上鳴電気─レベルアップ!─   作:竹中治治

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上鳴電気:プロローグ

 昼下がりの賑やかな街中に、突如として大きな爆発音が響く。

 

「銀行強盗だ!」

 

 破壊された銀行の出入り口から飛び出してくる巨体の男。

 身長はゆうに250cmを超えており、筋肉に包まれた肉体はその力強さをこれでもかと主張する。

 平和を享受していた民衆は突如現れた脅威に晒された。

 

 上がる悲鳴、パニックを起こす人、危機感の足りない野次馬。

 混沌の坩堝とかした街中で、誰もが恐怖と狂気の渦に叩き込まれる。

 しかしこのような混沌を許さず、己の身をもってして秩序足らんとする者がいた。

 

 全身スーツを見に纏った1人の青年だ。

 身長は平均的、体つきは筋肉質だが目の前の2mをゆうに超えた巨体とは比べるべくもなく矮小。

 しかし、その目だけはこの場の誰よりも熱く燃えたぎっている。

 

(ヴィラン)め! 悪事は許さん!」

 

 悪が栄えれば、正義は育つ。

 彼はヒーロー。

 悪を成敗し弱きを助ける。その身一つで正義を為す人民の守護者である! 

 

「ハァーッ! ヒーローのお出ましだァ!! ククク……しかし貴様のようなヤツにこのオレを止めることができるかァ!?」

 

「なんだと!?」

 

「このオレの"個性"は『雷爆(オーバーロード)』。触れたものに過剰な電気を流し込み、対象を木っ端微塵に爆散させるッ!! あの銀行のシャッターのようになァァ!!!」

 

「くっ!」

 

「さらにッ! 自らの強力な電圧に耐えるため、オレ自身の肉体はこの通り特別仕様! 目の前で鉄のシャッターが爆散しようが傷ひとつつかないほど強靭ん!!! 100mを5秒! パンチングマシーン900キロ!! 矮小な貴様ではオレには勝てんん!!」

 

「極めて強力な発動型と異形型の複合"個性"だと!!??」

 

 (ヴィラン)のあまりの強さに、青年は絶望し顔には悲壮感が浮かぶ。

 これほど強力な(ヴィラン)がなぜこんなところに。やっと夢を叶えてヒーローになったばかりの駆け出しの自分ではどう足掻いても勝てない! 

 弱音が鎌首をもたげ、思考を染め上げそうになる。

 しかし、彼は駆け出しとはいえそれでもヒーロー。一般市民を置いて逃げるなどそんなことは一分の思いも抱かない! 

 

(どうする! 俺では勝てない! 救援を待つか……だが、俺の実力でやつをどれだけ足止めできるのか……おそらく、もって10分! それでは足りない! ここから一番近いヒーロー事務所は……いやしかし、こいつを倒せるほどとなると……!!)

 

「ハァーッ!! しかし安心しろ、貴様はここで死ぬことはない……なぜならオレに貴様と戦う気がないからな……」

 

「なにっ!? どう言うことだ!!!!」

 

「こう言うことだァ!!」

 

 (ヴィラン)は突如、その場を恐ろしいほどの速度で動く。

 その先にいたのは、野次馬をしていた1人の女性。

 

「きゃっ!」

 

 (ヴィラン)はあっという間の動きで女性を捕まえると、ヒーローに対して見せつけるように自らの手のひらを女性の首に沿わせた。

 

「!? 待てっ!! やめろ!!!!」

 

「おっと、動くんじゃあねェぜ……貴様が動けば、オレの手がうっかりしてしまうかもなァ!! ハッ、ハァーッ!!!!」

 

「イヤーッ!!」

 

 街中に(つんざ)く女性の悲鳴。

 なんてことだ! 人質を取られたらヒーローは動けない!! 

 

「くそっ!! その女性から手を離せ!!」

 

「離せと言われて……離す(ヴィラン)などいるかァ!!!」

 

「畜生っ!!!」

 

「オレは慎重でなァ……オレは強いが、オレより強いヒーローなど山ほどいることを知っているのだァ……貴様と戦闘している間に、上位のヒーローがやってきてはたまらんッ!!!」

 

 意外! それは慎重論ッ!! 

 しかし、この場においてこの(ヴィラン)の行動は最適解以外の何ものでもない。自らの力に自負を持ちながら、それでいて自らの身の丈を正確に把握する。

 それはなかなかできることではない。

 自らの力に驕った力が強いだけの(ヴィラン)は往々にして何も為せずに捕縛されることになるだろう。

 しかし、真に厄介なのはこのタイプの(ヴィラン)。冷静さと大胆さを併せ持つ頭の良い(ヴィラン)こそもっとも厄介。

 

 強さや"個性"などは関係ない。

 なぜなら人間という生物の唯一無二たるその賢さ、それこそが連綿と続く人類の真なる強さそのものなのだから!!!! 

