インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
今年最後の投稿です。
準々決勝―――AブロックはセシリアVS簪、BブロックではラウラVSシャルロットという対戦カードとなっている。静夢は反対側のCブロックであるため、決勝以外で彼女たちと戦うことはない。
第五アリーナで行われているAブロックの対戦、観客席にいるヴァルトは簪の手数が勝ると予想していた。
「あ、こんな所にいた」
「おかしいか?」
「最前列で見てるものかと…」
観戦していたヴァルトを見つけた鈴音が、ヴァルトの隣を陣取る。
「お前こそ、アイツを見ていなくても大丈夫なのか?」
「静夢が負けるわけないでしょ?どのみち、決勝で見るんだから」
「そうだな…」
意趣返しとして静夢を引き合いに出すヴァルトだが、二人の予想は同じであった。静夢のブロックに強敵はいない。正確には強敵であった鈴音を下したことで、決勝戦は決まったようなものだと思っていい。
想像以上に大波乱となっているAとBの両ブロック、熱量も比例して高まっていく。
「そこ!」
「っ!」
セシリアの正確な射撃を回避し、簪はブルーティアーズの位置を確認する。彼女が警戒するブルーティアーズ、機体と同じ名前の攻撃端末は相手の死角を狙って来る。
ヴァルトとの戦闘記録やアドバイスではあまり参考にならず、簪は鈴音に教えを乞うことにした。
実際のところ、セシリアの射撃の腕前は一級品に近い。この学園の中でスナイパーが少ないという点もあるが、長距離から正確に相手の足を止め、確実に狙撃する彼女の力に間違いはない。
(弾幕…!)
山嵐を起動する簪は二基のミサイルポッドを射出する。マイクロミサイルが飛び出し、浮遊するブルーティアーズを狙った。
四発のミサイルが直撃し、まずは四基のうちの一基を押さえることに成功した。
―――残りのミサイルがセシリアへと向かう。
「させません!」
向かうミサイルを、二基のブルーティアーズで対処する。ミサイル群にレーザーを撃つと、一発のミサイルが爆発。そこから連鎖するように誘爆がくり返され、ミサイル群は炎となって散って行った。
「危なかったですわ、あれを受けていたら…」
主導権どころか、試合そのものを簪に持って行かれたであろう。セシリアは冷や汗をかき、対処できた自分に安堵する。
しかし、その油断は命取りとなる―――。
―――『高熱源確認、ロックされています』
「ッ!?」
ブルーティアーズが告げる危険信号。既に簪は次の一手を繰り出していたのだ。ウィンドウを見たセシリアはハッとするが、反応が遅れた彼女にはなす術も無かった。
ミサイルの炎を突き破るかのように放たれた荷電粒子砲がセシリアを捉えた。
「手応え、あり!」
荷電粒子砲の直撃を確認した簪は、山嵐の追撃を試みる。奇襲によって生まれた好機をものにし、流れを完全に自分のものとするために―――。
二基のミサイルポッドから放たれた十二発のマイクロミサイルがセシリアへ向かう。体勢を立て直すセシリアだが、到底間に合うとは言えなかった。
スターライトを構えるが、狙撃するには距離が短い。銃口から放たれるレーザーは虚空へと向かう。一発、また一発と被弾が続いていく。
(せめて、せめて一撃だけでも…!)
