インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
ここは学園の自室、一つのベッドに二人の少女が横になっている。一人はダリルだ、愛するパートナーを胸に抱いて、端末に映るデータを眺める。それは静夢から受け取ったもので、自分が集めたデータよりも深く細かいものであった。
(認めざるを得ない、か…)
どうやって集めたかは不明だが、静夢の情報収集能力は確かだと言えた。どうにも掴みどころがなくて好きになれない人間だが、これだけの情報は自分だけでは集められないだろう。
ため息をつくと、パートナーがそれで気が付いたのがもぞもぞと動く。
「どうしたんスか?」
「いや?なんでもないぜ」
まだ眠気の残る目が愛らしく、ダリルは端末の電源を切って最愛のパートナーである「フォルテ・サファイア」の髪を撫でる。ダリルは自分の正体を明かしてはいない、いずれ真実を語らなければならない時が来るのだろう。
しかし、今だけはフォルテを一心に愛したい―――。
現実から目を背けるかのように、ダリルはフォルテに一つキスをしたのだった―――。
まだ激戦が続く第三アリーナは、静夢と鈴音の一騎打ちが繰り広げられている。ビームサーベルの剣戟と素手の格闘術を用いて、うまく鈴音の攻撃をやり過ごす。
しかし、鈴音も簡単にやられる様な人間ではない。静夢の攻撃とフェイントに慣れ、少しずつではあるが読みが当たってきている。
「せいっ!」
「んぅ!ハァッ!」
「フッ!」
一進一退の攻防が繰り返され、静夢も鈴音も気が抜けない。集中力が切れたら負ける―――二人は極限まで神経を研ぎ澄ませ、目前の強敵に向かう。
「いい加減に、やられてくれないかしら!!」
「奇遇だね、僕もそう思っていたよ!!」
この戦いを制しても、パートナーが敗北している可能性がある。どちらもこの戦いを早期に決着させたいのだ。何度目かの鍔迫り合い、静夢は至近距離で頭部にあるバルカンを連射した。
「小賢しいわね!」
「立派な戦術さ…」
一瞬でも隙を作れれば十分―――静夢は膝で双天牙月を蹴り上げた。
「ヤバッ…!?」
腕が上がり、鈴音は防御が出来ない。静夢は生身の人間の急所を狙うように、拳と蹴りで追い詰めていく。静夢の連撃の中、鈴音は危機を脱しようと右手の双天牙月を振るった。
しかし、その一撃は静夢に届かない―――。
左腕にあるシールドが双天牙月をしっかりと受け止めていた。ハッとする鈴音、同じものを今も神楽が使用しているからでかる。
「一つしかない、とは言ってないからね」
「サイテー…!」
負け惜しみにもならない鈴音の言葉に、静夢は口角を上げた。それを褒め言葉とし、一気に甲龍のエネルギーを削る。
ビームサーベルの連撃に、シールドを使って鈴音に反撃する隙を与えなかった。
(これが、コイツの本気…!?)
