インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
(なんでだ!なんで、こんなにも思い通りにならない!)
織斑 春十はむしゃくしゃして、頭を掻きむしる。ここに来てからというものの、自分の現状に納得していない。彼は生まれ持った才能と、織斑 千冬の弟という立場を十全に使いこなした。
自分が気に入らない人間は徹底的に排除し、自分の脅威になりうる人間を根回しによって追いやって来たのだ。自分はそれに手を着けず、見下ろすかのように静観していた。
そこには弟である一夏も含まれていたーーー。
全ての人間の注目と称賛を独占し、輝かしい栄光が待っているはずと確信していた。
自分にできないことはないと思っていた。これまではーーー。
しかしどうだろう、この学園に来てからはまったく見向きもされなくなっている。ISを操る男が自分以外にも存在し、成績では飽き足らず信頼まで奪っていった。思い知らせてやろうと息巻いていたが、見事に返り討ちにあった。
謎のISによる乱入では、敵の弾幕によってなす術もなく静観に徹することとなる。鈴音を助けるどころか、助けられる形となった。続いて現れた神々しくも謎に包まれたISによって事態は幕を閉じ、その混乱に乗じて静夢を陥れようと画策するもあえなく失敗に終わった。
千冬が介入することもなく、夢に見た輝かしい学園生活は灰色に染まりつつある。畳みかけるかのように訪れる転入生との出会いは、彼の想像を超えるものとなる。ジオニックのテストパイロットであるシャルロットは静夢に夢中で、織斑は眼中にすらなかった。
千冬の教え子であるラウラは、織斑を敵対視していた。それも屈辱的な理由であり、千冬に当たり散らすとそれが彼女の逆鱗に触れた。あんなにも乱れた千冬を見たことはなかった。ケネスの制止が無ければ、今頃はどうなっていたかーーー想像する事さえ腹立たしかった。
(これも全てあいつらのせいだ!俺以外にISを扱える男が存在するなんて聞いていない!!)
織斑にとって、静夢とヴァルトの存在はあまりにも邪魔だ。自分が享受するはずのものを横取り、事の中心にいるあの二人が許せなかったのだ。
姉の繋がりを使い、束に助力を乞うが連絡は付かない。しかも、過去の記憶とは全くかけ離れた姿に驚いていた。かつての彼女は他人に興味を持たず、この世界を自分のおもちゃのようにしていた。
その結果がISが発展することに繋がる。
ーーー束はそれを経て、自分の殻を打ち破った。
そこにはアムロやシャア、ブライトとの出会いがあり、彼女は表舞台に姿を出すようになった。
束を知っている者たちは呆気に取られるが、束にはそれを気にする余裕が無かった。棘のある性格は丸くなり、万人に対して柔らかい物腰となった。ISの開発や製造に知恵を与え、条約に沿って危険なものには声を上げた。
ISの生みの親である束の指摘には誰も逆らえない。その気になればコア・ネットワークを使って全てのISを停止させることが出来るからだ。誰もが安易に行動ができないように、彼女自身が抑止力となっているのだ。
「一体、どうなってるんだよ…!」
声を荒げた織斑は、内側にあるこの感情を吐き出した。そうでもしなければ気が済まない、それほどに彼の気は荒れていた。
その時だったーーー。
「ねぇ、アリーナで模擬戦やってるって!」
「専用機持ち同士って本当!?」
「見に行こうよ!」
どこからか噂を聞いた少女たちが、アリーナに向かっていく。それを見かけた織斑は口にする。
「そうだ、まだチャンスはあるじゃないか…」
それを追うようにして、織斑はゆっくりと歩き出した。やがて足を速めて、走り出していた。
それを影から見ていた人物は溜息交じりで呟いたーーー。
「あいつの言う通り、警戒する必要は無さそうだが…」
