千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

イズナの話、書いておきたかった。


この世界の兄や姉は弟妹が何よりも好き

ばさりという羽ばたき音がした。

そちらに視線を向けると、鳥がいた。

それこそ、翼を広げたその様は、怪鳥と表現がしていいほどの大きさであった。

その声は、イドラが外道神父と宣ったそれと同じ声で。

 

「月兎よ。こそこそと隠れていると思っていたが、なるほど、こんなことをしていたわけだ。ハゴロモを解放したのもお前だな。」

「・・・・・・見つかりましたか。」

 

吐き捨てるような月兎のそれに、うちはイズナが言った。

 

「ぺ、ペン吉!?」

「飛べたのか、ペン吉。」

「ペン吉ー!お前、大丈夫だったのか!?」

「今更かっこつけてもそこそこ無理があるだろう。」

「姉さんの胸ででれついてたの知ってるからなあ!」

 

それに空に浮んだ、大鴉が叫んだ。変わらない、良い声をしている。

 

「だーれがペン吉だ!?鴉だって言ってるだろうが!?見ろ、完全に違うだろうが!?」

「ペン吉、兄さんと柱間知らない!?」

「無視をするな!」

「ペン吉って何ですか?」

「あだ名だ。」

 

ペン吉、もとい、八咫烏はイズナのそれにぐぐぐとわななくが必死にそれを押さえつける。

 

「・・・・ふん。まあ、いい。お前達に邪魔をさせるわけにはいかん。」

「八咫烏よ、お前は何をする気だ?」

「・・・・ハゴロモ、貴様はいつもそうだ。何故、イワナガ姫がこのようなことをしたのか、まったくと言っていいほどわかっていない。裏切られたのだと、愚かなことを考えてはいないだろうな?この身は、はじめから貴様に忠誠などなかったのだから。」

 

憎々しげに吐き捨てた八咫烏は改めて、うちはイズナと、千手扉間を見た。

 

「・・・・ただ、お前達に危害を加えたいわけでは無い。どれほど似ておらずとも、お前達はイワナガ姫とサクヤ姫の末。このまま大人しくしているというのなら。」

「ほう、イドラや姉者の危機に黙っていろと?」

「てめえ、姉さんと、兄さんの嫁に手を出しておいてよく言えたな?」

 

それに八咫烏が少しだけ黙り込む。けれど、喉の奥を震わせるように笑った。

 

「だが、いいのか。このままでは、柱間とマダラは兄弟のごとくあり続けるぞ?」

「それがどうした!何が言いたい?」

「・・・・我は、お前たちの心を知っている。幼い頃から、察していたのだろう。なあ、兄たちの運命に、お前達は割り込むことが出来ぬのだと。」

 

そこで、二人の後ろ手を誰かが引いた。それに、二人は振り払うように後ろを見る。

 

「・・・・いいの?」

 

その言葉に二人は声のする、足下を見た。

そこには、子どもが二人いた。

 

一人は、白い髪をした、扉間によく似た子ども。

もう一人は、うちはタジマによく似て、けれど、少しだけ優しげな顔をしている。

それに、扉間とイズナは呟いた。

 

「瓦間?」

「うそ、トガク兄さん?」

 

その子どもはにこにこと笑いながら、二人に微笑みかけた。

 

「このまま、千手と同盟をするの?」

「うちはと手を取り合うの?」

 

二人はにっこりと微笑んだ。

 

「「あの日、あの川で。二人が出会った時に。」」

それを、父に伝えたのは、誰だった?

 

それと同時に、どぼんと水に沈む感覚がした。

 

 

 

「っは!」

 

イズナはもがきながら立ち上がる。そうすれば、目の前には、あの日。

兄と、そうして、柱間が決別した日の光景だ。

にらみ合った双者。決別を決めた兄の目には、赤い、瞳が浮んでいる。

 

「・・・あの日、父様に兄さんの動向を伝えたのはイズナでしょ?」

 

その声に隣を見た。そこには、幼い頃の姿のまま、あの日、戦で死んだときのままの兄がいた。マダラ以外の、二番目の兄。

 

「・・・・お前は何だ。トガク兄さんの姿を借りやがって!ペン吉か?」

 

それに幼い少年の顔をしたそれは、笑みを深くした。

 

「違うかな?」

 