武道場での模擬戦では互角と取れた。しかし、追い詰められている今、あの時の静夢は本気ではなかったのかもしれないとさえ感じる。
ビームサーベルの一振りによってブザーが鳴る。それは、鈴音の敗北を示していた―――。
「ウソっ!?」
「やりましたね…!」
ブザーによって鈴音の敗北を知るパートナー、静夢の勝利を信じていた神楽は、負けてはいられないと己を鼓舞する。静夢から託されたシールドで道を切り開き、どうにか懐へ飛び込んで一撃を浴びせる事ができる。
静夢が鈴音を下したことで、均衡は崩れ始める―――。
「だとしても…!」
鈴音のパートナーは一人になっても諦めはしなかった。最後の最後まで戦い抜くという意志は、対峙する二人も観客たちも感じていた。
ラファールの弾幕をシールドで凌ぎながら、神楽は至近距離へと近づいていく。
「これで…!」
「ッ!?」
ラファールは右手にハンドグレネードを持ち、それを投げつけた。接近に意識を向けすぎた神楽はハッとする。その硬直は、一瞬と言えども致命的である。
―――これが個人戦であったのなら…。
「大丈夫、任せて!」
「…っ!」
静夢からの通信にハッとする神楽、目の前で起こる大きな爆発に硬直は長くなる。
「今だよ!」
神楽は静夢の後押しによって再び前進、爆炎の中へと突入した。
シールドがあれど、グレネードの熱は容赦なく神楽を襲う。それでも彼女は迷わなかった。勝利がそこにあるからか、静夢というタッグパートナーの信頼があるからか、今はそれを気にするほどの余裕が無い。神楽は炎を抜け出し、眼前のラファールにブレードを振り下ろした。
「なっ…!?」
「フッ!」
「突然の横槍」に呆然とするラファール、追い込むかのように炎の中から抜け出した神楽に、反応が遅れた。振り下ろされたブレードが左腕に直撃、サブマシンガンを落としてしまう。
「セイッ!」
今度は横薙ぎに一閃、ダメージを与えていく。神楽は静夢に指摘されたことを改善し、少しずつ物にしていった。静夢は鈴音を倒した事で、神楽の動きをしっかりと観察できる。彼女の変化をその目で確かめ、納得して頷いた。
静夢の指摘した事は型である。剣道部である神楽、剣に慣れた彼女に打鉄は丁度いい。しかし、剣道の型を知るがゆえに動きは固定されてしまっていた。
静夢は初戦でそれに気付き、神楽を指導する。型から外れるために、ブレードを片手で扱うようになる事から始まった。最初は癖で両手で握ることが何度もあり、神楽自身も苦戦を強いられた。
「僕が行かなくても良さそうだ」
「空気の読めないヤツね…」
「仲間のフォローは当然でしょ?」
ハンドグレネードの爆発は静夢の一手だった。神楽の硬直を見て、ガトリングのような武器を取り出し、見事に撃ち抜いて爆発させたのだ。
ラファールは違和感を感じ呆然、神楽はその爆炎を潜って接近したということである。
「君なら龍爪虎牙拳を使うと思ってた、どうしてだい?」
「確実に仕留められる気がしなかったのよ。流れを掴めていたら、やっていたかもね」
今回は見られなかったユニコーンのNT−D、映像で確認した動きが全く違って見えた鈴音は、それが本気なのだと思っていた。静夢に対しての疑問、モヤモヤとした感情を残しながら鈴音は深くは言及しなかった。
今は敗北したという事実を受け止め、次に戦いでは勝つ事を誓う。
「ハァァァ!!」
「キャァァァ!!」
神楽の放つ最後の一撃が、見事にラファールを討ち果たす。ブザーが鳴り、試合が終わる。
「勝者、累 四十院ペア」
アナウンスが静夢たちの勝利を告げると、観客席から拍手の雨が降り注ぐ。静夢は手を上げてそれに応えると、神楽は丁寧に頭を下げた。
二人を称えるように鈴音も拍手を送る。
「静夢さん!」
「お疲れ様、頑張ったね。今日のMVPは間違いなくキミだよ」
勝利に喜ぶ神楽を労い、静夢は彼女を称賛する。突然とはいえ、自分の策に合わせて対応した彼女の行動力は素晴らしかった。前衛と後衛のバランスが取れたからなのか、静夢は思った以上の成果に戸惑ってもいた。
「ゴメン、負けちゃった…」
「いいえ、それは私も同じよ。一緒に戦ってくれてありがとう、また機会があればやりましょ?」
