インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
まだ数話かかるかもしれませんので、ご了承ください。
あとがきにて、簡単な機体解説を載せています。
後々に、キャラと共に解説していきます。
「あの野郎、覚えてろ……」
眉間の皺を寄せながら、ヴァルトは寮の廊下を進む。
静夢の不意打ちにより、ヴァルトは泣く泣く相部屋に入ることとなった。
教室を去る際の、マスク越しの静夢の顔を忘れることができないだろう。
「……ここか?」
ポケットから受け取った鍵を見て、部屋の番号を確認する。ドアノブに手をかけた瞬間、最悪の展開を予想した。
「…………」
コンコンコン……。
―――呼吸置いて、ヴァルトは扉をノックした。
「……どうぞ」
部屋の主もまた、少し間を空けて返事をする。
ヴァルトは諦めて、扉を開ける。そのまま進むと、豪華な部屋の内装に言葉を失う。日本はクオリティの高さが有名だと聞いていたが、それも貧しい者たちから搾取したものと思うと、暗い気持ちが溢れてくる。
部屋の主は、机に向かって黙々と作業をしていた。ISに使用するOSのようで、プログラムが画面を埋め尽くしていた。
「……あぁ、俺―――」
「更識 簪、よろしく……」
部屋の主である更識 簪は、振り返ってヴァルトを一瞥するが、ヴァルトの目つきに臆して体を引いた。
「あ、ああ……ヴァルト・パークスだ。よろしく」
「うん……」
あまり良いファーストコンタクトとは言えないが、ヴァルトは既に運び込まれた私物の整理を始め、簪も自分の作業を再開したのだった―――。
「さぁてと……」
一人部屋を賭けて、ヴァルトとのじゃんけんに勝利した静夢は大きく息を吐く。同時に安心もしている。
同室となれば、自分の正体を探られてしまうからだ。常に気の抜けない状況だけは回避したかったのである。
部屋の前に到着すると、静夢は扉に耳を着ける。中の状況を探ろうとするが、当然ながら何も聞こえない。国立の学園であるならば、ほとんどの扉は防音仕様だろう。静夢も聴覚に大した自信はない。
「まぁ、聞こえるわけないか……」
諦めて部屋に入ろうとするが、鍵を回したところで違和感を感じた。
回した鍵の感触があまりにも軽かったのだ。
既に開錠しているということである―――。
「…………」
中にトラップがあるかもしれない、静夢は神妙な面持ちで扉から離れた。
"こんなに早く仕掛けてくるのか、どうする……?"
懐にある護身用の得物に触れながら、静夢はゆっくりと扉に背を着ける。周囲を警戒しながら、懐に手を突っ込む。取り出した静夢の手には一丁の拳銃が握られていた、組織の仲間から持たされた物である。
周囲に人がいない事を確認し、マガジンやセーフティーの確認をする。スライドを引いて、深呼吸をして息を整える。
再び周囲の確認をして、突入の準備を整える。挿したままの鍵を元の方向に回し、ゆっくり抜いてポケットにしまうと、ドアノブに手をかける。
ガチャ!!
