インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
―――アイツと出会ったのは十歳の頃、日本に転校して来てからの事だった。
珍しい名前から、言葉を上手く喋れない事から、よくからかわれていた。そんな時、彼は私に手を差し伸べてくれた。それからは想像がつくように、アイツに惹かれていったってわけ……。
ただ、中学に上がってから、段々とおかしくなっていった―――。
歯車が噛み合わず、狂っていくかのように状況が悪化していった……。
きっかけはIS、女性にしか扱えないという代物。しかも、それがある事件によって一気に広まった。
白騎士事件―――世界中のシステムがハッキングを受け、日本への総攻撃が開始された。その数は二千、それが一機のISによって半分が撃ち落とされたらしい。
しかも、そのISを捕獲または破壊を試みた戦闘機や軍艦も撃墜されたとのこと。パイロットや事件の真相は一切、公表されることは無く、誰もそれに触れようとはしなかった。
その結果、ISは篠ノ之束が望む宇宙進出ではなく、最新鋭の兵器として認識されるようになった。そして、その歪みを加速させたもの―――。
―――女尊男卑の風潮…。
ISを扱えるのは女、それが人間の傲慢を増長させた。ISには適正が無ければ乗れないが、そうでない者が女だからという理由で横柄な態度を取り、他愛の無い理由で事を大きくする。
女の子がサラリーマンにカツアゲをしたってニュースもあったらしい、ホントにバカみたい……。
それでアイツの話だったわね。お姉さんがISの大会で優勝したわけ、一躍時の人になったわ。それが引き金になるの…。
事ある毎に優秀なお姉さんと比べられ、日に日にアイツの影は大きくなっていった。周りは自然に、息を吐くようにアイツとお姉さんを比べた。きっと無意識に、それはアイツにとって苦痛だったのかもしれない。
そんなお姉さんが第二回の大会に出場するらしい。連覇に期待がかかり、日本中がそれで持ちきりになっている。
確か、アイツも現地に行ってるって話。行きたくないって愚痴をこぼしていたわ。
そんなお姉さんがなんと決勝戦を棄権したらしい。何が理由かまでは明かされていないけど、アイツがしばらく学校に姿を見せない事と何か関係があるのかしら……。
―――そして後日、アイツが現地で行方不明になったという報せを聞くことになった…。
ショックだった。周りが気にしない様子を見せながら、私の胸は張り裂けそうだった。それからは、両親の亀裂もあり母国に帰ることとなった。
それでもアイツの事が頭から離れなかった、それだけアイツの事が好きだって自覚する。だから決めた…。
いつか必ず再会する、それまでに最高の自分になって驚かせてやる。それが私が前に進む目標になった。
龍爪虎牙拳と出会い、師である的 劉信に弟子入り。門下生として拳法の何たるかを学んだ。その過程で何とISの適性が判明した。努力を続けた結果、なんと代表候補にまで登り詰める。
国家代表、は流石に欲張りよね。まぁ、これからも努力して結果を残せれば、いつかはそういったものに辿り着けるかもしれない。
それも全て、自信を持ってアイツと再会するために……。
―――なんて考えてたら、数年後に会うなんて思いもしなかったけどね……。
「ん……あれ、ここは?」
目を覚ますと、薄暗い部屋にいた。どこか身体の力が抜けている、ベッドで横になっているみたいだ。ゆっくりと身体を起こし、周囲を見渡す。僕が寝ているベッドの他に、枕元の明かり、近くにはペットボトルが一つ。他にはテーブルと椅子、無機質な部屋だった、単純に寝室として使われているんだろうか…。
部屋の扉が空いていて、隙間から明かりが部屋に差し込んでいる。ベッドを抜け出し、扉まで忍び寄る。恐る恐る扉を開け、顔を覗かせる。
