インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
今回は少し短めです。
「というわけで、一年一組のクラス代表は織斑 春十くんに決定しました!」
翌日、一年一組の教室で、副担任の山田 真耶が結果を報告した。しばしの沈黙のあと、累 静夢が小さく手を叩く。
それに倣い、所々で拍手が疎らに起こる。しかし、当の本人は呆気にとられている。クラスの面々も、どこか納得していないような様子だった。
「せ、先生…なんで俺なんでしょうか?」
「あ、それはですね―――」
「―――代わりに説明させて頂きます」
困惑する織斑が真耶に問いかける。真耶が答えようとすると、セシリア・オルコットが挙手をした。発言の許可を求めて、真耶に視線を送る。
それに気づき、真耶は頷いた。
「本来なら、勝利した累さんやパークスさんが選定されるはずですが……お二人にその意思はなく、私に権利を譲渡されました」
クラスの面々はセシリアの言葉に聞き入り、事の顛末を知ることとなる。静夢とヴァルト・パークスは、自分たちが説明する手間が省け、セシリアの言動に注目する。
「ですが…先日の私の態度は、人の上に立つ者としては不相応だと感じました」
消去法で織斑に回って来たということだった。クラスの面々は、反省を見せるセシリアに困惑した。先日まで、自信に満ちた様子を見せたセシリアだが、自分の行いを理解しているようだった。
「そのため、私も辞退したということです……」
そういって、セシリアは教壇へ向かうと、クラスの全員と向き合う。
「先日は失礼な態度を取ってしまい、本当に申し訳ありませんでした……!」
深々と頭を下げ、セシリアは謝罪の意を述べる。生徒たちは困惑し、対応に迷っていた。
「彼女も反省しているし、良いんじゃない?みんなは?」
場を収めようと、静夢が立ち上がった。同意を求めると、教室の空気は困惑から理解へと変化していく。
「…………」
ヴァルト・パークスは立ち上がり、鋭い目でセシリアと向き合う。
「お前のことは恨んでないが、許したわけじゃない。仮にも国の代表になるかもしれないんだ。精々、気を付けるんだな……」
そう言って、ヴァルトは着席すると、興味を無くしたように視線を窓の向こう側へ向けたのだった。
「まぁ、反省してるみたいだし……」
「うん、いいんじゃないかな……?」
静夢とヴァルトの反応を見て、クラスメイトたちはセシリアを受け入れ始めた。
「ありがとうございます……!本当にごめんなさい……!」
目に涙を浮かべ、セシリアは再び頭を下げた。理解を示したのは真耶も同じだった、彼女はセシリアの肩に手を置いて頷いた。
「―――どうしてこうなった……」
ただ一人、置いてけぼりになった織斑の声は誰にも届かなかった。小さな呟きは、虚空へと吸い込まれていった。
こうして、セシリア・オルコットを始めとした一年一組は、新たなスタートを切ったのである―――。
「…………」
某所にて、一人の少女がタブレットをジッと見つめていた。そこに映る静夢とヴァルトの激闘、決着を見届けると、彼女はタブレットを置いた。
ベッドから立ち上がり、窓辺に移動する。遠くに聞こえる喧騒を聞きながら、夜の街並みを見下ろしていた。
一人で住むには広く、街並みを見下ろせる高さの部屋は、どこか不自然だった。
「『エム』、入るわよ?」
その部屋に一人の女性が尋ねる。長い金髪を携え、豪華なドレスを身に着ける女性は、窓辺に少女を見つける。
「もういいの?」
ベッドに置かれたタブレットを見て、女性は少女に尋ねる。「エム」と呼ばれた少女は、瞠目して頷いた。
「ああ、『私の弟』が負けるわけがないからな―――」
自信に満ちた様子のエムに、女性は思わず笑みを浮かべた。年相応に見えるその様子にクスクスと笑う女性を見て、エムはムッと頬を膨らませた。
「『お兄さん』、でしょう?」
「いいや、私の方が上だ!」
意固地になるエム、女性はおかしくて笑うことを止められなかった。
「それで、なにかあったのか?『スコール』」
「ああ、忘れていたわ……」
