インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
「おじ様~!学園の映像、ハッキングしてきたよ!もう始まってる!」
「ちょ、ちょっと、マズいですよ!代表はまだ執務中ですって……!」
執務室に少女が飛び込んできた。それを追うように、一人の少年が彼女を諫めながら入って来た。
「お前たち!代表は忙しいのだぞ、後に―――」
「構わんさ、『ロべス』。それにしても……追跡は大丈夫なのか?『ライム』」
執務室のデスクに、一人の男が座っていた。
「ルシアン・パークス」―――「バニラ」を発展させた立役者の一人にして、ヴァルトの父である。
ルシアンは眼鏡を外しながら、自身が座る椅子に体を預けた。
部屋に飛び込んできた少女「ライム」は、ピースサインで答えてニコリと笑った。
「はぁ、代表は甘やかしすぎです。『モルガン』……」
「す、すいません」
ルシアンの秘書を務める「ロべス・ティエイル」は溜息を吐き、ライムに続いて入室して来た「モルガン・バクスター」を睨んだ。
細長い目から発せられる視線に萎縮するモルガンは、ペコペコと謝っていた。
「ちょうどいい、休憩にしよう。ロべス、机と椅子を。茶や菓子は私が……」
「いえ、全て私が。代表は休息を」
「お前も人のことは言えないな、私を甘やかしすぎる」
クスクスと笑うルシアンに、ロべスは言葉を詰まらせる。ライムとモルガンは、その後ろで笑い声をこらえていた。
普段は冷徹なロべスだが、ルシアンには頭が上がらなかった。
ロべスが折れて、机と椅子の準備を始める。同時にルシアンも準備を始めると、ライムとモルガンも映像とスクリーンの接続を始める。
「あ、映った」
「代表、ロべス、準備ができました」
「うむ……」
「先に座っていなさい、すぐに行く」
紅茶の準備をしているルシアンに従い、三人はロべスの準備した椅子に座った。モルガンは持っている端末を使って、IS学園で行われている模擬戦の情報を集めた。
ヴァルトと幼い頃から信頼している彼は、先に相手の情報を集めると、その詳細に顔を歪めることとなる。
「代表……ヴァルトの対戦相手は、イギリスのセシリア・オルコットです」
「ッ……そうか」
モルガンはの言葉に、事情を知っているライムとロべスは目を見開く。ルシアンは一瞬、言葉に詰まったが落ち着いた様子を見せる。
トレーに人数分の紅茶と菓子を乗せて、机に置く。それぞれの前に配膳し、ルシアンは用意された椅子に腰をかける。
『思い知らせてやる。俺たちの痛みを、俺たちの屈辱を!』
映像には激昂するヴァルトが映っていた。四人が知っているヴァルトだが、その怒れる姿は未だに見たことが無かった。
「ヴァルト……」
「大丈夫です、ヴァルト様は負けませんよ」
「そ、そうですよ。ヴァルトが負けるわけ……」
我が子を心配するルシアン、ロべスはヴァルトの勝利を信じていた。モルガンは激昂するヴァルトに身震いしながらも、勝利を願っていた。
―――そんな中、ライムは今は亡きヴァルトの友人を思い出す。
「もし、『ガレット』がいたら……」
そんな彼女の言葉に、三人は答えることができなかった―――。
同時刻、IS学園の第四アリーナのAピット―――。
オペレーターの教師たちが驚く中、ケネスはヴァルトの戦いを冷静に分析していた。
「近接格闘特化、あの拳に仕掛けがあるのか……?」
「で、でも、あんな戦い方……『まるでケンカ』ですよ」
ヴァルトの駆るエクスプロードを観察するケネスに、一人の教師が呟いた。武器を使用する戦いが主流のISだが、ヴァルトは拳だけで戦っているのだ。
にもかかわらず、セシリアを追い込んでいる状態に困惑していた。
「あいつもさっき言っていたな?そうやって生きて来たんだ、ヴァルト・パークスってやつは」
オペレーターのところへ近づき、画面に映るエクスプロードの詳細に目を通した。
