インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第14話

昼食を終え、鈴音を追って足早に廊下を歩く静夢。屋上へ向かう途中で、自販機でジュースを購入する。少しだけ息を切らして屋上にたどり着くと、扉を開けた先に彼女はいた。

 

手すりに寄りかかり、退屈そうにしている鈴音に静夢は声をかける。

 

「ごめん、お待たせ」

 

「いいわ、私が誘ったんだもの」

 

どこかしおらしく、遠慮したような態度を感じる。静夢は購入したジュースを鈴音に差し出す。無碍にするわけにもいかず、鈴音はそれを受け取る。

沈黙が支配する空間で、二人はお互いに切り出すタイミングを見計らっていた。

 

「あ、ジュースはそれでよかった?急いでいたから…」

 

「え!?あ、ああ…大丈夫よ、ありがとう…」

 

いざ話そうと思うと、言葉に詰まって鈴音は言い淀む。久しく再会した彼にどう声をかければいいのか分からず、落ち着かなかったのだ。

 

「ねぇ―――」

 

「なに?」

 

思い切って、鈴音は静夢に尋ねる。静夢はいつも通りに、鷹揚な様子で彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

 

「アンタは一夏なの…?」

 

 

 

「……」

 

意を決して尋ねた鈴音に、静夢は何も言わなかった。ここで自身の正体を明かす事は自滅にもつながる。これはヴァルトの時に経験しているが、今は鈴音をしっかりと信頼できる確信がない。

 

ましてや、彼女は中国の代表候補―――どこから情報が洩れるか分からないのだ。

 

そこで静夢が取った選択は―――。

 

 

 

 

「またそれ?そんなに似ているかな…」

 

 

 

 

言いくるめて、誤魔化すことを選んだ。どのみち気付かれることは目に見えているが、先延ばしにするくらいは出来る。

わざとらしく、自分の顔をぺたぺたと触る。鈴音の方を向くことはしない。凡そ、彼女がどんな気でいるかは分かるし、今の自分にはそんな資格はないからだ。

 

「な、何言ってるのよ…アンタ、バカにするのもいい加減にしなさいよ!」

 

呆気に取られた後、声を荒げる鈴音。瞳には怒りの色が見え、悔しいのか歯ぎしりをする。

静夢は激高する鈴音に向き直り、口元を覆うマスクを外す。

 

「一夏じゃない!私がアンタの顔を忘れるわけがないでしょ!?」

 

静夢を織斑 一夏と言い張る鈴音に、静夢は大きな溜息を吐く―――。

 

「僕は累 静夢だよ。それ以上でもなければ、以下でもない。ましてや、これまで僕の全てを、君が否定できるのかい?それとも、昔の恋人と重ねてしまったのかな?」

 

嘲るようにクスクスと笑い、ポケットから飴を取り出して口に放り込む。舌の上でコロコロと遊ばせ、やがて隠すようにマスクを着ける。

 

「ふざけんな!私が、どれだけアンタを―――!」

 

「……」

 

「ッ、アアァァ〜〜〜!」

 

ついに限界を迎えて心の内を吐露する鈴音を遮り、静夢は突き放すように冷たい眼差しを向ける。言いたいことも言えず、納得のいかない彼女は顔を伏せて声を上げる。

 

しばらく声を上げ、息を切らした鈴音が顔を上げた。目元には涙が浮かんでおり、思いの丈が見てとれる。

 

「いいわ、アンタが私の知ってるアイツじゃないってことは認める」

 

「本当に?そんな顔には見えないけど……」

 

「頭で理解させて飲み込んだのよ。それくらい、理解しなさいよ…」

 

「そうですか……」

 

「ただし…!」

 

鈴音が声を張り上げ、静夢は手すりに寄りかかったまま、彼女を見つめる。

 

「放課後に武道場に来なさい!これは、私の気持ちにケリをつけるためよ。この言葉に噓は無いわ」

 

静夢を指差して宣言する鈴音に、静夢は溜息を吐いた。千冬や織斑ほどでは無いにしろ、彼女も過去の自分に執着しているきらいがある。

一つのことにこだわるあまりに、視野の狭窄に陥ってしまっているのだ。

 

しつこく付きまとわれるというのは、あまりいい気分ではない。ましてや、過去の自分を知っている人間なら尚更である。

 

「条件がある。どんな結果になろうと、過度な干渉はナシ。いいね?」

 

「いいわ、それでいきましょう」

 

鈴音はそう言って、屋上を後にする。口の中で小さくなった飴を噛み砕き、一人取り残された静夢は蒸れるマスクを外す。

 