ミサイルのダメージによってシールドエネルギーは減少して行く、スターライトはミサイルによって破壊されてしまった。撃つ手無しのセシリアは文字通りの的となる。
接近戦用のナイフではこの状況を打開できない、セシリアは考える。―――もし、静夢やヴァルトならこの状況をどう切り抜けるか………。
「行ける…!このまま―――」
春雷と山嵐による制圧、簪は確信を持った。セシリアの状態が詳しくは分からないが、少なくともダメージを与えるには十分だろう。ミサイル群によって発した煙は未だ晴れない、不用意な接近はセシリアにとって恰好の的となるかもしれない。
その躊躇いが簪の足を引っ張った―――。
『熱源確認、ロックされています』
「なに…!?」
今度は簪がロックされた。また反撃が来る、簪は春雷の砲口を煙幕へと向ける。
―――すると、煙幕から何かが飛び出した。
「ミサイル…!」
煙幕から出てきたのは二基のミサイルであった。簪は冷静にそのミサイルを狙う。
マーカーがミサイルをロックし、春雷を放つとミサイルは爆散。炎と新たな煙幕が広がった。
(まだ武器が残っていたなんて…)
鈴音のアドバイスでは、ミサイルの情報は無かった。単純に鈴音がミサイルの存在を知らなかったからであり、簪も鈴音を悪く言うつもりは無い。
しかし、山嵐での制圧後に更に詰めの一手を打っていれば…簪は後悔した。
しかし、セシリアの反撃はまだ終わってはいなかった―――。
「ッ!?」
打鉄弐式が再びアラートを鳴らした。簪は春雷を構えようとするが、視線の先にセシリアの姿はなかった。
「いただきましたわ!」
セシリアの声は簪の視界の外から聞こえた。反射的に振り返るが、またしてもセシリアの姿はなかった。だが、セシリアはそこにいた。打鉄弐式のダメージを告げるウィンドが証拠である。
再び振り返り、視線を元に戻す形となった簪。今度こそセシリアはその先にいた。
所々が破損し、素肌が見えている。ブルーティアーズのエネルギーはそれほど残ってはいないのだ。それでも肉薄するセシリアの執念を、簪は失念していた。
「もう、私にはこれしか残っていません。それでも…最後まで諦めるつもりはありません」
「私だって…!」
一瞬だが、簪の顔が悔しさに歪んだ。油断した自分が、慢心した自分が情けなかった。近接ナイフである「インターセプター」を構えるセシリア、簪は夢現を展開して迎え撃つ。
先に動いたのは簪だった、夢現の切っ先をまっすぐにセシリアへと向けた。虚を突かれたセシリアはタイミングを見誤ってまって出遅れた。
結果、夢現がブルーティアーズを捉えた―――勝敗が決まった。
『勝者、更識・ハミルトンペア』
ブザーとアナウンスを耳にし、簪は呆気に取られる。集中していたか、視野が狭くなっていたか…おそらく後者だろう、簪は浮かない顔でため息をつく。
「お疲れ…大丈夫?」
ティナが労うものの、簪の表情を見て尋ねた。簪は何も言わずに頷いた。
何か思うところがあったのだろう―――ティナは簪の心情を察して、深く踏み込むことはしなかった。二人に注がれる拍手と歓声だが、今の簪はそれを賞賛とは取れなかった。無言でアリーナを去る彼女に代わり、ティナは手を挙げて応えて見せたのだった―――。
一方のBブロックでは、強者たちの激突にヒートアップしていた。重火力で押すシャルロットを前に、流石のラウラも苦戦を強いられる。一筋縄では行かない相手だと予想はしていたが、想像を上回る火力によって後手へと回る。
「アハハハハ!!それそれぇぇ!!」
「チィ!」
実弾とビーム兵器の波状攻撃に晒され、ラウラは初めてのピンチを意識する。絶対防御ともいえるAICには、弱点も存在している。
―――それは拘束した対象に意識を向けなければならないということだ。
発動中、別のものへ意識を向けるとAICが解除されてしまうのだ。手数の多いザク・ストームの前に、AICは完全では無くなるということだ。
ワイヤーブレードによる撹乱をするも、二丁のサブマシンガンによる弾幕で弱体化されてしまう。時間を稼ぐことはできただろう。
しかし、シャルロットの攻撃を止めるには至らない―――。
「まだまだ行くよぉぉ!!」
ビームバズーカを展開して発射、高機動から発する光は当てられなくともプレッシャーとして力を発揮する。大きな一撃が連続で来ることに、ラウラも余裕がなくなってくる。
形勢を変えようとレール砲を構え、シャルロットに狙いを定めた時だった―――。
「―――残念でした」
「っ!?」
スコープの先にいるシャルロットは笑っていた。自分が狙われているにも関わらず、彼女に焦りは見えなかった。
