インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
二機のISから放たれる光は留まることを知らない。互いの力を押し付け合うかのようにぶつかり、観客席を守るシールドさえ震わせる。
あまりの事態に、客席とピットにいる生徒や教師は困惑する。
―――それはタッグを組む神楽たちも同様である
「すごい、これが…」
間近で見る静夢の本気、遠くから見ている時では感じ得ない衝撃があった。シャルロットとタッグを組む少女も、目の前で起こっている事が現実とは思えないでいた。
一方の静夢とシャルロットは、それぞれの機体が放つ波動によって思惟が交錯していた―――。
「これ…」
シャルロットの目の前で流れる数多のビジョン、欠片のように散り散りになるそれがシャルロットの中に流れ込む。
一人の少年は迫害されていた、それは彼の中に闇を生む結果となったのだろう。成長した少年はやがて、様々な女性の手を取り一夜を共にする。さらに時が経ち、少年は戦場を駆ける。目標である人間を前にして、冷徹な表情で引き金を引いた。
そして、ISと巡り合う―――偶然か運命か、彼は出会うべき人物たちとの邂逅を遂げる。
血の繋がる実父、その父の祖父であり宇宙世紀の開闢を目撃した生き証人、かつて器と自称し世界の安定を模索した仮面の男―――少年は大人のようにスーツを着こなし、自身を偽って演じ続ける……。
「あなたの記憶なの?」
「そう、あまり話す事でも無いけどね」
シャルロットが振り返った先にいる静夢は、変わらない笑みを浮かべる。どこか侘しさを含む雰囲気が見て取れた。きっと心の中には別の感情があるのだろう、静夢はそれを永遠に表に出すことはないのだろうとシャルロットは思った。
「苦しい…?」
「……そうだね」
その場に座り込んだ静夢の隣、シャルロットの目は涙で滲んでいた。どうして彼女が泣くのだろうか、静夢は普段のシャルロットとのギャップに戸惑うが、きっとこれが彼女の本質なのだろうと感じた。
もし、彼女が普通の家庭に生まれていたら……誰にでも手を差し伸べ、誰からも愛されるような女性になり得ただろう。
「でも、後悔はしていない。この道を進んだことも、命を殺めてしまったことも……これまでの事だって」
「………」
「幸福は人の数だけ存在する。だからこそ、僕が奪ったかもしれない幸福のために戦うって決めたから……」
決意の固い静夢から見える微かな影、強迫観念のようなものを感じるシャルロットからついに涙が溢れる。きっと世界がもっと優しければ、少年がこんなに傷付くことはなかったであろう。
―――シャルロットは静夢の隣に座り込んだ。
「静夢は、最初からずっと強いと思ってた」
「そんな事は無いよ、君だってそうだろう?」
静夢の言葉にシャルロットは沈黙する、静夢も同じように少女のビジョンを見た。平穏な暮らしが一変し、企業の道具として操り人形となったのだ。二人は戦場で出会い、戦場でその能力を開花させた。
皮肉にも平和や幸福を望む者が、それを破壊する場所で力を授かった。決して望んだものでは無いが、手放すことが出来なかった。
それは力への依存や執着ではない、世界を正すために必要な力であるからだ。言葉だけでも、力だけでも世界は変えられないのだ。
「ニュータイプって、こういう事なのかな?」
「アムロさんと戦った時も同じようなことを経験したよ、話しても信じられないだろうけど…」
目の当たりにしている現象は真実なのか、シャルロットは首を傾げた。当事者である者たちは兎も角、観戦している外の者たちからは想像もつかないほどの超常現象である。
「えへへ、じゃあ特別だね」
「……そうだね」
照れ笑いを浮かべるシャルロットは年相応の姿で、静夢も釣られて笑った。
お互いの心が交差し、内側を見てもこうしていられるのは、互いに気を許しているからだろうか。境遇が似た者同士というシンパシーがそうさせるからなのか、静夢にもこの現象の真意や答えを見出せてはいない。
だが世界は、人は歩み寄ることで理解し、手を取り合うことができる。静夢は改めて、自分が望む可能性に満ちた未来を願う。
「さて、まだ決着が付いていなかったね」
「…なんだか、どうでも良くなっちゃった」
「気まぐれだね…」
シャルロットは静夢を理解したことで満足したのか、戦っていることを忘れていた。立ち上がった静夢は肩を竦めて、シャルロットに手を差し伸べる。
「ずっとこのままではいられない。ほら、行こう?」
「仕方ないなぁ〜」
静夢の手を取るシャルロットは立ち上がった。
「じゃあ、僕の勝ちでいい?」
「……それはイヤ」
「一体、どっちなの…」
あんな事を言っておきながら、静夢はコロコロと答えを変えるシャルロットに肩を竦める。ため息を吐くものの、呆れた様子は見えなかった。
いつの間にかヴィジョンが消えていた、暗闇に光が差し込んだ。すると、それは鎖のように無数の輝きとなって二人を包み込む。
「これが自由って事なの?」
「そうかもしれない。さぁ、いい加減に行こうか」
静夢は力を込めてシャルロットの手を引っ張る。二人は浮遊するように移動し、やがて光の中を飛び出してあるべき場所へと帰って行く。
『La―――La―――』
―――ただ一人、その二人を見送った者は輝きの中で微笑んでいた。天を仰ぐように光の中へ溶けていくそれは、声のような音だけを残して……。
「じゃあ、続けよっか!」
サブマシンガンを構えたシャルロットの先制攻撃、静夢はこれを躱して右腕のアームド・アーマーBSで牽制する。リボンのように靭やかなビームが急に軌道を変えて、シャルロットへと迫った。
「あ、マズい…!」
予想外の方向に曲がったビームに反応が遅れた、シャルロットは被弾する直前にサブマシンガンを前に構えると、それを盾の代わりとしてビームをやり過ごした。
ビームに焼かれてはもう使えない、サブマシンガンを投げ捨てるとやがて小さな爆発を起こした。
(最初のあれを躱せたのは偶然かな…このままじゃ、どのみち埒が空かない。思い切って近くに…!)