彼はそう言った後、ふっと姿がゆらいだ。そうすれば、そこにいるのは、一人の少年だ。

それは誰かに似ていた。

黒い髪に、黒い瞳、つり上がった瞳に、白い肌。

自分に似ていて、そうして、兄にも似ている。

強いていうのなら、兄の顔を大分温和にすれば、そんな顔になるのだろうかと思わせた。

それは淡く微笑んだ。

 

「僕は、そうだね。君と同じ者だった、存在かな?」

「同じ?うちはの人間だろうけど。」

「僕は、遠い昔、インドラの生まれ変わりだった人の、弟だった存在かな?」

「・・・・曖昧な、言い方。」

「うん、ここにいるのは、ただのチャクラなんだ。いつかに、どこかで、戦場の中でのたれ死んだ、残りカス。子どもの最後の断末魔。記憶だけになったチャクラを、イワナガ姫が収拾し続けた、嘆きの記憶。」

 

それと同時に、目の前の、兄と柱間の決別のシーンがぐるりと変わる。

そこは、イズナにとって馴染んだ戦場だった。うちはと、そうして、千手の特徴を有した人間が殺し合っている。

それに対してイズナは特別な感覚など持たなかった。

けれど、そうだ、その殺し合いの中で目を引いたのだ。

一人の、少年。

自分の隣にいた少年が、その戦場にいて。

大人に囲まれ、なんとか逃げ出して、そうして、少年はほっとした顔をした。

その先にいたのは、厳しい顔つきの少しだけ、年が上の少年だ。

 

「兄ちゃん!」

 

助けを呼ぶ声だった。呼んでいた、兄に縋った弟。

けれど、兄は振り返らない。

だって、彼の前には、ああ。

 

どこか、柱間の面影を残した少年が、一人。

 

「あああああああああああああああああ!?」

 

断末魔が響いた。よくある話、イズナだっていくらだって見た光景。

子どもが、一人、弱い子どもが死んだだけ。

 

「・・・ねえ、答えてくれる?」

 

静かな声でそれは、自分に言った。それにイズナは子どもの方を振り返った。その子どもは凪いだ瞳で自分を見る。

 

これは幻覚だ。

これは、ただの、幻だ。

けれど。

 

「ねえ、君は、わかっていただろう?」

 

静かな声だった。やっぱり、それは静かな声だ。

 

「僕たちは、兄ちゃんの弟でも。でも、僕達はいつだって、蚊帳の外。」

あの日、誰よりも、兄の笑みを取り戻してくれたのが千手の彼であると知りながら。

君はどうして、マダラのそれを父に知らせたの?

 

ああ、それは。

イズナにはわかる。その子どもの言いたいことが。

 

それは、いつかの、イズナであったものだから。

 

 

 

兄が、遠いと思うようになったのはいつのころだろうか。

ただ、ある時から兄が頻繁に外出するようになった。確か、それは兄が二人亡くなってから久方ぶりに上機嫌な様子で。

暢気で温和な姉も、沈んだ顔をしていたが、兄の機嫌のよさそうなそれに伴って少しだけ明るくなったように見えた。

それはきっと良いことだ。

けれど、イズナからすれば鍛錬をしてくれる時間も減ったし、何をそんなに機嫌が良いのかと気になる。

 

何か、とっても綺麗な景色を見つけたのだろうか?

それとも、おいしい木の実がなっている場所?

穴場の修行場?

 

いつもなら、嬉しいことを自分にすぐ教えてくれる兄さん。

優しい兄さん。

何よりも、父よりもなお、自分を大事にしてくれた兄さん。

 

「ごめんな、また今度。」

「兄様が嬉しいなら、それでいいでしょう?」

 

うん。そうだね。きっと、そうだね。

 

(どうしてかなあ。)

 

何故か、兄が、ひどく、遠くて。

自分を置いて行ってしまう気がした。

 

父に、兄の様子がおかしいと話をしたのは、偶然だ。父も兄の様子がおかしいと理解していたのだろう。

仕方が無かったのだろう。けれど、話さないことだって出来た。事実、姉は黙っていた。

察していたのだ。

兄が、ああ、兄さんが、また笑ってくれたのだと。

そうして、兄が千手の少年と会っていることを知り、決別した。

姉はついていかなかった。

女だからといっていたけれど、年からして、姉の方が当時は実力があった。けれど、姉を連れて行かなかったのは偏に父が娘に対してどうしても甘かったせいだろう。

イズナも、姉を連れて行かないことに賛成だった。

 