ダリルは静夢からもらった情報を思い出し、踵を返した。情報によれば、織斑は専用機を持つ中では最弱と言えた。千冬の弟であると理由からマークはしていたものの、思ったほどでは無かった。それが彼女の見解であった。情報収集に力を入れたほうが、まだ効率が良いと感じた。
「仕事が一つ片付いたし、今夜はフォルテを可愛がってやるかな…」
肩の荷が下りたことで、ダリルは清々しい気分になった。愛しき人の名を口にし、軽やかな足取りで愛の巣へ向かったーーーーー。
三つ巴となったアリーナは、どこからか知らせを聞いた少女たちが集まっていた。周囲から聞こえる声と視線に、セシリアはようやく彼女たちの存在に気づく。
一国の代表候補として、力を持つ人間として無様な戦いはできない。セシリアは気を引き締める。
「よそ見するな!」
鈴音の喝が飛ぶ。セシリアはハッとし、右に回避する。衝撃砲の直撃は免れたが、無傷とはいかなかった。その一撃がかすったことで、ブルーティアーズのエネルギーが削られた。
「正しいな、戦場だったらやられているぞ?」
背筋が凍る感覚が走った。相手は鈴音だけではない、これはバトルロワイアルだ。熟練とも言えるラウラの相手もしなければならないのだ。シュヴァルツェア・レーゲンーーードイツ製の第三世代ISだが、情報はまったくといえるほど無い。それでいてラウラは強敵、こんなにもやり辛い戦況は初めてだった。
セシリアはスターライトで牽制射撃をしながら得意な距離まで離れようとするが、ラウラはみすみすやらせるわけがなかった。
セシリアの射撃を避けつつ、両肩とリアアーマーに設置されている六基のワイヤーブレードを飛ばす。ラウラの思考制御により、それは複雑な軌道でセシリアに迫る。
「クッ…!」
スターライトの射撃で阻止、延いては軌道を変更させようと必死になるセシリア。それを嘲笑うかのようにワイヤーブレードはその射撃を回避していく。
「ハァ!!」
「しまっ…!」
ワイヤーブレードに気を取られて、セシリアはラウラの接近に気付けなかった。シュヴァルツェア・レーゲンの右腕から発生させたプラズマ手刀が襲い掛かる。
ーーー避けられない、そう予感したセシリアは思わず腕を上げた。
ヴァルトとの対戦から得た経験が彼女をそうさせた。スナイパーライフルは長距離からの攻撃が主体、ライフルそのものを破壊されればなす術もない。
次の一手に繋げるためにも、ライフルを守りながらの防御に徹したのだ。ライフルを攻撃されないようにラウラから遠ざけると、上げた腕を折り畳んで即席の小さな楯とした。
そして、ラウラの手刀が襲い来るーーー。
ブルーティアーズの装甲とエネルギーを削り、勢いのままにブルーティアーズは後方へと飛んでいく。
「ふむ…」
ラウラはブルーティアーズのライフルを破壊し、エネルギーを削ろうと考えていた。もしも、セシリア・オルコットが自分の言う意識の低い人間であったならそれは叶っただろう。
しかし、彼女はライフルを守るかのようにして今の一撃を受け止めた。咄嗟とはいえ、その判断は正しい。彼女の評価を改めなければいけない。
その瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンが危機を察して警報を鳴らした。
「ッ!」
それを聞いて、ラウラは反射的にその場を後にする。すると、その場に甲龍の双天牙月が凄まじいスピードで通りすぎて行く。
一瞬の隙を見逃さない鈴音は、動きの止まったラウラに狙いを定めた。
攻撃は当たらなかったものの、ラウラの虚を付くことに成功した。ラウラが冷静さを取り戻す前に、一気に勝負をつけるつもりでいた。セシリア同様に、鈴音もシュヴァルツェア・レーゲンの情報を知らない。
初見の相手にどこまでやれるのか、強者への挑戦と不安が入り乱れる中で鈴音は肉薄する。
