インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
"ホントに何なのよ!コイツ、わざとやってんじゃないでしょうね!?"
気まずい空気の中、静夢の後ろを歩く鈴音は頭の中がモヤモヤとしていた。偶然か故意か、静夢に抱かれた肩が熱を帯びている気がした。視線の先にいる静夢は、相変わらずの様子で平然としている。焦りを感じている自分に対してあの落ち着き様、どうにも気に食わなかったのだ。
「……ッ!?」
「どうかした?さっきから変だけど……」
振り返った静夢が尋ねて来た。
誰のせいでこうなったと思っているのか―――鈴音は言葉にできないこの感情を処理できず、表情をクシャリと歪めて頭を掻きむしる。
「ちょ、本当にどうしたの?」
「うるさいわね!」
本心で心配する静夢だが、鈴音はそれを受け止める余裕がなかった。思わず激しい言葉で突き放し、駆け出して静夢を追い抜いていく。
「なんなんだ……」
さっきまで顔を赤くして可愛い一面を見せたかと思えば、今度はヒステリックに声を荒げる。女性特有のものと思えばそれまでだが、あまりにも突然のことに戸惑いを見せる。
溜息を吐いて彼女を追う。ヴァルトたちがいるであろうアリーナが近づくにつれ、ざわざわとする喧騒が聞こえて来た。簪もいるし、二人が試運転を兼ねて模擬戦をやっているのかもしれない。
ヴァルトのことだ、あまり手加減をしていないかもしれない。簪に何かあるといけないと、静夢は早足でアリーナへ向かう―――。
「これは……」
アリーナの観客席に出ると、先に到着していた鈴音も驚いていた。アリーナの中央から端の壁まで地面がえぐれ、その壁まで破損していた。そこにはヴァルトと簪がいた。
『そこの二人!大丈夫なの!?』
慌てた様子のアリーナの担当をしていた教師が、管制塔からアナウンスで呼びかける。ヴァルトは手を挙げて応えると、腕の中に納まる簪を見る。小さく振るえ、焦燥が見えた。
どうにか無傷で終わり、安堵の息を吐く。ギャラリーが少しいて、ざわざわとしている。落ち着いた途端に周囲の状況が波のように押し寄せる。
「……」
「……」
観客席にいる静夢と目が合う。手を挙げると、静夢も手を挙げて応える。ヴァルトはエクスプロードの状況を確認すると、打鉄弐式を纏う簪を抱えて、ピットへと飛び立った―――。
ヴァルトの行動を見て、静夢はピットへ駆け足で向かう。鈴音はハッとして、その後を追う。ピットへ入ると、そこには意気消沈した簪がいた。
「大丈夫?」
「ああ、怪我はない」
駆け寄って声をかける静夢に、ヴァルトは無事を伝える。
「試運転で飛んでいたんだが、急に挙動がおかしくなってな…どこかに異常があったのかもしれない」
完成した打鉄弐式の試運転の最中だった、打鉄弐式のスラスターから火が上がった。黒煙が上がり、高度が低くなっていった。
これはマズいと感じ、ピットで見ていたヴァルトはエクスプロードを纏って飛び出した。
「少し見てみよう。簪ちゃん、降りられる?」
「……」
「…簪?」
「ッ、大丈夫…」
反応しない簪にヴァルトが声をかける。それでようやく我に返った簪は、降りる準備を始める。体を固定していた装甲が外れ、簪はフッと力が抜ける感覚を覚える。
「はい、どうぞ」
「ん…」
後は降りるだけとなった簪に、静夢とヴァルトは手を差し出す。それどころではなかった簪は、気にした様子もなく二人の手を取った。
「…ありがとう」
「引きずっちゃダメだよ。まだ時間はあるから」
「へこんでいる場合じゃない。少し休んだら、原因を洗い出して調整するぞ」
曇った表情をする簪に、二人は背中を押すように声をかける。損傷の程度を考えれば、まだ取り返しがつく。簪は目を伏せて深呼吸をする、二人の言っていることは正しい。
自分の汗と涙の結晶である打鉄弐式の試運転が、こんな結果に終わったことは無念である。しかし、悔しさや悲しみに浸っている場合ではない。この現実を糧とし、明日の試合に間に合わさなければいけないのだ。
―――パシン!!
