インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
静夢が真耶を下ろし、事無きを得ると、改めて授業が開始される。真耶が前に戻って来ると、千冬が口を開く。
「今回はお前たちと山田先生で、模擬戦を行ってもらう」
「よ、よろしくお願いします」
どこか緊張しているのか、上擦った声で返事をする真耶。そんな彼女を見て、自信に満ちているセシリアはニヤリとする。普段からおっとりとした真耶が戦闘に向いているとは思えず、自分の相手になりうるのかと考えた。
対して鈴音は、静夢から離れた時の真耶の表情を見ていた。戦う人間の表情をしていたのだ。油断していたと言っていいだろう。切り替わった真耶の表情を見て、鈴音は震えた。
「来なさい、ブルーティアーズ!」
「…はぁ、ッ!」
ブルーティアーズを展開させたセシリアを見て我に返り、鈴音は息を吐いて心を落ち着ける。そして、甲龍を展開する。
「準備はいいな…?」
確認の意を込めた千冬の声に真耶が頷いた。セシリアと鈴音の方を見るが、彼女たちの表情を見て察した。
それに頷き、千冬は大きく息を吸う―――。
「始め……!!」
千冬の合図を皮切りに、強者たちによる模擬戦が開始されたのだった―――。
「……」
「……」
模擬戦が始まり、ヴァルトはその様子を見ていた。しかし、後方から刺さる視線が気になって仕方がない。シャルロットから放たれる視線に込められた好奇心のようなそれは、ヴァルトの身を強張らせた。
助けを求めようと、隣に立つ静夢へ声をかけようとした。
その瞬間である―――。
『動かないで』
「ッ!?」
殺気となったシャルロットの声がヴァルトの体を縛り付ける。先程のような感覚が襲い、ヴァルトは開こうとした口をゆっくりと閉ざす。
『妙なことをしたら…覚悟してね?』
「~~~ッ!?」
年頃の女の子の声で、らしからぬ事を言い放つシャルロット。ヴァルトはパニックに陥り、呼吸の間隔が速くなっていく。
『シャーリー、イジメないの』
隣で震えるヴァルトを見兼ねて、静夢は助け舟を出す。静夢の介入に、シャルロットはまたも不機嫌になる。
『その子のことばっかり…久々に会えたんだから、優しくしてよ』
『だからって、周りに当たらないでくれ…』
シャルロットの言い分も、強ち間違いとは言えないだろう。可愛らしい乙女心と言ってもいい。
しかし、事情を知らない者にとってはそうも言えない。
自分の頭の中で繰り広げられる恋人の別れ話のようなやり取りに、ヴァルトはうんざりとしている。シャルロットに釘を刺されたこともあり、二人に口を出せずにいる。
「ルロワ、山田先生の乗るISの説明をしてみろ」
「はーい…」
千冬に指名されたシャルロットは、引き下がって模擬戦を観察しながら口を開く。
「山田先生のラファール・リバイブは、フランスのデュノア社によって製造されました。日本製の打鉄に次ぐ、世界シェア二位を誇るものです。汎用性に優れ、搭乗者に合わせてカスタマイズが可能です」
「そこまでだ、もう終わる」
千冬が手を挙げ、スラスラと話すシャルロットを制止する。すると、中々のスピードでセシリアと鈴音が落下して来た。鈴音がセシリアの背後に回り、出来るだけ衝撃を軽減しようとスラスターを逆噴射させた。
小さな揺れと、土煙が舞い上がる。晴れた土煙の中には、敗色が濃厚としている二人の姿があった。
「や、やられましたわ…」
「お互いの悪いところを一気に突かれたわね」
二人は立ち上がって模擬戦の反省をする。この切り替えの早さは、やはり強者の一因とも言えるだろう。
「分かったか?これでも山田先生は日本の代表候補だ、敬意を持って接するように」
「『元』ですよ、もう何年も前のことですから」
今回の模擬戦は経験者同士による手本に加えて、真耶の実力を披露させる二つの意味があった。恥ずかしそうな顔をする真耶はゆっくりと降りて着地する。
