インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
始業のチャイムが鳴り、一時限の授業が始まる。専門的なISの授業だけではなく、通常の授業も必修科目となる。今回の現代国語では、字の読み書きに苦労する者たちがいる。
ISや千冬に憧れて、日本国外から訪れる者たちだ。
学園に入学するにあたって、初めて日本へ来る者たちも少なくはない。高を括り、大した予習もせずに入学する者も中に存在する。各国家の代表候補となっている者たちは、それぞれの国の面子というものもあり、教育の時間が取られているともいう。
―――勿論、特に勉強をせずともクリアする者もいる。
シャルロットはジオニックに入り、人並みの待遇を受けた。今までのように虐げられることは無くなったが、優しくされることへ慣れるには時間がかかった。
ナナイを中心に彼女のメンタルケアをして、ようやく年頃の女の子へ戻っていった。
テストパイロットの仕事を中心に生活し、自分の持つ能力を自覚してから彼女はISや戦闘にのめり込んでいった。直感的に相手の動きや、攻撃の軌道を読めるようになり、機体の状況を肌で感じるようになった。
自身の能力を恐れることなく、シャルロットはその力を活用していった。時にその力に驕り、周囲と衝突することが何度かあった。
その度のシャアやハマーン、ナナイといった大人たちに叱られた。ただ叱られるだけでなく、何が間違いだったのか、幼い子供を諭すようにして育てられた。
のめり込んだ結果、シャルロットが大した勉強をしているような様子を想像できない静夢。大丈夫だろうかと心配になり、机に彼女に目を向けた。
視線の先に映るシャルロットは何か考えているのか、右手に持ったペンを回している。ダンスを踊るかのようにペンが周り、シャルロットの細い指をグルグルとしていた。
「…?」
静夢の視線に気づいたシャルロットは、見るからに顔を綻ばせる。ニコニコとして手を振る彼女に、静夢は苦笑いを浮かべて手を振り返した。
「お二人さん?授業中にイチャイチャされると困るんですけど…?」
咳払いをして注意を向ける教師の女性は、静夢と目が合って微笑んだ。
「す、すいません」
「仲良しなのはいい事なんだけどね、時と場合ってものが…」
「先生!私はまだ静夢とそういう関係じゃなくて……」
教師の言葉を遮るかのように挙手をしたシャルロットだが、言葉を紡ぐうちにその頬が段々と紅潮していった。
その様子を見た教師は怒る気も失せ、溜息をこぼした。
「ともかく、授業はしっかりと受けるように」
「はい、気をつけます」
そう言い残し、教師は教壇の方へと戻っていく。静夢は溜息を吐き、口元のマスクを団扇の代わりにして扇いだ―――。
一時限の授業が終わり、クラスは再び喧騒を取り戻す。しかし、次は合同授業のために時間が無い。
「行こうぜ」
「うん。シャーリー、次は移動だよ。みんなも何かあったらお願いしていいかな?」
ヴァルトに声をかけられ、静夢は席を立ち上がる。シャルロットにも声をかけ、不慣れな彼女のフォローをクラスメイトたちに頼む。
「任せて!」
「このお方は何があっても……」
「守るよ~」
清香、神楽、本音が答える。愛嬌のあるシャルロットに心を掴まれた彼女たちの気持ちは一つのようで、全員が頷いていた。
「迷惑かけてごめんね?」
「大丈夫だって!気にしないで!」
シュンとするシャルロットを見て、静寐が慌ててフォローをする。その様子を見たヴァルトは顔をしかめ、静夢は肩を竦める。シャルロットの本性を垣間見たヴァルトは、彼女が猫を被っているということを知っている。
静夢も同じように、彼女が世渡り上手になっていることを知っているのだ。
この真実を告げるべきか、黙殺するべきか、すでに虜になる少女たちの夢を壊すことはできなかった。