廊下には誰もいない、部屋よりも明るいが視界良好とは言えなかった。そっと部屋を抜け出し、廊下を進む。他の部屋の扉を通り過ぎ、突き当たりを曲がる。
すると、明かりが漏れ出してる部屋がある。部屋に人がいるのか、声や音が聞こえてくる。足音を殺し、ギリギリの所で足を止める。
「それにしても、あんな有名人からの依頼だとはな…」
耳を澄ませると、部屋にいる人間が話している。複数人がいると考えるべきか…。日時を考えれば、姉さんのことが関係しているんだろうな…。
「ヤツらが俺たちを頼るのは意外だったな、しかもあんな子供一人に…何者だ?」
「噂じゃ、身内に苦しめられてるって話さ。そんなヤツを救えって、何か事情ってものがあるんだろうよ」
「連絡はあったか?」
「通信があったよ、お迎えが来るってさ」
やはり複数の人間が部屋にいる。どうする、ここから脱出か……制圧なんて無理だろうし。いや……。
(いっそ華々しく散るもアリだな…)
生きてる理由も無いし、家族に迷惑をかけるくらいならここで終わりにした方が全てが上手くいくのなら……。
「あの坊や、そろそろ起きたかな?」
「飯でも持って行ってやるか」
「……大した飯じゃないがな」
話が弾んで、笑い声が沸く。捕まったままでどうする…どの道、明日は無いんだろうな…。
「あ、起きて来てる」
「……!」
その声に顔を上げた。そこにいたのは年の近い女の子だった、驚いて体勢を崩し、尻餅を着いた。
「おぉ、やっぱり起きてたか」
「坊や、心配するな。俺たちは敵じゃない」
女の子に続いて、部屋にいた人間が顔を覗かせる。しかし、その言葉に確信は持てない。
「敵じゃないという証拠を見せて、そうでなければ安心もできない」
「尤もな意見だ、俺たちよりしっかりしてるぜ」
何がおかしかったのか、彼らは笑っている。何かしらの意思は感じる、それが敵意かどうかもまだ判別は難しい。
―――グゥ〜……。
緊迫した場面で、僕のお腹が鳴った。最適解ではない主張が恥ずかしく、僕は苦し紛れにため息を吐いた。
「やっぱりな。来いよ、飯を用意してある」
「まずは腹を満たしてからだ、ほれ―――」
そう言って一人が僕に手を差し伸べる。
彼らが信頼するに値するかは分からない。けど、彼らに敵意が無いということだけは分かった気がする。
僕は差し伸べられたその手を掴んだ。大人の力で持ち上げられ立ち上がった僕は、ゆっくりと部屋に入っていった。
「ご馳走様でした…」
パンと野菜の多いスープで腹を満たして手を合わせた。思いのほかスープの味が濃くて味覚を刺激された。部屋のテレビに映る姉の姿に目を細め、僕は目を逸らした。
「さて、話をしていいか?」
「はい…」
冷静さを取り戻し、緊張の解れた僕に一人が話しかける。居住まいを正し、僕はしっかりと向き合う事にした。
「はい、どうぞ」
「すいません、ありがとうございます」
机の代わりにした木箱の上に飲み物を出され、頭を下げる。女性は僕の側に立つ、監視を含めているのかもしれない。だが、敵意は感じられない。食事をしていても、僕を狙うような意思や行動が見られなかった。
「まず、お前さんをここに連れてくるように依頼した人間は、篠ノ之 束だ」
「…どうして、あの人が?」
語られた真実に戸惑いを隠せない、ISの生みの親である彼女が僕みたいな人間に何の用があるのか、さっぱり理解が出来なかった。
「さぁな、俺たちもそこまでは知らない。そもそも、俺たちは篠ノ之 束が依頼した奴に頼まれた」
「誰なんです…?」
「―――マフティーだ」
マフティー……最近、ニュースでよく聞く名前だ。それはISによって歪んだ体制を正すべく、女尊男卑主義の人物を暗殺して回っている集団。いわばテロリスト…。
