インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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お久しぶりです、一月も空いてしまいまして申し訳ありませんでした。

ようやく話が進むと思いますので、よろしくお願いします。


第12話

その夜、静夢はヴァルトを自室に呼んだ。目的はただ一つ―――彼がニュータイプかどうか、自分の正体に気づいたか。それを確かめるためだ。

 

片付いた部屋を更に片付け、来客用のためにセシリアから教わった紅茶を淹れる。次第早まる鼓動や、上昇する体温を感じながら、静夢は溜息を吐いてベッドに腰を落とす。

 

「こんなに緊張するものか……恐れているのかな」

 

もしも、ヴァルトが静夢の正体を知ったとしよう―――彼がそれを材料に、牙を向ける可能性もある。

静夢は最悪の事態を想定して、枕の下に隠していた銃を取り出した。マガジンを取り出し、装填されている弾丸をチェックする。マガジンを押し込み、スライドを引いた。

 

―――それを傍らに置き、静夢は脱力してベッドに身を預けた。

 

「冷静になると、色々とやってきたな……」

 

もしかしたら、これが最後になるかもしれない。静夢は走馬灯のように過去を思い浮かべた。植物監察官の裏で、マフティーの人間として手を汚してきた。その中には、自分と同等か、もっと幼い子供もいた。

 

「今までもやってきたことだ。僕にだって……出来るはずだ」

 

久々の仕事だと自分に言い聞かせ、気持ちを切り替える。呼吸を一つすると、身を起こした。

 

コンコンコン―――。

 

ノックが聞こえると、静夢はもう一度、深呼吸をしてベッドを降りる。

 

「ちょっと待ってて、すぐに開ける」

 

ゆったりとした足取りで、静夢はドアまで歩く。そして、開錠して扉を開けた。

 

「いらっしゃい、待っていたよ。入って」

 

「おう……」

 

扉を開けた先に、ヴァルトが立っていた。静夢は笑顔でヴァルトを迎え入れる。静夢が奥に進むと、ヴァルトはそれに続いて入室した。

どこか警戒した様子で、視線は部屋をくまなく走らせる―――。

 

「とりあえず座っていて、お茶の準備をするから」

 

「あ、ああ……」

 

着席を促すと、静夢は簡易キッチンの方へ消えていく。落ち着かない様子のヴァルトは、静夢の背中を見送って大人しく椅子に座る。

机に広がる書類が目に入り、それを手に取った。目を通していくと、記されているのは、植物を中心にした自然についてのことであった。

 

「お待たせ。口に合うか分からないけど……」

 

「……ッ!?」

 

静夢が紅茶の乗った盆を持ってくると、ヴァルトは慌てて書類を元に戻した。瞬時に居住まいを正すと、平静を装った。

 

「いいよ、楽にして」

 

「……」

 

「尤も、君の返答次第だけどね……」

 

「ッ!」

 

最後に釘を刺しておくと、ヴァルトの肩が揺れた。静夢は机に盆を置くと、隣の椅子に腰を下ろす。盆に乗るティーカップをヴァルトの前に置くと、もう一つのティーカップを取った。

置かれたティーカップを前にするヴァルトに対し、静夢は見せつけるように紅茶を口に含む。

 

「味は保証できないけど、毒なんて入れていないよ。そんなつまらない事をすると思った?」

 

「……」

 

静夢のその一言に、ヴァルトは紅茶を飲まざるを得なかった。それは一度でも静夢を一目置いた自分に嘘をつくことに繋がるからだ。静夢がヴァルトの真意を確かめるように、ヴァルトもまた、静夢の真意を確かめたかった。

 

ゆっくりとカップを手に取り、紅茶の香りを嗅ぐ。鼻腔をくすぐる良い香りだ、仮りに何かが入っていたとしても、それを判別できるような知識も経験もない。ヴァルトは意を決して紅茶を飲んだ。

 

「……」

 

「え、おいしくない?」

 

「いや、普通だ……」

 

「ああ、良かった……驚かさないでよ」

 

硬直するヴァルトに、静夢は思わず尋ねた。暫くの沈黙の後、ヴァルトが驚いた様子で呟くと、緊張の糸が解けた静夢が天を仰いだ。

 

「はぁ……」

 

大きな溜息を吐き、静夢は安堵する。そんな彼を見ながら、ヴァルトは再び紅茶に口を付ける。ヴァルトの視線に気づいた静夢は、椅子に座り直してヴァルトを見据える。

 

「何か、聞きたいことがあるんじゃない?」

 

「……」

 

「安心して。知り合いのおかげで、カメラや盗聴器は無力化してある。今なら、聞きたいことが全て聞けるかもしれないよ?」

 

静夢に問われ、ヴァルトは沈黙してカップを机に置く。ここまで来たら、正直に言わざるを得ないだろう。ヴァルトはまっすぐな瞳を、静夢へと向けた―――。

 

 

 

