インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
「なんか、普通だね……」
「お前、パッとしないんだよな〜」
―――誰かが僕に向かって言った。
「噂に聞いてたより大した事ないわ、アイツ……」
「うーん、上の二人に比べたらね〜」
―――彼らに悪意は無い、思った事を口にしているだけ。分かっている、そんな事は……。
「お前、実はあの二人と血が繋がって無いんじゃないか?」
「やめてほしいんだよね、あの人の足を引っ張るの…」
―――勝手に期待したのはそっちの方だ、僕がそれに応えてやる義務は無い。僕はただ、ただ……。
「最近、成績が伸びていないな……素行が悪いと先生から連絡をもらった。何か悩んでいるのなら言ってくれ……家族だろ?」
―――普通に生きていたいだけなのに……。
「………」
ハッと目が覚めた。何度かの呼吸の後、ゆっくりと身体を起こす。
「んん……」
すると、眠る隣人が身を捩る。姉よりも年上である彼女は、それを思わせないほどにあどけない顔をしている。そこで、ようやく夢を見ていたのだと実感する。
安堵し、僕は彼女を刺激しないようにベッドを出た。床に落ちる下着と服を身に着け、カーテンを開く。
窓を開き、バルコニーに足を踏み入れると風が吹く。寒さがまだ続くこの頃だが、去年よりも寒いらしい。薄着は堪えるが、今は彼女の温もりもあって心地がいい。
「ハァー」
大きく息を吐いた。白に染まるそれは一瞬の姿を見せ、夜に溶けて消えた。そういえば息が白くなるのは、寒さでは無く空気の汚れが原因とされているらしい。
検証するようなテレビの番組で、北極に訪れた有名人が息を吐いても白くはならなかった。
「どうしたの?そんな格好で……」
そんな事を考えていると、背中から声がかかった。振り返ると、窓際に佇む女性がこちらを見つめていた。肩に触れるほどの髪が風で揺れる、その姿から目が離せなかった。
「すいません、起こしてしまって…」
「いいの、気にしないで。それより、寒くない?」
「えぇ、春は近いはずですが……」
そんな他愛の無い話をして、僕は部屋に戻る。風の無い部屋は暖かいが、先程までの行為の余韻があるせいか気まずさを感じる。ベッドに腰を下ろしながらも、心臓の鼓動は忙しない。
「まだまだ子供ね」
「………」
僕の様子を見て察したのか、彼女に返す言葉が無かった。何も言い返せない僕にクスリと笑みを浮かべ、彼女は僕の膝に跨った。
「ん…」
彼女の唇が触れた、火傷をするくらいに熱かった。内側に燻ってたものが広がっていく感覚に、僕は彼女の腰に手を回す。触れるだけのキスでは収まらない、彼女の舌が僕の口内を侵していく。
それを受け入れると、求めるように舌が絡み合う。口の端から溢れていく唾液、彼女をきつく抱き締めて求める。
「ふふっ、可愛い顔をしてる」
「勘弁してください、素人なので…」
長いキスを終え、僕と彼女は部屋を出た。寒さが続く中、厚手のコートを身に着けて街を歩く。彼女は僕の腕に寄り添いながら、柔らかい笑みを浮かべる。
目的地である駅に着き、彼女は僕から離れた。
「じゃあね、坊や」
「はい、おやすみなさい。またのご利用をお待ちしてます」
最後にキスを交わし、彼女は改札口を通った。エスカレーターに登り、彼女の姿が見えなくなるまで僕はその背中を見つめた。
「ふぅ…」
仕事を終え、僕は思わず息を吐く。安堵したのだろう、張り詰めた糸が緩み、身体が疲れを意識するとたちまち重くなる。
―――携帯端末を取り、僕は連絡を取る。
「お疲れ様です。今、終わりました……え、ああ、はい、分かりました。失礼します」
完了の連絡を取ると、なんと直帰の許可が下りた。本来なら受け取った報酬を納めて完了となるが、珍しく今日は上の人が優しかった。
何かあるかもと勘繰るが、大した意味は無いだろうと自分を納得させた。
駅から歩き出し、端末を見る。時刻は夜の十一時に差し掛かっている。足を速めて僕は自宅へと帰宅する。寒さが残り、歩くたびに肌を突き刺すように冷たい風が身に沁みる。
自宅まで最短距離で走り、どうにか人目に付かずに到着した。小走りといえど、さすがにノンストップは苦しい。家の前で息を整え、門を通る。
住人に気づかれないように細心の注意を払い、鍵とドアを開けて中に入る。靴を脱いで、コートに手をかけた時だった。
「どこに行っていた……」
「まだ起きてたんだ」
リビングを通り過ぎようとした瞬間、声をかけられて足を止める。怒りを孕んだ声だったが、そんな事は気にしない。視線を合わせないままコートを脱ぎ、身体を冷まそうと首元を扇ぐ。
「……どこに行っていたと聞いているんだ」
「別に?どこだって良いよ、姉さんには関係ないから」
―――そう、この人は僕の姉だ。
織斑 千冬―――インフィニット・ストラトス、通称を「IS」というものを使った競技の世界王者だ。僕からすれば、この人「も」この世界を歪めた、謂わば共犯者だ。僕がこうなったのも、この人のせいともいえるのだから……。
コートを腕にかけ、僕は自室に向かう。シャワーは明日の朝でも問題ないだろう、今夜は着替えだけして寝よう。
「答えろ…!」
「………」
僕の胸倉を掴んで詰め寄る姉、僕は徹底して視線を逸らす。一方からしか物事を判断しない、清廉潔白であろうとする姿……僕にはそれが偽善としか思えなかった。
「なぜ、何も言ってくれない……」
そんな声が聞こえるも、僕には心底どうでもよかったんだ。聞くだけで、見るだけで……あなたは何もしないじゃないか。
「……もう寝るよ、おやすみ」
力の抜けた腕を振り解き、僕は自室へ向かった。階段を登り、部屋の扉を開けると、ハンガー手に取ってコートに通す。それを壁にかけて、僕はベッドに身体を沈める。
こんな時間に姉さんが起きていたのは予想外だった、普段は帰ってこないか既に寝ているはずだった。何かあったのかとも考えたが―――。
「ああ、大会か…」
モンド・グロッソ―――ISを使った競技、その第二回大会がもうすぐ開催される。姉さんはそれで帰って来たんだ…。
「……まぁ、どうだっていいや」
だからどうなるという事でも無い。僕は考える事を止め、意識を手放した―――。