 付け焼き刃の力である"個性"などよりも、賢さを力として振るう(ヴィラン)の方がはるかに厄介!! 

 

「ハァーッ!! 貴様はそこでジッとしていろ……オレはこのままゆったりと帰らせてもらおう……アフタヌーンティーの時間なのでなァ!!!! 守らなきゃならねェもんが多いヤツは大変だよなァ、ヒーローッ!!!!」

 

 圧倒的な(ヴィラン)の優位。

 それはヒーローたる彼がどう足掻こうとも覆らない非常な現実。絶望と悲壮感と無力感に打ちひしがれる青年。

 しかし、そんな彼の耳に(ヴィラン)でも自分でも人質の女性でもない誰かの声が聞こえてきた。

 

「守らなきゃならねぇもんって、どこだよ」

 

「ハァーッ? そんなもの、ここに人質の女が……いねェ!!!??」

 

 動揺した(ヴィラン)の声に釣られるように、ヒーローは気づく。

 いつのまにか、(ヴィラン)が人質に取っていた女性の姿が(ヴィラン)の側にはなく。少し離れた場所に移動していたのだ。

 

 女性のそばに立っているのは1人の少年。歳の頃はおそらく中学生。

 金髪に三白眼。ブルゾンにジーパンを着こなし、ポケットに手を突っ込みながら姿勢良く立っている。

 その風貌はどこにでもいるチャラついたやんちゃ少年。

 しかし彼の背後には先ほどまで人質にされていた女性と、(ヴィラン)が銀行から奪ったであろう大金が詰め込まれた大きなカバンが置いてあった。

 

「貴様ッ!! いつのまにッ!!!」

 

 動揺した(ヴィラン)の声に、少年はニヤリと口角を上げて答える。

 

「ああ……クセになってんだ──音殺して動くの」

 

「ッ!!! 貴様ァッ!!!!!」

 

「少年!! 危ない!!!」

 

 少年の笑みを挑発と受け取ったのか、(ヴィラン)は鬼のような形相で少年の下へ駆け出す。

 驚くべき速度で動く(ヴィラン)。ヒーローの警告も虚しく、少年は一歩もその場から動かない。すぐに(ヴィラン)は少年の肩をその大きな手で掴んでしまう。

 

「ハァーッ!! 威勢の良いクソガキがァ!! どんな手品を使ったのかは知らんが、ヒーローごっこは楽しかったかッ!? 捕まえたぞッ!!!」

 

「手品なんて使ってねーよ。俺の動きにアンタが置いてかれたってだけだろ」

 

「クソガキィイイイ……状況がわかってんのかァ!? 貴様はこれから地獄の苦しみを受けながら死ぬのだ……オレの手のひらに触れている以上、逃げることなどできねェからなァ!!!」

 

 威圧するように少年を上から見下ろし、怒声を発する(ヴィラン)

 しかし、少年はこの危機的状況下においても何も恐怖を感じていないのだろうか。

 呑気にあくびを噛み殺し、余裕綽々とした態度を隠そうともしない。さらにあろうことか(ヴィラン)と目を合わせるように見上げると、その表情を嘲笑に歪めてみせた。

 

「ごちゃごちゃうるせぇ。最初から逃げる気ねぇし。やってみろよ」

 

「ッ!!!! 殺すッ!!!!! 弾け飛べ『サンダーインパクト』ッ!!!!!」

 

 あまりにも強烈な電撃が(ヴィラン)の手のひらから溢れ出し、少年の体を蹂躙する。目も開けられないほどの雷光の中で、少年の死を予感したヒーローは絶望の淵源で自らの不甲斐なさと無力を呪った。

 

「あぁ……なんてことだ……俺は弱い!!」

 

 少年の行動は勇気があった。無力な己に代わり女性を助け、(ヴィラン)を挑発することで足止めも行う。

 本来ならヒーローたる己がやらなばならぬ行いだった。

 無力な自分の代わりに力を持っているだけのヒーローでもない一般市民の少年がそれを為した。

 そんな勇気ある少年の輝かしい未来を己の弱さが奪ってしまった。せめて、この(ヴィラン)だけはなんとしてでも捕まえなければならない。

 決意した青年はこの場の誰よりもヒーローだった(少年)のように、立ち向かおうとして──そこであり得ないものを見た。

 

「な、なんでッ……なんともねェ!!!」

 

