インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第36話

翌日の第二アリーナは熱気に溢れていた。それは歓声だけでなく、重火器の熱量も含まれていた。シャルロットのザク・ストームは存分にその火力を展開する。戦争さながらの火力は、観客席の最前席にいる生徒たちの肌を焼くかのように光を放つ。

 

「さぁ、行っくよぉぉぉ!!」

 

「こっちだって…!」

 

強敵を前にして、簪も出し惜しみはしない。負けじと春雷と山嵐を展開し、火力で真っ向勝負を挑んだ。シャルロットの火力の前に簪は近づけない、夢現の出番は無いだろうと山嵐のミサイルの弾道計算に集中する。

シャルロットは整備室で簪を見てから、どこか彼女に期待をしていた。自分と似たマシーンに乗っているからだろうか……シャルロットにも分からない部分がある。

 

見当違いとなるか、はたまた確信となるのか―――自然とシャルロットの体に力が入る。

 

二基のサブアームから放たれるサブマシンガンの嵐、さらに弾頭のバズーカで追い詰めていく。しかし、簪の放つマイクロミサイルによって弾頭は光となって弾ける。思った以上にダメージを与えられず、シャルロットはムッとして頬を膨らませる。

ラウラと戦った時とは違う感覚に、シャルロットは気持ちを切り替える。

 

「ッ!?」

 

「おっと!」

 

そんな事を考えていると、荷電粒子砲が近くを通り過ぎる。簪もダメージを与えられ無いことに焦りを感じている、同じタイプのISとの戦闘経験が少ない簪は、シャルロットの戦闘記録を元に作戦を考えていた。

シャルロットはザクの持てる火力を最大限に発揮し、圧倒するスタイルである。しかもデタラメな射撃ではなく、相手の動きを読んだ上での考えられた射撃だ。そこが最も厄介な点といえた。

 

同じ土俵で戦えるか、どうすれば勝てるのか……簪は明確な策を持ち合わせてはいなかった。

 

シャルロットの弾幕を掻い潜り、接近戦に持ち込めるだけの技量は無い。通常の打鉄に比べ、装甲の少ない打鉄弐式であれば不可能ではないのかもしれない。しかし、簪にはまだそれだけの度胸が無い。

弾切れになるまで持久戦へ持ち込めるか…それまであの弾幕を避けきれるだけの自信は持ち合わせていない。

 

(ヴァルトや静夢なら…)

 

きっと二人なら被弾を覚悟で前に出るだろう、簪はそんな二人が羨ましいと感じた。

だが、その逡巡がシャルロットの好機となった―――。

 

 

 

      「どうしたの?終わり?」

 

          「…!?」

 

 

 

遠くにいたはずのシャルロットの声に、簪の身体が強張る。鳥肌が立ち、悪寒が走る。ヒートホークを構えたシャルロットが簪の右手にいた。

予想外の接近戦、簪は夢現を展開しようとするが間に合わない。ヒートホークの一閃が打鉄弐式の装甲を走る。衝撃によって視界が揺れる。思わぬ一手に虚を突かれた簪の思考が鈍る。

 

「ほら!」

 

「くっ…!」

 

至近距離で向けられるバズーカの砲口、それを見た簪は砲身に手を伸ばした。恐れるよりも速く、砲身を押して狙いを自分から外す。

シャルロットもそれを予想できずに引き金を引いた。放たれた弾頭は砲口から飛び出し、狙っていたはずの打鉄弐式の横を通り過ぎていく―――。

 

 

 

          「はぁっ!?」

 

 

 

その先にいたティナ・ハミルトンは声を上げた。相対するラファール・リバイヴから逃げ出すように飛び出し、弾頭を回避した。弾頭は地面へと激突、土煙を伴った爆発を起こした。

ティナは簪のフォローをするために、ザク・ストームへサブマシンガンを連射する。上体を反らして最低限の行動で回避すると、シャルロットは打鉄弐式を蹴り飛ばして距離を取った。

 

「勝手に割り込んじゃったけど、大丈夫そう?」

 

「ありがとう…」

 

