インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第18話

「~~♪~♪~~~♪」

 

暗がりの一室―――パンツスーツの長い脚を机に乗せ、束は膝の上にある端末を操る。機嫌がいいのか、鼻唄交じりで素早くタイピングしていた。

 

「何かいい事でもありましたか?」

 

「あ、クーちゃん。大したことじゃないんだけどね」

 

そんな束に声をかけた長い銀髪の少女は、トレイにカップを乗せて尋ねた。少女に気づいた束は、彼女を一瞥してほほ笑んだ。少女は素っ気ない束の対応を気にせず、淹れたての紅茶を机に置いた。

 

「ありがと」

 

「まだ、一夏様ほどではありませんが……」

 

「どっちのお茶も美味しいよ…うん、良い香り」

 

カップを手に取り、紅茶の香りを堪能する束。ゴクリと口に含み、再び笑みを浮かべる。

 

「美味しいね、ありがとうね」

 

「恐縮です……それで、何かされていましたか?」

 

目を伏せた銀髪の少女、『クロエ・クロニクル』は小さく礼をすると、束の行動について尋ねた。

 

「いっくんのところ。ちょっとお邪魔しようかと思ってね…」

 

悪戯が成功した子供のように、無邪気な笑みを浮かべた束は作業に戻る。その言葉の真意に気づいたクロエは、口から出かけた言葉を飲み込む。ある出来事をきっかけに、静夢に救われた彼女は束に預けられる事となった。

 

恩人でもあり、親でもある束の行いに口を出すべきではない、クロエは悟って黙ったのだった。

―――深く頭を下げ、クロエは束のいる部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として訪れる異常事態に、アリーナは騒然とする。轟音と共に放たれた閃光がアリーナのバリアを貫通し、人々は息をのむ。

 

天より現れた異形のそれは、アリーナに着地すると周囲を見渡すように顔を動かす。

 

「なに…?」

 

「来た…!」

 

「は?」

 

呆気に取られる鈴音を他所に、織斑はその異形に向かって飛び込んだ。その異形は肥大した両腕を構え、その腕からビームを撃つ。一発目を回避した織斑だが、次いで放たれた二発目が直撃する。

 

近接戦闘しかできない白式の唯一の勝機は、この弾幕を搔い潜って懐まで飛び込まなければいけない。しかし、織斑にはそれだけの技術が伴っていない。

回避と直撃を繰り返し、膠着状態に痺れを切らしたのは鈴音だった―――。

 

「ああもう!役に立たないヤツね!」

 

変わらない戦況に、鈴音がアンロックユニットの龍砲を起動する。織斑に気を取られている間に照準を定め、二つの砲門から放たれた衝撃が異形を吹き飛ばした。

間髪入れずに連発し、相手の動きを封じる。その間に織斑が下がって体勢を整える。

 

「鈴、助かった」

 

「アンタの実力じゃ、真正面から行っても返り討ちに遭うのは目に見えていたでしょ!少しは考えてから戦いなさいよ!」

 

織斑の行動を責め立てると、鈴音は相手の分析に入る。主な武器は両腕だけだろう、あの腕からアリーナのバリアを破るほどの攻撃が放たれたと思うと、鈴音は寒気を感じる。あんなものが人間に向けて放たれたら―――鈴音は最悪の事態を想定し、それを回避せんと奔走する。

 

「俺も加勢するぞ……!」

 

「アンタはピットの戻りなさい、私が抑えるから」

 

「けど……」

 

「邪魔なの!素人は黙って逃げていればいいのよ!」

 

苛立ちを覚えながら、鈴音は降下して地面に着地する。異形はジッと鈴音を見つめたまま動かない。暫くの間、沈黙が続く。どちらも攻撃することなく、相手の動きを観察する。

 

"動かない?どうして何も仕掛けてこないの……"

 

不気味なくらいに、異形は沈黙を貫いている。そして、鈴音が最も気がかりになっていること―――。

 

"「雰囲気」や「オーラ」が全く感じられない、こんな奴がいるなんて…"

