インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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UAが40000を超えました、本当にありがとうございます。


past.3

「……」

 

気が付くと、僕はまたベッドの上にいた。気を失う前に起こった出来事を思い出しながら、身体を起こした。

確か、誘拐…?救出…?何かの形で僕は連れ出された。そして、また別の人たち、ISを間近で見ると迫力があったな…。

 

「そうだ、IS…」

 

僕を運んだであろうISを思い出した瞬間、身体が軋んで悲鳴を上げた。思わず顔を歪めて、再びベッドへ身を沈めた。

 

「一体、どうなっているんだろう…」

 

告げられた真実に頭が追いつかなかった。束さんとはしばらく会ってはいないし、ましてや僕をどうこうしようとする意図が理解できない。双子の兄である春十を自分の手中に収めるというのなら、まだ納得がいく。姉さんの差し金…あり得る話だけど、どうなんだろう…。

 

「あら、目が覚めたかしら?」

 

考える僕にかけられたその声は優しかった。顔を動かすと、部屋に入ってきた一人の女性。短く切り揃えられた赤みがかった髪が特徴で、声と同じように優しい表情をしていた。

 

「ここは……?」

 

「船の中よ。レーンがそのまま連れて来るって聞いて、本当に驚いたわ」

 

そう、レーン。確か、レーン・エイムと言っていた。なんで男の人がISを扱えるんだろう?仮に動かせるとして、もっと有名になっている気もするんだけど…。

 

「大丈夫?どこか痛いところとか、具合が悪かったら言ってね?」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません、体はどこも問題ないと思います」

 

そう言って起き上がろうとするが、再び軋んだ身体に顔を歪めた。

 

「生身でISに連れられて来たんですもの、無理はダメよ」

 

女性は僕を制して再び横にさせると、慈愛に満ちた表情で頭を撫でてくれた。こうやって頭を撫でられると、どこかむず痒い。

ただ、この優しい手の温もりに身を委ね、僕はいつの間にか眠りについていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ました時、身体は少し楽になっていた。僕の世話をしてくれるケリア・デースさんに頼み、リハビリを兼ねて船の中を案内してもらった。

豪華客船をイメージしていた僕が悪いんだろうけど、思った以上に通路は狭い。人が並んで歩く分のスペースはあるが、必要最低限に思えて圧迫感を覚える。

 

通信室、操舵室と順番に案内され、最後に整備室を訪れる。近づくにつれて、人の声や物音が大きくなっていく。通路の先に出ると、作業員と見られる人たちが忙しなく動いていた。漂ってくる油のような匂い、分解されて置かれている部品が見えた。

 

「ここがドックよ、ISの整備を行っているわ」

 

「こうなっているんですね」

 

想像していたものとそうでないものが目の前にあり、思わず僕はその光景を凝視していた。

オレンジに近いカラーのマシンの中、僕は一つだけ色の違うものが見えた。それは全体的に白く、他のISよりも大きなものだった。

 

「あの、あそこにあるISって―――」

 

「ケリアー!」

 

ケリアさんに尋ねようとするものの、別の声が遮るように聞こえてきた。ケリアさんと一緒にその声の主へ振り向くと、そこには長い赤髪の女性がデッキの上から手を振っていた。

 

「もう坊やは起きて大丈夫なのかい?」

 

「リハビリで船の中を案内してまーす!」

 

「あの人、たしか…」

 

「エメラルダ、君を迎えに行った人よ」

 

ケリアさんが教えてくれたエメラルダさんは、僕と目が合うと同じように手を振ってくれた。僕はかける言葉が見つからず、頭を下げた。

二人の声を聞いてか、周りの人達が集まってくる。瞬く間に囲まれ、身動きが取れなくなってしまった。

 

「こいつか、嬢ちゃんが言ってた坊主は」

 

「かわいい顔してるね〜」

 

「どうも、色々とお手数をおかけして…」

 

人の波に押し寄せられ、僕は泡を食うようにして頭を下げる。仕事の時にはこういった雰囲気の人もいたが、こんなに大人数だと圧倒されてしまう。

 

 

 

   「あの、すいません…奥にあるやつは―――」

 

         「ペネロペーだ」

 

 

 

僕の質問を制するように、その声は凛としていた。僕の背から聞こえた声に振り返ると、そこには見覚えのある人物がいた。短い赤毛に、自信が窺えるような雰囲気のその人は真っすぐに僕を見つめていた。

 

僕はその人に一歩近づいて頭を下げた。

 

「レーンさん、ありがとうございました」

 

「ドクターの頼みだ、断るわけにもいかないからな。どんな奴かと思ってはいたが、しっかりしてるようだ」

 

レーンさんの言うドクター、きっと束さんの事だろう。僕の中には疑惑、懐疑でいっぱいになっている。どうあれ、束さんに会ってみなければ前には進まないだろう。僕はそれまで、世話になった人達とたくさん話をした。