トッププレイヤー同士の戦いに水を差したように思えたティナ、謝罪するも簪から返ってきたのは感謝だった。簪はティナの行動を咎めない、実際に彼女がいなければ既に戦闘不能となっていたかもしれなかったからだ。

 

「うーん…」

 

シャルロットは悩むような素振りで簪とティナを見つめた。普段なら既に決着を目前にしているはずが、相手のエネルギーは半分以上もある。自分の腕が鈍ったということは考えられない、つまり相手が思ったよりも強いということだろう。シャルロットの表情は一転、ニヤリと口角を上げる。

 

「よかった、まだ楽しめる…!」

 

バズーカの弾倉を交換し、シャルロットは攻撃を再開する。どうやら彼女の悩みは杞憂に終わった―――更識 簪という存在は自分を楽しませてくれるという確信となった。

サブアームのマシンガンを左手に取り、右手のバズーカと共に乱射した。

 

「うそ!?」

 

「避けて!」

 

怒涛の砲撃に驚くティナ、簪の声で我に返ると道を開けるように二人は左右に回避する。二人の間を通り過ぎるシャルロットは反転し、バズーカを発射する。その際に後方を一瞥する。

 

「あ…」

 

あまりの光景に圧倒されてか、タッグを組んでいるラファール・リバイブは呆然として立ち尽くす。そんな彼女の姿に舌打ちをするシャルロットは、弾倉を使い果たしたバズーカを投げつけた。左手のサブマシンガンでバズーカを撃ち、爆発によって視界を遮断する。その際にビームバズーカを展開し、簪たちに向かって行く。

 

"もう少し上手に動いてくれないかな…ノーマークなんだから"

 

タッグを組んだ彼女の悪態を突くシャルロットだが、最初から戦力とは思っていなかった。それだけ彼女は自分の持つ力に自信を持っていた。もしも専用機を持つ者同士がタッグを組めたなら、真っ先に静夢を選ぶだろう。

しかし、課せられたルールによってシャルロットのモチベーションは一気に下がる。もはやタッグパートナーなど、誰でも良くなったのだ。

 

それを体現するように、シャルロットは単独で勝ち上がって来た。もはやタッグパートナーは飾りとなり、ただアリーナに存在するだけのものとなってしまう。

 

"まぁ、最後に静夢と戦えるならいいか…"

 

最低限のモチベーションを保ちつつ、妥協点を見つけるシャルロット。内心でため息を吐きながら、彼女はビームバズーカを展開して向かって行った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席で戦況を見る鈴音とヴァルト。別のクラスである鈴音は、噂とは打って変わった戦いを見せるシャルロットに困惑する。

 

「恐ろしいやつね…」

 

「ああ、猫を被るって言うだろ?あれの事を指すんだろうな」

 

鈴音の言葉にヴァルトは相槌を打つ。その力を持つ故か、ヴァルトはシャルロットの本性を身を持って知った。静夢の云う戦闘と勝利に対する渇望、自分の力と相まって常人以上のそれを持つシャルロットが本当の彼女である。

何処となく自分と同じようなものを感じるヴァルトは、彼女の姿に昔の自分を重ねる。大きすぎる父親の背中、それによって与えられる重圧、ヴァルトは外見でしか判断できない世界に苛立ちを覚えた。

 

どれだけ絡まれても、その拳ですべて解決してきた。それでも残るのは虚無感だけ、無意味と感じながらもそれでしか抗う術を知らなかった。

今のシャルロットはそんな昔の自分と同じように、自分を満たしてくれる誰かを探しているようだった。

 

「まぁ、あいつにしか務まらないんだろうな…」

 

「ハァ…?」

 

既に答えを知っているヴァルトはため息を吐くと、その意味が分からなかった鈴音は首を傾げたのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝を終えた累 静夢は支度を終えて第二アリーナへと足を運んだ。遠くからでも聞こえるマシンガンとバズーカの砲音は、シャルロットが息巻く具合の表れだろう。

相変わらずの彼女を目にし、静夢は妙な安堵を覚えた。空席を探して座ろうと思ったが、軽く見回しただけでも満員となっている。

 

"さすがに座れないか…"

 

静夢はおとなしく、階段の壁に身を寄せるようにして観戦を始める。

 

「あ、静夢くん!」

 

