インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第26話

「異常なし、このまま行く…!」

 

未だに硬さの残る体は、久しく感じる風の心地を味わえない。簪は警戒をしたまま、しばらく飛行を続ける。左右の旋回、上昇と下降などの基本的な動きで機体に熱を通していく。ウィンドウは開いていない、簪はピットとの回線を開いた。

 

「ヴァルト!」

 

『了解。お願いします』

 

通信を受け取ったヴァルトは教師に頼むと、訓練用のターゲットが続々と出てくる。プログラムにはモードがあり、今回は初心者向けのものとなっている。前回のことを鑑みて、ヴァルトが選択したのだ。

教師はその選択を英断と感じた。簪が発進した後、ヴァルトから相談されて事情をしった彼女は、ヴァルトの観察眼や配慮に感心した。

 

『まずは近接だ。十個のうち、三個がボーダーラインだ』

 

「わかった!」

 

バスロットから近接武器である薙刀『夢現(ゆめうつつ)』を手にする。白式の雪片、甲龍の双天牙月よりもリーチのあるそれは、ユニコーンのアームド・アーマーVNのような振動でターゲットを難なく切り裂いた。

 

剣よりも長く、相応の重量があるそれを軽やかに捌いていく。二つ目のターゲットを難なくクリアした。

 

「これで、最後!!」

 

三つ目のターゲットを捉えた簪はスラスターを吹かし、その勢いのまま夢現でターゲットを突き刺した。ターゲットから薙刀を引き抜き、他のターゲットに目を向けた。

 

『よし、クリアできたな。今度は荷電粒子砲だ、これは二個だ』

 

「うん!」

 

「ただしーーー」

 

背中に搭載されている二門の荷電粒子砲『春雷』を起動させようとした時、ヴァルトは言葉を続けた。

 

『二発で決めろ』

 

「え?」

 

『二発以内にクリアが条件だ、失敗したらそこで終わりだ』

 

ヴァルトから課された試練。先ほどよりも難易度の上がる目標に、簪の体温が下がっていく。失敗のできない現状に立たされ、少し前まで勢いが衰えていく。

 

『ハァ…』

 

そんな簪を見たのか、ヴァルトの溜息が通信越しに聞こえた。もしも失敗したら、ヴァルトやみんなを裏切ることになったら…恐怖がじわじわと簪の心を支配していく。

 

『「お前ならできる」と踏んでいるんだが、どうする…?』

 

「……ッ!」

 

『自信を持て、胸を張れ、お前にはこれまでの積み重ねがあるだろ』

 

ヴァルトの言葉は簪を蝕む恐怖を晴らす。ヴァルトの信頼が簪に力と勇気を与えた。その期待に応えるべく、簪は前を向いたーーー。

 

「行きます…!」

 

再び飛翔する打鉄弐式、簪は冷静に二つのターゲットを目で追っていく。再び春雷を起動し、エネルギー充填を開始する。その間も、簪はターゲットから目を離さなかった。

 

『春雷ーーーエネルギー充填完了』

 

OSがウィンドウを開き、春雷の状況を知らせる。ハイパーセンサーでターゲットを狙い、ロックのためにターゲットを追っていく。

 

「あ…!?」

 

簪が声を上げた。焦るあまり、引き金を引いてしまったのだ。春雷から放たれた荷電粒子砲は二筋の尾を引いて向かっていく。その先に狙ったターゲットはなかったーーー。

 

『最後の一発だ、しっかり決めろ』

 

「はい!」

 

ミスをしたものの、簪は気持ちを切り替える。再びターゲットを追いかける。

 

『焦るな、しっかり狙って撃てばいい』

 

「うん…!」

 

ヴァルトの淡々とした声は、簪の心を冷静にさせた。彼女も少し前に比べて落ち着いている自覚がある。どうしてこんなにも落ち着けているのかは分からない。同時に感じる安心は、彼女の視野を広げていく。

視界を走るターゲットたちを目で追い、春雷を構えたーーー。

 

再びセンサーが切り替わり、ターゲットをロックしようとマーカーが追っていく。やがて、マーカーはターゲットを捉える。

そして、簪は引き金を引いたのだったーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席では、簪の様子を見つめる少女がいた。姉である楯無だ。彼女の様子を見ては安堵したり顰めたりと、普段の彼女からは想像できないほどの百面相を浮かべている。

 

「よし!焦らないで、そのままーーー」

 

「普通に声をかければいいのに…」

 