「どの距離でも対応できるような機体、まずはレール砲を押さえる…!」
やはり、最も目を引くレール砲を危険視する。近距離から中距離を得意とする甲龍からすれば、自分のペースへ引きずり込むためにはあのレール砲を押さえ込む必要があった。
投げつけた双天牙月を掴み、二振りの刃がラウラに迫るーーー。
「やはり速いな…!」
セシリアを貶すわけではないが、鈴音の方が強いと肌で感じている。故にラウラは高揚していた。
強者との戦いは胸が躍る。訓練にもならない授業では味わえない感覚が、ラウラを戦士へと駆り立てる。これまでのストレスを晴らすかのように、ラウラはこの戦いに全力を注ぐ。
ワイヤーブレードを射出し、鈴音を迎え撃つ。迫るワイヤーブレードを薙ぎ払い、それを搔い潜った鈴音は右手に持つ双天牙月を突き出す。ラウラは左腕を前に出すように半身となり、それを迎え撃つ。
「セヤァァァ!!」
渾身の力で双天牙月を突き出す鈴音、狙いはレール砲だ。近距離である今、プラズマ手刀を繰り出されても、左手の双天牙月でそれを防ぐこともできる。完璧ともいえる状態で、鈴音は確信する。ここでレール砲を破壊して、シュヴァルツェア・レーゲンの砲撃を封じることが出来れば勝ちは近づく。
「ーーーこれで、勝ったと思っているか?」
不敵な笑みを浮かべるラウラは、鈴音に言い放つ。左手を前に出したラウラから余裕を感じた鈴音だが、ここから何が出てくるかは予測が付かない。さらに言えば、突き出した双天牙月を止められず、回避することもできなかった。
その時だったーーー。
「ッ!?」
鈴音の動きが止まったのだ。乗り物の急ブレーキのような慣性力は生じない。ピタリと停止したのだ。一瞬の出来事に、鈴音は何が起こったのか理解が出来なかった。
「動けないッ、何なのよ…!」
「出し惜しみを出来る状況では無かったのでな…勿論、お前たちを舐めていたわけではないがな」
シュヴァルツェア・レーゲンが発生させたものによって身動きが取れずに悶える鈴音、ラウラは一息ついて束の間のインターバルに入る。
シュヴァルツェア・レーゲンの最も特徴的といえることは、レール砲ではない。鈴音を縛るこの能力である。
「AIC」ーーーアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。
PICを発展させたもので、対象を完全に停止させることの出来る能力である。反則級でもあるこの力は、模擬戦や公式競技などでは大きなアドバンテージと言える。戦場ではそんな機会に恵まれず、しばらくは日の目を浴びることは無かった。
「なんてインチキ…!」
「褒めてくれるな、合法だ」
悔しそうに睨み付ける鈴音だが、AICからは未だ逃れることが出来ていない。鈴音の文句を前向きに捉えたラウラは、恰好の的と化した鈴音にレール砲を向けた。弾丸を装填し、鈴音に狙いを定める。
「いただきましたわ!!」
「ッ!?」
二人の動きが止まった瞬間を見極め、セシリアが狙撃に入る。展開した四基のブルーティアーズがラウラと鈴音を狙い撃つ。ラウラは右手を払い、AICを解除して後退する。
そこでようやく動けるようになった鈴音も、同じようにその場から後退して狙撃をやり過ごす。
「な、それも避けますのね…」
「いや、今のは危なかった。いい動きだったぞ」
「偶然とはいえ、助かったわ…」
三様の言葉が飛び交い、このバトルロワイアルはまだ終わらない。格上の二人を前に一抹の不安を覚えるセシリア、脅威の力を持つシュヴァルツェア・レーゲンを危険視しつつ、セシリアへの対応にも追われる鈴音は切迫する。ラウラはようやく骨のある相手に巡り合えたことを喜び、まだまだボルテージを上げていく。
しかし、そこに水を差す者が現れるーーー。
「ウオオォォォ!!!」
「「「…!?」」」
