インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第31話

激戦の後のアリーナは、まだその熱を残していた。観客席の喧騒、そしてアリーナの内部ば実際に熱を帯びている。アリーナに入った時にそれを肌で感じたシャルロットは、体を走るその感覚に口角を上げる。

 

「ルロワさん?」

 

シャルロットとタッグを組む生徒は声をかけるが、シャルロットの返事は無い。どうやら前の戦いの熱に当てられ、舞い上がってしまっている。

 

シャルロットは愛機であるザク・ストームを展開し、既に準備万端。相手の到着が待ち遠しく、逸る気持ちを抑えるように体を動かしている。

 

「ちよっと、大丈夫?」

 

「ん、なにが?」

 

暫く返事が無く、心配する少女の声がようやくシャルロットに届いた。ぼんやりとした声で振り返り、首を傾げるシャルロット。少女は不安を感じながら、今回の作戦を提案する。

 

「私たちはどちらも中距離から遠距離だし、相手も同じだから―――」

 

「うん」

 

「うまく切り替えながら、相手を撹乱するようにして―――」

 

「うん、うん」

 

「……本当に大丈夫?具合が悪かったりしない?」

 

シャルロットの相槌を心配する少女は、彼女の不調を予想する。しかし、シャルロットの顔色は悪くない。どうにも緊張感の無い雰囲気のシャルロットが心配になったのだ。

そんな思いもつゆ知らず、シャルロットは手をヒラヒラとさせて返事をした。

 

 

 

「大丈夫。私が全部やっちゃうから、後ろにいてくれる?」

 

 

 

「はい?」

 

自分の作戦を聞いておきながら、シャルロットはそんな事を呟いた。少女を呆気に取られた。

どうやら本当に体調が悪いらしい。仕方ないが、これは棄権するしかない。

少女は教師に伝えようと、ピットの方へ戻ろうとする。

 

しかし、シャルロットの手が彼女を掴んだ―――。

 

そして、彼女を引き寄せると、耳元で小さく呟いた。

 

「邪魔されるとイライラしてあなたまで撃っちゃいそうなの…お願い、聞いてくれる?」

 

首元に刃物を突きつけられる、少女はそんな感覚を初めて味わった。普段の生活からは想像できないシャルロットの一面に、少女は逆らえないほどの恐怖を味わった。

 

「わ、わかった」

 

「ありがと、撃ち漏らしがあったらお願いするね?まぁ、そんなことは無いと思うけど…」

 

彼女の手を離して、シャルロットはいつものにこやかな表情で話し始める。ヴァルト同様に、シャルロットの内面を垣間見た少女は、途方もない闇を見た気がしたのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始と同時にシャルロットは飛び出した、右手にはバズーカのような大型の武器を携えている。そのインパクトに気圧され、相手の少女たちは左右に散開。的を絞らせまいとする。

 

「逃がすわけがない」

 

シャルロットは左手に移動するラファール・リバイブに的を絞る。引き金を引き、弾頭が吐き出される。引き寄せられるかのように飛んでいく弾頭が直撃し、一度に終わらせるつもりでシャルロットはバズーカを連射する。

 

「うわ、マズい…!」

 

バズーカの弾幕に手も足も出ない少女は、動きが止まって本当の的となってしまう。弾倉が空になり、ザク・ストームのOSがそれを告げると、シャルロットはバスロットから新たな弾倉を取り出す。

空の弾倉を外して投げ捨てると、新たな弾倉をセットした。

 

 

 

その刹那、シャルロットは鈴の音を耳にする―――。

 

 

 

もう一機のラファールが接近していた。アサルトライフルを構え、既にロックしている。

敢えてやられた方が盛り上がるのだろうが、シャルロットという人間は戦いに関して妥協も手加減もしない。

 

左手にザクの代名詞とも言えるマシンガンを展開、振り返りながら発砲する。

 

「なんで…!?」

 

