュラの母である、サクヤと、そうして、イワナガであった。」
引き継ぐようにハゴロモは重くなっていた口を開いた。
「それによってって、どういうこと?」
「・・・・人の血が濃い子どもでは、強い陽遁と、陰遁を受け止めることが出来なかった。ならばと、その力を分け、そして、その力を受け止められるまで、人という種族が進化するまで待つはずだったのだ。その産み分けのために、二人の女が生み出された。」
「ええ、そうです。いつか来る、侵略者への反撃。この星が産みだした防衛機能。それが、大筒木と人の混血であるあなたたちの原初。事実、大筒木の血を継いだ子どもたちは多種多様に進化を遂げました。彼らに加え、大筒木の特徴を濃く受け継いだあなたたちの血が混じれば成功でした。ですが、その計画はすべておじゃんになりました。」
月兎はきっとハゴロモを睨み、叫んだ。
「そこにいるくそジジイのせいで!!」
その言葉と共に、大量の兎がどこからか現れ、一斉にハゴロモに襲いかかる。
「お、お前達、やめ!?」
草食動物とはいえ、一斉に全身を噛まれるのは痛いのか、ハゴロモがもがいている。
そうして、扉間たちに説明をしていた個体もハゴロモに飛びかかった。
「何が、息子達にはあまり傲慢になってほしくないから、ですか!私も、そして、八咫烏も、彼らが仲違いをしないように潤滑剤として生み出された部分もあるというのに!ああ、イワナガ姫がお前に封印術など教えてしまったせいで何も出来なくなるし!ようやく、封印が解けたと思えば、互いに殺し合っているなど!この、愚か者が!!」
「く、すまん!だが、あまり、大きな力が側にいれば、母のようになることも考えられて!」
「だからといって、妻であった女たちに仕えていた我らを封印するなどばかですか!?」
「仕方が無いだろう!?お前達はあまりにも強力だった!尾獣たちのように、人とどう関わらせるのか!あまりにも難しい問題であったのだ!」
「そうだとしても、抵抗した私や八咫烏まで封印することではないでしょう!?」
イズナは何か、すっかりとトラウマになったような面持ちで兎にたかられるハゴロモを見ていた。扉間は六道仙人という立場を考えて、助けたほうがと思う。
(いいか、扉間よ。確かに大人になってもクソみたいな存在はいる。だが、最低限の敬意は持つんだぞ。)
脳裏には、幼い頃から自分に礼儀など叩き込んだ姉の姿が思い浮かぶ。
それに扉間はハゴロモを助けようかと考えた。
(だが、どんな時も自業自得は存在する。それはそうなると思うようなクソジジイやクソババアは一度痛い目見た方がいいから見捨てろ。)
かこーんと、扉間の中で天秤が傾いだ。
よし、見捨てよう。
扉間は、悪党ではないが、それはそれとして卑劣である。
「・・・・さて、それで本題ですが。」
いつの間にか、新たに現れた兎が語り始める。
「サクヤ姫と、イワナガ姫は、大筒木の血を効率的、且つ、素早く広めるための胎でした。そうして、時が来れば、もう一度、大筒木の体と、精神を統合させるための存在だったのです。」
「今世の、その胎がイドラと、そうして姉者と言うことか?」
「・・・・先ほど、大筒木は、不死であると言いましたね。それには、彼らの使う、楔という術が大きく関係しています。彼らは、自分の体に不都合が出来ると、他人の体に楔を使い、その体を乗っ取るのです。」
「まってよ!じゃあ、姉さんの体は、ご先祖様に乗っ取られるってことなの!?」
イズナが月兎に飛びつくと同時に、扉間はようやく、何故イドラが狙われたのかを理解した。
「違います!本来は、ただ、肉体的にサクヤ姫やイワナガ姫に近づけるだけの、改良版でした。ですが、イワナガ様が、精神までのものに変えてしまってしまいました。」
「そのイワナガは、何を今更そんなことを!?」
その言葉に、月兎は恥じ入るように、顔を下に向けた。
「申し訳ありません。私は、それが何故かわからないのです。」
「なんだよ、使えないな!」
「重ね重ね、申し訳ございません。ですが、イワナガ姫を止めることは出来ます。」
月兎はそう言ってとある印を二人に教える。
「これは封印術の一種です。これを使えば、イワナガ姫を一時的にでも封じることは出来ます。隙さえできれば、イドラ様にかけられた楔についても私がなんとかできます。これからお二人を現実に送り返します。ハゴロモは、念入りに封印されているので無理ですが、お二人は軽いため可能です。私も協力いたしますので。」
「それを赦すと思っているのか?」
それは、すっかり聞き馴染んだ、あの低く落ち着いた声だった。