自分を律するかのように、簪は自身の頬を叩く。思わぬ行動に、静夢とヴァルトだけでなく、少し離れた場所で見ていた鈴音も驚いていた。
「よし…!」
「良い顔になったな。ほら……」
「ありがとう。でも、大丈夫だから」
「じゃあ、休憩しながら作戦会議をしようか。助っ人は呼んでおいたから」
心機一転、やる気に満ちた簪。ヴァルトは試運転の前に買っておいたドリンクを差し出すが、彼女はやんわりと断った。折衷案として、静夢は休憩がてらの話し合いを持ちかけた。
「かんちゃ~ん♪」
場の空気を和ませるような声が聞こえて、簪はゲート付近に目を向けた。そこには幼き頃からの友である本音と、新聞部として静夢たちを尋ねた黛がいた。
「本音、どうして……」
「しずむんにお呼ばれしたの~。かんちゃんのピンチって聞いて~」
「貴重な時間を頂いて、ありがとうございます」
「いいのいいの、気にしないで」
「専用機に触れるのは、なかなかレアだしね!」
黛を筆頭とした生徒たちは、整備課に所属している。奇しくもギブアンドテイクの条件が完成していた。黛たちが手早く機体を調べると、OSとスラスターの両方に問題があったらしい。
「まずはスラスターの方から直そうか」
「OSも見直していって、問題が無いかチェックしたいね」
黛の連れて来た生徒たちによる原因の調査が終わると、簪の休息を兼ねたブラッシュアップが行われた。静夢が購買で買って来た菓子や飲み物をつまみながら、少女たちは意見を出し合う。
「見たところは問題なさそうだけど……」
「あ、ここ!もしかしたら、こいつが悪さをしてたんじゃ…」
構築したOSを睨み付けるように見つめる簪、ユニコーンの整備に関わった静夢が何かを見つけた。その声に引き寄せられ、少女たちはOSを見つめる。
「「「これだ!」」」
問題の原因を発見した一行は直ちに行動に移る。簪と静夢がOSを書き換え、本音と黛を中心にスラスターの修理が始まった。
「ここを換えて…こう、かな」
「うん。それなら、ここもこうしたら…」
「あ、そうだった」
「パークスくん!向こうからサンダーとコードを持って来て!」
「了解、他には……?」
「パーくん、お菓子とジュースが欲しいな~」
「後にしろ!」
作業は夕食までかかり、一時解散となった。黛たちも夕食後も参加してくれるとのことらしい。
「とりあえず休憩して、また再開しようか」
「そうだな」
二人の声を耳にして、簪の集中が途切れる。大きく息を吐き、彼女もようやく脱力する。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
静夢の気遣いに返事をすると、簪は立ち上がって体を伸ばす。
「二人は着替えてきなよ、待っているから」
「いや、先に行っていいぞ?」
「いいよ、一人じゃ物足りないし」
気遣いの応酬の末、ヴァルトと簪は更衣室へ向かおうと歩き始めた。
その時、ピットのゲートが開いた―――。
「簪ちゃん!!」
簪の名を呼ぶ少女がピットへ駆け込んでくる。急いでいたのか、頬は上気して息を切らしている。―――しかし、簪の表情は曇っている。
「大丈夫!?専用機にトラブルがあったって聞いて……『お姉ちゃん』、生徒会の仕事でこんな時間になっちゃったけど」
「お姉ちゃん」―――その言葉で静夢とヴァルトは事情を察した。彼女は簪の姉に当たる人物だろう。静夢は仲間たちからの情報で彼女のことを知っており、ヴァルトは簪本人から話を聞いていた。
彼女の名は「更識 楯無」―――このIS学園で生徒会長を務める、簪の姉である。
「…大丈夫。順調に行ってるから」
「無理はしないでね?何かあったら、相談してくれれば…」
「大丈夫だから!もう放っておいて…」
オロオロとした様子の楯無に、簪は語気を強めて突き放す。
「ごめん、着替えてくる……」
沈黙の末、簪は更衣室へと向かって離れていく。初対面の三人は関わりが無く、そこに会話が生まれることはない。
「…ごめんなさいね、迷惑をかけて」
―――楯無からこぼれた謝罪に、二人はピクリと反応する。
「色々とあるのだけど、あの子の専用機は…」
「―――訂正しろよ」
楯無の言葉を遮るように、ヴァルトは低い声を発した。怒りの念が籠った目で、彼は楯無を捉えている。
「俺たちは仕方なく手伝っているわけじゃない、あいつの努力を知っているから手を貸しているんだ」
「僕も同じです。彼女は一途で努力家だ、それを姉であるあなたが否定するのは間違いですよ」
ヴァルトの肯定に静夢も同意する。彼女の境遇や、それに抗おうとする強さを知っている。時には立ち止まっても、諦めることなく歩き出すことが出来る人間である。
「否定というと違うかもしれませんが……意地を張らずに仲良くすればいいじゃないですか」
「う…」
言い直した静夢の言葉が楯無に突き刺さり、彼女は膝から崩れ落ちた。
「仕方がないじゃない、そうするしかなかったんだもの…」
「それで簪が納得するわけないだろ…」
彼女の言う通り、家庭の事情があるのは理解できる。しかし、簪がそれを理解できるかは別問題といえる。ヴァルトの正論が楯無に追い打ちをかける。
「俺たちに構う暇があったら、姉らしい事の一つでもやってみろよ」
