インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第1話

思い返せば、僕はこの世界がひどく醜く思えた―――。

一人の人間が発明したものにより、この世の価値観は大きく変わったのからだ。

IS―――インフィニット・ストラトスと呼ばれるそれは、現存するどんな兵器よりも力を持つものだった。詳らかに語れば、宇宙進出を前提としたパワードスーツである。各国の持つ戦闘機よりも速く、戦車が足元にも及ばないほどの火力と装甲を持つそれは、戦場に一つあるだけで勝敗を決めてしまう程の代物なのである。

結果として、宇宙進出よりも兵器としての使用が主流となったのである。

 

しかし、一つだけ欠点を挙げるのだとしたら―――そのISは女性しか動かすことができないのである。

 

それにより、世には男尊女卑ならぬ女尊男卑の風潮が蔓延ることとなった。女性が優遇されるようになり、突如として職を失う男性が急増したのだ。

それだけでなく、ISがあるから、女性だからという理由で傍若無人に振る舞う者が増えたのである。

極めつけは生まれてくる子供が男だというだけで、中絶や命を奪う者まで現れたのだ。

僕はこの報せを聞いて戦慄した。力も無く、親を選べない立場であり、これから何十年という長い時間を生きる命が簡単に失われたからだ。

 

それからというものの、僕はこの世界の歪みを目の当たりにする。あまりにも多くの理不尽に溢れる現実は、生を実感できないほどの虚無であった。

しかし、この世界の全てがそういった人間ばかりではない。

性別や外見に囚われず、対等に接する人間もいる。僕にとってはそれが唯一の救いだった、歪みの中に存在する真実に気づかされる。

 

女尊男卑というものがありながら、苦しんでいるのは男だけではなかったからだ。大人も子供、男も女も関係なくそれぞれが悩みや苦しみを抱えていた。

 

夜の街で小遣いを稼いでいて、それを強く感じた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…累くん、累 静夢くん!」

 

「え?あぁ、はい……」

 

なんて一人で考え事をしていると、目の前にいる女性の呼び声で我に返る。

僕は今、とある学園の教室にいる。今日がその入学初日であった。思い返してみると、教室に入ってからホームルームが始まってそれぞれの自己紹介をしていた。

声をかけられたということは、僕の番が回って来たということだろう。

 

「あ、驚かせてごめんなさい。いま、「か」だから君の番なんだけど……」

 

「いえいえ、こちらこそすいません。ボーっとしてました」

 

この1年1組の副担任である山田 真耶先生は涙目になりながらオドオドとしている。大人しく、気の弱い印象を抱いていたが、あながち間違いではないようだ。

席を立って教壇の前に移動すると、数多の鋭い視線が突き刺さる。なにせクラスの大半が女子生徒であるからだ。視線には慣れているつもりだが、これは予想だにしていなかった。

なにはともあれ、ここは一種のアピールの場だ。自分を売り込むように、好印象を与えておく必要がある。

 

「皆さん、初めまして。累 静夢(かさね しずむ)といいます、よろしくお願いします―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介は滞りなく行われており、僕はクラスの面々の顔と名前を記憶していく。これから三年という長い時間をこの場所で過ごすのだ、有事の際に手札として使える人間関係を築いておくべきだろう。

そして、一人の少年が教壇へと移動する―――。

 

「ヴァルト・パークス、趣味や特技はないが……とりあえず、よろしく」

 

艶のいい金髪に、目を惹く赤い瞳の少年が素早く教壇を後にする。聞いている山田先生とクラスメイトたちが呆気に取られているが、彼はお構いなしだった。

―――そんな彼と目が合った。

 

刃物のように鋭く、荒々しさが感じられた。これまでに何度か会ったことがある、「強者」の目をしていた。

 

その間に会話は無い、僕はマナーとして会釈をしてやり過ごす。彼は興味が失せたのか、僕から視線を外して自分の席に着いた。

 

そして、クラス全員の自己紹介が終わる。後から合流した担任の先生の発言に全員の視線が集まる。

 

「全員終わったな。改めて、このクラスの担任を務める織斑 千冬だ。初日だが、そんなものは関係なく授業を始めていく。用意をしておくように!」

 

『はい!』

 

織斑先生の言葉に女子生徒たちは大きな声で返事をした。彼女がこのクラスに来た時は酷かった、あまりの人気に女子生徒たちがはしゃぎすぎたのだ。

 

織斑 千冬―――モンド・グロッソと呼ばれるISを使ったスポーツ競技において、王者に輝いたその人である。

 

僕からすれば因縁浅からぬ人物であるが、感情的にならずに上手く立ち回る必要がある。タイミングが良く、チャイムが鳴る。

 

次の予定を説明して、教師の二人は教室を後にする。教室内は緊張が解けて、ざわざわとし始める。予め机に入れておいた教材を出して、同じく机の中にある一冊の本を取り出す。