 

ISに乗っていても感じられる人の気配が感じられないのだ。鈴音が異形に対して感じられる疑問がそれである。

 

「アンタ、何者なの?目的はなに?」

 

この長い沈黙も気がかりの一つだ。これだけの力を持ちながら、様子見という選択をするのはおかしい。

鈴音が問いかけても、異形は何も語らない。そればかりか、穴が開くほどに鈴音を凝視していた。

 

『鳳!どうした!』

 

「こいつ、やっぱりおかしいですよ。まるで―――」

 

「『人間じゃない』だろ?」

 

慌てた声の千冬に、鈴音は自分の意見を述べようとした瞬間であった。いつの間にか隣にいた織斑が、自身の疑問を言い当てた。

 

「アンタ、なんで…」

 

「見てみろよ。なんだか規則的な動きをしてないか?さっきまで何もしなかったのは、お前の動きを観察していたからだろう」

 

顎に手を当てるような仕草で、織斑はスラスラと説明する。不本意ながら、それは当たっていた。もしもあの異形が、人ではない何かであったら―――。

―――「別の恐怖」を感じながら、鈴音は異形から目を離さない。

 

「ッ!」

 

異形が両腕を構える。それからの鈴音の判断は速かった、発射の前に飛び出して距離を詰める。

 

『鳳!』

 

「私がこいつをどうにかします!急いで避難誘導を!」

 

千冬の制止を振り切り、弾幕を避けながら異形へと接近する。時には龍砲を放って、異形の狙いを乱していく。

相手の戦闘力は未知数だ、手を抜いて勝てる保証はない。だからこそ、鈴音は全力で立ち向かう覚悟を決める。

 

「ハアッ!!」

 

ゼロ距離まで接近すると、異形は右腕を振りかぶる。鈴音は身を屈めながら体を捻り、左脚を伸ばして異形を蹴り上げる。

異形の腕が地面に振り下ろされるが、鈴音を捉えることはなかった。再び彼女を捉えようと左腕を振りかぶる。鈴音は尻もちを着いた状態で、そこを支点にして両足を振り回す。

 

静夢の攻撃を防いだ一手が功を奏した。ブレイクダンスのように勢いを付けて立ち上がり、構えて相手の出方を観察する。

近接戦闘はお粗末なものと判断した。武器を使っていないということ、腕を振り回す以外の行動をしなかったことが彼女の見解だ。

 

"もしも、まだ何かを隠していたら……"

 

一抹の不安が顔を覗かせ、鈴音の不安を募らせる。異形が武器を使わなかったのは、相手である自分が脅威にはならないと判断されたのか―――不安と苛立ちが交わり、鈴音の精神をじわじわと蝕んでいく。

 

『どんな時でも感情をコントロールしろ』

 

「ッ!!」

 

不意に脳裏をよぎる師の言葉に、鈴音はハッとする。感情的になりやすい自分に、師である劉信が口を酸っぱくして言っていた。

ふと肩の力が抜けた鈴音は、構えを解いてリラックスをした状態になる。

 

『鳳!何を…!』

 

「バカ!何してる!」

 

千冬と織斑の声は鈴音には届かなかった。精神を研ぎ澄まし、恐れや焦りといった感情を取り除く。

 

「流れる水のように、通り抜ける風のように―――」

 

再び構え、鈴音は異形を見据えた。先ほどまでの不安はもう存在しない、クリアになった思考で分析を再開する。

 

"もしてこない。あいつの言う通り、人が乗っていないとしたら……遠慮はしない。私の全てを叩きこむ!"