自分たちがやってきたこと、その外側にいる僕が思っていること、自分たちと世間とで意識のギャップがあること、ひたすらに言葉を交わしたのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから半日が経ち、船舶は目的地にたどり着いた。コンクリートに木が絡みつき、工廠というよりは隠れ家に近い。それぞれの仕事があり、人がバタバタと動き回っている。

僕はケリアさんの後に着いて船を降りる、どうやら会わせたい人がいるとの事だった。束さんがわざわざ来るとは考えにくいが、想像が追いつかないところを考えるとこの場所にいるのかもしれない。

 

「じゃあねー!」

 

「元気でなー!」

 

遠くで作業をしていた人達から声をかけられ、手を振られた。僕は立ち止まって頭を下げ、再びケリアさんの後を着いて行く。

建物の中に入ると、潮の匂いが薄くなり快適に感じる。海の上の生活という事もあって、ベタベタとした感覚が着いて回った。

 

"中と外でこんなに違うのか…"

 

そんな事を考えていると、先に歩いていたケリアさんが足を止めた。部屋の扉をノックして、中にいる人が返事をした。

 

「―――はい」

 

「失礼します、織斑 一夏くんをお連れしました」

 

「ああ、入ってくれ」

 

許可を貰い、ケリアさんは部屋に入っていく。僕も後に続いて部屋に入っていく。

―――そこには一人の男性がいた。本棚の資料を眺めながら、調べ物をしている様子だった。

 

 

 

僕にとって、これは運命の出会いだった―――。

 

 

 

「すまない、立て込んでいて……少し待っていてくれるか?」

 

その人は手早く資料に目を通し、必要なものをリストアップしてまとめていた。しばらくの間、部屋をキョロキョロと見渡して観察していく。棚の資料は様々なファイルに保存されていて、厚さもバラバラだった。

 

 

 

「よし、待たせたね。初めまして、織斑 一夏くん―――僕はノア、『ハサウェイ・ノア』だ」

 

 

 

向き直った男性、ハサウェイさんは柔らかく優しい声で挨拶をしてくれた。差し出された手を掴むと、やはり微笑みを返される。

 

「ここに来るまで、何度か聞いたかもしれないが…僕らはある人物に君の救出を依頼された」

 

「束さん、ですか……」

 

「そうだ。彼女は君のことを心配していたよ、君を助けてほしいとね…意味は図りかねるがね」

 

束さんは本当にマフティーに依頼をしたんだ、この時にそれは確信に変わった。特別に慕っていたわけではないが、驚きはある。自分の才能や力に絶対の自信を持っているあの人が、他人を頼りにするという事に驚いた。

 

「僕は、これからどうなるんでしょうか…」

 

「束が君を迎えに来るはずだ、それからの事は彼女に聞いて君が判断すればいい」

 

「………」

 

元の生活に戻ることは出来ないかもしれない、そう感じた。

未練があるわけじゃない、単純に息苦しい毎日でいい思い出なんてものはない。バイトで出会った人たちから得た知識と経験は貴重なものだった言える、おかげで色んなスキルが手に入れられた。

 

 

 

―――束さんは僕をどうするつもりなんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束さんが到着するまでの間、僕はハサウェイさんからマフティーについて詳しく聞いていた。ニュースで聞く通りのテロ活動、様々な工作、理念はこの世界の安定が目的であるということ―――僕は話を聞いていくうちに、胸のうちに決意を固めていく。

 

「束さんは、初めて会った時はどう感じましたか?」

 

ドックに向かう道中、僕は恐る恐る尋ねた。見た所、ハサウェイさんは束さんと年齢は離れていない。というのも、束さんは他人との交流に興味を持たないタイプで、同年代の人間と話しているところを想像できない。僕の姉が唯一の友人と言っても過言ではないだろう。

 

「そうだな……背伸びをした子供、とか?」

 

「……というと?」

 

「昔の自分もこうだったと思って、僕は彼女みたいに優秀じゃなかったけどね?ただ、自分のやりたい事が他の人間にとってはそうでないと分かった時……僕もがむしゃらになったものさ」

 

なにか思うところがあったのか、歩き続けるハサウェイさんは少し目を伏せた。

 

「―――フフッ」

 

「笑うなよ、ケリア……」

 

ハサウェイさんの語りに、僕の隣を歩くケリアさんが笑みをこぼした。ケリアさんの笑い声を聞いて、恥ずかしそうにするハサウェイさん。再びドックに足を踏み入れた僕たちを待ち受けていたのは、件の主謀者ともいえるあの人だった―――。

 

 

 

        「いっくーん!!」

 

 

 

その人は僕を見るや否や、早足で駆け寄ってきた。強く抱きしめられ、豊満な胸で窒息する前に束さんの背中を叩いて離れる。

 