アームド・アーマーBSやビームガトリングなど、ユニコーンは遠距離の武器を持っている。このままでは膠着する、シャルロットは接近戦に持ち込む事にした。
ヒートホークを構えて接近するシャルロット。静夢はバックパックからビームサーベルを抜き放つと、シャルロットに向かって行く。
二つの得物がぶつかり合い、火花を散らす。幾度の剣戟を繰り返すも、決定打とはならない。
「まだ、まだ終わらない!もっと楽しませて!」
「しつこい!」
鍔迫り合いの中で静夢は頭部のバルカンを連射する。それがゼロ距離でザク・ストームに命中していく。数発なら威力は大した事がない、しかしそれが延々と当てられていたら―――ザク・ストームのエネルギーは砂時計のように少しずつ減少していく。
「チッ!」
我慢が効かなくなったシャルロットは鍔迫り合いをやめて後方へと移動する。ヒートホークをマウントし、バズーカに持ち替えるつもりだ。
その時、シャルロットは視界の端に光を見る―――。
か弱いながらも、最高の景色に邪魔をする目障りなそれに、シャルロットは目を向けた。
刹那、光から放たれたであろう弾丸がシャルロットの胸を撃つ。消え入りそうな儚い光とは裏腹に、その衝撃は静夢を始めとした強者たちの一撃に近いものであった。
(誰だ、邪魔をするのは…!)
睨みつけたシャルロットの先にいる神楽は、火縄銃のような武器を構えていた。打鉄の標準装備であるアサルトライフルの「焔備」、その長距離射撃装備である「撃鉄」がシャルロットを射抜いたのだ。
「これでは静夢さんに叱られてしまいますね…」
静夢の指示に反した行動を自覚している神楽だが、その表情はやりきったような充足感が見てとれる。しかし、シャルロットの逆鱗に触れる行為でもあった―――。
「お前かぁぁぁ!!」
シャルロットは烈火の如く怒り、神楽に銃口を向ける。二丁のマシンガンで神楽を追い詰めて行く。アサルトライフルを持ったまま回避をする神楽だが、やがてシャルロットの弾幕に捕まる。凄まじい勢いでエネルギーが減り、打鉄の装甲が破損と再生を繰り返している。
やがて、ダメージに対して再生が追い付かなくなる。それは打鉄の限界を示していた。
「うぅ、はぁ、はぁ……」
シャルロットの猛攻は止んだものの、神楽の打鉄にエネルギーは無い。膝を着き、神楽には防御や回避する気力さえ残されてはいなかった。
そんな神楽をシャルロットは憎しみを含んだ瞳で見下ろしていた、最高の時間を邪魔されたシャルロットには怒りと苛立ちが溢れていた。
「その命で償え……!」
ビームバズーカを構え、引き金を引く瞬間だった。
後方から降りかかるビームの雨、軽微なダメージと衝撃にシャルロットは振り返った。
「悪いけどやらせないよ、それ以上はね」
「……」
「もしも、その引き金を引くというのなら…その前に僕が君を殺す」
「……ッ!」
シャルロットはビームバズーカの照準を静夢へ変更、すぐさま引き金を引いた。静夢はそれを回避、シールドのガトリングで注意を逸らしながら接近する。静夢の接近を見て、シャルロットはビームバズーカを投げ捨てた。マウントしてあったヒートホークを手に、ビームサーベルを構える静夢を迎え撃つ。
ヒートホークとサーベルがぶつかり合い、バチバチと火花を散らす。シャルロットはヒートホークを左に振り、返しの一振りを見舞う。同じようにサーベルを左に振った静夢は左腕のシールドを翳す。
シールドに激しくぶつかり、火花と衝撃をもたらすシャルロットのヒートホーク。押し込み合う中、静夢は力を抜いてシールドを引いた。
「あっ…!」
「エェイッ!!」
静夢の脱力によって、シャルロットはバランスを崩して身体が右に逸れる。成す術なく隙を晒した、静夢がそのチャンスを逃すわけがないと、それからの判断は早かった。
バスロットから展開した「手榴弾のようなアイテム」を手にし、それを背面から器用に投げつけたのだ。
―――それが何なのか、静夢は理解する前にサーベルを振り下ろす。
二つに割れたそれは限界を越え、やがて大きな光や音、熱を放つ。それを至近距離で浴びた二人に襲いかかる衝撃、体勢を整えながら二人は地に足を下ろす。二機の装甲がその威力を物語る。傷が幾つも発生し、ユニコーンもザク・ストームも一部が破損している。
それぞれの機体がエネルギーの減少を告げ、やがて危険を知らせるようにアラームが鳴り始めた。
「うるさい…」
