インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第33話

―――同時刻、第三アリーナでも熱戦が繰り広げられていた。

 

「てぇぇぇい!」

 

「おっと!」

 

こちらも専用機の対決、静夢と鈴音の一騎打ちとなっていた。振り下ろされた双天牙月を、腕に収納しているビームサーベルを取り出して受け止める。

しかし、静夢は押されている感覚があった―――。

 

ビームサーベルはシールドエネルギーからの供給によって使用できる。学園に入る際、リミッターをかけたことにより出力も下がっている。

何より、実体剣である甲龍の双天牙月に比べて耐久値が低いのだ。

 

(鍔迫り合いは分が悪いか、一撃離脱で…)

 

「甘い!」

 

鈴音も自分が押しているという感覚はあった。自然と静夢の意図が理解できたのだ。

一瞬の脱力、そこから身を翻して繰り出される一振り。受け止めた静夢だが、あまりの衝撃に後方へ退く形となる。

 

「クッ…!」

 

「よし!」

 

一方、タッグである神楽も防戦を強いられていた。相手はラファール、対して神楽は打鉄。想像に難しくない戦況である。

 

「神楽ちゃん、まだ戦えそう?」

 

「押されていますが、まだ焦る時ではありません…」

 

背中を合わせるようにして、静夢と神楽は対面の相手を観察する。ラファールを相手に神楽が上手く立ち回れない以上、このままではジリ貧となる。持久戦となれば、燃費に長ける甲竜に競り負ける。

 

「ちょっといい?」

 

「はい…?」

 

静夢はここで賭けに出る。プライベートチャンネルで相手に聞かれないため、堂々と作戦を練り合わせる。

 

「な、何かしてくる?」

 

「その前に片付ける!!」

 

わざとらしい動きに鈴音は前進する、何かがあるとしても勢いがある自分なら対応できる。根拠の無い自信が彼女にはあった。

鈴音とタッグを組むラファールの少女も、鈴音の動きに合わせてアサルトライフルを構える。

 

向けられた銃口に、神楽はブレードの刀身を相手に見せるように構える。防御としてはあまりにも粗末であった。

 

「行くよ?3、2、1…」

 

静夢がタイミングを計り、右腕のアームド・アーマーBSを展開する。折り畳まれた砲身が移動し、射撃の準備に入る。少し硬くなる神楽だが、静夢を信じて覚悟を決める。

 

その転機は一瞬だった―――。

 

 

 

         「替わって!!」

 

        ガギィィィィン!!

 

 

 

静夢の声に続いて、激しい金属音が鳴り響く。観客席では事態の理解に刹那を要する。

 

「クゥゥ…!」

 

「ちっ…!」

 

鈴音の一撃を受け止めたのは神楽だった。彼女は打鉄のものでは無いシールドを構え、鈴音の一手を受け止めていた。対面していたはずの静夢は神楽と背を合わせ、目標を替えていたのだ。

 

「なに!?」

 

「チャンス…!」

 

「え、キャァァ!」

 

ラファールの動きは止まっていた。神楽とスイッチした静夢は、ラファールに目掛けてアームド・アーマーBSを向けた。放たれたビームの曲線はラファールを捉えた。

 

「邪魔よ!」

 

道を阻む神楽に苛立ちを覚え、鈴音はかち上げるようにして体勢を崩した。

 

「あぁ!!」

 

衝撃に耐えられず神楽の手からシールドが離れた。為す術なくやられてしまうと誰もが思った―――。

 

「えい!」

 

「なッ…!」

 

間に合わないと判断した静夢は体勢をそのままに、アームド・アーマーBSを後方へ向けて発射した。その判断は鈴音の激情を上回ったのだ。

読めない軌道のビームは甲龍のアンロックユニットを掠めた。鈴音は後退し、耐性を整える。

 

危機を脱した静夢と神楽は再びスイッチし、ようやく落ち着けた。

静夢は落下してくるシールドを受け止め、左腕にマウントする。

 

「ふぅ…ありがとう、よく持ち堪えてくれたね」

 

「えぇ、どうにか…」

 

肌で感じる鈴音の気迫、どうにか切り抜けたものの、神楽は予断を許さない状況にいると思った。

ペースも掴めていない以上、これを切欠にしていくしかない。静夢は再びシールドを神楽に預け、鈴音を前にする。

 

「はぁ…苦労するよ、まったく」

 

「こっちのセリフよ、涼しい顔でとんでもない事して…」

 