   「お前は―――『織斑 一夏』なのか?」

 

 

 

ヴァルトの問いに、静夢は口を開かない。落ち着いた態度で、紅茶を飲んでいた。

 

「仮に……僕が君のいう織斑 一夏だったとしよう。君はどうするんだ?」

 

「なに……?」

 

「その質問は、僕の正体を知ったからこそ聞けることのはず。それを使って、行動を起こすのかい……?」

 

「はぁ……お前、俺をバカにしているだろ?」

 

呆れた様子で溜息を吐くヴァルトは、カップを手に取って一気に紅茶を飲み干す。

 

「俺が、『そんなつまらない事をすると思った』か?」

 

返答に困り、言葉を詰まらせる静夢に、ヴァルトはしてやったりと笑う。どうやら警戒をしすぎて、足元を掬われたようだ。これ以上の言い訳は、意味を成さない。静夢も紅茶を飲み干し、カップを空にした。

 

「わかった、君を信じよう。僕のことを話すよ」

 

一息ついて、静夢は己の過去を語りだす―――。

織斑 千冬と織斑春十の弟として生きていたこと、夜の街で働いていたこと、ロンド・ベルのことや自身の出生について―――その全てをヴァルトに明かした。

 

「お前も、俺の中を見たのか……?」

 

「まぁね。君から事前に話してもらったこともあって、色々とね」

 

「どうして、俺たちだけなんだ……?」

 

ヴァルトはジッと静夢を見据え、静夢は新たな真実を語ることを決めた。

 

「ニュータイプ、聞いたことはある?」

 

「ニュータイプ……?」

 

静夢は頷き、ヴァルトは再び神妙な顔つきになる。

 

「お茶を淹れなおすよ、今夜は長くなりそうだ……」

 

「……」

 

椅子から立ち上がり、静夢はヴァルトと自分のカップを持ってキッチンへ消えていく。ヴァルトは何度目か分からない溜息を吐いたのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニュータイプ」―――宇宙に出た人類がその力を開花させた存在。時に人と世界を動かし、時に争いの引き金になったそれは、曖昧な定義によって噂だけが独り歩きしていたという。様々な人間がその定義を語り、そもそもニュータイプの存在そのものがあやふやなものになっていた。

 

静夢は、アムロ・レイやシャア・アズナブルといったニュータイプからその話を聞いたことがあった。しかし、静夢にとって宇宙世紀はスケールが大きく、理解するにはある程度の時間を要した。

 

曰く、戦争がなくとも分かり合える存在。曰く、死者との対話が可能な存在。曰く、モビルスーツの操縦に適した人間。多様な意義が交錯していたという。

 

「……」

 

「…大丈夫?」

 

「ああ……いや、少し休ませてくれ」

 

眉間に寄った皺を戻したヴァルトは、大きく息を吐いて脱力した。静夢はそれを見て、苦笑いを浮かべて紅茶を啜る。

 

「別の世界、宇宙に住める時代……それだけでも手一杯なのに、そんな人間がいるなんてな」

 

「僕も初めて聞いた時は理解できなかったよ、今の君と同じ」

 

「そんな俺たちが、当のニュータイプ……?」

 

「信じられないでしょ?」

 

ああ、と相槌を打つヴァルト。今度は疲れ切った表情をしていて、静夢はクスクスと笑う。

 

「僕も未だに信じられない、でも……実際に僕たちはそんな経験をした」

 

ヴァルトはそれに頷いた。静夢は戦場でそれを感じ、ヴァルトは喧嘩に明け暮れる中でその感覚を知ったのだ。

認めないわけにはいかなかった。それに触れてしまえば、もう知らないフリはできないのだ。

 

「お前はこれから、どうするんだ?」

 

「僕のやることは変わらない。君こそどうするの?」

 

「俺はこの世界が気に入らない。だが、俺には力がない……」

 

ヴァルトはそう言って、右手を見つめて拳を握る。自分の境遇から、この世界の在り方に疑問を持っているようだ。

静夢はカップを置いて、ヴァルトを見据える―――。

 

「ISは女性しか動かせない。しかし、僕たちには動かせた……なぜだと思う?」

 

「それは……」

 

突然の問答に、ヴァルトは戸惑って言葉に詰まる。偶然にも動かしてしまって、うんざりとしていたのだ。どうして動かせるかなど考えもしなかった。

 

「ニュータイプだから動かせたのか、他の要因があるのか……」

 

「……」

 

「いずれにせよ、なにか理由があったんだと思いたい。この力を、正しいことに使いたいから……」

 

そう言って静夢は立ち上がり、ヴァルトに手を差し伸べる。

 

「今は仲間、それでいい?」

 

「……ああ、問題ない」

 

それに応えるように、ヴァルトも立ち上がった。差し伸べられた手を、力強く握った。

 

今夜はそれでお開きになった。門限も近いこともあり、ヴァルトは静夢の部屋に泊まることにした。ルームメイトの簪に連絡し、静夢はキッチンで簡単な夜食を作って振る舞う。

 