「お二人も凄かったです。オルコットさんはビットの使い方が上手でした、機体の特徴を理解しながら行動してみましょう。鳳さんは仲間がいる時を想定して、近接と遠距離を上手く組み合わせてみるのもいいでしょう」
「「ありがとうございました」」
代表候補を相手に取りながら、真耶は二人の短所を見抜いていた。その上でアドバイスを述べると、二人はそれをしっかりと受け取って真耶に感謝を告げる。
これにて模擬戦は幕を下ろし、専用機を持つ六人が主導となってISを使った実技に入った。ISの乗り降りから始まり、その場で簡単な歩行などを行った―――。
「ハァ、疲れた…みんな元気だよね」
「僕らがおかしいんだよ、彼女たちの方が普通なのさ」
午後の授業が終わり、放課後になった学園。シャルロットは静夢の後ろを付いていって、静夢の部屋に入ると本性を晒した。
可愛らしい一面を見せたシャルロットだったが、静夢と同じように同年代の子供たちに揉まれてグッタリとしている。
自分たちの方が常識からズレているという実感がありながら、静夢も同情するように苦笑いを浮かべている。
すると、静夢のパソコンに通信が入る。早足で駆け寄り、通信を繋いだ。
「はい、こちら静夢」
『やぁ、元気にやっているかな?』
「ハサ…!」
その通信はハサウェイからであった、ハサウェイの顔を見た静夢の表情が明るくなる。静夢の様子を見て、微笑ましい気持ちになったハサウェイの肩から力が抜ける。
『クラス代表だったか、君の戦いを見たよ』
「あ、退屈な戦いだったでしょう?ハサやレーン大尉に比べたら…」
『いいや、謙遜することは無い。ましてや、ユニコーンの本気で戦ったんだろう?よくやったな、「一夏」』
「はい…!」
ハサウェイの評価に静夢は元気な声で返事をした。ベッドの上で体を起こし、ハサウェイに尻尾を振る静夢を見たシャルロット。自分が蔑ろにされているような気がして、再びベッドに倒れ込む。
『近況報告もここまでにして…そろそろ本題に入ろうか』
ハサウェイの声色が明らかに変わった、静夢の表情からも笑みが消える。椅子に座り直し、気分を入れ替えて耳を傾ける。
「どうしたんです?」
『夏頃に作戦を実行しようと思っている、君にも手伝ってもらいたいんだ』
「わかりました、詳細を教えてください」
静夢の二つ返事に面を食らって、ハサウェイは呆気に取られた。静夢は、画面の向こう側で返事のないハサウェイに声をかける。
「ハサ…?」
『ああいや……理由を聞かないのかと思ってね』
「理由なんかいりませんよ、あなたの頼みですから」
静夢はさも当然の如く言ってのける。そんな静夢に、ハサウェイは申し訳ない気持ちと複雑な気持ちを感じた。
『僕個人としては、普通の学生として過ごしてもらいたいんだけどな…』
ハサウェイの言うことも理解できる。本来、静夢は学生としてのかけがえのない青春を謳歌しているはずだった。本人の意思だとしても、戦場や世界の闇と戦うことは本来あってはならない。
「今更、普通の子供には戻れませんよ……」
『……』
「すいません、話の腰を折ってしまって……」
『いや、いい。作戦に関してはまだ時間がある、固まったらまた連絡するよ』
「わかりました、ありがとうございます」
『ところで、シャルロットはどうだい?』
ハサウェイに問われ、静夢は振り返ってベッドの方を見る。しかし、彼女はベッドの上で寝息を立てていた。
「まぁ、初日としては上々…ですかね?」
『何事もなくやっているのなら問題ない、クェスだったらどうなっていたか…』
「僕としてもシャーリーが来てくれて助かります、クェスならこっちの身がもたない」
出向の候補になった少女のことを想像して、二人は溜息をこぼす。どのみち、味方が増えてくれれば静夢の負担は軽くなる。シャルロットは静夢のように演技がうまいこともあって、静夢のカバーも可能だ。