「うん…!」
鈴音もタッグを組んた少女に感謝を告げた。その後も試合が続き、トーナメントは準決勝まで駒が進んだ。
第一試合はセシリアと簪がぶつかる、遠距離を得意とする二人の戦いは激しい撃ち合いが予想されるだろう。スナイパーとしてのセシリアの実力か、火力で上回る簪が上か、ヒートアップは間違いないだろう。
第二試合は最も注目を集めるであろう対戦カードとなった、シャルロットとラウラの直接対決である。お互いの実力はさることながら、対称的な印象で有名な二人。実力とリーダーシップでタッグを組むナギとの連係で勝ち進んだラウラ、対してシャルロットは圧倒的な力で戦場を支配していた。
タッグパートナーは邪魔にならないように立ち回ることで精一杯といった状態だった。
第一印象からは考えられない戦い方に困惑する者たちもいたが、それ以上に彼女たちの実力に圧倒されていたことも事実だ。勝率は五分と五分、生徒たちの間でどちらが勝つのかという話が話題となっていた。
観客となった生徒たちは明日の観戦を待ち焦がれ、選手たちは明日への不安や緊張と戦っていた。誰が勝利を掴みとるのか、勝利の女神が微笑むのは―――。
その夜、静夢は植物観察官としての仕事に取り組む。学会での資料の確認、身の回りの環境での研究に調査。教授とハサウェイからのお達しである。
これが面倒だとか、静夢は考えたりしない。資料や先輩たちの教えだけで全てを理解できない、現地での調査によって正確な情報を手に入れる。これまでの生活では味わえなかった新鮮な感覚、苦労や経験は貴重だと感じている。
「ねぇ、まだなの?」
ベッドから声がした―――静夢はそれでようやくタブレットの資料から目を離した。眼鏡を外して振り返る。
ベッドには既に相手がいる、簪と共に勝ち上がったティナである。早く来いと催促するように、ベッドを叩いて静夢を呼ぶ。
「先に寝てていいよ。それに、今回はしないんでしょ?」
「そうだけどさ…」
夕食の際である―――ティナは食堂で静夢と会い、今夜の予定を尋ねたのだ。静夢の人となりを知っている彼女は、割り切った関係で静夢と交流している。
アメリカで偶然の出会いを果たし、IS学園での再会はティナの中で欲や情を解放するきっかけとなる。
静夢に対してその気がなかったわけではない、静夢もティナのそれを受け入れた。互いに本気で付き合うつもりもなく、静夢はそれとなく感じ取っていた。
―――久々に…。
食堂で彼女に切り出され、静夢は意思を汲み取った。足早に部屋に戻り、身支度を整えていた。約束の時間まで暇を持て余し、仕事に手をつけていたのだ。
ベッドで膨れるティナは、一向に来ない静夢をジッと見つめて布団を頭まで被る。そんな彼女を見て、静夢は彼女が普通の女の子でよかったと感じた。
裏の世界、汚れ仕事をしているとこういった行為には気を張るのだ。しかし、ティナの掴みどころがないところやほんの少し寂しがり屋な一面を見ると、なぜか安心を感じる。
机の灯りを消し、ベッドへ腰を下ろす。
「……ティナ」
名前を呼ぶと、彼女はほんの少しだが布団を捲る。目が合い、それだけお互いの意思が通じた気がした。ティナの頭を撫でると、彼女はさらに布団を捲る。どうやら許しが出たらしい、静夢は中に入って横になる。
先程まで作業をしてたからか、瞼は重い。いつでも寝られるような状態である、ティナが静夢に身を寄せると、静夢は癖で彼女の背に手を回す。
互いを求めず、ただ一緒に寝る事を安心したのはいつ以来だったか、静夢は初めて女性と寝た時のことを思い出し、ティナの温もりを身体中で感じる。
「しないの?」
「お互いに試合で疲れているだろう?今夜は…ね?」
先に言ってきたのはそっちなのに、静夢は心の中で悪態をつくと目を閉じて寝る支度をする。しばらくの沈黙が訪れ、ゆっくりと意識が遠のいていく。そんな彼に、ティナは小さなキスを落とす。
「おやすみ―――」
ティナはさらに静夢へしがみ付くと、同じように眠りに就いた。
今日はいい夢が見られそうだ―――ティナは久々に静夢の匂いや温もりに包まれて意識を手放したのだった。