インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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お久しぶりです、少し時間がかかりました。

決勝戦、スタートです。


第38話

決勝戦当日―――観戦のために多くの生徒がアリーナを訪れる。そこには学年も立場も関係ない。実力のある者を目にしようと三年の生徒や、各国の代表として要人も顔を出している。

 

無論、ピーター・ミシェルは全ての大会日程に顔を出し、いずれ花を咲かすはずの若い芽を観察していた。ある程度だがISの知識は頭に入っている。現在の自衛隊や軍隊の兵器を超越しながらも、男性には扱えないという欠点を持つそれに彼は危うさを感じていた。

―――それは性能や運用の面ではなく、使い手である女性への危惧だ。

 

女性であるからという理由で横暴や身勝手が跋扈するこの世界で、世界中の女性たちがISを手にしたらどうなるか……。

パワーバランスが一気に崩れ、結果として世界は荒れる。滅亡さえ予想できてしまう。彼女たちに兵器を扱うという意識を持たせなければ、この世界は真の地獄となるかもしれない。

 

ピーターはケネスや挨拶で出会った千冬に告げた。いずれ身を退くであろう自分ができることをしたのだ。ケネスも千冬もピーターの言葉に頷く。同じ気持ちを持つ者と出会ったことにピーターは安堵した。

 

 

 

「ミシェル大佐!」

 

 

 

逡巡するピーターを呼ぶ声、ピーターは振り返ると息を切らした少女がいた。長い銀髪が揺れ、身を引き締めるようにして彼女は敬礼をした。

 

「君は…」

 

「ハッ!ドイツ軍所属IS部隊、『シュヴァルツ・ハーゼ』隊長のラウラ・ボーデヴィッヒであります!」

 

「あぁ、思い出した。かつて、合同演習で見かけたよ」

 

「お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは差し出された手を両手で受け止め、自分の行いを謝罪したがピーターは首を横に振った。彼は大して気にしてはいない様子だ。

 

「君もここに来ていたのか…」

 

「はい、当初の目的は別にありましたが…」

 

「というと?」

 

「恥ずかしながら教官、織斑先生の説得のために…」

 

事の顛末を伝え、情けない自分を自覚するラウラ。ピーターは今のラウラが第一印象とは違っていることに気づく。演習で見た時の彼女は他者を寄せ付けない鋭い雰囲気の持ち主であった。

 

「キミを変える、何かがあったのかな?」

 

「…はい。様々なものを見て感じて、自分の考えだけが正しいとは限らないと分かりました」

 

大人のような物言いでラウラは答える。ピーターは微笑んだ。

 

「丸くなったな…」

 

「ハッ、自分でも―――」

 

「ああ、悪い意味じゃないんだ。タッグマッチでは仲間を気にかけるような所があったからね、トーナメントは惜しかったな」

 

「軍人としての自負がありました。しかし、シャルロット・ルロワという存在はさらに上の存在でありました」

 

敗北しても尚、相手を認める姿から彼女の成長が窺えた。ピーターは若者がいい方向へ変化するところを目の当たりにしたのだ、彼はそれが嬉しかった。

これから先は若い芽が花を咲かせ、この世界を動かしていく。自分のような先の短い老兵は、その芽が枯れる事の無いように育てる使命がある。

 

「本当に静夢は先を見ているな…」

 

「ヤツをご存じなのですね……あ、か、彼の口から大佐の名が出たものでして…」

 

つい崩した口調になるラウラだが、それに気付いて慌てて言い直す。所々に見える子供らしさがピーターを安心させた。累 静夢という共通する知人のことで会話が弾む二人であったが、またしてもピーターを捜していたケネスに見つかり、小言を言われることとなった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの席は超満員、誰もが大一番を観るべく集まっていた。既に入場していた静夢と神楽だが、これまでのどの試合よりも大きな歓声と熱量に圧倒される神楽の身が強張る。

 

「大丈夫?」

 