 

腹は決まった、鈴音は意を決して飛び込んだ。

異形も反応して腕を構えるが、鈴音は異形の注意を逸らすように龍砲を連射する。異形も負けじと腕からビームを放つ。

 

龍砲で狙いを逸らしていても、ビームは鈴音と甲龍を掠める。最小限の回避運動をしてはいるものの、無傷とまではいかなかった。しかし、鈴音の龍砲も異形に直撃している。

 

接近の最中、鈴音は近接武器である双天牙月を両手に持つ。途切れる事のない弾幕、どちらが先に回避に走るか―――我慢比べでもあった。

 

「ッ!」

 

ビームの雨が弱くなった、先に引いたのは異形の方だった。鈴音はトップスピードまで加速し、双天牙月を握りしめる。

一撃離脱で終わらせるつもりは無かった、鈴音は地面を削って減速しながら距離を詰めた。

―――やがて、至近距離まで詰め寄ると、異形は大きく腕を振り上げる。

 

 

 

「今更、そんなものにビビるわけないでしょ!!」

 

 

 

鈴音は右手の双天牙月を振り上げるフェイントを挟んだ。本命は龍砲であった、振り上げた異形の腕を目掛けて、龍砲を放って態勢を崩した。

その隙に異形の左腕を狙い、左手に持つ双天牙月を突き刺した。

 

「セヤァァァ!!」

 

その勢いでクルリと体を回転させて、今度こそ右手の双天牙月を振り抜く。その刃は見事に異形の体を捉えた。右手の双天牙月を投げつけると、それは異形の体に突き刺さる。

 

バランスを崩したように見えた異形だが、一歩、また一歩と後退して持ちこたえる。しかし、鈴音の爪と牙からは逃れられなかった―――。

 

「『龍閃』!!」

 

懐に潜り込んだ鈴音は、異形に突き刺さった双天牙月を目掛けて拳と蹴りを乱発した。素早く放たれる拳と蹴りは釘を打ち込むかのように、双天牙月を徐々に異形の体へと押し込んでいった。

 

「ヤアァァ!!」

 

―――ズドン!!

―――ビシッ!ビシビシ!

 

最後の蹴りが入ると、罅が音を立てて広がっていく。異形が膝を着いた。

 

「す、すげぇ…」

 

遠巻きに見ることしか叶わなかった織斑が声にする。反して、鈴音は一歩引いた距離で異形を睨み付ける。相手がこと切れるまで、最後まで気を抜かないこと――――同じく師からの教えであった。

 

鈴音の対応は当たった―――。

 

ギ、ギギ…。

 

軋みを上げながら、左腕を鈴音に向ける。再び構えるが、異形は虫の息だ。

ほんの少しの気の緩みであった、鈴音は呼吸を整えて瞬きをする。

 

―――異形の左手の『光』を見逃したのだ。

 

『鈴音!気を抜くな!』

 

千冬の声に鈴音はハッとする、異形はまだ自分を狙っている。突き刺さったままの双天牙月が意味を成すかは不明だが、鈴音は再び集中する。

 

「撃たれる前に…!」

 

未だに異形は撃たない、鈴音は先手を取って接近しようと身構えた。

 

 

 

しかし、それは叶わなかった―――。

 

 

 

『金の翼』が異形を上から押しつぶしたのだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

所属不明の敵性ISの介入により、クラス代表対抗戦は中止となった。簪のデビューは持ち越しとなったが、事態の程を考えれば仕方がない。

IS学園の広い一室、デスクに向かう一人の男性は、向かいに立つ二人の子供たちに真剣な眼差しを向けた。

 

「初めまして、私はこのIS学園の学園長の『轡木 十蔵』です。まずは無事で何よりでした、あまり褒められた行動ではありませんが…たくさんの人たちが救われました、本当にありがとう」

 

壮年の男性は立ち上がり、向かいに立つ鈴音と織斑に深く頭を下げる。

 

「いえいえ、大したことはしていませんよ」

 

「…アンタは眺めていただけですもんね」

 

よくもぬけぬけと、今にも唾を吐き捨てそうな顔をした鈴音が呟く。事態が落ち着きを見せた頃、轡木は当事者である者たちを招集した。実際に戦闘に参加した鈴音と織斑を始め、ピットにいた千冬やケネス、観客席にいた静夢やヴァルトがいる。

 

「あのISについて、何か分かったことはありましたか?」

 