どうして自分の存在がわかったのか―――困惑する少女だが、シャルロットは答えない。マシンガンで足止めをしつつ、狙いは少女のアサルトライフルだった。

被弾したアサルトライフルは爆発し、少女は後退を余儀なくされた。

 

シャルロットはその間に両肩からサブアームを展開、バズーカとマシンガンを収めて新たな武装を展開した。

それは一見すると同じようなバズーカに見えるが、先程のものと違うのは弾倉の有無。それらしきものが見当たらなかったのだ。

 

「いつまでも、やられてばかりじゃ…!」

 

バズーカの雨が止み、ラファールが飛び出す。シャルロットはサブアームのマシンガンで牽制しながら新たなバズーカを構える。

 

「そうそう、退屈させないでよね」

 

接近するラファールにその言葉が聞こえたかは分からない、シャルロットはバズーカの引き金を引く。

 

放たれたのは実弾の弾体ではなく、一筋の強烈な光―――。

 

マシンガンを回避したラファールだが、眩い光に言葉を失った…。

ビームバズーカで圧倒し、ラファールのエネルギーをゼロにして見せた。圧倒的な火力に、残ったラファールは戦慄する。

 

「こんなの、勝てるわけが…」

 

「降参する?わたしは構わないけど」

 

同じ高度に移動する深紅のザク、その手とサブアームの武器を向けながら提案する。逃げ場が無いことを悟り、ラファールは両手を上げた。

 

それを見て、シャルロットは二つのピットに目配せをする。その視線の意図に気付いた教師たちの対応は速かった。

 

棄権の旨を伝えるアナウンスが流れ、シャルロットは武器を収納して腕を上げて体を伸ばした。それを後方で見ていた少女は、シャルロットの持つ強さと内側にある本性に慄く。

本当に見ているだけであった、シャルロットの言葉は間違いではなかったのだ。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

「う、うん…」

 

二人を相手に取りながらも、全く疲弊した様子を見せないシャルロット。その姿が少女の抱く恐怖を煽る。拍手を受けながらも、シャルロットたちはそれを喜ぶことはしなかった。

 

実力のある者たちは、その異様な雰囲気を感じ取っていた。シャルロットの圧倒的な技術はその者たちを驚かせた。

 

観客席に静夢がいないことを察知していたシャルロットは、後で痛い目に遭わせてやろうと心に決めていたのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての試合を終えた夕刻の学園。食堂は人で賑わい、明日の試合の組み合わせを話題にする少女たちもいる。

ヴァルトは食堂の片隅で、窓を眺めてスープを飲む。人工島の上に建つ学園の夜景は寂しく、窓からは明かりのない闇があるだけだった。

 

「なにを黄昏れているんだ?」

 

「……」

 

声をかけられて視線を向けるヴァルト、隣にケネスが座っていた。実のところ、ヴァルトとケネスには距離がある。静夢のような大らかな態度と、故郷にいる父の側近であるロベスと似た、相手をジッと観察する目が混ざりあっていたからだ。

 

人でありながら人らしくない、イヤなやつだとヴァルトは感じていた―――。

 

「明日は更識の妹とやるんだってな?」

 

「ええ、まぁ…」

 

「勝てるのか?相手は仮にも代表候補、強い相手だ」

 

「負けるつもりで戦うバカがいるかよ、これまでもそうだった」

 

スープを飲み干し、ヴァルトは席から立ち上がる。まるで自分を試すかのような物言いが気に食わなかったヴァルトは、去り際に一睨み利かせた。

 

「決勝の相手は静夢、それ以外はありえない」

 

そう言い残して、ヴァルトは空になった食器を手にして席を離れた。

 

「まったく…熱いというか、なんというか」

 

言葉遊びが出来ないやつ、ケネスはそう思った。静夢に比べ、腹の探り合いができないところは年相応にも思える。同じ男として応援するつもりだったが、逆にヴァルトの神経を逆撫でする結果となった。