ため息を吐く静夢に、鈴音は焦りを悟られないように早口で言い返した。

接近せずに、龍砲による中距離からの攻撃で優位に立てたはずだ。

 

静夢の頭の良さか、自分の焦りか―――つくづく自分の短所が嫌になった。鈴音はため息を吐きつつ頭の中を切り替えると、タッグであるラファールの少女に通信を送った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二アリーナは、ヴァルトが簪の弾幕に苦戦を強いられていた。最初こそ、ミサイルの直撃を物ともしなかったヴァルトだが、セシリアとは比にならない火力に回避を余儀なくされた。

 

「クソ!予想してはいたが、やっぱりキツイな!」

 

「簡単には、やらせない…!」

 

接近戦に持ち込めず、攻めあぐねるヴァルトは悔しさを滲ませる。経験や実力が上回る相手に、簪は打鉄弐式の性能を駆使して食らいついていく。

 

「お〜、かんちゃんもパーくんもデッドヒートだ〜」

 

「完全に蚊帳の外…逆に入ったら怒られるやつだわ」

 

レベルの違う戦いを間近で見ている本音とティナ、思わず手を止めて二人の戦いを凝視する。

実際に、ヴァルトと簪の戦闘はレベルの高いものだった。

 

的を絞らせまいと、移動しながら砲撃をするヴァルト。簪も物量や火力に頼らず、薙刀のリーチを活かした接近戦を果敢にこなしている。

一方は代表候補、もう一方はルーキーと肩書きからは想像も出来ないほどの戦闘に、観客たちの目は釘付けとなっている。

 

「このままじゃやられる…」

 

ヴァルトは一人呟き、近くで簪と打鉄弐式を見てきた感覚と経験を頼りに対抗策を導き出している。どの距離でも戦える打鉄弐式、対して近接一辺倒ともいえるエクスプロード―――冷静になればなるほど、相性の悪さを思い知る。

 

そんな自分が唯一、簪に勝っているもの―――。

 

「経験か…」

 

生身とIS、実戦経験はヴァルトの方が上である。そして、自然と導き出される答え。ヴァルトは状況把握に入る。

 

相手にする簪、放たれたミサイルポッドは二つ、荷電粒子砲が四回は撃たれただろう。非力であるが、それを補うための薙刀。これら全てを攻略しなければならない。

 

目線をずらし、本音を見る。まだ動いてはいるものの、ティナによって行動は制限されている。仮にも代表候補、本音一人での勝利は難しいだろう。

つまり、本音からのアシストは見込めないのだ。この状況で巻き返すには―――。

 

 

 

 

 

          「やめだ…」

 

 

 

 

 

ヴァルトは停止し、改めて簪を正面にする。彼女を侮ったことは一度もない。寧ろ、直向きに努力する姿には尊敬の念さえ感じていた。

いざ敵として対面すると、これほどにまで強敵となるとはヴァルトも予想外であった。

 

「考えても答えは出ない、そんなに頭は良くないしな…自分の勘を信じるか!」

 

ヴァルトは頭に浮かんだたった一つのシンプルな答えを得て、思考を捨てることにした。右の拳を握り、左手に叩きつけた。

 

「ここからは第二ラウンドだ、本気で落としに行くからな」

 

「私は、最初から本気だから…!」

 

「そいつは悪かったな!」

 

再び加速したヴァルトは簪へ向かっていく。あの弾幕を掻い潜り、薙刀さえ躱した先のゼロ距離―――ヴァルトは思考でなく、本能で簪に挑む。

 

簪は春雷で撹乱、ヴァルトの進路を妨害していく。自分と相手の得意な距離を考えれば、簪の対応は模範的である。

ラウラが織斑を相手にしたように、近寄らせなければいい―――しかし、それだけではヴァルトは止められない。

 

彼は春雷の荷電粒子砲を難なく回避、最小限の軌道変更で抑えた。それが三度も繰り返された、簪は恐怖すら覚えた。この状況から山嵐を使っても、確実にヴァルトを落とせるとは思えない。簪は意を決して夢現を手にした。

 

「行くぞぉぉぉ!!」

 

「……ッ!」

 

近接戦闘に切り替えた簪を見て、ヴァルトは高揚した。拳を振り抜くことで弾丸が発射されるこのシステムも嫌いではない。しかし、当たらぬ拳だけは好きになれなかったのだ。

 

「そうだな、やっぱりこうでないと気が済まねぇ!」

 

ヴァルトは瞬時加速で距離を詰める。簪の一太刀を超えなければ、この戦いは勝てないのだ。

簪も夢現を構えて動いた、待つばかりでは勝てないと悟っていたのだろう。

 

