インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第37話

「……」

 

「…そんなに気になるなら、少しは連絡したらどうだ?」

 

輸送船の中、格納庫に鎮座する愛機の調整をする男は、ISの傍でタブレットに釘付けとなっているメカニックの少女に声をかけた。その少女はユニコーンの記録映像を切り、タブレットを置いて作業にかかる。

 

強情な彼女の様子にため息を吐き、男は調整の手を止める。すると彼女の持っていたタブレットを手に取り、映像を再開させる。

 

「ちょっと…」

 

「気にするな、私が見たいだけだ」

 

男の行動を諌める少女だが、男はわざとらしく音量を上げて映像を見つめる。いつものように束がハッキングし、IS学園の映像を外部から観察できる。離れた場所にいる静夢をいつでも見られるのだ。

 

「ほう、よく動けているじゃないか」

 

うまく連携が取れている様子に、男は静夢を評価する。男が初めて静夢と出会ったのは、まだ彼が織斑 一夏だった頃である。姉と兄の影に隠れ、世界の歪みを知り始めていた彼は陰謀により誘拐される。

それを知った束がハサウェイに依頼―――マフティーによって救出されたのだ。

―――織斑 千冬という栄光の裏で、織斑 一夏はこの世界から姿を消す事となる。

 

それから彼はマフティーで数日を過ごし、束によって日常に戻るはずだった。一夏がマフティーに入ることを決意したことで状況は一変、ハサウェイは彼の意思を汲んでマフティーへと引き入れるが、男がそれに待ったをかけたのだ。

 

幼い子供を新たなマフティーに仕立て上げるのか―――男はそう言ってハサウェイを殴りつけた。彼の脳裏には今でも焼き付いている出来事である。

ISによって決めることとなり、互角の戦いを見せる両者。しかし、偶然にもそこに介入した者がいた。

 

―――金の不死鳥である。

 

それは一夏とコンタクトを果たし、ハサウェイたちはそれを見ているだけに留まった。不死鳥との直接の邂逅はそれが最初で、紆余曲折があり男は一夏のマフティー参加を認めた。

 

仕事を覚えるために必死な一夏、対人格闘や射撃訓練を行う一夏も、少しずつだが成長を見せる一夏を男は可愛がった。

初めての実戦、一夏はレイモンドのチームで歩兵として戦場を経験する。彼が最も知りたかった現実の一つ、引き金を躊躇う余裕がなかった。

仲間を守るため、生身でISに突っ込んだところをハサウェイに助けられたらしい。男が合流した頃には、一夏は兵士の顔つきに変わっていた。レイモンドに咎められるも、生き延びて帰って来たことを称えられ、彼は正式に仲間として迎えられた。

 

「真っ直ぐだった子供が、こんなふうになるのか…」

 

喜ぶべきか嘆くべきか、男は一夏の姿に複雑な感情を抱いた。軍人として戦い、守ることは当然のこと。子供が戦うという事は度合いが違う。本来なら、子供は大人に守られるべきなのだろう。それがこうして戦える力を身に着け、戦っているのだ。

 

"本物の戦場なら、やられるかもな…"

 

男はふと思った事を振り返り、違和感やズレといった感覚を持った。自分もおかしくなってしまったのだろうか、そんな感傷に浸りながら男はタブレットを置いた。

 

 

 

      「さて…やるぞ、ペネロペー」

 

 

 

男は愛機の名を呼び、操縦するかの如くISに背を向ける。男を包み込み、ISはシステムを起動。男は立ち上がるOSを目視で確認、起動音に違和感がないかと耳を澄ませる。

通常のISよりも一回りは大きい姿、女神の名を冠するそれは次の戦いを待つ。

 

―――パイロットであろうこの男は、かつての上官の言葉を守り、ペーネロペーと真摯に向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソ……」

 

簪は目の前で起こる大きな光に言葉を失くす。その光が収まると戦況が見えてくる。そこは簪が想像した通りのものであった。

 

シャルロットの砲撃によってエネルギーがゼロとなったティナは撃墜、アリーナの地面へと降下していた。さらに彼女の脇にはもう一人、シャルロットのタッグパートナーがいた。あまりの火力に気を失ったのだろうか、ティナが彼女を支えていた。

 

「さて、一騎打ちだね」

 

ビームバズーカを左手に構え、右腰にマウントされているヒートホークに右手を置くシャルロットは簪を見据える。形式も戦力差も眼中にない、ただ興味を持った簪を前に高揚している。