「銃火器は持っているのか、それにしても……」
武器があるのに、ヴァルトはそれを使っていない。ヴァルトのスタイルと言われればそれまでだが、ケネスはどうにも腑に落ちないという様子だった。
その時、見上げた先のモニターには、拳を炸裂させるヴァルトがいた。
同時にケネスはハッとして、再び画面を見た。
「爆発、武器……やはり、あの拳か!」
「せ、先生……?」
「ここを拡大してくれ!」
「は、はい……!」
ケネスの剣幕に押されながら、オペレーターはエクスプロードの映る画面を拡大する。ケネスはエクスプロードの拳に注目した。
「この拳のところ、これが一種の銃火器なんだ。打ちつけると同時に、『装填された火薬が爆発する』っていう寸法だ」
腕の内部には弾丸が装填されており、腕部に設置された四つの砲口から発射される。ヴァルトが拳を打ちつける衝撃で、ゼロ距離からの発砲となる。打ち付けた拳の爆発は、マズルフラッシュでもあったのだ。
それがエクスプロードの拳の正体だった。
「しかもノーガードとは……恐ろしいやつだな」
セシリアの攻撃を受けても尚、ヴァルトの進撃は止まらない。さながら、獰猛な獣であった―――。
「オラオラ、どうしたぁぁ!早く落とさないと、お前をボロ雑巾にしちまぞぉぉ!」
「言われなくても、ハチの巣にして差し上げますわ!」
ヴァルトのスピードはまだ速くなっていく。セシリアの攻撃を受けても、ものともしなかった。
セシリアは焦りや恐怖と共に、怒りを覚え始めていた。
回避する相手を打ち落とすという算段であったのだが、ヴァルトの猪突猛進は予想外だったのである。遠距離から打ち続け、自分に近づけることなく勝利を掴むというプランが完全に崩れたのだ。
「そんなもので、この俺が止まると思ってるのか!」
「うぐぅ……!」
再び接近を許し、ヴァルトの攻撃を受ける。ゼロ距離のヴァルトに取って、スナイパーライフルはただの置物だ。
距離を詰めてしまえば、ヴァルトの土俵なのである。
スナイパーライフルを下からアッパーカットのようにかち上げ、がら空きになったセシリアに拳を振るう。
「どうせ、手を抜いても勝てるとでも思っていたんだろ?その慢心が、お前の敗因と弱さだ!」
ヴァルトの拳が火を噴き、セシリアが吹き飛ばされる。ヴァルトは視界の端に映るエクスプロードの現状を確認する。
エネルギー残量は四十六パーセント―――腕部の弾丸は残り、三発ずつ。
バスロットにある予備の弾丸を展開し、腕部に装填した。スタミナに自信があるヴァルトだが、戦闘スタイルもあって長期戦が得意とは言えない。
「お前のエネルギーが残りどれくらいか知らないが、俺はこいつのエネルギーが尽きるまで殴り続けてやる」
「いい加減になさい!私を本気にさせたこと、後悔させてやりますわ!」
ブルーティアーズから何かが飛び出した、青い四基のそれはヴァルトへ向かっていく。
ブルーティアーズ―――機体と同じ名を冠するそれは、イギリスの技術を集めて作られたオールレンジの自動攻撃端末。
所謂、ビットと呼ばれるものである。
「今更、遅いんだよ!」
ヴァルトは構わずにセシリアへ接近する。避けるつもりもなければ、そのビットを破壊して回るほどの暇はない。
ビットからの攻撃を受けながらも、短い距離でトップスピードまで持っていくヴァルト。四基のビットを越えてセシリアへ向かっていく。
その行動に、セシリアはニヤリとした。
「お生憎様!まだありましてよ!」
その直後、ブルーティアーズのスカートアーマーがスライドした。
そこから放たれたのは、二基のミサイルだった―――。
今までのヴァルトの行動から、ビットの攻撃を避けないことが分かった。それを逆手に取り、ミサイルを至近距離でぶつける作戦だ。
そしてミサイルによって停止したところを、四基のビットで集中砲火。
セシリアの中で、勝利につながるパズルが完成したのだ。
―――だが、ヴァルトは笑っていた。