優しくて、甘ったれの姉はきっと、友と別れを選択する兄に肩入れをして、その場を乱すことはわかっていた。何よりも、姉はそれに相当心を痛めることがわかったためだ。

兄にそこまで咎めはなかった。

千手の人間と会っていたことは他の氏族に知らせられないため、咎めを受ければ不審に思われるためだ。

兄は、自分を責めなかった。

姉は、兄の事実を知り、その後はずっとべったりと張り付いていた。

姉は、泣いていた。

その理由がわからなかった。

 

どうして泣くの?

だって、兄さんが、兄さんが。

 

兄さんが、悪いのに。

 

それに姉はじっと自分を見ていた。自分を見て、そうだ。

 

「だって、兄様は一人になっちゃった。」

 

その意味を理解したのは、きっと、ようやく里ができてすぐのこと。

 

兄はそのまま、優しい兄のままだった。姉は、前よりもずっと暗くて静かになった。

 

変わらない、変わらない、兄は優しいまま、姉は少しだけ手がかかって、けれど可愛いまま。

なのに、二人とも、何故か、遠くを見ている。遠くを、イズナの知らないどこかを見ているのだと理解したのはいつからだろうか。

 

兄はあれからも、夢に見ていたのだろうか。弟たちが死なないでいれた世界を。柱間と夢見た世界を。

姉は、ずっと夢を見ていたのだろうか。それとも、焦がれた男のことを考えていたのだろうか。

 

その遠い目が嫌いだった。その、うちはでも、自分でもない、どこかを見ている目が嫌いだった。

 

戦が、千手との戦が嫌いだった。

兄が、柱間と向かい合う瞬間が嫌いだった。

その時、兄は優しい兄ではなくなる。その時、兄は、自分の事なんて忘れてしまっている気がした。

 

兄は柱間を、自分は扉間を。

それは必然で、けれど、わかっていた。自分では柱間の相手にはならないし、そうして、自分が柱間との戦いに邪魔になっている。

 

つがいのようだと思ったことがある。

 

あいつだけが、俺を殺せる。

それは純然たる事実で、そうして、どこか、隔絶させるような感覚だった。

 

姉に問うたことがある。

 

「姉さんは、柱間のこと、どう思う。」

「・・・・特には。ああ、でも、そうですね。優しそうな人だと思います。」

 

それは、きっと、弟だから漏らされた本音だった。本音で、だからこそ、イズナはどんどん恐ろしくなる。

兄が、姉までも、遠くに行ってしまう。

俺の、兄さんと、姉さんなのに。

なのに、ああ、教えてよ、二人とも。いったい、どこを見てるんだ?

 

 

 

「いいの?」

 

少年が淡く笑った。

 

「このままで、いいの?」

「何が、言いたいんだよ?」

 

その返事が弱々しくなってしまったのは、何故だろうか。少年は、柔らかに笑ったまま、自分を見ている。

優しい笑みだった。なんだか、見ているこっちが泣きそうになる顔だった。

 

「なら、何もするなって言うのかよ!姉さんが死ぬの、黙って見てろって言うのかよ!」

「・・・・でも、そうしたら、どこにも行かないよ。」

 

ああ、なんてことを言うのだろう。ああ、なんて、なんて、悍ましくて。

なのに、己の中の、幼い自分が怯えている。

 

行かないで。行かないで、ねえ、僕の知らないところに行かないで。

大好きな兄さん、可愛い姉さん。

 

兄は唯一の存在をうちはではなく、仇の一族に見いだした。

姉はたった一つの恋を、仇の一族に差し出した。

どうして、ねえ、どうして、そいつらなの。

ねえ、兄さん、姉さん、僕よりも、そいつらのほうがいいの?