「参ったな……」

 

一人を良い事に心の内を声に出す。口元を撫でる風が涼しくなる半面、頭の中は苛立ちが募るばかりだった。

 

「今更、変わらないのに…」

 

口元を拭い、ため息を吐く。夜の仕事の経験を思い出し、気持ちを落ち着かせる。

はぁ、と小さな溜息を吐いて、静夢は首に下げたマスクを口元に着ける。

 

「ま、なるようになるか……」

 

頭と心を切り替えて、静夢は屋上を後にした。ドアをくぐり、階段へ足を向けた瞬間だった―――。

 

「ッ……」

 

視線を感じ、静夢の足が止まる。自分の立場や纏わりつくものを考えれば、不思議ではない。ここに来てからは何度もあった、面と向かっての接触だってあった。

夜の仕事の要領で言いくるめると、そのままベッドで骨抜きにして差し上げたのだ。

 

自分から誘うのは静夢のポリシーに反するが、相手は自分の命を狙っているのかもしれない。そう考えれば、ポリシーを気にしている場合ではない。相手にするついでに、持っている情報を頂いて関係各所へ流しもしたのだ。

 

「……」

 

しかし、今回のお相手は、どうやら様子見のようだ。本気で命を狙う相手なら、周到な用意と完璧なタイミングを狙うはずだ。

隠れていると思われる方向は敢えて見なかった。不用意な隙を見せることにも繋がる。

 

膠着状態から数分が経った―――しかし、相手は仕掛けては来ない。

 

「帰ろうか、時間が勿体ない」

 

わざと声に出して言うと、静夢は今度こそ階段を下りて教室へ向かった―――。

 

 

 

 

「気づかれた…?どのみち、厄介な子ね。噂も当てにならないわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の授業が終わると、静夢は重苦しい雰囲気で武道場へ向かった。鈴音との約束だ。有耶無耶にして、その場をやり過ごすこともできたが、厄介なことに過去の因縁もある。その隣にいるヴァルトは、着替えを脇に抱える静夢を横目で見ていた。

 

「お得意の口は通じなかったのか?」

 

「言わないでよ、頭が痛くなる……」

 

ヴァルトは、げんなりとした様子の静夢を笑い飛ばした。普段からは考えられない慌てぶりを見て、新鮮な気持ちになると共に、かつて垣間見た静夢の過去を思い出す。

身内の影に隠れた自分に対し、静夢は身内に苦しめられて来た。自分がまだマシな立場にいたということを思い知った。

 

「苦労している、なんて……言葉一つで片づけられないか」

 

「僕にとっては過去のことだよ。今更、そんな事は気にしない。僕が見ているのは、いつだって明日や未来だから」

 

「……強いんだな」

 

「僕なんてまだまださ。追いつかなきゃいけない人たちが、沢山いるからね」

 

この前向きな姿勢が静夢の強さとも考えるヴァルトは、それが偶に羨ましいと感じる。自分はまだ目先のことに囚われていたり、現実を否定するという漠然としたものしか見えていない。

 

"俺も、お前に追いつけるだろうか……"

 

自分らしくもなく、センチメンタルな感情が浮かび上がっていた―――。

 

すると、遠くから掛け声や激しく打ち合う音が聞こえてくる―――。

 

「あ、ここかな?」

 

それを聞いた静夢は駆けだした。当事者ではないヴァルトは、ゆっくりと静夢の後を追う。静夢が扉を覗くようにしていると、追いついたヴァルトも同じように後ろから覗き込む。

 

「めーーん!!」

 

「一本!」

 

「1!2!1!2!」

 

覗き込んだ武道場では、剣道部の部員たちが汗を輝かせながら邁進していた。ある場所では試合さながらの練習をしており、また別の場所では列になって竹刀を振っていた。

 

「あら、噂の二人じゃない。どうしたの?」

 

すぐ近くで練習を見ていた顧問の教師に声をかけられ、二人は一礼をする。

 

「ちょっと用があって来たんですが……」

 

「うちの誰かに?」

 

「ああ、いえ。そういうわけじゃなくて…」

 

目的の人物を探し、武道場を見まわすが、鈴音はいなかった。

 

「ごめん、お待たせ!」

 

後ろから声をかけられ、静夢とヴァルトが振り返る。鈴音だ。急いでやって来て、息を切らしていた。

 

「大丈夫、僕らも今来たところだよ」

 

「そう?それじゃあ、始めましょうか」

 

「なぁ…」

 

何事もないように話が進んでいるが、ヴァルトが何かに気が付いて声をかける。

 

「『使用許可』はとってあるのか?」

 