決着は一瞬、誰もが固唾を飲んで注目する―――。

 

「ハァァァ!!」

 

「ウォォォ!!」

 

乾坤一擲、簪はその一振りに全力を注ぐ。簪も、ヴァルトを下さなければ勝利は掴めなかった。貪欲に勝利を求めるのであれば、簪の選択は失策ともいえる。 

 

そこには、悔いを残したくないという簪の強い思いがあったのだ。この愛機のために手を取り合った友、型にはまらない自由な戦いに惹かれる人、簪にはどうしても譲れないものがあったのだ。

 

 

 

 

 

    「嬉しいぜ、全力のお前と戦えて!」

 

 

 

 

 

簪はその時、ヴァルトとの距離に違和感があった―――。

 

簪も瞬時加速で間合いを詰めていた。にもかかわらず、ヴァルトとは距離が空いている。違和感を感じた頃には、ヴァルトは簪の視界から消えて行く。

 

突如として訪れる衝撃とダメージの減少は、簪から冷静な思考を奪う。何が起こったか分からず、体勢を整えることで精一杯になった。

 

「カウンター…!?」

 

「そんなところだ」

 

ヴァルトは既に打鉄弐式の懐にいた。畳みかけるつもりであるヴァルトの連撃、簪は防御も反撃も追いつかなかった。

 

「こいつで…!」

 

「まだ、やれる!」

 

最後の一撃を振りかぶるヴァルト、簪は残された気力を振り絞った夢現を突き出した。

 

しかし、ヴァルトの拳は寸前で止まった―――。

 

思わず手を止める簪だが、反応できない身体は夢現をヴァルトへと突き刺した。

 

「ウオッ!?」

 

咄嗟に首を振って、ヴァルトは切っ先を寸でのところで避けた。その際にシールドを掠り、体に重さがのしかかる。それぞれの機体が限界を迎えていた。

 

「もう、限界だったんだね…ありがとう」

 

最後まで戦い続けた打鉄弐式に簪は感謝を告げる。こんな自分のために、こんなボロボロになってまで…彼女は申し訳ないという気持ちと、もっと上を目指せるようにと心の中に火を灯す。

そんな彼女を見てか、ヴァルトは腕やエクスプロード全体を見渡す。至るところに傷が見受けられる装甲は、無茶をしてきた証拠なのかもしれない。ISに自己修復機能が備わっているとはいえ、毎回これだけのダメージを与えていると考えるとヴァルトも申し訳なく感じた。

 

「―――簪」

 

「ヴァルト…」

 

「今回は引き分け、むしろ俺の負けだな」

 

「私も、勝ったとは思えない」

 

両者とも勝利したとは言えない結末に口ごもる。お互いの実力を肌で感じたところで、次はそれの対策を完璧にするであろう。

胸に残るのは安堵と、次は必ず勝つという決意だった。

 

二人が落ち着いてアリーナの地面に着地すると、お互いのパートナーの勝敗を喫した。

 

本音の弾幕を回避し、狙いを澄ましたティナのショットガンが火を吹く。疲弊も重なり、集中力を切らした本音はそれを避けられなかった。

砲音と硝煙が上がり、ブザーが鳴り響く―――。

 

 

 

 

 

     『勝者、更識・ハミルトンペア』

 

 

 

 

 

拍手が降り注ぐ中、ヴァルトは簪に手を差し出す。簪はそれを受け入れ、二人は固く握手を交わす。

 

「たは〜、負けちゃった〜」

 

「いや、いいバトルだった。悪かったな、助けられなくて」

 

「しょ〜がないよ〜、かんちゃんはパーくんとやりたかったんだし〜」

 

「ちょっと…!」

 

本音が口を滑らせる前に、簪は本音の口を押さえた。ティナは危うい勝利と感じながらも、今は勝利の余韻に浸って肩の荷を下ろした。

 

「やるな、普通の女じゃないとは思ってたけど」

 

「あ、分かっちゃう?これでもやれば出来るタイプなんですよ〜」

 

「一緒に戦っていて思った、フォローが速くて助かった」

 

ヴァルトと簪の評価に対し、ティナは照れくさそうに笑っていた。普段は脱力気味の二人の実力、タッグを組んだからこそ分かるものがあった。

 

健闘を称え合い、拍手を浴びたところで四人はピットへと帰っていく。簪とティナは次の戦いに備え、ヴァルトと本音は友の勝利を願って―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――静夢のやつ、どうなった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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