がたがたと、胸の奥で震える心に少年が微笑んだ。

 

「そうそう、嘘なんて吐かないで!」

 

少年は笑った。笑って、水面が揺れるように姿がぶれた。

 

「わかっていたんです!どれほど愛しても、その憎悪以上の感情を越えることなんてなくて!」

 

そこにいたのは、黒い髪をした、華奢な女。

また体がゆらぐ。

 

「理解していたのに、認められなかった!親友だって、思ってたのにな!」

 

そこにいたのは、精かんな顔つきの青年。

また、姿がゆらぐ。

 

「妻で、子までなしたのに、その心に触れたことなどありませんでした!」

「どれほど足掻こうと、その強さにたどり着くことは出来なかった!」

「愛しい我が子!なれど、何も出来なかった!」

「愛してくれていた!ああ、だが、一番になんてなれもせず!」

「ねえ、行かないで欲しいなんて思って!」

「ずっと一緒だって!違うよ!あの人はいつだって!」

「あいつのことばかり見ているんだ!」

「わかっていたんだ!」

「わかって、いたのに。」

「ああ、ずっと、あの、赤い目が誰を見ていたかなんて知って。」

「必死に、忘れられないようにしているのに。」

「あの人は、いつだって、あいつのことばかり。」

 

姿が、ゆらぐ。

幼い子ども、女、男、老人。

それは、まるで怨嗟の声を上げながら、泣いていた。

 

我らでは、その運命に割り込むことさえ出来ぬのだと!

 

笑う、笑う、泣きながらそれは笑って。そうして、また、子どもの姿に戻る。

 

「ああ、そう、僕達は、いつかにインドラや、そうしてアシュラの転生者の、兄弟で、親友で、妻で、そうして、運命になれなかった者たちの残りカス!どれだけ手を伸ばしても、結局、彼らは憎しみで、怒りで、そうして、愛で我らを選んでくれなかった!」

イズナ、君だって、思っていただろう。ああ、この人たちは、最期に誰を選ぶのだろうかと。自分ではない、誰かを選ぶかも知れない二人が憎かったのだろう?

 

ああ、それにイズナは反論さえ出来ずに、口を噤んだ。

引き結んだ口元はまるで駄々っ子のように心許ない。

 

それは、イズナの中でずっと、がたがたと揺れる心の一つだ。

千手との同盟の後、全てに納得がいったわけではなくて、それでも仕方が無いことがあって。

 

姉が、ずっと、沈んで、雨のにおいを纏っていた姉が、昔みたいに笑っていて。兄だって、少しだけ肩から力が抜けていて。

憎い、嫌いだ、仇なのだ。

なのに、周りも、そうして、自分もああこれでよかったと思っていた。

けれど、嫌だと、わめく自分がいた。

 

父よりも自分を守ってくれた兄さん。母よりも自分を慈しんでくれた姉さん。

自分よりも、大事な誰かが出来た兄さんと姉さん。

 

ああ、ああ、ああ!

俺の方がずっと、柱間よりも、扉間よりも、二人のことが好きなのに!

 

俺が兄さんのことを守りたかったのに。兄さんを守れるほどの力が無くて。

俺が姉さんを笑わせたかったのに。姉さんのことを笑わせられるほどのことなんてできなくて。

 

「このまま、お姉ちゃんが死んだら、悲しいね。でも、そうしたら、もう、お姉ちゃんはどこにも行かないよ。お姉ちゃんが死んだら、お兄ちゃんは今度こそ、柱間と決別するよ。ねえ、今度は、君と一緒のものを見てくれる。」

運命は覆らなくても、共にすることはないのなら。それこそ、君の望みじゃないの?

 

「五月蠅い!そんなこと、するはずないだろう!?俺が、俺が、姉さんにそんなこと!」

 

弾む声、軽やかな声、ああ、けれど、イズナの中で黙れと言えない自分がいる。

 

自分は、自分は、そんなことを望んでいないはずなのに。

裏切られた感覚がある。

敵の男を愛した姉。敵の男に気を許し、子までなした姉。姉を口説き落としたやがったクソ野郎。

 

(クソが、扉間め!)