勢いよく扉を開け、静夢は部屋に突入した―――。
「……!」
銃を前に構え、前進する静夢は部屋を見まわした。
何も聞こえなかったとはいえ、誰もいない部屋が開錠しているのはおかしい。進んだ先にあるベッドルーム、個室用のキッチンやシャワールームなどを、注意しながら確認した。
しかし、この部屋には誰もいない―――。
銃を下ろし、静夢は考える。
"勘違い……?それにしても、モヤモヤするな"
静夢は部屋中から視線を感じていた。その場で部屋を見まわすが、やはり誰もいない。仕方なくベッドに腰をかけ、運びこまれていたスーツケースを見つける。
上着の内側にあるポケットから、スーツケースの鍵を取り出すと、しゃがみ込んで開錠する。
ケースを少し開けると、その隙間をジッと見つめる。
よく見ると、細い線が縦に伸びている。恩人から教えられた行動である。
もし、この線が伸びていなければ、既に自分以外の誰かがこのスーツケースを開けたということになる。
誰も開けていない、それを確認した静夢はスーツケースを完全に開く。だが、彼の警戒には余念がない。
本当に誰も開けていないか、スーツケースの端を触れていく。何も怪しいところがない事を確認すると、今度は中を確認していく。
手を突っ込んでごそごそとまさぐる。自分が何を入れたか、思い出しながら中の物に触れていく。
「…………」
結果、スーツケースに異常は見当たらなかった。荷解きをするでもなく、その場に立ち上がる静夢の眉間には皺が寄っている。
その時、静夢の携帯電話が震えた―――。
ポケットから取り出し、通知の確認をする。
「ん……?」
一通のメッセージが届いていた。内容を確認するために、画面をタップする。
「あ……」
差出人の名前を見て、声を上げた。同時に飛び込んでくる内容に笑みを浮かべると、静夢はベッドに身を投げた。
『 おいっすー♪
部屋に監視カメラがあったけど
ハッキングしてダミー流しちゃった♪
いつも通りにしててくれて大丈夫だからね~♪ 』
メッセージの内容を思い出し、静夢は安堵の息を吐いた。
「また借りができちゃった……相変わらず、凄い人だよ」
メッセージを送って来た、もう一人の恩人に感謝した。
静夢はスーツケースの荷解きをしようと、体を起こしてベッドから出た―――。
それから数日、ついに決戦の日を迎えた―――。
急造された男子更衣室に三人が控えているが、張りつめた空気が漂っている。
織斑 春十はどこか表情に余裕があり、ロッカーに背を着けて立っていた。ヴァルト・パークスは溢れる熱を抑えられないのか、シャドーボクシングで体を動かしている。
累 静夢はベンチに座って静かに瞑想をしている。まるで眠っているかのように、彼は雑念を取り払っている。
『お知らせします。アリーナの準備が整いました、選手の皆さんはピットへ移動してください』
アナウンスが入った、真耶の声だ。それを聞いて、三人は顔を上げた。
「フン……浮かれているところ悪いが、お前たちが勝つことは無いぞ?この俺が完勝するからな……!」
自信に満ちた宣言と共に、織斑は更衣室を最初に出る。残された二人はお互いに顔を見合わせる。
「随分な物言いだ、あれは自分に負けるタイプだな」
「一人で盛り上がっているけど……僕らは勝っても負けても、どうでも良いんだけどね」
静夢もヴァルトも、この戦いに大きなメリットは存在しない。ただ、内申点が付くというだけで、特にこだわる理由がないのだ。
「どうする?敢えて負けるか?」
「それもアリだね。やる気のある人間に任せればいいのにさ……」
「とんだ暴君だな、あの教師は……」
「今からでも辞退できないかな……」
そんな会話をしながら、静夢とヴァルトは更衣室を出た。
アリーナのピットに着くと、織斑 千冬を始めとした主要人物が揃っていた。その内の一人であるケネス・スレッグと目が合う。
「よう、似合っているじゃないか」
「どうも……」
「先生もここに?」
「おう、お前たちがどれだけ強いか間近で見たくてな。無理を言って、入れてもらったのさ」
そう言って、千冬の隣に立つ真耶に目を向けるケネス。彼女は苦笑いを浮かべていた。
「では、今日の対戦形式を発表する―――」
咳払いをして、千冬はこれからのことを説明する。対戦形式は総当たり戦、全員が戦うこととなる。