ヴァルトの最後のダメ押しが楯無のメンタルを砕く。すすり泣くような声が聞こえると、ヴァルトは溜息を吐いた。静夢へ目配せをすると、彼は更衣室へ向かった。
残された静夢は、そのままにしておくことも考えたが、変な恨みを買いたくなかったので楯無に声をかける。
「一度、しっかりと話し合った方がいいかもしれませんよ?尤も、簪ちゃんにその気があればですが…」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない……!!」
気を遣ったつもりの静夢の言葉が止めとなった。楯無はついに涙をこぼし、静夢は戸惑う。
その後、合流した簪とヴァルトの手を借りて事なきを得た。毅然とした姉しか見なかった簪は、泣き崩れる姉を見て戸惑いを見せていた―――。
翌日、クラス代表対抗戦当日―――。
「「ふぁ……」」
欠伸をかく静夢とヴァルトは眠気が覚めないまま、アリーナの観客席にいた。簪の打鉄弐式は昨夜の内に改修が完了した。一同は自室に戻る気力が無く、整備室で雑魚寝することとなった。
普段から規則正しい生活を送る静夢だが、珍しくその日は寝過ごした。急いで全員を起こし、自室に戻らせると一年の四人は早足でアリーナに向かった。
「おはよ……眠そうだね」
「あ、『ティナ』。おはよ」
そんな二人の隣に腰をかける『ティナ・ハミルトン』は、二人の様子から苦労を察する。静夢とここで再会してから、ティナは旧交を温める。時には食事、時にはベッドの中など様々である。しかし、彼女は静夢と交際しているわけではない。そういう割り切った関係だが、暫く静夢と会えなかったストレスがあった。
「そんな隙を見せると、食べちゃうよ…?」
「……勘弁してよ」
耳元で囁かれた言葉に、静夢の意識が引き戻される。静夢の様子に満足が行ったのか、笑みを浮かべたティナは話を続ける。
「どうにかなったの?」
「うん、危うく寝坊するところだったけどね」
「鈴の方も?」
「……あの子は何もしなくても大丈夫だよ」
知ってか知らずか、ティナの問いに静夢は言葉に詰まる。彼女はアメリカの代表候補でもある。一見しただけでも、静夢と鈴音のことを見抜いたのかもしれない。静夢は背後からナイフを突きつけられた感覚を覚えた。
―――そんな話をしていると、最初の試合が始まる。
最初の試合は鈴音と織斑の対戦、鈴音は静夢たちと同じ様子で眠そうにしていた。緊張感が無いともとれるが、戦闘を経験した者が見ればリラックスしているとも見える。
そんな様子が気に入らないのか、織斑は声を荒げている。秘匿回線(プライベートチャンネル)で話ているため、声は聞こえない。
―――静夢が観客席で見ている人間の気分を理解すると、カウントダウンが始まる。
落ち着いた様子の鈴音は、両手を体の前で構えると、右手を左肩に添えるように構えた。流れるような滑らかな動きで、両手で円を描くようにすると、左肩が前に来るように半身になる。
肩と同じ高さで両手を構え、体勢を変えて右手を前にして構える。
龍爪虎牙拳の真のルーティーン、静夢は真意に気づく。
―――鈴音は本気で勝ちに行くつもりだ。
カウントがゼロになり、織斑が雪片二型を抜刀して飛び込む。鈴音は構えたまま、微動だにしない。その姿は、まるで静夢と同じだった。
織斑が振るう雪片の軌道を見切り、鈴音は体を屈めて回避する。避けられたことで空回りした織斑が体勢を崩し、鈴音は目を細めて相手を分析する。
"静夢の情報によれば、武器はあれだけ。確か、千冬さんが使ってたやつのお下がりだっけ……"
龍爪虎牙拳の道を歩む鈴音からすれば、誇示するだけの力しか持たない織斑のそれはメッキのように見えた。
見た目は派手に見えるが、中身を見れば大したことは無かった。
二度、三度と見切ると、冷静に相手の動きに合わせていく。真上から振り下ろされた雪片二型を避けると、竜の如く爪を突き刺す。
「ハァ!!」
素早い連撃が決まり、鈴音は加速して織斑を蹴り飛ばす。尚も肉薄する織斑だが、鈴音との実力差は明白だ。
「クッ、俺がこの程度で…」
「そうね、この程度なんだから大したことは無いわね」
「なんだと……!」
「喋る暇があったらかかってきなさい、死なない程度に痛めつけてやるわ!」
手をひらひらと煽って、織斑を挑発する。本気を出している鈴音だが、『まだ武器を出していない』のだ。
鈴音の搭乗する第三世代IS―――「甲龍(シェンロン)」は燃費と安定性を重視した機体である。メイン武装にはアンロックユニットの「龍砲」、青龍刀のような二基の近接武器である「双天牙月」などがある。
しかし、まだ一度も使用してはいない―――。
―――龍爪虎牙拳の鈴音にとって、武器は邪魔でもあるのだ。
再び振るわれた雪片二型を防ぎ、猛る虎の牙で攻め立てる。武器に頼らず、己が肉体のみで翻弄する鈴音。あっという間にリードし、勝利は目前となる。
「これで……ッ!?」
トドメの一撃を決めようとした瞬間、鈴音は何かを直感した。織斑から距離を取り、アリーナの上空を見つめた。
それは観客席にいる静夢とヴァルトも同じであった―――。
「なんだ…?」
「なにか来る…」
異変を感じ取った者たちの感覚は正しい。遥か上空より、アリーナに向かう何かがそこにはあった―――。
ようやく戦闘に入れました。
月一のペースで投降していきたいと思っています。