―――まるで、最後まで残しておいた好物を前にする子供のようであった。

 

「どうして―――」

 

「…なにが?」

 

簪が絞り出した言葉をシャルロットは理解できなかった。

 

「どうして仲間を巻き込んだの?」

 

「どうしてって…」

 

簪の目には怒りがこもっていた。シャルロットは言葉に詰まっていた、それは……。

 

 

 

「誰だって勝つためならやることでしょ?なにをそんなに怒るの?」

 

 

 

シャルロットから出た言葉に目を見開き、同時に拳を強く握りしめる簪。見解の相違、意識と無意識、簪にとっての悪はシャルロットにとっては悪ではないということである。

シャルロットは目前に見え隠れする勝利のために、タッグパートナーを犠牲にしてティナを撃破した。シャルロットからすれば些事に過ぎない。

 

「確かにあなたは強い、だけど…!」

 

簪が夢現を強く握りしめる。これまでに静夢やヴァルトを始め、様々な強者と巡りあった簪、シャルロットからはこれまでに無い勝利への欲と同時に認め難いものを感じた。

 

「私は認めない!そんな戦い方、あってはいけない…!」

 

夢現の切っ先をシャルロットへ向け、簪は決意した。シャルロットの言い分も頭では理解している。だが、簪の心にはそれを認めたくないと否定する思いが確かにあった。

 

「素直だね、ちょっと羨ましい…」

 

自身に刃を向ける簪が、シャルロットは羨ましいと同時に煩わしいと思った。戦場であればそんなことを言ってられないからである。

ここはルールに則って戦うゲームのようなもの、戦場を経験したシャルロットからすれば簡単すぎる。静夢と同様、現実を知っているからこそ、現実を知らない彼女たちに苛立つのだった。

 

「じゃあ、どっちの方が正しいかハッキリさせようよ?勝った方が正義、当たり前だよね?」

 

「……!」

 

簪に負けられない理由が出来た。自分だけが正しいわけでも、シャルロットだけが正しいわけでもない。これはそれぞれの価値観の相違だ、勝ち方に拘る簪と勝ちに拘るシャルロット、二つの感情がアリーナに溢れ、混ざり合って爆発しようとしていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

その模擬戦を観察している者がここにも一人。静夢やシャルロットよりも少し幼い顔立ちの少女は、ラウンジの一室で退屈そうに映像を眺めている。

 

そこに入ってきた男が彼女を見つけると、またかと言わんばかりにため息を吐く。

 

「『クェス』、またこんなところでサボって…」

 

「何よ、アンタだってそうじゃない」

 

「俺はちゃんと仕事をしてるんだよ、ようやく一息つけたんだから…」

 

少女、クェス・パラヤの二つに縛った髪が揺れる。割り込まれて気が滅入ったのか、彼女は映像を切って立ち上がる。

 

「おい、何も消すことないだろ」

 

「うるさい!ギュネイのマヌケ!」

 

入れ替わるように座る『ギュネイ・ガス』の言葉を遮るように吠えるクェスがズカズカとラウンジを後にする。

残されたギュネイは再びため息を吐くと、再び映像をスクリーンに映して見始める。

 

「まったく、お前とあいつじゃ比べ物にならないな…」

 

映像の中で駆け抜けるザク・ストームを見て、ギュネイは呟いた。かつてネオ・ジオンのパイロット、強化人間として戦場で散ったギュネイ。目覚めれば見覚えがありそうで無い世界に辿りつき、再びシャアの下に付くとは思いもしなかった。

 

おそらくクェスもいるだろうとは予想していたが、相変わらずの彼女を見て少し安堵した自分に驚いている。功績が認められたわけでは無いだろうが、今はテストパイロットとシャアのボディガードを兼任している。生産ラインのリーダーを務める『ドレン大尉』から、マスクをしていた頃のシャアの話を聞かされたこともあった。

 

その後、ロンド・ベルとの交流でアムロの存在を知る。かつての敗北を思い出し、アムロに模擬戦を挑むも呆気なく敗北。その熱に当てられたシャアがアムロと対決、壮絶な激闘を繰り広げた。目の前で見せられる現実、自分の無力さを実感した。

そんな折に出会ったのがシャルロットだった。どうやらニュータイプとしての素質があるらしく、ナナイやハマーンといった女傑が注目した。

 

ギュネイは尋ねた、どうすれば強くなれるのかと―――。

 