さらに、機体の情報漏洩を避けるため、控え選手はピットから出ることとなる。
「試合の順番はランダムで決定した」
モニターを見ると、スポーツ競技でよく見かけるリーグ戦の表が映る。
「まず第一試合、オルコット対パークス。第二試合は織斑と累だ」
「ほう……」
「試合は十分後に開始する、質問が無ければ解散だ」
対戦表を見たケネスはニヤリとする。静夢とヴァルトは、反対側のピットに向かって歩き出した。
それに続いて、ケネスもピットを出た。
―――織斑 千冬はピットを出る静夢の背中をジッと見つめていた。
反対側のAピットにたどり着いた三人、中には数人の教師がスタンバイしていた。
「あ、ケネス先生。それに噂の二人も」
「噂……?」
「ええ、織斑先生の弟さんよりも有名なのよ?」
そのうちの一人に声をかけられて、ヴァルトは問い返す。静夢もヴァルトも、特に周囲のことを気にせずに過ごしてきた。
「織斑先生の弟くん、あまり良く言われてないみたい」
「「へぇ……」」
他の女性教師がそう話した。入学から一月も経っていないが、彼の普段の生活態度は生徒の噂を通して、教師陣の耳に入っているらしい。二人は特に興味もないので、適当な相槌を打った。
「それに比べて、累くんもパークスくんも真面目ですから」
「恐縮です」
「…………」
教師たちの評価に、静夢は謙虚な態度を取る。対して、ヴァルトはあまり褒められることに慣れていないのか、ポカンとしてから会釈をした。
「さぁ、お話はそれまでにして。ヴァルト、準備に入れ」
「はい」
和らいだ空気を入れ替えるため、ケネスは手を叩いた。カタパルトの前に移動するヴァルトは、右手を掲げる。
その刹那、右手の人差し指の指輪が輝いた―――。
そこには愛機を纏うヴァルトがいた。
「これが、ヴァルト君のIS……」
「おう、俺の愛機『エクスプロード』だ」
ヴァルトのIS、エクスプロードをまじまじと見つめる静夢。ロボットを彷彿とさせる脚部に甲冑のような胸部、最も目を惹くのは腕部だろう。
通常のISより一回りも二回りも太い腕部は、四か所に銃器のような砲口が設置されている。
深紅の機体を身に着けるヴァルトの目は一段と鋭くなっていた。
「『エクスプロード』、データベースへの登録完了しました」
「うん、行けるな?」
「当然……!」
ケネスの確認に、ヴァルトはニヤリとして答える。
「それじゃあ、外しますね」
「ああ、頼む」
準備が整ったところで、静夢はピットを出る。ゲートの前で立ち止まり、ヴァルトのの方へ振り返る。
「あえて聞くけど……勝てる?」
「あえて言うぞ、俺が負けると思っているのか?」
互いに無邪気な笑顔を浮かべ、静夢は手を振りながらピットを出た。手を振り返して、ヴァルトはカタパルトへ移動した。
脚部をロックして、ヴァルトは目を閉じた。深呼吸の後、再びその鋭い目を開いた。
「カタパルト、問題なし。発進どうぞ……!」
「了解。ヴァルト・パークス、エクスプロード 出るぞ!」
勢いよくカタパルトが前進し、ヴァルトはアリーナへ飛び出した―――。
ヴァルトがアリーナに出ると、既にセシリア・オルコットがいた。優雅な雰囲気を放ち、青い機体を纏う姿は貴族の品位を表すようであった。
エクスプロードのOSが対面したセシリアのISを分析する。ヴァルトは視界の端に移るデータを一瞥する。
「ブルーティアーズ」―――イギリス産の第三世代のISで、遠距離の戦いを得意とするらしい。
「あら、逃げずに来られたのですね」
「あ?」
「最後に選ばせて差し上げます。今この場で謝罪をすれば―――」
「お前、何言ってんだ?」
セシリアの言葉を遮るように、ヴァルトは口を開いた。
「わざわざ『勝てる戦い』で逃げるわけがないだろ?安心して負けてくれ」
「な、私を馬鹿にしていますの!?」
「ほう、馬鹿にされているという自覚があるのか。悪いが、お前の演説を聞いてやるほど、俺は紳士じゃないんだよ。いいからかかって来い」
挑発するように手を扇いで、ヴァルトは落ち着いて戦闘態勢に入る。
「そうですか、なら……後悔させて差し上げますわ!」
ヴァルトの言葉に激高するセシリア、試合開始のカウントがゼロへと迫っていく。
ブ―――!!
