インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第11話

午前の授業が続き、一年一組の生徒たちはアリーナに来ていた。全員がISの装着時に着用するスーツを身に纏い、番号の順番で整列している。

 

「それではこれより、ISを使った実演を行う!専用機を持つ者は前へ出ろ!」

 

その前で指示を出す織斑 千冬は変わらない毅然とした態度だった。気だるげな様子の静夢は、溜息を吐きながら前に進む。

それはヴァルトも同じようで、偶然にも目が合うと、静夢は苦笑いを浮かべた。応えるように薄ら笑いを浮かべたヴァルトも、静夢と同じように列から前に出た。

 

「専用機を持つお前たちには、他の生徒たちの手本になってもらう。各自、ISを展開しろ」

 

列の前に並んだ静夢、ヴァルト、セシリア、織斑の四人。千冬の指示に従い、それぞれが愛機を展開する。

―――ISを纏い、高くなった視界の中で、静夢は上を見上げた。

 

"今日も良い天気だなぁ…"

 

異性ばかりで息の詰まる日々を送り、数多の視線を受けている静夢は現実逃避をしていた。自分からこの場所に来ることを志願したものの、実際に過ごしてみれば想像以上に苦しいのだ。

女性の扱いは慣れているものの、リラックスできる時間が短く、精神的な疲労が蓄積されていた。

 

「……」

 

「…どうしたの?」

 

横からヴァルトの視線を感じ、首を傾げながら尋ねた。あの一戦を経て、静夢とヴァルトは更に仲を深めた。ヴァルトの身の上話を聞いた静夢は、植物監察官となった時の話や、海外で活動した過去を話した。

静夢としては、ヴァルトの持つ力を確かめる必要があった。もしもヴァルトがニュータイプなのだとしたら、自分が見たビジョンと同じくヴァルトも何かを感じとっているはずだ。

 

―――それは自分の正体を知られるという、大きな危険を孕んでいた。

 

「いや、なんでもない…」

 

今日のヴァルトはいつもと違った。どこかよそよそしく、歯切れの悪い返事が多かった。

もしや―――静夢の中にあった小さな危惧は、空気を注入している風船のように膨らんでいった。

 

「そう…」

 

ヴァルトの態度に、静夢は詮索しなかった。余計なことを口走って、ボロを出すことを避けるためであった。

 

「織斑、いつまでかかっている……?」

 

四人の中で、織斑だけが展開に手間取っていた。ISに触れた時間が短いということもあるが、実力主義のこのIS学園では言い訳にもならない。

 

「くッ、もう少し……よし!」

 

数秒を経て、織斑は白式を展開した。全員が展開を終えると、千冬は新たな指示を出す。

 

「よし、飛べ」

 

千冬の新たな指示の元、四人は宙へと舞う。先頭はセシリア、レディファーストの精神で静夢が後ろに付く。静夢を観察するように、ヴァルトがその後ろに付き、最後に織斑が飛んでいる。

 

「織斑、スピードを上げろ!」

 

「無茶ばかり言う……!」

 

千冬の檄に文句を垂れる織斑、それは尤もである。自信に満ちた織斑だが、なぜか思うように動かせないのだ。データなど表面では優れていると理解できても、それを操る技術が伴わなければ意味がない。

 

つまり、彼は白式を使いこなせてはいないのだ―――。

 

そんな織斑を他所に、三人は飛行を続ける。

 

「こうして飛ぶと、やっぱり気持ちがいいな~」

 

「ええ、そうですわね」

 

静夢の呟きに、先頭のセシリアが答える。代表決定戦以来、セシリアの態度は柔らかくなった。自信家な所は相変わらずだが、出会った頃に比べて差別的な行動をしなくなった。

そればかりか、静夢やヴァルトに積極的に話かけている。現状に満足せず、自分の短所を自覚し、より強くなろうとしているのだ。

自分に変化を齎した、静夢やヴァルトに恥じない人間となるためだった―――。

 

「自分がこうしてISに乗って飛ぶなんて、思いもしなかった……ヴァルト君は?」

 

「ん?あ、ああ…俺も似たようなモンだ」

 

飛びながら後ろを見た静夢だが、ヴァルトのたどたどしい返答は変わらなかった。

 

"マズいな、これは……"

 

静夢の危惧は確信に変わっていった。自身の正体や過去がヴァルトに知られている可能性が出てきたのだ。

内心で溜息を吐きながら、どうしようかと思案しているとオープンチャンネルの通信が入った。

 

「よし、そのあたりでいい。次は急降下からの完全停止だ、目標は十センチだ」

 

通信に気づいて三人が止まると、ようやく織斑がそれに追いついた。それを見て、千冬が新たな指示をだす。

初心者にしては難易度の高い行為だが、何を言っても彼女は聞き入れてくれないだろう。静夢はユニコーンの調子を見ながら、そう考えていた。

 