エムに言われて、「スコール・ミューゼル」はハッとした。
「アメリカとイスラエルの共同でISが作られているという情報が入ったの―――」
「強奪するのか?」
「―――最後まで話を聞きなさい」
遮るかのように声を上げたエムに、スコールは溜息を吐いて注意する。お気に入りの少年に比べ、彼女はどうしてこうも向こう見ずなのか……。スコールは壁に背を着けて、説明を続ける。
「完成は三ヶ月後、ということよ。稼働テストを目処に動くわ」
「私も出るのか?」
「でなければ声をかけないわ」
エムは首を傾げた。相手はIS、自分は専用のISを持ってはいない。強奪の任務は他のメンバーも参加するはずだが、味方にもISがない事には戦力差に不安が残る。
「束がいうには、プレゼントを用意しているそうよ?」
「……」
「要件はそれだけ、一夏や彼女からの情報も待つわ」
スコールはそう言って部屋を出た。一人になったエムは、ベッドに座ってタブレットを手に取る。
起動したタブレットの壁紙、そこには奇妙な再会をした家族との写真があった。
「一夏……」
恋焦がれているようだ、エムは自身でそう感じていた。胸の内に広がる締め付けられるような痛みを感じながら、彼女はタブレットを抱えて眠りについたのだった―――。
様々な言語によって喧騒としたロビーを歩きながら、少女はゲートに向かって歩いていた。久しく訪れた日本は、ISが広まったこともあってか、少し息苦しいと感じた。
「あの……」
「あ、鳳 鈴音(ファン リンイン)さんですね。お待ちしておりました」
係員と思われる女性に声をかけた少女、鳳 鈴音は丁寧な言葉遣いの女性に戸惑ってペコリとする。
鈴音を伴って女性が歩き始めると、ロビーに設置された大きなディスプレイにノイズが走った―――。
『どれだけの人間が、この世界の歪みに気づいているだろうか。我々は、ISによって失われた平穏を取り戻すため、やむを得ず行動をした』
雑音が混じった音声に、鈴音は思わず足を止めた。画面には黄色の背景に、十字架に弧を描いた赤いエンブレムが映っていた。
『女性というだけで、横暴を繰り返すこの現実が異常であるということを、心より理解して頂きたいのである』
「なんだ……?」
「例のマフティーだよ、回線をジャックしてるのさ」
「嫌だわ、まったく……」
「そうよ、そのせいで私たちが苦しむなんて……!」
鈴音と同じように、その放送を聞いていた者たちが口にする。彼らの言うことも、マフティーの言葉も正しいのだ。鈴音は溜息を吐き、ディスプレイから目を逸らした。
「鳳さん?どうされました?」
「あ、すいません…!」
係員の声に我に返ると、鈴音は再び歩き出した。やがて、二人はゲートをくぐり、駐車していた車に乗り込む。
「こちらにどうぞ」
女性が後部座席の扉を開け、鈴音はまたペコリと頭を下げて身を落ち着ける。女性は鈴音の反対側のドアから後部座席に座った。
「ほら、速く出して頂戴」
「はいはい…」
「まったく…」
女性は後部座席から運転に催促をする。運転席に座る男性は気だるげに返事をすると、ギアを入れてゆっくりと発進した。
その様子に、鈴音は再び視線を逸らした―――。
マフティーは、こんなことが当たり前になっていることを憂いているのだろう。ISは女性にしか動かせないという概念が、この歪みを生んだ原因だろう。その結果、女尊男卑という風潮が完成し、女性の傍若無人な振舞いが横行しているのだ。
"そりゃ、ぶっ壊したくもなるわね……"
自身も故郷で嫌というほど見たやり取りに、鈴音はマフティーの行動にも理解ができた。自身も似たような経験があり、辛い思いをしたことがある。
しかし、仕返しや復讐を考えることはしなかった。無意味に終わることが目に見えている、何よりも師の教えがあるからだ。
「憎しみや怒りに囚われて、その力を使わない」―――何度も教えられ、鈴音はそれを忠実に守って来た。
"「あいつ」も、こんな世界を嫌っていたのかしら……"
今は亡き、友のことを考えながら、鈴音はシートの上で身をよじって目を閉じたのだった―――。