「よかった!怪我してない?どこか痛いところとか…」

 

「……問題ありません、それより聞きたいことがあるんです」

 

心配してくれる束さんをピシャリと遮り、僕は彼女に真意を確かめる。

 

 

 

「マフティーに僕の救出を依頼したのは、貴女なんですか?」

 

 

 

その問いに束さんから笑みが引いていく。彼女は腹を括るかのようにため息を吐き、少しの間を置いて口を開いた―――。

 

 

 

「そう、私がハサにお願いしたの。私が動いたら大事になっちゃうからね」

 

 

 

信じたくはなかった。でも、その言葉に嘘は無かったし、どこか腑に落ちた。これほどの人が動けば大きな騒ぎにもなるだろう、それを思えば依頼をした事にも納得できる。

ただ、一つだけ気になることは―――。

 

「どうして僕を助けたんですか…」

 

「私が助けたかったから、それじゃダメ?」

 

束さんの言葉とは思えないものであった。親友の弟で姉の友人、僕たちの関係はそれだけだった。こんな希薄な関係、普通なら他人に近いものだ。あの二人に比べ、全てに劣るこんな僕を……この人は助けてくれたんだ。

 

       「……ごめんなさい」

 

     「もう、そうじゃないでしょ?」

 

       「―――ありがとう」

 

「うん、こっちこそ……無事でいてくれて、ありがとう」

 

束さんは目に涙を浮かべながら、再び僕を抱きしめてくれた。仕事での仮初の温もりじゃない、本物の愛情を感じることができたと、心の底から思えたんだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再会を喜んだ後、束さんは他にも用事があったらしい。物資の納入を済ませながら、僕は大きなオブジェのようなものを眺めていた。

 

「これは…」

 

「間に合ったみたいですね」

 

「あぁ」

 

ケリアさんとハサウェイさんは、そのオブジェの正体を知っているような口振りだった。

 

「お待たせ、確認してもらっていい?」

 

物資の搬入の最中、束さんはパチンと指を鳴らした。すると、そのオブジェは光の粒に変わっていく。その粒子が消えた場所に、存在していたもの―――。

 

 

 

   「待っていたよ、『ΞG(クスィージー)』」

 

 

 

―――ISだ、レーンさんのペーネロペーのように、一回り大きなマシーンだった。

 

ハサウェイさんはそれを愛おしげに触れ、満足した表情をしていた。ハサウェイさんはISから離れ、足早に建物へ入っていった。しばらくしてハサウェイさんは、黒地に黄のラインが入った衣装で戻ってきた。

スポーツ選手のインナーウェアを連想させるそれを見て、僕はISスーツの存在を思い出した。

 

ISを使う人間はそれに適した物を着用する。それは伸縮や保温に優れるだけでなく、パイロットの生命維持装置の役割を持つのだという。

 

「束、手早く頼む」

 

「もう、せっかちさんなんだから……起動確認、PICの運転に入るよ」

 

身を任せるようにISに飛び乗るハサウェイさん、それに文句を言いながらも束さんはコンソールを操作していく。幾多のウィンドウを確認しながら、操作をする束さんの姿はプロのそれだった。妥協を許さない、芯の通った人間と同じものを見る。

 

後ろから覗き込むと、ウィンドウに浮かび上がるゲージが少しずつ溜まっていくところが見えた。

 

「今は初期化(フォーマット)と最適化(フィッティング)をやってるの」

 

「フィット……使いやすいように?」

 

聞き慣れない言葉に僕は目を瞬かせ、必死で答えを引っ張り出した。どうやら外れでは無いらしく、束さんは頷いた。

 

「そんなところ、専用機なら必要なことだからね」

 

専用機、ハサウェイさんのいうΞというISは彼だけの翼ということなのだろう。ただ、今になって気づいたことがある……。

 

「どうして、男性がISを扱えるんでしょうか?」

 

「ああ、えっとね……」

 

ISは女性しか扱えない、それは束さんが提唱したISの欠点とも言えること。この世界が歪んだ原因、その核心とも言えた。レーンさんにハサウェイさん、ISの定義を根底からひっくり返す人間が二人もいる。

これが事実なら、話題になってもいいはずだ。話題に留まらず、この世界のバランスが大きく変化するかもしれない。

 

「僕も最初は驚いた、この世界にも『MS(モビルスーツ)』のようなものがあったのだから……」

 

「はい…?」

 

僕は思わず聞き返した。ハサウェイさんが言ったことは、まるで……。

 

 

 

 

 

「僕は、いや、僕たちマフティーは―――元々、この世界にはない。別の世界からやって来たんだ」

 

 

 

 

 

 




投稿してないのに、お気に入りが増える現象……嬉しさと恐ろしさは同梱するみたいです。
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