 

それ自体がひどい風評被害なのは誰も言わないことである。

 

思わず口を噤んだイズナに、目の前の少年は笑みを深くする。そんなとき、声が、聞こえた。

 

『どうでもいいわ、そんなこと!』

「は!?」

 

思わず周りを見回すが、誰もいない。ただ、その声は確実ににっくき仇の扉間である。

 

『大体、兄者の運命とかどうでもいいわ!世の中の兄弟が基本として、べったりと、大好きとか異端の考えにきまっとろうが!見てみろ!?優しい兄が殺気で弟を無理矢理黙らせると思うか!?』

「はあああああああ!?いつの世だって、弟は兄さんが好きなもんだろう!?お前のとこが変わってるだけだし!」

『それにな、正直、マダラにワシは感謝しとるわ!あの癖の強い姉を引き取れる男なんぞこの世に兄者以外におるとは思っておらんかったし!』

「・・・・それは、まあ、そうだけど。」

『将来、結婚しない同士で兄者の子を二人で猫かわいがりする想像しかしておらんかったから、片付いてほっとしとるわ!帰ってこられても困る!』

(・・・・・お前のことも、扉間が片付いて良かったって言われてるのは黙っておこう。)

 

けれど、イズナは何かあったときに、義姉に言いつけると脅しに使えるからと心の中にメモをする。

 

『大体な!』

 

イズナはその声を聞いた。気にくわない、ずっと殺し合っていた男の言葉だ。姉のことをかっ攫っていくクソ野郎だ。

自分とは違って、兄と夢を共有した男だ。

嫌いで、けれど、認めないなんて駄々をこねることも出来ないぐらいに知っているそれの言葉だ。

 

『ワシとて、憎かった!ずっと、怒り続けていた!ワシから弟たちを奪った世界が!無理矢理に押しつけられる理不尽が!嘆くしか出来んものががたがた抜かすな!』

 

その男は、どこまでもリアリストなそれの原初。それは、きっと、そう変わったものでなくて。

赦せるものかという、弟を亡くした兄の怒りだ。

 

『大体な、人生の途中で割り込んできたマダラなんぞ、兄者の人なつっこさでなんとかなっただけだろうが!?こちとら、産まれたことからの仲ぞ!今世の、千手柱間の弟はワシで、夢のために足掻いたのは誰でもないワシだ!前世など、知るものか!』

 

それに、イズナは笑った。

あーあ、なんともまあ、豪胆で、図太くて、そうして、一人の兄の掛け値無しの本音で。

ああ、そうだ。

運命なんて、どうでもいい。

そうだ、こちとら、産まれた頃からその兄と、そうして、姉の愛情たっぷりに育てられてきたのだ。

そうだ、イズナの原初は、きっと。

戦場で生きるのだから、死んだって構わないと覚悟はあった。けれど、だからこそ、だ。

生き残っていた、兄と姉と共にいる。

それこそが、イズナの原初。

イズナは少年を見た。

 

「お前、馬鹿だよ。」

「どうして?」

「・・・奥さんだった人とか、親友だった人とかのことはわかんないけどさ。でも、お前、弟だったのならわかるだろう。兄さんは、ずっと、俺たちが一番好きだったって。」

 

イズナはにっと笑った。

そうだ、いつかに、遠い所、自分の知らないところを見ていた二人の原初は、他の兄弟が死んだからで。

そうだ、二人とも、ずっと、自分のために、自分が死なないでくれるようにと願っていた。

 

子どもの葬式をしなくていいかと、泣いた姉を覚えている。

 

「知らない!兄さんの運命が柱間だって!?だったらなんだ!?いいか、兄さんが誰よりも、何よりも、姉さんを除いて愛してるのは俺だ!姉さんが誰よりも可愛いと思ってるのは俺だ!運命にねじ入れない程度なら、最初からわめき立てるな!」

 

切った啖呵に、少年は笑った。

 

「そうか。そっか、なら、僕達には何も言えない。僕達は、ただの記憶で、それに何かを思うことは出来ないから。僕達は、一抜けするよ。」

 

それと同時に、イズナの足下がどぶんと揺れる。

 

「・・・・八咫烏に言われて、僕達のことを慮ってくれたイワナガ姫のために何かしてあげたかったけど。君はまだ、終っていないのなら。僕らにはこれ以上、何も出来ないや。」

じゃあね、僕達みたいになっちゃだめだよ。

 

「は、何言って・・・・!」

 

どしんと、また、尻餅をつくような感覚がした。

 

「ああ、また、来たのですね。」

「え?」

 

そこにいたのは、女だった。それは姉によく似ていて。けれど、姉よりもいささかきりっとした表情をしていた。

けれど、それが姉でないことはわかっていた。

何故って?

その女の膝の上で爆睡を決め込んでいるうちはイドラの姿を確認したからだ。

 

 

 

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