「はい……いえ、とても緊張していて…手の震えが止まりません」

 

静夢に声をかけられた神楽は不安気な気持ちを隠さずに吐露する。

 

「気負いすぎるとすぐに潰れちゃうよ?負けたとしても僕は気にしない、それにね…」

 

静夢の目は反対側のピットを見つめている。そこから飛び出す二機のISにより、再び歓声が起こる。

 

「始まったら緊張なんて吹き飛ぶよ。これから戦う相手はそういう類いだ、これまでとは比べ物にならないほどに…」

 

「…ッ」

 

神楽は静夢の表情と言葉の端から緊張を感じ取った。強敵を相手にするという事実、それが緊張に拍車をかける一方で、普段から物腰の柔らかい静夢が気を張っている。恐れているのは自分だけではないという事に気付いた神楽は、大きく息を吐いて自分の気持ちをコントロールする。

 

「…露払いは任せてください」

 

「ああ、僕の背中を託す。『勝ちにいこう』」

 

神楽の決意に静夢は初めて勝利を願う。シャルロットという戦いたくない強敵を前にしながら、負けたくない気持ちが湧き上がる。今回はツーマンセル、かつてのガンダムでの戦闘経験はアドバンテージとはならないだろう。

 

シャルロットが地面に着地して、静夢を見つめる―――。

 

「…どうかした?」

 

「ううん、こうして戦うのはあの時ぶりだなって」

 

静夢の問いに首を振り、懐かしむように振り返るシャルロットに静夢はああ、と相槌を打つ。実際に彼女と戦うのは久しい、今度は全力でシャルロットを迎え撃つ事となる。おそらく簡単には勝てない、反則をしたとしても勝てる見込みは無い。

それだけシャルロットとの対戦は困難だ。これといった策も無く、策を講じてもシャルロットは正面から突破してくるだろう。

 

腹を括るしかない―――静夢は覚悟を決める。

 

―――試合開始のカウントが刻まれる。

 

 

 

        ―――5―――

 

 

 

「ああ、まだかな…楽しくてたまらない…!」

 

 

 

        ―――4―――

 

 

 

「相変わらずだね…神楽ちゃん、そっちは任せたよ」

 

 

 

        ―――3―――

 

 

 

「心得ています、ご武運を…」

 

 

 

        ―――2―――

 

 

 

「……」

 

 

 

        ―――1―――

 

 

 

「「今度こそは―――」」

 

 

 

        ―――0―――

 

 

 

 

 

 

「「―――勝つ!」」

 

カウントがゼロになった瞬間、両者は動き出す。バーニアが噴き出し、天高く舞い上がった。

 

「まずは挨拶!」

 

先に動いたのはシャルロットだった、ビームバズーカを構えると躊躇うことなくトリガーを引く。放たれる閃光が静夢に向かう。

静夢は冷静にそれを回避すると、観客席のバリアに直撃する。ビリビリとした振動が観客を襲い、最前列の少女たちは思わず身を屈める。

 

「リミッターを付けてあれほどか…」

 

それを尻目に見る静夢も反撃に出る。右腕にアームド・アーマーBSを展開、バレルを展開させてシャルロットをロックする。

 

「ッ!」

 

放たれたビームが曲線を描いて飛ぶ。静夢のイメージで様々な弾道を描くこの一撃を、初見で回避できる人間は多くない。「覚醒した新人類」でもなければである……。

 

「アハ……!」

 

アームド・アーマーBSの偏向射撃を前にしても尚、シャルロットの笑みは消えない。むしろ、彼女のボルテージは上がり続ける。本気を出す静夢の姿が、シャルロットの好奇心と闘争心を強くするのだ。

 

―――シャルロットは鈴の音を耳にした。

 

おそらくは反射、本能による無意識が起こした現象。シャルロットはそれに従って身を捩ると、リボンのようにしなやかなビームをすり抜ける。静夢と同じように通り過ぎたビームを見ると、ビームはシールドに衝突して霧散する。