「お疲れ、終わったの?」

 

すると、近くの席に座る少女たちが声をかけてくる、静夢は手を振りながら応える。

 

「うん、神楽ちゃんの大活躍で決勝まで行けたよ。次の相手を観に来たんだ」

 

ポケットから取り出した飴を口に放り込み、静夢は遠目で戦局を観察する。真っ向勝負を予想していた静夢の読みは的中する。後は状況を見極める目、技術と直感が物を云う。

実力主義のきらいがあるこの閉鎖空間、静夢はシャルロットが決勝戦の相手になると予想している。簪の力が劣っているわけではない、それ以上にシャルロットの放つプレッシャーが強いのだ。

 

"またシャーリーとやるのか、あんまり思い出したくないな…"

 

ジオニックでの一戦は静夢にとって苦い記憶だ、やる事成す事全てが躱され掌の上で転がされる感覚が怖かったのだ。アムロやシャア、ハサウェイやハマーンなどの大人たちの手加減とは違う。子供が玩具を手にして、純粋に遊んでいるかのような無邪気な感が受け入れられなかった。

シャルロットとはぶつかりたくない―――静夢のため息は誰が受け止めるでもなく、虚空に溶けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

         "見てる…静夢だ!"

 

自分に刺さる視線は突然だった。過去に経験したこの感覚は、間違いなく静夢のものであった。思わぬスペシャルゲストにシャルロットの気分は最高潮に達する。

口角が上がり、口が三日月のように歪む。サブアームにビームバズーカをマウントさせ、サブマシンガンに素早く切り替える。

 

「クッ、速い…!」

 

「フォローをお願い!」

 

「了解!」

 

ティナのサブマシンガンによる弾幕を掻い潜るシャルロット、簪が飛び出してそれを迎え撃つ。ティナは少し後退すると、視界の端に映ったものに目を向けた。

 

―――シャルロットのパートナーであるラファールである。

 

"しめた… !"

 

ほとんど棒立ちで、的に近い状態だとティナは見抜いた。簪がシャルロットの相手をしているうちに、ティナは戦力を削るために動き出す。

強敵に立ち向かう簪に応えるため、ティナはサブマシンガンからアサルトカノンへ持ち替える。

 

冷静にターゲットをロックし、引き金を引く。放たれた弾丸が一直線に飛び、見事にラファールに直撃する。

 

"あらら、やられちゃってるよ…"

 

ハイパーセンサーで位置と状況を確認して、シャルロットは向かってくる簪にサブマシンガンを放つ。背部のプロペラントタンクを操作し、急減速からの加速はシャルロットの身体を押さえつけるように運動エネルギーが発生する。

しかし、シャルロットにとってはこんなものは些事である。それを上回る強敵との戦いが、彼女の幸福であるのだ。

 

「どうして、あんな軌道が…!」

 

ザク・ストームの不規則な動き、それによってその攻撃も予想できない。それが簪を後手へと追いやる。春雷の連射をすべて避け、シャルロットはビームバズーカで応戦。一射目は誘導のためで、簪の動きを固定する。その軌道を読んで二射目で当てる。シャルロットの磨き上げられた戦術、彼女の持つニュータイプとしての力が成せる技だ。

 

「あ、そうだった」

 

シャルロットはふと何かを思い出したかのように声を上げる。その視線にはティナと追い詰められているラファールの姿。シャルロットはため息を吐きながら、サブマシンガンに切り替えて援護をした。

データを見ると、ティナのラファールのエネルギー残量は四分の一。対してシャルロットのタッグを組むラファールの方はもうすぐエネルギーが尽きるところだった。

 

「まぁ、いいか」

 

少し考えた様子のシャルロットだったが、切り替えたサブマシンガンを再度ビームバズーカに持ちなおす。ティナに照準を合わせると、彼女はそれに気づいて振り返る。相応に距離はあるが、シャルロットはティナと目が合った気がした。

 

 

 

       「バイバイ、お疲れ様」

 

 

 

シャルロットの語尾が上がった。その言葉には機嫌の良さが窺えた。シャルロットは躊躇いなく引き金を引いた。

 

―――直後、二機のラファールが閃光に包まれた。

 

 

 

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