ここに来るまでにユニコーンの全力を思い知り、性能に制限をかけて競技用として持ち込んだ。

制限をかける提案をした自分を誉めたい気持ちだった。

 

「レディファーストで」

 

「それでは、お言葉に甘えて」

 

本来の意味では違うのだが、情報収集を含めて静夢は先発を譲った。セシリアはそれを気にした様子もなく、スピードを上げて地上に向かっていった。

流石に代表候補といったところだろうか、彼女は難なくスピードを殺し切った。それを見ていたクラスメイトは歓声を上げる。

 

上空から見ていた静夢は拍手を送った。ヴァルトは腕を組んだまま、沈黙を保っている。

 

「ねぇ、一つ賭けをしない?」

 

「うん?」

 

「な、なんだよ…」

 

静夢の提案に、ヴァルトは横目で彼をチラリと見やる。織斑はどこか警戒する様子を見せていた。

 

「ビリは三日間、二人にご飯を奢るとか?」

 

「ハッ、そんな意味もない事に乗るわけがないだろ。少しは考えろよ」

 

静夢の提案に、織斑は無意味だと吐き捨てた。それを見ていたヴァルトは、彼を鼻で笑った。

 

「放っておいてやれ、静夢。天才様は負けたくないから、必死なんだよ」

 

「なんだと……?」

 

「そうだろ?自信があるなら乗ってやればいい、自信が無いからそうやって逃げているんじゃないのか?」

 

ユニコーンと肩を組み、ヴァルトは織斑を煽る。そのうちに、織斑は肩をぶるぶると震わせて口を開く。

 

「いいだろう、やってやるよ!見せてやろうじゃないか!俺の実力を!」

 

どうやら彼は煽られると弱いらしい、思い通りになったヴァルトは静夢とアイコンタクトを取る。こんなにもうまくことが進むとは思わず、ヴァルトと目が合った静夢は笑った。

 

「それじゃあ、先に行くよ。奢りの件、よろしく」

 

「…………」

 

「は?お、おい……!」

 

そう言って、静夢はユニコーンを地上へ向けて加速させた。突如として襲う圧力に静夢の眉間に皺が寄る。

しかし、それは「彼も同じだった」―――。

 

「……!」

 

なんと隣にはヴァルトがいた。静夢と同じように、エクスプロードを地上へ向けていた。

 

「……」

 

「……」

 

二人の間に言葉は無かった。変わりに存在したのは、互いの内側を探るような視線だった。

暫く混じり合う視線だったが、互いのISからの警告に気づいて、ようやく迫る地面に目を向けた。

 

"この辺りか……!"

 

"こんなところかな……?"

 

目標の高さまでの目安を、感覚で操作する二人。だが、勝敗を分けたのは精神的な余裕だった。

ほとんど同時に慣性制御を行い、地表のすれすれで停止する。

 

「「「「「おお……!!」」」」」

 

再び歓声が上がると、千冬のチェックが入る。

 

「パークスは十二センチ、累は十センチだ」

 

「クソッ…!」

 

「ふぅ……」

 

千冬の告げる結果に、ヴァルトは悔しそうに舌打ちをする。静夢は安堵したように息を吐く。

 

「まぁ、大丈夫だよ……」

 

「……?」

 

悔しがるヴァルトに忍び寄るかのように、静夢は彼に耳打ちをする。

 

「彼が成功させるとは思えないし、気楽に待っていようよ」

 

「ああ、そうだな……」

 

静夢はニコリと微笑みを浮かべると、今度は自分がエクスプロードと肩を組む。二人は並んで歩き、列の前にいるセシリアの隣に立つ。

 

「流石ですね、代表候補」

 

「とんでもございませんわ。静夢さんも流石です」

 

「どうも」

 

「ヴァルトさんも、惜しかったですわね」

 

「おう……」

 

少し前まで敵対していたとも言えるセシリアの言葉に、ヴァルトは戸惑った様子で相槌を打った。

 

その後、操作を誤った織斑が地面に激突した。賭けは静夢とヴァルトの勝利となり、織斑は三日間の支払いを受け持つ結果となった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、食べすぎたな……」

 

その日の昼食は豪勢だった。織斑が支払いということがあり、普段は食べない量を食べて、静夢は苦しそうな表情だった。途中で自動販売機により、缶コーヒーを買って屋上に足を運んだ。

 

扉を開き、広い空間に足を踏み入れる。人工芝もあり、休息の場所として適しているといえる。

静夢は屋上を囲う安全柵のところまで近寄り、肘をかけて寄りかかる。買ってきた缶コーヒーを開け、口元を隠すマスクを下げて一口だけ飲んだ。

 