 

「すごい、やっぱりすごいよ……」

 

「避けられるか…」

 

「もっと楽しませて、夢中にさせてよ!」

 

飢えた獣の如く、シャルロットの双眸が静夢を捉える。静夢は左腕にシールドを展開、付属するガトリングで迎え撃つ。それを物ともせず、シャルロットは高速で迫る。ビームバズーカを構え、静夢をロックオンした。

 

「それ!」

 

放たれた閃光が静夢に向かう。直撃を覚悟する静夢だが、彼の表情からは焦りといった感情は見えなかった。冷静にシールドを正面に構えると、そのシールドは上下に展開された。

中央に現れた基部が粒子を発生させると、それは薄い膜のようにして広がっていった。瞬時に展開されたそれはビームを受け止めると、ビームは静夢を避けるかのように散乱した。

 

「Iフィールド…!」

 

ビームの散り様を見たシャルロットが舌打ちをする。彼女はその正体を知っていたのだ。

 

ミノフスキー粒子が立方格子状に整列することによって発生する不可視の力場、ビームを形成する粒子よりも細かい目で生成された壁は静夢の前に絶対な盾となる。

 

「なら…!」

 

「やらせないよ?」

 

ビームバズーカを格納し、実体弾のバズーカに切り替えるシャルロット。静夢はやらせまいと、シールドガトリングでシャルロットの動きを止める。この時のシャルロットのアクションは最適解であった。

 

Iフィールドはミノフスキー粒子によって生成される。シャルロットの使うビームバズーカは、その粒子よりも大きな目のメガ粒子でありIフィールドを通過せずに弾かれたのだ。

―――だが、同時に弱点も存在している。

 

ミノフスキー粒子などでは防ぎようのない実弾武器である。

 

Iフィールドといえども粒子、同じ粒子で作られたものにしか効果を発揮しない。ビーム兵器と実弾兵器の二つを搭載しているシャルロットのザク・ストームを前にしても、これは絶対的な切り札とはなり得ないのだ。

 

ビームガトリングを連射しながら、静夢は距離を詰める。中距離から長距離はむしろシャルロットにアドバンテージがある。その距離をどれだけコントロールできるかが勝負の鍵となる。

静夢の乱射をうまく回避しながら、シャルロットは腰のヒートホークに手をかける。

 

「ッ!」

 

接近するシャルロットから感じる闘気に静夢は寒気を感じた。それほどに放たれるプレッシャーは、これまでに幾人を圧倒してきた。

みんなもこんな気持ちだったのだろうか―――うまく言葉に出来ないシンパシーを感じながら、静夢はシールドを構えてシャルロットを待ち受ける。

 

「ハァァァ!!」

 

「ウッ…!」

 

振り下ろされたヒートホークを受け止めたシールドから伝わる振動、静夢は思わず呻く。ここを耐え抜き、攻撃に転じるチャンスと見ていたが、シャルロットの一撃は想像以上だった。

 

 

 

その時だった―――。

 

 

 

受け止めていたシールドが軽くなった、まるで攻撃の手が止まったかのような―――。

 

 

 

「………」

 

「フフ、かわいい顔してる」

 

―――シャルロットの楽しげな声を近く感じた。

 

「うっ…!?」

 

呆然とする静夢の意識を起こすかのように、ユニコーンに衝撃が走る。何が起こったのか、静夢が理解するまでに暫しの時間を要した。

ディスプレイを見ると、ユニコーンがダメージを負っていた。損傷は左肩部だ。シールドの軽さ、シャルロットの声の近さ、自分に起こった事象がパズルのように繋がっていった。

 

「いいよ?本気で来て」

 

シャルロットの提案に、静夢はユニコーンのディスプレイを見渡す。ダメージは軽微、思い返せば今の一撃が初めての被弾であった。

 