この戦況に割り込んできたのは織斑であった。予想外の介入に驚く一同だが、この激戦にはふさわしくない。セシリアはスターライトを構えるが、一歩前に出るラウラに気づく。
それは鈴音も同じようで、AICを体感したからこそ織斑との相性には同情する。
「……」
「ッ!なんだこれ!?」
左手を前にするラウラは再びAICを展開、織斑は呆気なく捕まった。ラウラは心底つまらなさそうに溜息を吐く。
「随分と無粋な真似をしてくれる、せっかくの舞台が台無しだ」
「なんだと…!」
「それに関しては同意見ね、アンタみたいなやつが入って来ていい場所じゃないのよ」
「な、どういう事だよ!」
ラウラの意見に頷く鈴音も、溜息を吐いて双天牙月を地面に突き刺して脱力する。ラウラはレール砲を織斑に向けると、躊躇うことなくその引き金を引いた。至近距離で砲撃を受けた織斑は、ピンポン玉のように勢いよく飛んでいく。
地面をバウンドしながら壁に当たって止まると、ラウラはワイヤーブレードを放つ。六基のワイヤーブレードが織斑に絡みつき、自身の元へと引き寄せる。
「大した実力も無い者が、恥じを知れ」
再びレール砲による砲撃を浴びせ、織斑を放り投げる。仕切り直そうと鈴音とセシリアに向き直るが、思わぬ横槍にすでに興が削がれる。
「再開する気分、ではないな。今日はこれで終わりにしよう。構わないか?」
「ええ、いいわ」
「私もそれで構いませんわ」
セシリアが上空から降下して合流すると、三人はISを解除して息を吐く。
「ありがとうございました、とてもいい経験になりましたわ」
「私は構わないわよ、それにしても…あれは反則じゃない?」
「ハハハ、何も聞かれなかったからな。これも戦術だ」
すっかり溝が無くなり、互いに強者と認め合う三人であった。その後、事態を聞いた千冬による事情聴取が始まった。
織斑はラウラによる一方的な嬲る行為があったというが、セシリアと鈴音がそれを否定した。二人の証言により、ラウラの潔白は証明された。
割って入った織斑は観客席のバリアを破って侵入、噓の証言によって処罰されたらしい。あまり関心のない三人は素っ気ない反応で部屋へ戻った。
翌日になり、学園では新たなイベントが開催が知らされるーーー。
学年別トーナメントーーー毎年恒例で行われる行事だが、二人一組のタッグによるチーム戦となった。
尚、パワーバランスを取るために専用機を持つ者同士でのタッグは原則禁止となった。これにより戦力の偏りを無くし、それぞれの勝率の向上を図る。
それぞれがタッグを組み、期日までの申請を必要となる。もし申請が無い場合は、トーナメント当日に抽選によってタッグが決まるらしい。
「どうするんだ?」
「…なにが?」
食堂に向かいながら隣を歩くヴァルトの問いかけに、静夢は首を傾げる。人気のないところでマスクを外し、手で口元を仰いだ。気温が上がりつつある今、マスクの下は蒸れで苦しい。静夢は夏用のマスクを用意しようと考えた。
「タッグマッチのことだよ…」
「…ああ」
呆れたように言うヴァルトの言葉で、思い出したかのように頷く静夢。本来の目的を考えれば、特に力を入れる訳でも必死になるようなことでもない。
「特に決めてないな、当日の抽選にしようかなって。ヴァルト君は?」
「…俺も決めてない」
「なんだ、同じじゃないか」
相手が決まっていないのはお互い様であった。ヴァルトとしても、イベントには消極的だ。偶然にもISを動かしたものの、明確な目標やゴールは決まっていない。ぼんやりとしたまま、流れるままで今に至るのだ。
「そっちこそどうするの?」
「どうしようか…」
「簪ちゃんとは組めないもんね、こればっかりは残念」
「おい、なんで簪が出てくる」
「フフッ、さぁてね」
ケラケラと笑い、小走りで廊下を駆ける静夢。それを追いかけてヴァルトも駆け出したのだったーーーーー。