シャルロットを彼女たちに任せ、二人は更衣室へと移動する。ヴァルトは廊下を歩く静夢の背中を叩いた。
振り向いた静夢だが、眉間に皺を寄せるヴァルトに文句を言えなかった。
「聞いてないぞ、あいつも同じなんて」
「ごめんね、伝えないといけないと思ってはいたんだ」
「まったく…とんでもない女狐だな」
ヴァルトの言葉に静夢は笑った。荒んだ環境で育ち、強者によって磨かれた才能―――気づけば、シャルロットは強さを求めるジャンキーのようになっていた。
「本当にごめんね?彼女も悪気があったわけではない…と思うんだ」
「無意識であれは、もう悪意だろうが……!」
「君がニュータイプだって分かって、試したくなったんじゃないかな?」
「勘弁してくれよ…」
朝から神経をすり減らし、ヴァルトは溜息をこぼした。彼女から感じたプレッシャーは、バニラにいた頃には感じえなかった「死の予感」そのものであった。
ナイフなどの凶器を向けられた経験はあっても、彼はニュータイプの直感で切り抜けてきた。
それとは比べ物にならない恐怖を感じ取ったのだ―――。
「あれが味方かよ、お前もとんでも無いやつだな」
「うーん、慣れかな?『あんなこと』があればね…」
「やっぱり、あれもワケありか?」
「いや、前にね―――」
そして語られる静夢とシャルロットの過去―――ジオニックを訪れた時のことである。
ジオニックで成長を遂げたシャルロットの模擬戦を観戦していた静夢は、シャルロットから直々に対戦相手に指名された。当時の彼は、ユニコーンのデストロイモードの件もあり、戦いには消極的であった。
駄々をこねるシャルロットを宥めるために、仕方なく対戦を受け入れた。その時はユニコーンをロンド・ベルに預け、専用機を持っていなかった静夢はシャアから余っている機体を借りた。
―――それは、凡そジオニックにあってはならない機体であった。
―――『ガンダム』があったのだ。
かつて、アムロが乗ったMSをISで再現したそれは、静夢が見た資料に比べて重装備となっていた。シールドとライフルが一つとなったもの、背部のキャノンにミサイルポッドなど、アムロが乗るものとは別のものであった。
なぜ―――静夢はそこで踏みとどまった。大きな理由があるのか、私的なのか…シャアとアムロの関係に口出しは出来なかった。
兎にも角にも、準備が整った静夢はシャルロットと対戦した。シャルロットの駆る「ザクストーム」は、かつてジオン軍が運用したMSであるザクをモデルに開発されたISである。
赤とオレンジでカラーリングされたその機体は、その名のとおりの動きを見せた。マシンガン、バズーカなどの弾頭のカーテン、背部にある一対のブースターによる機動は恐ろしいと感じた。
結果は引き分けに終わった。弾切れとブースターのオーバーヒートが発生し、どちらも行動不能となった。ボロボロになった機体が激戦を想像させ、シャアは笑いながらそれを称賛した。その陰でナナイが頭を抱え、ヒートアップしたことを叱られる。それからというものの、シャルロットは静夢にぞっこんとなっていった―――。
「―――と、まぁ……そんな感じで、殺し合った仲かな」
乾いた笑い声を上げ、懐かしむかのような静夢を見たヴァルト、彼が住む次元の違う人間なのだと想像する。また、静夢と死闘を演じるシャルロットの実力も窺える。
更衣室にたどり着き、二人はISスーツに着替えてアリーナへと向かう。千冬が指揮し、合同授業ともなると遅刻は許されない。二人は早足で急いだ。
「「おはようございます」」
「あら、おはよう。早いのね」
アリーナへたどり着いた二人を迎えた教師が挨拶をする、ヴァルトはその女性が武道場で会った剣道部の顧問だったことに気づく。
女性はハッとしたヴァルトにニコリと微笑み、小さく手を振った。