それから二人は会話に花を咲かせる、内容は専ら身の周りのことだ。バニラにいる友人や父親のこと、ニュータイプの大人たちのこと―――気づけば日付が変わり、すっかり時間を忘れた二人は、遅刻寸前で教室に入ったという―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日、一年一組の教室は少し騒がしかった。理由は当然、静夢とヴァルトの不在である。

クラスの顔とも言える二人の不在、少女たちは主のいない席を見つめていた。

 

「ねぇ、静夢くん見た?」

 

「ううん、食堂でも見なかったよ?いつもの時間になっても来なくて…」

 

「そういえば、ヴァルトくんも来てないけど…」

 

「欠席…?」

 

少女たちの憶測が飛び交い、ざわざわと喧騒が教室を包み始める。そんな中、教室の扉が勢いよく開かれた。

突然のことに驚き、クラスにいる誰もが視線を送る。

 

そこにいたのは、一人の少女であった―――。

 

「このクラスの代表は誰?」

 

小柄でありながら、艶やかなツインテールを揺らし、少女は教室を見渡す。まじまじと見渡した後、彼女は嘲笑した。

その中の誰もが平凡に見えたのだ、自分よりも弱い人間しかいない教室を見て笑った。

 

「『鈴』?鈴じゃないか?」

 

その少女に声をかけたのは、織斑 春十だった。面識があるかのように、気軽に話しかけていた。

 

「気安く話しかけないでくれない?アンタには興味ないの」

 

「なっ、お前……!」

 

気にも留めない様子で、鳳 鈴音は織斑をあしらう。虚仮にされた織斑は、カッとなって鈴音に手を伸ばす。

 

 

 

しかし、その手が彼女に触れることは無かった―――。

 

 

 

向かってくる織斑の手を掴むと、鈴音はグイと捻り上げた。腕の痛みに苦悶の表情を浮かべる織斑、鈴音は力強く彼を引き寄せた。

そして、全力で織斑の右頬を叩いたのだった―――。

 

乾いた音を皮切りに、波紋のように沈黙が広がる。あまりにも素早い鈴音の動きに、

誰もが言葉を失っていた。

 

「痛い?アイツはもっと痛い思いをしてきたのに……アンタみたいなやつが!」

 

「はい、そこまで」

 

悔しさが滲む拳を振り上げた鈴音だが、その拳を持ち上げられて振り返る。この怒りをぶつけなければ気が収まらない。

この拳を阻む者は誰か―――鈴音は鋭い目のまま振り返った。

 

「あ……」

 

「朝から暴力沙汰はやめない?みんなが使う場所だし、ね?」

 

この状況に介入した静夢は、諭すかのように語り掛ける。鈴音は静夢の顔を見ると、拳から力が抜けていた。静夢は掴んだ鈴音の手を離し、クラスメイトに目を向けた。

 

「おはよう、みんな」

 

「うん……」

 

「お、おはよう……」

 

静夢の介入がダメ押しになったかのように、クラスメイトの面々は思考停止に陥っていた。静夢の挨拶を返すしかできなかった。

 

「なにかあったのか?」

 

「え、ああ…実は―――」

 

静夢の後ろにいたヴァルトが先に教室に入ると、近くにいたセシリアに状況の説明を求めた。

状況が呑み込めた静夢とヴァルトはなるほど、と呟いた。

 

「時間も時間だし、今は教室に戻ったら?先生たちも来る頃だし…」

 

「そうね、悪かったわ…」

 

どうにか落ち着いた様子の鈴音を見て、静夢も安心して教室に足を踏み入れる。丁度その時、千冬が教室を訪れる。

 

「……何かあったのか?」

 

「千冬さん……」

 

「まぁ、色々と」

 

静夢が曖昧な言葉で誤魔化していると、鈴音をチラリと見る。彼女も静夢を見ており、視線が交わる。

顎を振って、彼女に帰るように催促した。マスクのせいで静夢の表情が分からない鈴音は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、その場を後にした。

 

「席に着け、ホームルームを始めるぞ」

 

「はーい」

 

お道化た様子で返事をすると、静夢は自分の席に向かう。頬を押さえて呆然とする織斑の横を通りすぎるところで足を止めた。

 

「君を助けたのはこれで『二度目』だ、感謝してよね?」

 

織斑を一切見ることなく、そう言い残して静夢は着席した。机の中にある教材を取り出しながら、思い返すのは鈴音のことだった。

まだ織斑 一夏だったころ、彼女によって静夢は救われていた。自分を一人の人間として認めてくれた彼女と、こんなところで再会するとは思ってもみなかった。

 

"まったく、予想外だな……またデータを見直しておこう"

 

しっかりと切り替えて、静夢は今日も一生徒として振る舞う。自分が望む未来のため、息を潜めて紛れるのだった―――。

 

 

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