シャルロットは何も言わなかった。ただ、手を合わせるように促され、ギュネイは彼女の右手に触れた。

その瞬間に流れ込む思惟、感覚、広大な海を漂うような言葉では表現が難しい感覚を知った。シャアやクェスから学べなかったニュータイプの感覚なのか、ギュネイはそれを知るべくシャルロットの戦闘に臨んだ。結果は言わずもがな、ギュネイの大敗であった。

 

しかし、これはギュネイの意識を変えるには十分な出来事であった。

それ以来、ギュネイは学ぶ姿勢を見せた。強化人間という不完全なニュータイプである自分がどこまで変われるのか、ギュネイには光明であった。

 

そんな彼を変えたシャルロットの戦闘は圧巻だ。ザク・ストームの高機動、高火力、それをコントロールするシャルロットのテクニックとセンス、自分ではこうは使えないと思う。

だからこそギュネイは強者を見つめる、新たな自分の境地をひたすらに目指して―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦は幕を下ろした。勝者はシャルロット、簪は食らいついたがあと一歩のところで力及ばず敗北した。

よって、決勝は静夢とシャルロットの対決となる。一年生の中で最も強いとされる二人のカードは、自然と注目を集める。

 

その夜、簪は整備室で膝を抱えていた。目の前には戦友とも呼べる打鉄弐式、今日の戦いがどれだけのものだったか、数多の傷がそれを物語っている。整備課の面々によればダメージ判定はC、しばらくは動かせないほどの重傷と診断された。

 

「はぁ……」

 

ため息をつき、俯く簪。今のうちに少しでも治せるものが無いかとチェックを終えた後、こうしてただ後悔の念に駆られているのだ。

 

「あぁ、やっぱりここにいたのか…」

 

整備室に現れたヴァルトは、膝を抱えたままこちらを見る簪とボロボロの打鉄弐式を見た。こうして近くで見ると傷だらけで、当事者の簪にもダメージがあっただろう。

 

「ヴァルト、どうして…」

 

「いつまでも帰ってこないから見に来た、きっとここにいると思っていた」

 

「そっか、心配かけてごめん…」

 

「なんで謝る、そんなことで怒るわけないだろ」

 

陰鬱とした雰囲気を感じたヴァルトは、簪の気持ちを感じとった。試運転の失敗の比では無いほど、重くのしかかるものが簪には見て取れる。

 

「今日は頑張ったな、あれだけやれるなら上等だろ」

 

「…そんなことないよ」

 

ヴァルトがを労う言葉をかけるが、簪は首を横に振ってそれを否定する。

 

「ルロワさんは強かった、私が弱かったから…」

 

「確かにあいつは強い…けど、それはお前が劣っていることとは関係ないだろ」

 

「……ッ」

 

簪がようやく顔を上げた。今にも泣きそうで、瞳が涙に濡れている。その表情にヴァルトは戸惑ったが、冷静に努めて彼女に手を差し出す。

 

「飯、まだだろ?今日はやることをやって休め」

 

差し出された手を取り、簪が立ち上がる。ヴァルトは簪の支度を待つべく、整備室を後にする。

すると、背中に衝撃が走る。何かがぶつかるようヴァルトの背中を押し、驚いたヴァルトから声が出た。同時に感じた温もり、ヴァルトはそれでようやく何が起こったかを理解する。

 

「悔しかった…わたし、何も出来なくて」

 

「最後までやり抜いた、立派に戦った。だから自分を責めるなよ」

 

「……勝ちたかった、負けたくなかった」

 

簪の涙がボロボロと溢れてゆく流れたら最後、それは止め処なく流れ始める。

 

「その涙と悔しさは、お前が強くなるためのものだと思う。それを嗤うやつがいたら俺が黙らせてやる」

 

背中で震え、嗚咽を漏らす簪にヴァルトは優しく語りかける。

 

「背中ぐらい、いつでも貸してやるよ。今は泣いたっていい、次は笑えるようになれ」

 

簪はヴァルトのジャケットを握りしめ、ひたすら泣いた。恥も外聞もなく、溢れ出る感情をヴァルトの背中にぶつける。彼女の涙も悔しさもヴァルトは理解できた。かつての友を亡くした痛み、自身の無力さを呪うことしかできない苦悩の日々を過ごしてきたのだ。

彼女の涙が枯れるまで、ヴァルトは片時も離れることは無かった。

そこに、その涙を嗤う者はいなかった―――。

 

 

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