「そう、だよね…ごめん、手加減をするとかそういう事じゃないんだ」

 

「知ってる。でも、私は簡単にやられない」

 

静夢の独白にシャルロットは理解を示した。静夢は解放した力の結末を恐れている、静夢はその力を扱うに値しないと思い込んでいる。それがシャルロットの見解であった。

 

「それに―――」

 

「……?」

 

 

 

 

 

  「あなたになら、ここで殺されたって構わない」

 

 

 

 

 

そんな事を言われて、静夢はため息を吐いてしまった。自分自身の情けない姿に、モヤモヤとしたやるせない思いがそうさせるのだ。

 

「まだ夜になっていないよ?」

 

「勘違いさせちゃった?自意識過剰なんだから」

 

そんな軽口を叩き合い、笑みがこぼれる。シャルロットの闘気に混じった感情がザク・ストームを通して溢れる。それを感知したユニコーンが赤い光を放つ。

 

「うん、今度こそ全力でやろう」

 

「嬉しい、沢山の初めてを見せてくれるなんて…」

 

求めていた静夢の本気、シャルロットは思わず口角が上がる。ユニコーンの光を通して見える静夢の感情が流れ込んでくる。―――自分と同じ、この戦いを求めている。

 

ユニコーンの装甲が展開されていく―――脚部から順に、赤く発光する装甲を露わにしていく。肩部まで装甲が展開すると、特徴的な頭部のヘッドセットが二つ二割れる。

―――やがて、金の双角となり真の姿を現した。

 

(これが静夢の全力…!)

 

自分が味わう事が出来なかった静夢の実力、鈴音はその姿から感じるオーラは強者のものであると直感した。二人の強者がぶつかり合う、彼女は客席で震えた。

 

(俺よりも強い奴らが戦う、バニラじゃこんな感覚は味わえないな…)

 

自分以外の人間に全力を出す静夢に対する嫉妬と、その静夢が本気で戦うほどの強敵であるシャルロットへの感服。ヴァルトはつくづく学園に来たことを幸運に感じた。静夢には、毎度のことながら驚かされる。

 

「それが静夢の本気?」

 

「ああ、リミッターを外した状態かな。僕にも手が付けられないかもしれない、そうなった時は任せるよ?」

 

「そんなの関係ないよ…」

 

静夢の言葉を遮るシャルロットは首を横に振る。赤いサイコフレームを露わにするユニコーンを前に、恍惚とした表情で見つめている。

 

「どんな静夢でもいい、夢中になりたいよ…あの時みたいに」

 

「あの時、か……」

 

かつての戦いが脳裏にフラッシュバックする、ISを使っていて初めて死を予感した戦いであった。静夢もシャルロットも、ニュアンスは違えど決して忘れることができなかった。

 

「僕は、勝つよ―――」

 

「へぇ……」

 

おおよそ静夢からは聞けない言葉であった。シャルロットは挑発にも似たその言葉を受け止めると、ニヤリと口を歪める。感情が昂ったのだろうか―――ザク・ストームから黄色の光が波動のようにして広がる。

それに反応したユニコーンも光を波動として放った。ぶつかり合う光がアリーナのバリアを揺るがした。いや、アリーナ全体が揺れていた。

 

ニュータイプ同士の激突、同じニュータイプであるヴァルトはこの現象を見て全身に鳥肌が立つ。もしかしたら、自分は静夢の足元にも及ばないのではないのか―――畏怖さえ感じるこの戦いに釘付けとなっている。

 

次元の違う戦いに誰もが目を奪われている。決勝という最高の舞台で繰り広げられるこの一戦は、学園の歴史として語られるやもしれない。楯無を始めとした高学年の彼女たちさえ息を呑んだ。

 

 

 

 

 

この戦いに幕を下ろすのは、果たしてどちらか………。

二人の争いは未だ終わらない―――。

 

 

 

 

 

 




今度こそ、今度こそは40話で締めたいです。
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