ラウラは改めて実感する。相手にしているのは、恐ろしいほどに不気味な強敵であるということを……。
次の瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンの背に衝撃が走る―――。
「うぅ…」
「ナギ!?」
味方である鏡 ナギだ。ハイパーセンサーを確認すると、ナギの対面にはシャルロットのタッグであるラファール・リバイブがいた。
「挟まれたか、いつから…」
「―――最初から、分からなかった?」
同じ高度まで下がり、地面に足を着けるシャルロット。その目は少女のものとは思えないほどの鋭さがあった。まるで獲物を追い詰める狩人のそれと同じく、彼女は虎視眈々とこの状況を作り上げることに成功した。
「最初に見たバリア……誘発させてガス欠にさせるか、使わざるをえないようにしようと思って」
「ほう…」
シャルロットの云う対策は究極の形だ。AICを長く使うには長時間の集中力が必須、先にナギを戦闘不能にすれば実現できただろう。しかし、ナギは未だに健在…シャルロットは後者の策を取る。
ラウラは危機的状態を察している。この状況を脱する事は容易ではない、自分だけならば達成するだろうが、それにはナギを犠牲にする必要があった。
しかし、彼女はそれを望まない。軍人としては二者択一を躊躇してはいけないが、ラウラはまだ幼く冷徹にはなれなかった。
シャルロットが狙いを付けたのはその点だ、守りながら戦わせるということで、AICを抑え込むことにしたのだ。静夢とのやり取りを垣間見た程度だが、きっとラウラはナギを見捨てることはしないだろう。シャルロットは対極を成すかのように、執拗にナギとラウラを追い詰める。
「じゃあ、行くよ…!」
シャルロットの独壇場が始まった。ビームバズーカの光が放たれる。ラウラはAICを発動するが、それは不発となる―――。
「っ!?」
ラウラの視界を塞ぐほどの砂煙が舞い上がる。ラウラは虚を突かれ、完全に冷静さを失う。後方のナギを庇おうと振り返る背中を撃ち抜かれた。
ビームの衝撃がシュヴァルツェア・レーゲンを捉え、ラウラは体勢を崩す。このままでは負ける、ナギを逃がそうとラウラは手を伸ばす。
―――横から現れた赤い腕が、シュヴァルツェア・レーゲンの腕を掴んでいた。
「貴様…!」
「残念でした…!」
振り下ろされた一撃にラウラは膝を着く、ザク・ストームの右手には近接武器であるヒートホークが握られている。追撃の横一閃がシュヴァルツェア・ レーゲンのシールドエネルギーを削る。
「これで、終わり!」
最後の一振りがシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を切り裂いた。ブザーが鳴り、実況のアナウンスが響き渡る。湧き上がる歓声と降り注ぐ拍手は無かった、それほどにまで圧倒的な力を見せつけたシャルロットは、最高のパフォーマンスを見せたのだ。
「……」
「うん、悪くはなかったね」
膝を付くラウラの首元に向けたヒートホークを下ろし、シャルロットはヒートホークを放り投げる。やがて光の粒となり、消えるヒートホークを見つめて彼女は踵を返す。
「作戦通り、というわけか…」
「私に気を取られすぎ、まだまだ甘いんじゃない?」
「手厳しいな…」
シャルロットの言葉に遠慮はなかった。ぐうの音も出ないラウラは自嘲するように口角を上げ、ナギを労うべく彼女のもとへ駆け寄る。
シャルロットはいち早くピットへ戻り、ザク・ストームを解除する。未だに胸の中に残る物足りない感覚が、彼女の苛立ちを募らせる。
(足りない、まだ足りない…)
ラウラのような強者ならば、満足させてくれるかもしれない……しかし、シャルロットの淡い期待は叶わなかった。全力の自分と渡り合える強者は、やはり彼しかいないのだろうか―――。
(やっぱり、静夢じゃないと満足できない…)
飽くなき欲に身を焦がす少女、自分と同等かそれ以上の力を持つ者を求め続ける。静夢との邂逅は決して忘れることはできないだろう、それが今のシャルロットを形作るものであるからだ。
全身全霊を持って倒す、剥き出しの闘志と殺気はミサイルやビームの熱をも上回る。静夢に向けたもの、静夢から向けられたもの、ただ一致したのは相手を落とすという勝利への渇望であった。それ以外、シャルロットが夢中になれるものはない。
「楽しみだな〜、また戦えるのが」
前書きのとおり、今回で今年の執筆は最後となります。
原作2巻を終えたら、少しだけ過去の回想でもやろうかと思ってます。
皆様、よいお年を