シャルロットは、集中を阻むようなアラームを乱雑に切る。未だ握られるヒートホークに力が入る。静夢も同様に、ユニコーンが告げるアラームを止めた。
(ごめん、無茶をさせるよ……)
持久戦となり、いよいよ手数も気力も底が見えてくる。アームド・アーマーBSは本機のエネルギーを使用するため、ますます使えない。残る中距離武装はシールドのビームガトリング、頭部のバルカンだけだ。
シャルロットは実弾のバズーカが残っていて、新たな弾倉を装填する。投げ捨てたビームバズーカを見つけるが、取りに行くまでの手間を考えて放棄を決断した。
すると、静夢はある事に気づいた―――。
「……」
神楽と目が合っていたのだ、その位置はシャルロットの後方。行けるか、静夢は低い可能性から勝算を見出す。だらりと脱力した左手、甲を見せるようにして親指と人差し指を伸ばす。後の指は握られたままである……。
「何かある?関係ない、もう後は……」
泥臭い持久戦、そのシャルロットの言葉は阻まれた。彼方の爆発によって―――。
「なにが…!?」
「意外だよ、そんな顔もするんだね」
爆発に気を取られ、シャルロットは視線を逸らした。一瞬の出来事であった。静夢の声だ、すぐ傍にいる…。そう実感する前に、シャルロットはバズーカを盾のようにする。
直後に襲う衝撃、アームド・アーマーVNがバズーカを噛みちぎる。粉々になったバズーカを見つめるシャルロットは、理解に一瞬を要した。何が起こったのか、体の熱が引いていく。自覚した瞬間に彼女を襲う悪寒、シャルロットはサブアームにあるサブマシンガンを静夢に向ける。
「させない…!」
ビームマシンガンがサブアームを撃ち抜く。アームと共に落下するサブマシンガンは在らぬ方向へ発射されると、力無く地面へと沈む。
ヒートホークを抜き、シャルロットは急接近を試みる。
「まだ、まだぁぁ!!」
「いい加減に、落ちろ!!」
サーベルを捨て、静夢は早足で歩き出し、やがて駆け出した。もはや作戦も戦術も無い、ただ手持ちの武器で相手を倒すしかない。間合いに入ったシャルロットは、ヒートホークを思い切り振り下ろす。静夢はザク・ストームの右腕を掴み、それを回避する。そして、右手もザク・ストームの右腕を掴むと力を込めて投げ飛ばす。
「んうぅ!?」
反転する景色、背中に広がる衝撃、シャルロットは呻いて口からは空気が漏れる。掴んだままの左腕を捻り、静夢はザク・ストームの無力化を図る。
「えい!」
「ぐあっ!」
シャルロットは足を思い切り上げ、静夢の頭を蹴りつける。思わぬ衝撃に声を上げる静夢は、掴んでいた腕を離してしまう。解放されたシャルロットは転がり、距離を取りながら立ち上がる。ヒートホークを左手に持ち替え、再び懐に飛び込む。
闘牛さながらの突進を見せるシャルロットだが、静夢は同じ土俵で戦うつもりはなかった。自分もユニコーンも限界を迎えているのだ、それはシャルロットも変わりない。
常識はずれの動きをするザク・ストームだが、それによって背部のプロペラントタンクもオーバーヒート寸前。理性が消えかけているシャルロットはそれに気づいていない。静夢の云うように、もう終わらせなければ危険なのである。
ユニコーンの左腕、装甲の一部が展開された。そこにあったのはビームサーベルのグリップだった。
そこからビームが発生した、まるで腕がビームサーベルになったかのようである。「ビームトンファー」と呼ばれるユニコーンの武装の一つで、ビームライフルなどの中距離武装と併用できる利便性を持つ。ゼロ距離で意表を突くことも可能である。
静夢は右腕のアームド・アーマーBSを収納し、シールドを右腕にマウントする。腰を落として踏ん張り、静夢は再びシャルロットを迎え撃つ。
「これで、終わりだぁぁ!」
シャルロットは決着をつけるつもりだった、ここで彼を倒し実力を示す。そこには自分を存分に楽しませてくれた礼の意味も込められており、同時にもう打つ手が無いことでもあった。
ヒートホークを両手で握りしめる。左腰から切り上げるか、横薙ぎの一閃の構えであった。静夢は冷静に分析し、シールドを構えて待ち受ける。
ついに決着の時を迎える、誰もがその瞬間を見つめていた。
―――それは、意外な形で幕を下ろすことになる。
次回のエピローグで、原作2巻まで進みます。
その後は、本編ではなく過去編とかやろうかなと…
それではまた次回にて―――。