本を開いて栞を外す、時間が来るまで読書をして時間を潰そう。自分から話しかけて、ボロを出すことだけは避けておきたい。

 

「……おい」

 

低い声で呼び止められ、仕方なく視線を上げる。そこには、先ほどまで視線を合わせていたヴァルト・パークス君がいた。

 

「なにか?ああ、失礼。私……」

 

「累 静夢、だろ?名前はさっき覚えた」

 

ああ、と生返事をしていると、彼は空席となっている僕の前の席に座る。会話の意思があるか分からず、僕は再び本に目を落とす。

 

「驚いたぜ、『他にも男がいた』なんてな……」

 

「『お互い様』だと思うよ?僕も驚いているんだ。君のこと、あんまり知らなくて申し訳ない」

 

「別にいい。退屈していたところでな、親父にここを勧められたんだ。お前は逆に有名人だものな……」

 

「噂やニュースは尾ひれが付くものさ、見てみれば大したことは無かったでしょ?」

 

自嘲するように呟くと、彼は身を乗り出して僕をジッと見つめる。

 

「最初はそう思っていたが、訂正する。おそらく、お前は俺と同じだ……」

 

「…………」

 

どういう意味なのか、様々な可能性を頭の中で考えるとチャイムが鳴った。潔く彼は、席を立って自分の席に戻っていく。

内心、大きく安堵の息を吐いて本を閉じた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。先に『クラス代表』を決めておく必要があるな」

 

教壇にいる織斑 千冬はふと思い出した。初日とはいえ、この学園に来るものは総じて優秀な部類に当たる。すぐさましごいてやろうと息巻いていたが、クラスのことを先に固めておかねば忘れてしまいそうだったからだ。

 

「先生、クラス代表ってなんですか?」

 

「まぁ、そのままの意味だ。このクラスの代表となる者を選出する、行事の際の役職ともなる。無論、内申点も付くから、やっておいて損はないぞ?」

 

うまくエサをチラつかせて、積極性を見るつもりだった千冬だが、事態は予想外の展開を迎える。

 

「はい!『織斑くん』を推薦します!」

 

「じゃあ、私は累くんを!」

 

「私はパークスくんを推薦します!」

 

クラスの面々はどうやら自薦ではなく、数人の少年たちの名を挙げた。

 

「えぇ、俺かぁ……参ったなぁ」

 

「「…………」」

 

名を呼ばれた織斑 春十は満更でもないような態度であった。静夢とヴァルトの二人は、事態を慎重に分析していく。

ヴァルトに至っては、やりたくない一心で教壇の千冬を睨みつける。

 

「お待ちください!こんな事は認められませんわ!」

 

そんな中、一人の少女が机を叩いて立ち上がる。ムッとした表情で、この事態を良く思ってはいないようだった。

 

「こんな屈辱を味わうために、私はこんな極東の地に来たわけではありませんのよ!大体、こんな素人がこのセシリア・オルコットを差し置いて……」

 

セシリア・オルコットは、どうやら自分が推薦されなかったことに腹を立てているみたいだ。

彼女は若干十五才にして、イギリスの代表候補でもある人物である。さらに由緒正しきイギリス貴族であるオルコット家の当主でもあるのだ。

そして、彼女は極度の女尊男卑主義者のようだ。静夢たちだけでなく、日本に対しての罵倒がスラスラと出てきている。

 

「イギリスだって大したお国自慢は無いだろ、マズい飯の世界一が偉そうに……」

 

「なっ、アナタ、私の祖国をバカにしますの!?」

 

「先に喧嘩を売って来たのはそっちだろ!」

 

すると、セシリアの言葉に我慢ができなかったのか、織斑 春十が言い返した。セシリアは自分の国を罵倒されて、更に声を荒げる。

 

「……いい加減にしろ!」

 

ヒートアップする前に千冬が両者を制する、言葉を詰まらせた二人は千冬を睨み付ける。はぁ、と溜息を吐いた千冬が続ける。

 

「そこまで言うのなら、実際にISで戦って決めろ。勝ったヤツがクラス代表だ」

 

「結構でしてよ」

 

「望むところだ!」

 

なにやら、三人で話しをまとめている様子だ。静夢とヴァルトは蚊帳の外であったが、静夢は結果を知りたかった。

 

「織斑先生、二人がやる気みたいなので僕たちは辞退しても構いませんか?」

 

「ダメだ、選ばれたからには貴様らにも参加してもらう」

 

どうやら、千冬も聞く耳を持っていなかったらしい。静夢もヴァルトも溜息を吐くしかなかった。

 

「では、再来週に四人の総当たりで、クラス代表決定戦を行う。詳細は追って連絡する」

 

半ば強制的に議題を終わらせて、千冬は授業を再開したのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

時が過ぎ、学園は昼休みを迎える。荒れかけた空気をどうにか回避した一年一組から出た静夢、フェイスマスクを下ろして口元を拭うと、すぐさま着け直した。

久しく身に着けるそれは、どうにも違和感があった。また時間をかけて慣れればいい、静夢は気にしない努力を心がけた。

 