「ところで、織斑くんは?」
「「……」」
尋ねられた二人はポカンとし、顔を見合わせた。尋ねられてようやく、織斑の存在に気づいた。二人は今朝からシャルロットのことで精一杯だったのだ。
「「後から来ます、多分…」」
「…まぁ、いいわ。整列して待っていてちょうだい」
静夢が一礼すると、ヴァルトもそれに倣って頭を下げる。列は完成しつつあり、二人はその中に入っていった―――。
「それでは、これより合同授業を始める!」
生徒たちが全て集まり、千冬の号令で二つのクラスによる合同授業が始まる。ISを使った実技ということもあるため、少女たちは真剣な目をしている。
「まずは手本として、専用機を持つ者に代表してやってもらう。オルコット、鳳、前に出ろ」
指名された二人は列から出ると、集団の前に躍り出る。セシリアと鈴音はISを展開しようと準備を始める。二人による模擬戦が行われる、生徒たちがそう思っていると千冬が小さく呟いた。
「準備はできたか、ちょうどいい」
彼女はそう言って上を見上げる。それに気づいた静夢とヴァルトは同じように上を見上げる。すると、二人の中で鈴の音が鳴る。何かを直感で感じ取り、こちらに近づくような声が聞こえて来た。
「退いてくださ~~い!!」
空から訪れたのは副担任の真耶だった。それに気づいた生徒たちは視線を上に向ける。
「マジかよ…!」
「マズいな…!」
誰よりも速く気づいた静夢とヴァルトが列を抜け、前へと躍り出る。このままでは真耶がアリーナに叩きつけられる、最悪の場合を予感した二人は、真耶の救助に乗り切る。
「山田先生…!」
そこに織斑が割り込んだ。驚くヴァルトだったが、反射的に最適解を導き出す。
「邪魔だ、どけ!」
行く道を遮る織斑を突き飛ばしたヴァルトは、静夢が通る道の露払いをする。不意に背を押された織斑は、耐えられずにつんのめるようにして膝を着いた。
「お前…!」
「ナイスアシスト!」
織斑が立ち上がるよりも速く、静夢がしゃがんだ織斑を踏み台にして飛び上がる。すぐさまユニコーンを展開し、墜落寸前の真耶を受け止める。
受け止めると同時に襲い来る衝撃、ユニコーンの頑丈さを信じてバーニアを逆噴射させる。最初こそ衝撃が強かったが、少しずつ収まっていった。バーニアを切り、大きく安堵の息を吐く。
「山田先生、無事ですか?」
「は、はい。助かりました…」
静夢が覗き込むようにして尋ねると、腕の中の真耶は頷いて同じように安堵の息を吐いた。
「立てますか?」
「ええ、問題ありません」
再び尋ねると、真耶は凜とした表情で返事をした。その場でISを展開する真耶を下ろし、彼女は静夢に礼を言って列の方へと移動した。
(―――強い女性(ひと)だな)
静夢は真耶の過去を知っている。普段からは想像もできない能力を持つも、それに驕ることなくひたむきに努力してきたのだろう。先程のような非常時でも、冷静に対処して切り替えられる彼女の強さを見た気がした。
彼女のような人間が多ければ、こんな世界でもマシになるだろうか―――そんなありもしない幻想が頭をよぎるが、そんなものに意味がないと知る静夢は溜息を吐いた。現実は簡単ではない、彼女のような人間が持つ優しさだけで世界が変わることはないのだ。
(……静夢のエッチ)
物思いに耽っていると、頭の中に響くシャルロットの声に我に返る。
(人助けなんだから勘弁してよ…)
(デレデレしてる)
(してないよ。まったく君は…)
不機嫌に頬を膨らませ、シャルロットはそっぽを向いた。彼女にとって、静夢が自分以外の女と関わることが気に食わないのだろう。溜息を吐いた静夢はユニコーンを解除し、列へと戻っていった。
その後、真耶がセシリアと鈴音を相手に模擬戦が開始された―――。
回想ですが、シャルロットの専用機を出しました。後々に設定のページに追加していきます。