ガチャリ―――。

 

すると、屋上の扉が開いた。静夢は、誰が来たのかわかっている。振り返ることをせず、海の風を浴びながら水平線の彼方を見つめた。

 

「お前か?組織の秘蔵っ子とやらは……」

 

「僕の所属はあなたと違いますよ。秘蔵っ子というのも、持ち上げすぎに思えるな」

 

そこでようやく静夢が振り返る。静夢の視線の先に立っていたのは、一人の少女だった。金の長い髪を束ね、下着が見えるようなスリットスカートと、黒のガーターベルトが目を惹く。

彼女は『ダリル・ケイシー』、このIS学園の三年生で、アメリカの代表候補生だ。

 

「フン、なんだっていいが……オレの邪魔だけはするなよ?」

 

「承知しています。僕は僕の役目を果たします」

 

ダリルはポケットからUSBメモリを出し、静夢に向けて放り投げた。静夢は難なくそれを掴み、自分のポケットからも同じようにUSBメモリを投げた。

メモリをキャッチしたダリルは、訝しげな視線でメモリと静夢を交互に見る。

 

「目的が同じなんだから、変なことはしませんよ。僕の得た情報です、確認をお願いします」

 

ダリルから受け取ったメモリをしまって、静夢は缶コーヒーを一気に飲み干す。

 

「ここの人達、色々と緩くないですか?勝手に情報をくれるんですが……」

 

「過信しているんだろ、ここなら大丈夫ってな……」

 

ダリルは大きな溜息を吐いた、うんざりとした様子だった。静夢は気遣って、別のポケットから飴玉を取り出した。飴を持った手を見せ、彼女の意欲を確かめる。

すると、ダリルは溜息は吐いて手を挙げた。寄こせとの仰せだ。

 

メモリと同じくそれを放り投げた。受け取ったダリルは封を切って口に放り込む。

 

ガツガツと飴玉に噛みつきながら、ダリルは静夢から受け取ったメモリの内容を確認する。静夢が信頼できる相手かどうか、ダリルはまだ半信半疑であった。

暫くして、内容の確認を終えたダリルは鋭い目を静夢に向ける。

 

「なんで、ここまでの情報を手に入れられた?オレでもここまで深くまでは探れなかった……」

 

「言ったでしょう?向こうから情報をくれたんですよ」

 

目元しか見えないが、静夢は笑って答える。ダリルはどこか不気味に見えるその笑みを警戒する。

 

「ベッドで少しその気にさせれば、後は流れですから」

 

「な……お、お前……!」

 

「それに、苦しんでいるのは……男だけじゃありませんからね」

 

柵に背を預け、天を仰いだと思えば、静夢は目を閉じて深呼吸をした。

 

「性別も、大人や子供も関係なく……みんな同じくらいに苦しんでいるんだ」

 

「……」

 

目を開いた静夢は、マスクを着けて口元を隠した。

 

「では、僕は行きます。何かあれば、連絡を頂ければ向かいますので」

 

「ああ……」

 

柵から身を離すと、静夢はダリルの横を通って屋上を後にする。

 

「おい……」

 

「はい……?」

 

ダリルの横を通り過ぎた時、彼女は静夢に投げかける。足を止め、静夢は振り返ってダリルを見据える。

 

「『ヤツ』は敵なのか……?」

 

「……誰のことです?」

 

彼女の問いに一拍の間を置いて、静夢は問い返す。

 

「~~~ッ、お前といつも一緒にいるアイツだよ!」

 

「ああ、ヴァルトくんですか」

 

痺れを切らしたダリルが声を荒げた。ようやく会話が成立し、静夢は納得した表情を浮かべる。

 

「今夜、それを確かめます。もし、敵になるようなら―――僕が必ず始末する」

 

静夢が刹那に見せた刃物のような鋭い感覚。ダリルは背筋に寒気が走り、言葉を詰まらせる。

 

「会えてよかったですよ、『ダリル先輩』」

 

―――静夢はダリルに背を向け、屋上を後にする。

 

扉が閉まり、一人になったダリルは再び溜息を吐いた。受け取ったメモリの内容は、自分では入手できないかった情報ばかりだった。

仕事は出来るみたいだが、まだ信頼して良いか判断ができない。

何よりも、善人の顔から垣間見えた殺気にも思えたモノ―――普通ではない何かを感じていた。

 

「……やりづれぇ、エムの方が分かりやすいのか……どのみち、食えない相手か」

 

そう静夢を位置づけると、ダリルはメモリをポケットにしまって屋上を後にした―――。

 

 




速いですがダリル先輩を出しました。あんまり知識がないので、口調とか不安です。

ご存知の方がいましたら、アドバイスを下さい。
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