まるでスポーツの試合観戦をしているかのような楯無を見て、静夢は仕方なさそうに溜息を吐く。静夢に目撃され、思わず掲げた腕をしおらしく下ろす。静夢はヴァルトがいるであろうピットを一瞥し、簪を目で追っていく。

 

「こうして見ると、打鉄とは思えないスピードだな」

 

日本産のISである打鉄だが、その姿は鎧武者を想像させるものだった。防御に特化したその機体は、シールドが破壊される前に再生するといわれている。日本が世界に誇る質の高さを体現しており、カスタマイズの幅広さも特徴だ。

 

簪の打鉄弐式は、ベースが打鉄とは思えないほどのスピードでアリーナを翔ける。力強く飛ぶその姿に、楯無は妹の成長を感じた。

 

二人の実家、「更識家」ーーー対暗部用の暗部であるものに、妹を巻き込みたくない一心だった。簪を想っての言葉が彼女を苦しめたこと、それが溝を深めていったことをずっと引きずっていた。

 

織斑の登場により、簪の打鉄弐式の製造が凍結されたことを知り、楯無は憤りを覚えた。企業の杜撰な対応に抗議することは簡単だったが、そんなことをしても意味が無いことは明らかであった。

呆然とする簪にかける言葉が浮かばず、当たり障りない態度を取っていくうちに時間だけがすぎていった。

 

やがて、簪は自身で専用機の製造に着手した。その目には、偉業を成し遂げた姉の背中があった。楯無は専用機を自分の手で造りあげた、それが簪がこだわる最大の理由だった。

無論、楯無も一人で完成させたわけではないが、躍起になっていた簪はそれをしらなかった。やがて壁に突き当たり、立ち止まる結果となってしまった。

 

楯無は簪のことを影から見ていた。当然、行き詰っていることもーーー。

 

そして、彼女が周りの協力を得たことで、再び前に進んだことは喜ばしかった。同時に寂しくもあり、簪に協力する静夢とヴァルトを警戒してもいた。静夢は言わずもがな、腹を探らせないずる賢さを持つ。

ヴァルトの方は、家の力を使って素性を調査した。祖国を追いやられ、辺境の地で再興するまでに何度も喧嘩騒ぎを起こしていた彼の存在は、簪に悪影響を及ぼす可能性があると危惧していた。

 

クラス代表対抗戦の戦闘データはその危惧を裏付けた。ダメージや相手の策を無視し、自らの欲望のままに強者を求めるその姿は恐ろしくもあった。静夢との戦闘では、セシリアの前では見せなかった笑みがあった。

静夢の技術と才能に当てられ、ヴァルトも新たな段階へ上り詰めていく姿は、国家代表同士の接戦を思わせた。

 

しかし、獰猛な一面の裏にある面倒見のよさは簪の背中を強く押していた。簪も信頼している。唆されているとも思ったが、無愛想でそういったことには興味を見せないことは明らかだった。

簪から遠ざけるべきか、凜として見守るべきか……楯無も答えを出せずにいた。

 

「まったく、どうしちゃったのかしら…」

 

自分らしくない、彼女はそう感じた。簪は大事だ、これは絶対とも言える前提である。妹の成長を嬉しく思う反面で、ヴァルトをまだ信頼できていない不信感が足を引っ張る。

 

「いい加減にしなくちゃ…」

 

簪と同じように、楯無は頬を叩いた。その仕草を見ていた静夢は、血の繋がりを感じた。

簪のように、ではない。簪が、楯無の仕草を真似していたと察する。お互いに言葉以外で分かり合おうとした結果、二人の現状が出来上がってしまった。おそらく自分も人のことを言えた義理ではないのかもしれないが、こうして見ればきっと仲のいい姉妹だったのだろう。

 

「努力を褒めてあげればいい。彼女はあなたの背中を見てあの場所にいるのだからーーー」

 

静夢はその場を後にする、目指すはヴァルトのいるピットだ。一人になった楯無は、簪のこれまでの努力を目に焼き付けるべく、アリーナで舞う簪を見つめたーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

(しっかり狙って…!)