 少年だ。それも、無傷。

 あれほどの雷撃を一身に浴びながら、その身に傷ひとつなく何事もなかったかのように変わらずそこに立っている。

 あきらかな異常、目を疑うような光景。

 あれは夢だったのか……否。(ヴィラン)によるあの攻撃は間違いなく現実だった。

 証拠に、少年の足下のアスファルトは(ヴィラン)の攻撃の余波を受けてクレーターのように抉れている。

 しかし、アスファルトを破壊するほどの電撃……その事実が、さらに少年の異常性を際立たせる。

 

 ヒーローたる青年はその光景に唖然とするがそれ以上に動揺しているのは、当然ながらその電撃を放ち、その威力を知る(ヴィラン)自身だ。

 

「どういうことだ!!! オレの電撃は、人間が耐えられるような出力じゃねェ!!! しかも爆散もしてねェ、ゾウでも殺す力だぞ!!!!!」

 

「強力な電気か……」

 

 狼狽する(ヴィラン)を嘲笑うかのように、少年はニヤリと笑みを浮かべて見せる。

 

「生まれた時から浴びてたぜ──家庭の事情でね」

 

 その笑みを真正面から見た(ヴィラン)はここに至ってようやくわかったのだ。

 己は、決して手を出してはいけない相手に手を出してしまったことを。思えば最初からおかしかった。

 常人の数倍の身体能力を持つ自分が、なぜ何も気づくことができず人質を取り返されたのか。

 逃げれば良かったのだ。人質を取り返された時点で、イレギュラーが発生した時点で、その異常性を恐れるべきだった。

 ただの子どもにしか見えなかったために判断を鈍らせた。

 違うのだ……この少年は自分とは、普通の人間とは違うのだ。もっと恐ろしいナニカ……こいつは化け物だ。

 

「あっ……ああ……」

 

 そのとき(ヴィラン)の体の中から、ぽきりっ……と何かが折れる音がした。

 

「で、俺結構強いけど──どうする?」

 

「投降……する……」

 

「あっそ、じゃ、別にいいよ。ヒーローさん、コイツ投降するってさ」

 

「ああ……」

 

 心が折れて、まるで芋虫のように縮こまる(ヴィラン)

 あれだけ恐ろしかった存在が、まるで矮小な蟻のように無力な存在に見えた。

 ヒーローたる青年はおそるおそる(ヴィラン)に近づくと、慎重にその体を拘束する。この間、(ヴィラン)は一切抵抗することなく拘束を受け入れた。

 その姿はなんとも、悲しい存在に見えた。

 

「じゃ、俺帰るわ。個性あんま使ってねーけど、事情聴取とかされたくねぇし」

 

「待っ……いや、協力本当に助かった! 君はきっとすごいヒーローになる! 一緒に仕事ができる日が今から楽しみだ!」

 

 精一杯の感謝を込めて、青年は頭を下げる。

 ヒーローが民間人の少年に助けてもらって頭を下げる。それだけ聞くと酷く滑稽で情けないなものに聞こえるが、青年の感謝の気持ちは透き通るほどに真摯でとても立派なものに見えた。

 

「そういうのやめてくれって、恥ずかしい! ……兄ちゃんも気にすんなよ。コイツとはたまたま俺が相性良かっただけだと思うし」

 

「少年……ありがとう、俺ももっと精進するよ」

 

 そんなとき、ふと遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。

 

「やべ! 警察きた! じゃ、俺もう本当に帰るわ!」

 

「ああ、警察の対応は俺に任せてくれ。絶対に君に不都合のないようにする」

 

「頼むぜ! じゃあな!」

 

 サイレンから逃げるように少年は駆け出す。

 その背中に少年の活躍を見ていた人々の拍手、感謝や称賛の声がこれでもかと投げられる。

「ありがとう」「かっこよかった」「すごい」「助かった」

 

 そんな大歓声の中で、1人のヒーローの声が自然とよく響く。

 

「最後に! 君の名前を聞かせてくれ!!」

 

 その声を聞いた少年は、一度だけ振り返りニヤッと笑うと大きな声を張り上げた。

 

上鳴電気(かみなりでんき)! ヒーロー志望!」

 

 少年──上鳴の言葉に、民衆はワッと盛り上がる。

 

「ありがとう! また会おう、ヒーロー!!!」

 

 応えるように片手を上げた少年は、やがて街の雑踏の中へと消えていく。

 この日、この場にいた人々は1人のヒーロー志望の少年の名を深く心に刻み込むことになった。

 

 そしてこれが彼の──上鳴電気という最高のヒーローの、始まりの一ページとして綴られたのである!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべー、咄嗟だったけど言ってみたかったセリフめっちゃ言えたぜ。電気使いならキルアのセリフは言わなきゃ損だよな」




続くかはわかりません
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