束さんがそんな人たちと繋がっているという事への戸惑い、未だに見えない束さんの意思、頭がパンクしそうで言葉が出てこない。
「世間ではお前が誘拐されたかもしれないって騒いでる、それを見越してあの女は…」
「……来たよ、お迎え」
会話を遮るかのように物音がする、足音が近づいて段々と大きくなっていく。
「この子かい?『織斑 一夏』って…」
最初に顔を覗かせた赤毛の女性は、僕をジッと見つめる。さっきの話を聞いてからか、身体が硬くなっていく。そう、この人たちはテロリストだ。
簡単に命を奪う部類の人間、余計な行動は命取りになるかもしれない。僕はその女性に対し、ただ会釈をしてやり過ごす。
「早速で悪いが、付いてきてもらうぞ?」
その後ろから現れる体格の良い男性、その大きさに圧倒されて僕は頷く。
「安心しろ、取って食ったりはしない」
僕の心情を察してか、男性は笑った。成人男性にしては朗らかな笑みに、僕の肩から力が抜けた気がする。再び男性に頷くと、僕の向かいに座る男性が立ち上がる。
「さて、後は任せるぞ。坊や、ここでお別れだ。元気でな」
「……いろいろと、ご迷惑をおかけしました」
僕も立ち上がって、目の前の男性に頭を下げた。
「そういう時はありがとう、でいいんだよ」
「……ありがとうございます」
「さぁ、行くよ」
「外で待たせてるんだ、急ぐぞ」
後から来た二人に急かされ、僕は後を追った。部屋を出る際にもう一度、頭を下げた。男性は笑みを浮かべながら手を挙げて答えてくれた。
早足で二人を追って建物を出ると、久々の日光に目を覆う。あまりにも眩しくて、消えてしまいそうだ。
「彼がそうか?」
声をかけられ振り向くと、そこにいた赤毛の男性に声をかけられる。部屋に入ってきた二人よりも若く、青年と見られるその人は僕を観察するように見てきた。
「織斑 一夏です…」
「レーン・エイムだ、よろしく頼む」
レーンという男性は、僕から視線を外して二人のところへ行く。若く新鮮なイメージがあるけど、あの人もテロに加担しているのだろうという邪推が思考の邪魔をする。
「では、少年…移動するぞ」
「どうやって移動を…?」
周りを見回しても車やヘリコプターといったものが無い。わざわざ歩いて…?テロリストにしては、あまりにも無策だ。
「こうやってだ」
そんな事を考えていると、レーンさんが光に包まれた。あまりの出来事に驚いて頭が追いつかない。光が晴れると、目の前にいたのは人では無かった。
大きな機械だ。足のように二本で立つそれを見上げると、人間でいう胸に当たる場所にレーンさんがいた。それが心臓にも思えた。
「IS…どうして…!?」
「『ペネロペー』だ、事情は後で話そう」
レーンさんは僕を持ち上げた。普段からは見えない景色だが、今は焦りと驚きであまり喜べない。
「レーン!これくらいは持たせておけ!」
体格の良い先程の男性が右手にスプレーを持っている。レーンさんは僕を降ろし、僕は男性からスプレーを受け取った。
「少し雑な扱いだが勘弁してくれ、あのままだったらお前が潰れて死んじまってる」
「すいません、何から何まで…」
受け取ったスプレーは酸素だった。同時にポケットから渡された耳栓を受け取る。わざわざ僕のために準備してくれたと思うと、申し訳ない気持ちが出てくる。ありがたい気持ちはある、それを上回ってしまう。
「じゃあ、また後でな」
僕の頭に手を置き、男性は女性の所へ歩いて行く。女性もISを起動させている。ピンクや青を含んだ黒の機体、頭部にある角が特徴的だった。
「では、行くぞ。勘付かれると厄介だ」
「うわっ……!」
レーンさんが再び僕を抱える。急いで耳栓と酸素スプレーを装着する。やがて飛び上がったレーンさん。鳥になった気持ちもあるが飛行によってかかる負荷に耐えきれず、僕の意識は途切れた―――。