 

ヴァルトの言葉で冷静になった簪は彼の言葉を反芻してターゲットを狙う。マーカーがターゲットを追尾し、引き金に指をかけてその時を待つ。

深呼吸をして気持ちを落ち着け、やがてマーカーはターゲットを捉えるーーー。

 

「ッ!」

 

ターゲットを捉えたマーカーの色が変化し、ロックしたことをセンサーが音で伝えてくる。簪は引き金を引いた。春雷から放たれた荷電粒子砲は、まっすぐターゲットへ向かっていく。

 

そして、二筋の荷電粒子砲は二つのターゲットを見事に破壊したーーー。

 

「やった!」

 

思わず簪は声を上げる。プレッシャーを跳ね除けたこと、ヴァルトの機体に応えられたこと、簪の表情が明るくなる。しかし、まだ終わりではない。新たなターゲットが前を通りすぎ、簪はハッとする。

 

『よくやった、ここが正念場だぞ』

 

「うん…!」

 

ヴァルトの言う通り、最後の難関が立ちはだかる。

 

マルチロックオンシステムーーー打鉄弐式の最大の特徴である兵装だ。六基のミサイルポッドから発射される八門のミサイル、合わせて四十八のミサイルが独立稼働するという火力に特化したもの。それを使いこなすには、高度な空間認識能力が要求される。

システム自体は完成している、問題はそれを簪が使いこなせるか否かーーー。

 

前回はそれを使わずに終わってしまった、今回が初めてのお披露目ということになる。

簪はこれに合わせて、シミュレーターでの訓練や真耶からの指導を仰いでいた。扱えるだけのポテンシャルは十分にあるとヴァルトは踏んでいた。

 

「行くよ…!」

 

『ターゲットの数も踏まえて、射出するポッドは一基までだ。』

 

「わかった!」

 

ヴァルトの指示を聞いて、簪はコンソールを展開する。キーを素早く押して、ハイパーセンサーをマルチロックオンに適したモードへ切り換える。ポッドを射出する用意をして、集中力を高めてターゲットを睨み付ける。

 

ここまでやってきた、達成感を覚える簪は目頭が熱くなった。様々な困難に見舞われた彼女だが、苦悩の果てにたどり着いたこの場所は輝いて見えた。これまでの努力は無駄ではなかったのだと、心の底から思えた。

 

ここまで来たなら成功で終わらせる、簪にもう迷いはない。

 

コンソールのキーを押し、一基のミサイルポッドが射出されたーーー。

 

射出されたポッドのカバーが開き、六基のミサイルが顔を出した。ハイパーセンサーが同じ数のマーカーを出現させ、ターゲットを追いかける。やがて、全てのマーカーがターゲットを捉えた。

 

 

 

          「行って!!」

 

 

 

簪の声と共に、ポッドからミサイルが飛び出した。アリーナのバリアに沿うようにして、左右から三基ずつ飛んだミサイルはターゲットへ向かう。

 

一つ目のターゲットをミサイルが捉えると、それを飛び越えた別のミサイルがターゲットに迫る。やがて二つ目のターゲットを破壊した。

 

ここまでは順調だ、この先を乗り越えられるかーーー簪の真価が問われる。

 

残りのミサイルがターゲットを追う。同時に行われる並行思考で、ミサイルの弾道を変えていく。

簪の頭はすでにパンク寸前だった。OSやハイパーセンサーの補助があるとはいえ、一つのミサイルに集中すれば弾道が変わってしまう。

 

(集中しなきゃ!少しでも油断したら……)

 

切迫した心情で簪はターゲットの位置とミサイルの弾道を交互に見ながら、コンソールを叩いていく。

 

「クッ…!?」

 

一瞬だった、一基のミサイルの軌道がズレてアリーナの壁にぶつかった。炎を上げて散るミサイル、ハッとした隙にもう一基のミサイルが地面にぶつかった。

 

残りのターゲットは二つ、残りのミサイルも二基、後がない状況だった。

ーーーしかし、簪は諦めていなかった。

 

ヴァルトと静夢、本音たちの友情が心の支えとなり、彼女の希望となっているからだーーー。

 

ターゲットとミサイルが同じ数になったことにより、簪の負担は減った。良くも悪くも好都合だった。簪は集中力を高める。

 

「これで…!」

 

ウィンドウに映されるプログラム、ミサイルとターゲットの軌道計算を見ながら、コンソールを叩いていく。簪の勘が正しければ、二発のミサイルはターゲットを破壊する。

 

簪だけでなく、見守る面々もミサイルとターゲットの結末を見つめるーーー。

 

「ここまで来たら、行けよ…!」

 

「当たってくれ…!」

 

「お願い…!」

 

ヴァルトは念じ、静夢は願う。観客席の楯無は祈る。

 

 

 

 

 

運命を見つめる彼らの視線の先に、ターゲットの姿はなかったーーーーー。

 

簪は見事にリベンジを果たしたのだったーーーーー。

 

 

 

 

 

 

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