カウントがゼロになると同時に、ブザーが鳴り響く。セシリアは専用武器のスナイパーライフル『スターライトMK-Ⅲ』を構えた。
同時にトリガーを引くと、ヴァルトは右足を引いて半身になった。
空を切る弾道にセシリアは目を見開き、ヴァルトはいつも通りの行動に移る。
セシリアに接近し、右腕を振り上げる。
「ッ!」
間合いを詰められ、セシリアは戦慄する。勢いに任せて、ヴァルトは右腕をセシリアにぶつけた。
「オラァァ!」
「ぐうっ…!?」
エクスプロードの右腕がブルーティアーズを捉えた。同時に爆発が起こり、拳を受けたセシリアのだけでなく、ヴァルトにも衝撃が走る。
「な、なんて野蛮な……!いや、それ以上に……なんて「衝撃」ですの!」
パニック手前のセシリアだが、そのダメージが彼女を冷静にさせた。IS同士の戦闘とはいえ、セシリアを襲った衝撃は並のものではなかった。
よく見ると、エクスプロードの右腕からは四つの煙が上がっている。
「……ッ!」
わざわざ相手に情報を与えるような真似はしない。ヴァルトの肉薄に、セシリアはライフルの弾幕で対抗する。
今のところだが、ヴァルトは近接攻撃のみ。遠距離のブルーティアーズとは機体の相性は最高といえよう。
しかし、セシリアが最も恐れているのは機体性能でも武装でもない―――。
「なぜ、なぜ避けませんの!?」
―――ヴァルトは、セシリアの一切の攻撃をかわさなかった。
セシリアの引いた一撃が、またもヴァルトに直撃する。しかし、ヴァルトが止まることはない。
エクスプロードのスピードを警戒したセシリアの弾幕に、ヴァルトは回避という選択を取らなかった。
段々と恐怖を感じ始めたセシリアは何度も引き金を引く、どれほどのダメージでもヴァルトはお構いなしだった。
「フッ……!」
機体のダメージが目立ってきたエクスプロードだが、ヴァルトにはまだ余裕があった。再び接近したヴァルトセシリアに拳を打ちつける。
「くうッ!」
打ち付けた拳が爆発し、ブルーティアーズへダメージを与えていく。その爆発でよろけるブルーティアーズだが、ヴァルトは攻撃の手を緩めない。
ブルーティアーズの腕部を掴んで引き寄せると、連続で拳を打ちつける。
「ハァァ!!」
「キャァァァ!?」
連続で起こる爆発にセシリアの思考が追い付かなかった。ヴァルトがセシリアを蹴り飛ばしたところで、ようやく考える間が生まれる。
「あなた、正気ですの!?防御も回避もしないなんて、なんて野蛮な……!」
「野蛮だぁ?」
お互いにダメージを負った状態で、セシリアの言葉にヴァルトはピクリとする。
「俺はこうやってのし上がって、生き残ってきた!温室育ちのお前なんかに、分かるわけがない!」
ヴァルトの目に力が宿る。呼応するかのように、エクスプロードの出力が上がり始めた。
「ああ、イライラさせるぜ!俺も親父も、こんなやつらのせいで……!」
ヴァルトの咆哮に、セシリアは思わず竦む。怒りと憎しみが混ざり合う感情が溢れ、彼は拳を強く握る。
「思い知らせてやる。俺たちの痛みを、俺たちの屈辱を!!」
簡単な機体解説
エクスプロード
ヴァルト・パークスの専用機。ヴァルトに合わせて、近接格闘を主軸に置いて製造された第二世代のIS。
銃火器も備わっているが、素手の戦いを好むヴァルトは使わない。
他にも隠された機能があるらしい……。