まずは確かな情報が必要だった。轡木は教師陣に質問を投げかけた。

 

「はい。詳しく調査を行ったところ、『あのISは無人』でした。しかも、使用されていたコアは『未登録なもの』でした」

 

調査に立ち会った真耶からの報告に、部屋の空気が凍り付く。

 

「アラスカ条約」―――正式名称を「IS運用協定」とする条約によりコアの管理など、ISの取引を規制するものである。

それにより、各国の所有するISにも制限が設けられることとなる。しかし、実態はISの技術を独占する日本への情報開示を求めた協定でもある。

 

つまり、侵入してきたあの異形は「この世の出回っていないもの」であるということだ。

 

「ドクター篠ノ之も知らないものが出回ったということなのか…しかし、誰が何のために?」

 

冷静な分析をするケネスだが、その言葉に誰もが沈黙する。ISの生みの親である束さえも知らないものが、学園を襲ったのだ。

 

「ハッキングを受けたと報告が上がっていますが…?」

 

「ええ。ゲートが閉じられ、観客席に多数の生徒が残されました。鳳がうまく立ち回ってくれたおかげで、怪我人は報告されていません」

 

新たな質問に対して、今度はケネスが答えた。異形が侵入してきた際に、アリーナのプログラムがハッキングを受けたのだ。

観客席のゲートが閉まり、生徒たちは観客席に閉じ込められた。外から三年の生徒たちが解除に当たっていた、ピットで待機していた簪もそれに助力していた。

 

「通信は可能だったため、観客席にいた累、パークス、オルコットに生徒たちの護衛を指示しました」

 

静夢たちはそれに頷く。轟音によって切り裂かれた平穏、静夢とヴァルトは何かが迫る違和感を覚えていた。騒然となる観客席の中で、静夢はケネスからの通信を受け取っていた。

 

声色から緊迫した空気を感じ取った静夢は冷静に対処した。大きな声で叫び、恐怖し叫ぶ生徒たちを宥めて落ち着かせる。

臨戦態勢となり、いつでも出られるように準備をする。鈴音の奮戦を注視しながら、ヴァルトとセシリアは避難誘導に当たった。

 

「なるほど、ありがとうございます。無人機に関しては厳重に管理し、調査を続けるようにしてください」

 

「「分かりました」」

 

区切りが付き、轡木は指示を出す。無人機の情報は生徒たちには開示せず、ここに集められた者たちのみが知ることとなる。

調査は立ち会った千冬と真耶を中心に進められていくこととなった。

 

「そして、もう一つ気になるのは―――あの無人機を屠った『もう一体のIS』ですね」

 

椅子から立ち上がり、外へと目を向けた轡木から漏れた言葉に、大人たちの表情は難色を示した。

 

異形を仕留めたのは、鈴音ではなく新たに現れた別のISであった―――。

異形が侵入した場所からアリーナへと舞い降り、神秘的なその立ち振る舞いに誰もが目を奪われた。

 

搭乗者を包み込むような全身装甲(フルスキン)でありながら、異形とは正反対のものであった。

鈴音が動くよりも速く、そのISは異形を仕留めた。セシリアのブルーティアーズのように端末を飛ばし、瞬く間に異形を沈黙させた。仕事を終えた端末は、ISの背に対となるように戻った。

 

翼のように見えたそれは、末端のスタビライザーが揺れて一個の生命体と見紛うほどであった。

異形を倒したISは鈴音を見据えた。連戦になる覚悟を決める鈴音だが、あの異形を一瞬で仕留める相手に勝てる自信はなかった。相打ち、もしくは敗北覚悟の特攻が頭をよぎった。

 

しかし、それは杞憂に終わった。

そのISは何もせず、観客席を一瞥してその場から離脱したのだ。ピットのケネスがレーダーで追跡を命令するが、気づけばISは圏外まで飛び立っていた。

 

『不死鳥』―――部屋にいる誰かが呟いた、各地で目撃されている金のISを目の当たりにした者たちは、噂が本当であったことを思い知る。

 

 

 

 

 

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