「一体いつから、俺が接近戦しかできないと思っていた?」
「なっ……!」
まだ両者に距離がある中、ヴァルトはミサイルに拳を向ける。乾いた音が響き、拳から煙が上がった。視界が塞がれるほどの煙幕、肌が焼けるほど熱がアリーナに広がる。
瞬く間に起こる事に、ほとんどの人間が理解できなかった。その中にはセシリアも含まれている。
呆気に取られて思考が止まるセシリアを、ブルーティアーズが呼ぶ戻す。接近を告げる警報だ。
ハッとするセシリアだが、接近するヴァルトを止める術はもない。
「ウォォォ!ラァァァ!!」
そこからはヴァルトの独壇場だった。距離を詰めたヴァルトのラッシュに、セシリアはサンドバッグになっていた。
近接用の武器もあるが、今のヴァルトはそれを出す余裕さえ与えなかった。
「これで、終わりだ!」
両手を組んで上からハンマーのように打ち下ろした、それがとどめの一撃となった。アリーナのブザーが鳴り響き、名前を呼ばれたヴァルトはハッとして我に返った。
「ハァ、ハァ……終わったか」
息を切らしながら、ヴァルトは天を仰ぐ。過去のしがらみがあり、勝利したものの、ヴァルトの表情はどこか暗かった。
「ま、参りましたわ……まさか、こんな結果になろうとは」
悔しそうな顔で、セシリアはヴァルトに声をかけた。
「本日までの非礼をお詫びします、あなたは……」
「……何も言うな」
ヴァルトはセシリアが何かを言う前に身を翻した。
「今の俺は……お前にかける言葉を持ち合わせていない」
そう言い残し、ヴァルトはピットへと向かった。
セシリアはヴァルトの背中を見送って、ピットへと向かっていった―――。
ピットへ到着したヴァルトは、すぐにエクスプロードを解除した。一瞬の浮遊感と共に足を着けたヴァルトは、力が抜けてしゃがみ込む。疲労によって震える足には、まだ立ち上がるだけの余裕はなかった。
「情けない、こんなもので……」
「とりあえず、よくやったと言っておく」
「どうも……」
そんなヴァルトを労うケネス、しゃがみ込むヴァルトに手を差し出した。訝し気な視線を送り、ヴァルトは力を振り絞って立ち上がった。
「かわいくないやつ……」
自力で立ち上がったヴァルトがよろよろと歩き出すと、ケネスは溜息を吐いた。
「お疲れ様でした。エネルギー充填と修復がありますので、ISをお預かりします」
「…お願いします」
女性教師に迎えられ、ヴァルトは渋々といった様子で待機状態となったエクスプロードを渡す。
「こき使って悪いが、外にいる静夢を呼んできてくれないか?」
「はい……」
浮かない顔で、覚束ない足取りのヴァルトがピットのゲートをくぐった。
「お疲れ様、大丈夫?」
通路に出ると、静夢がドリンクとタオルを持っていた。差し出された二つを受け取り、ヴァルトは大きく息を吐く。
「で……?」
「うん……?」
「勝ったの?」
「負けたと思うか?」
それもそうか、そう言って互いに笑いあう。ヴァルトが壁に背を預け、ずるずるとしゃがみ込む。
「はぁ……」
「嬉しくなさそうだね?せっかく勝ったのに」
「何とも思わないわけじゃない、ケンカの後はいつもこうなんだ」
空しい―――そう呟いたヴァルトを見た静夢は、首を傾げた。
「呼ばれていたぞ?早くいけよ」
「うん、長引かせた方がいい?」
静夢が言うと、ヴァルトはこの後の相手を思い出す。
目の前にいる静夢だ―――。
「余裕じゃないか……」
「君と同じさ、あの程度の相手には負けないよ。休憩は長くしたいでしょ?」
「ふん、好きにしろ」
静夢を追い払うように手を振ると、静夢はニコリと笑ってピットへ入っていった。
「お前は、俺を満足させてくれるのか……?」
一人になった通路で、ヴァルトは呟いた。その声に答える者はいない。横になりたくなったヴァルトは、更衣室へ向かって重い腰を上げた―――。
雑になりましたが、ヴァルト戦はこれにて。
次回から静夢のターンです。