 

「大人げないな、相変わらず」

 

ヴァルトと入れ替わるように向かいの席に着いた千冬は、ケネスの様子を見てため息を吐く。大人として、教師として、先程のコミュニケーションはあまり正しくは無かった。

 

「お前は年頃の男を分かっちゃいない」

 

「…あの年齢で大人と冗談が言い合えるものか」

 

千冬の言い分は尤もである。ましてや、ヴァルトはスラムに近い環境で育ち、言葉よりも拳で対話をしてきた人間だ。ケネスの意図を汲めるとは思えなかったのだ。

 

「残念だったな、弟の方は」

 

「まぁ、想像に難しくはない結果だった」

 

「意外だな、機嫌を悪くするのかと…」

 

「私は教師だぞ、肩入れなどするものか」

 

千冬はケネスを睨むと、食事を始める。物静かに食事をする姿は、ケネスにとって新鮮だった。いつになってもそれは慣れるものではなかった。

普段から自他共に厳しく、リーダーともいえる立場にいるからか、彼女は孤高であった。

 

整った顔立ちに、惹きつけるようなスタイルの良さ、ケネスは絵画でも見ているかのように錯覚する。

 

「なんだ、まだなにか言いたいのか?」

 

ケネスの視線に眉をひそめ、千冬は思わず手を止めた。その声にハッとするケネス、自分でも見惚れていることに気が付かなかった。

 

「あぁ、すまん…その、見惚れていた」

 

「……フン」

 

一拍の間を置いて、千冬は食事を再開する。その頬は仄かに赤くなっていた。

何をやっているんだ、とケネスは自嘲してため息を吐く。ヴァルトのように窓の向こうには何もない。ここが夜景が有名な高層ビルのレストランであったのならと考える。

 

「あ、そうだ」

 

「今度はなんだ?」

 

そんなことを考えていると、ケネスはふと思い出した。

 

「この前の仕事を手伝っただろ?礼をしてもらっていない、いつにする?」

 

「…そういえば、そんなことがあったな」

 

ケネスに言われて、千冬も思い出す。思い出したケネスは上機嫌になり、そんなケネスを見て千冬がクスリとする。

女を前にすると気取る軽い男だと思えば、時には冷徹な一面も見せるケネス。そんな男が見せる子どものような目は千冬にとっては新鮮だった。

 

「なんだよ、おかしかったか?」

 

「いいや、そんな事はない」

 

そんな他愛のない話しをして、夜は更けていく。明日もまた新たな激闘が繰り広げられるだろう。専用機を持つ者たちが続々と駒を進める中、織斑を下したラウラたちにも人気が集まっている。

 

明日の注目は静夢と鈴音の一戦。互いにペアは訓練機だが、それを物ともしない戦いが期待できるだろう。

そしてもう一戦、ヴァルトと簪の対決だ。互いに研鑽を積んできた二人がここでぶつかり合う。事情を知る者からすれば、何とも言えない感覚だっただろう。

 

「誰が勝つと思う?」

 

「……さぁ、実力はほとんど互角だろう」

 

食堂のモニターに映された対戦表を見て、千冬は誰が買ってもおかしくはないと感じた。ある意味、大穴である静夢やヴァルトの躍進は見る者を興奮させるだろう。

セシリア、鈴音といった代表候補である者達もその実力を惜しみなく発揮している。名に恥じぬ戦いであった。

 

「賭けでもするか?」

 

「子供をダシにして、そんなにイヤなやつだったか?」

 

ケネスの提案を切り捨て、千冬は空になった食器を持って立ち上がった。気が付けば、食堂も人が疎らになっていた。

ケネスも千冬に続き、食堂を後にするのだった―――。

 

 

 




今回は少し短いですが、ここで切ります。
次回からは戦闘をメインに据えてやっていければと思います。
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