「……『一夏』!」

 

「…………」

 

廊下を歩く静夢に声をかけたのは担任の千冬だった。教室にいた時の凛々しい顔ではなく、険しい顔をしている。

しかし、静夢は淡々と廊下を歩き続けた。他人の名前を呼ばれたところで、自分が構ってやる義理は無いからだ。

 

「待て…待ってくれ…!」

 

縋りつくかのように、千冬は静夢の腕を掴む。息を荒げる千冬に対し、静夢はうんざりとした表情をしていた。

 

「失礼ですが、織斑先生……?それは、『数年前に行方不明になった弟さん』ですよね?僕は織斑 一夏じゃありませんよ、そんなに似ていますか?」

 

冷静ではない千冬をあざ笑うかのように、静夢は彼女に対して冷静に少しおどけて見せた。

 

「違う、お前は私の…!」

 

「しつこいですね、あなたも……」

 

それでも尚、食い下がる千冬---。静夢はわざと聞こえるように大きな溜息を吐いた。

 

「―――静夢!」

 

そんな静夢に助け舟を出すように、また声がかけられた。聞き覚えのある声に振り返ると、そこには一人の男性が挨拶代わりに手を挙げていた。

 

「『ケネスさん』…!」

 

思わぬ再会に静夢の表情は明るくなる、ケネス・スレッグは口角を上げて求められた静夢の手を握った。

 

「お久しぶりです、本当に先生だったんですね」

 

「信用してなかったのかよ……まぁいい。それよりも驚いたぞ?お前の名前を見かけて、もしやと思ったが…」

 

「ただでさえ世間の目がありますからね、僕も彼もそうせざるを得なかったんですよ」

 

久しぶりの再会に、静夢とケネスは会話に花を咲かせる。お互いに笑みを浮かべ、互いの信頼関係が垣間見える。

 

「おい、ケネス…」

 

そんな二人を眺めていた千冬は、ケネスを睨みつける。ケネスの横槍に、蚊帳の外にされて少しばかり苛立っていた。

 

「おお、すまん。こいつとは、日本に来た時に知り合ってな。これから昼飯だろ?先に行ってろよ」

 

「わかりました。では、お先に」

 

そう言って、静夢は会釈をして食堂へ向かった。その場に千冬と二人になったケネスは、ふぅと息を吐く。

 

「なぜ邪魔をした……」

 

「おいおい、どうした?そんなに苛立つなんてらしくないじゃないか」

 

「あいつは、一夏は……!」

 

感情的になり、言葉を漏らす千冬。ケネスはそんな千冬に目を細めた。

 

「弟の事か……そんなにも似ていたのか?」

 

「ッ…!?」

 

知ってか知らずか、ケネスは静夢と同じことを言った。その言葉に千冬は、思わずケネスの胸倉を掴んだ。

 

「あいつは、私の弟だ……!ずっと、ずっと探していたんだ……!」

 

数年前、千冬の弟である織斑 一夏は消息不明となった。第二回のモンド・グロッソにて、千冬の優勝を阻止しようとした者たちに誘拐されたのだ。

その事実を知ったのは、全てが終わったあとだった。表彰式を放り出して、千冬は血眼になって一夏を捜した。

だが、彼女はついに弟を見つけ出すことはできなかったのだ―――。

 

「それでも、あいつはあいつだ。何か理由があるかもしれないし、急ぐ必要はないんじゃないか?」

 

過去に妻がいたとはいえ、ケネスは彼女の気持ちが理解できなかった。個人的には静夢に対して好感を持っているし、そんな彼が同僚の弟かもしれないという事実が浮上してきたのだ。

ケネスも混乱していたのだ。

 

「お互いに冷静になれ、な?」

 

自分でも苦しいと思いながら、ケネスは千冬の肩に手を置いた。千冬が手を離すと、ケネスはスーツの緩みを正すと、再び肩に手を置いて静夢の後を追いかけた。

ついに一人になった千冬の吐息は、虚空に吸い込まれて消えていった―――。

 

 




主人公キャラ設定

累 静夢(かさね しずむ)

本名は織斑一夏、家族である織斑千冬や織斑春十の陰に隠れていた。夜の街でのアルバイトで、世界の実情を少しずつ理解していく。
第二回のモンド・グロッソにて、千冬の優勝を阻止しようとする者たちに誘拐されるがとある組織に救出される。その後はその組織に加わり、世界という大きな敵と戦うこととなる。
表の顔は、最年少で植物監察官の訓練生となった若きエース。
普段は自分の顔を隠すと同時に、潔癖症の者へのエチケットとして白のフェイスマスクをしている

名前のモデルは、声優の内山昂輝さんの演じたキャラクターです。
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