『それじゃ、くれぐれも無茶はしないようにな?』
「わかってます」
通信はそれで終わった。静夢は息を吐いて脱力すると、目を閉じて首をもたげる。自分を心配してくれる気持ちはイヤでもわかった、夜の街での経験が他人の気持ちを感じ取る力を静夢に授けたのだ。
―――普通の学生として。
ハサウェイの言葉が頭の中で反芻される、同時に悲しそうな表情もフラッシュバック
する。
(僕が誰かに心配されるような資格なんて…)
これまでに犯してきた罪はもう数えていない、最初こそ忘れないようにと胸に刻んでいたが、現実は足早に巡って彼を追い詰める。
その結果、静夢は過去の行いを気に留めることは無くなった…。
「どうしたの?」
甘い声が聞こえると、首に細い腕が回される。ゆっくりと目を開けると、シャルロットが静夢の顔を覗き込むようにしていた。しばらく目を合わせると、彼女は心配そうに首を傾げていた。
「何でもないよ、ただ……」
「―――普通でいたかった?」
「…ッ」
静夢の背に悪寒が走る、まるで心の中を読まれたようだった。ニュータイプとしての能力を考えれば容易だが、彼女は静夢の嫌がることはしなかった。
ハサウェイとの会話を聞いていれば、考えていることのほとんどは読み取れた。
すると、シャルロットがグッと顔を寄せる。やがて、二人の唇が触れる―――。
静夢はそれを受け止める、そっと目を閉じて流れに身を任せる。
唇をかきわけ、シャルロットの舌が静夢を蝕むように犯していく。尚も受け入れる静夢の舌が絡み合い、シャルロットの頭を撫でる。
「プハッ…」
「ッ、ハァ…!」
シャルロットが静夢から離れ、息を切らした二人の視線がぶつかる。潤んだシャルロットの瞳に映る自分を見る静夢、他者の愛を受け入れる自分が歪んで見えた。
「ねぇ、シよ?」
「……うん」
こうなってしまっては、もう引き下がることはできない。静夢が椅子から立ち上がると、シャルロットが引っ張るようにしてベッドへ向かう。
静夢がベッドに腰を下ろすと、シャルロットは静夢の肩を掴んで押し倒す。
再び見つめ合い、今度はシャルロットが静夢の頭を撫でる。
「悲しいの…?」
静夢の表情を見たシャルロットが問う。仮面を着けている普段の姿からは想像できない、弱く脆い一面に優越感を感じる。同時にそんな静夢を独占できるという高揚感、シャルロットは心臓の鼓動が速くなっていく感覚を我慢できなかった。
服を脱ぎ、静夢の服を剝いでいく。気持ちが逸るあまりに手が覚束ない、手が震えてシャツのボタンに苦戦する。
「シャーリー…」
「な、なに?」
静夢の声に肩を揺らし、思わず手を離す。静夢は怯えたような顔のシャルロットの手を掴み、己の胸に抱き寄せる。
体温と同時に感じるシャルロットの早い鼓動―――興奮か不安か、震える彼女の身体を抱きしめる。
「今日はゆっくりしよう、ね?」
「……うん」
顔を覗かせたシャルロットの欲は影を潜め、静夢の優しさに身を寄せる。一度着替え、ラフな格好になった二人は改めてベッドに入る。
「ところで、同室の子はいいの?」
「……なんだっけ?」
シャルロットの部屋の割り振りを思い出した静夢だったが、本人は全く知らない様子だった。シャルロットの転入に合わせて、真耶が忙しそうにしていた様子を見ていた静夢。彼女があまりにも不憫で、気の毒に思った。
「いいの、久々に一夏と寝たいの」
「はいはい…」
離れていたのは数か月だけだったが、彼女にとっては長い時間だったのだろう。下手に刺激して痛い目を見たり、周囲に迷惑をかけるわけにもいかなかった。
静夢は夕食時に合わせてアラームをセットし、枕元に置いてシャルロットと向き合う。
「……ん」
シャルロットが静夢の背に手を回して身を寄せた。胸に顔を埋めるその姿は、親に甘える子供そのものだった。
静夢はそんな彼女を抱きしめ、同じようにその体温に包まれながら意識を手放した―――。