ヴァルトの言葉に鈴音と静夢は顔を見合わせた―――。

 

「使用許可って?」

 

「取ってあるんじゃないの?」

 

「お前ら……」

 

既に準備が済んでいるものだと思っていた二人は首を傾げ、そんな二人を見たヴァルトは溜息を吐いて頭を抱える。近くにいた教師も、思わず苦笑いを浮かべる。

 

静夢とヴァルトが鈴音に一通りのことを教えると、事態はゆっくりと収束に向かっていく。

 

「ごめん……」

 

「いいよ、僕も気が回らなかった」

 

「じゃあ、今回はナシだな。明日にでも申請して、許可が下りたら―――」

 

「別にいいわよ?」

 

場所が取れてない状態のため、引き上げようとする一行だったが、それを教師が引き留める。

思わず足が止まり、三人は驚いて首を傾げた。

 

「い、いいんですか?」

 

「構わないわ、そろそろ休憩に入るしね」

 

「許可は?取ってないけど…」

 

「今、私がした。ということでは、不服かしら?」

 

いたずらっ子のように微笑む大人に、静夢とヴァルトは顔を見合わせ頷く。

 

「「ありがとうございます」」

 

静夢とヴァルトが感謝を告げる。静夢が頭を下げると、鈴音が遅れて一礼した―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

剣道部の休憩に合わせ、武道場から人が遠ざかる。顧問の教師からの指示であったが、剣道部員の面々は不思議に思いながら武道場を見つめる。

 

その先には、トレーニングウェアに着替えた静夢と鈴音が、中央で向かいあっていた―――。

 

「条件はあの時と同じ、どんな結果でも文句ナシで」

 

「もちろん、始めましょう」

 

確認の後、二人は準備を始める。あまり気が乗らない静夢だが、簡単なストレッチをする。

対する鈴音は同じようにストレッチを行い、目を閉じて瞑想をしている。

 

「……フゥ」

 

「いい?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

目を閉じて集中している鈴音に、申し訳なさそうに声をかける静夢。パッと目を開いた鈴音は頷いた。

 

両者はしっかりと向かい合い、ついに勝負が始まる―――。

 

自然体でリラックスした状態の静夢は、いつものように構える。

鈴音は両手を体の前で合わせると、腰を落としながら右手を前にして構えた。

 

「ッ、その構え……!」

 

「さぁ、行くわよ!!」

 

その構えを見てハッとする静夢だが、鈴音は容赦なく牙を剝く。勢いよく飛び出し、か細い右足からは想像もできないほどの蹴りが飛び出す。静夢は半身になって避けるが、鈴音の追撃は終わらない。

 

鈴音の右手が鋭く突き出され、咄嗟に出した右手でそれを防ぐ。

 

"あの構え、この動き……間違いない、これは……!"

 

静夢は鈴音のこの動きに覚えがあった。かつて、自然調査のために中国を訪れた際に、出会った『とある武人』と同じ動きだったのだ。

 

「甘い!」

 

右手で防いだ一撃だが、鈴音はそれを素早く返して静夢のバランスを崩した。ノーガードとなった静夢は、左手で追撃に備える。

 

その反応に、鈴音は笑みを浮かべた―――。

 

「ハッ!!」

 

「ッ!?」

 

鈴音は静夢の反応をあざ笑うかのように、がら空きとなった脇腹を狙った。意識の外からの攻撃に、静夢は反応できなかった。

脇腹への一撃を受け、静夢はたじろいで体勢を崩した。

 

"仕掛ける…!"

 

追撃に出る鈴音の肉薄、静夢との体格差があるため、鈴音はその差を埋めるべく間髪いれずに攻撃に打って出た。

 

「クッ…!?」

 

「チッ!」

 

飛びかかった鈴音の振り下ろす右手を避けた静夢は、前転して距離を取る。体勢を立て直し、彼女の動きを注視する。

 

「どう?舐めてると痛い目を見るわよ?」

 

してやったりと、無邪気に笑う鈴音。静夢は、かの武人との組手を思い出す。

 

隙のない鋭い一手に苦戦し、回避することが精一杯だった。それからは強くなっているという自負はあるものの、静夢は無意識にプレッシャーを感じていた。

 

思わぬ強敵との遭遇、静夢は自身の判断の甘さを痛感する。適度に加減をして、彼女に勝ちを譲れば丸く収まると思っていた。ヴァルト戦のように、勝ちを譲れない気分ではないが……。

 

"本気でやらないと、後悔するかもしれないな……"

 

静夢は覚悟を決め、一呼吸の後に目を閉じたのだった―――。

 

 

 

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