インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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第5話

闘いが終わり、セシリア・オルコットはピットへと帰還する。

 

自身の力量には自負があり、ヴァルトの言う通りで慢心は少なからず存在した。だが敗北したのも関わらず、彼女の心はどこか晴れやかだった。

 

「まずはご苦労だった。次の試合に備えて、インターバルを取っておけ」

 

「はい。山田先生、お願いします」

 

「は、はい……!」

 

慌てて立ち上がる山田 真耶は、セシリアから待機状態になったブルーティアーズを受け取る。

 

織斑 千冬はセシリアの表情を目にする。プライドの高い人間という印象を抱いていた彼女だが、今のセシリアからはそういった感情は見受けられない。

 

「思い知りましたわ」

 

「うん……?」

 

「あんなにも強い人がいたなんて、思いもしませんでしたわ」

 

「……そうだな、今の自分に満足しないことだ。代表候補なら、尚更にな」

 

セシリアは千冬の言葉に頷くと、ピットを出て行った。

 

その様子を視界の端に捉えていた真耶は、作業を続けながら千冬に話しかける。

 

「オルコットさん、何かいい事があったようですね」

 

「ああ、そうだな」

 

良い変化を目の当たりにし、教師である二人は嬉しそうだった。過激な発言をしたセシリアはクラスの中で、疎外されつつあった。

もし彼女に変化がなかったとしたら―――千冬は最悪の結末を想像したが、今のセシリアなら、その結末を回避できるかもしれない。

 

特に確信はないが、千冬はこの後のことを心配しなかった。

 

そんな中、セシリアと入れ替わるように織斑 春十がピットへ入って来る。

 

「さぁて、軽く料理してやるか」

 

「思い上がるな馬鹿者、その気の緩みは敗北を招くぞ」

 

「心配するなよ、千冬姉。あんな奴、相手にならないぜ!」

 

自信に満ちた様子の織斑に、千冬は溜息を吐いた。数日前に専用機を受領したものの、まだ彼は素人なのである。

秀でているとはいえ、それに胡坐をかけば痛い目を見るのだ。昔から口を酸っぱくして言ってはいるが、それを聞いた試しがない。

―――頭を痛める千冬を他所に、織斑は専用機を展開する。

 

右手のガントレットが輝くと、彼は白を纏った―――。

 

「白式」―――織斑 春十専用に製造された第三世代ISである。

 

「よっしゃ!行くぜ!」

 

意気込んでカタパルトから発進すると、千冬はモニターを見つめた。

 

「まさか、こんな結果になるとはな……」

 

「え……?」

 

千冬の呟いた言葉を耳にして、真耶は思わず千冬の方を見た。その表情からは、弟の心配だけでなく、別の感情が混じっているように思えた。

そして、アリーナに現れた「新たな白」に歓声が沸いた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな~♪いっくんの試合が始まるぞ~」

 

とある国の海辺、蒸し暑い空気の中で声がする。整備されたISが鎮座するそこは、まるで軍の基地だった。

 

「なんだ?」

 

「『一夏』が戦うんだってよ!行こうぜ!」

 

ISの整備や物資の運搬をしていた者たちは、仕事を放り出して声の主の元へ集まる。

作業服の者や、ISの搭乗に使用するスーツを着ている者がぞろぞろと出てくると、篠ノ之 束は壁に映像を投影させる。

 

「よし!準備できた!」

 

「いつも思うけど、アンタはやることが規格外だね……」

 

エメラルダ・ズービンは、長い髪を後ろでまとめた束に苦笑いを浮かべる。

そんなエメラルダの言葉は、束にとっては誉め言葉だった。無邪気な笑みを浮かべると、ワイシャツの袖を肘の辺りまで捲る。

 

「どうなってる?終わった?」

 

「まだ始まってすらねぇよ……」

 

フェンサー・メインが後ろから顔を覗かせると、ガウマン・ノビルは呆れながらに答えた。

 

「しかも、あいつが勝つ前提かよ」

 

「一夏が負けるわけないだろ?」

 

顎髭を触りながらガウマンが呟くと、フェンサーを含めたその場の全員が頷いた。彼らは静夢と時間を共にし、苦楽を共にしてきた。

幼いながらも、信念をもって行動する静夢はメキメキと成長していった。その結果、静夢は映像の向こう側で奮闘しているのだ。

 

「そろそろだな……うん?おーい、ハサウェイ!」

 

エメラルダの隣に立つレイモンド・ケインは、遠くから歩いてくる人物を呼んだ。

 

まだ幼さが残るその青年はレイモンドに手を振って、小走りになって駆け寄る。集団にたどり着くと、仲間たちが彼を前へと押しやる。

 

「状況は?」

 

「これからだ、楽しみだな」

 

真剣な面持ちになるハサウェイ・ノアからピリピリとした空気が発せられる。それを宥めるかのように、シベット・アンハーンはハサウェイの肩に手を置いた。

 

映像からブザーが鳴ると、そこに映る二機のISは戦闘を開始した―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

準備を完了し、累 静夢はアリーナに出た。同時に観客席から上がる声援を耳にして、静夢は手を振ったりうやうやしく礼をする。

 

「俺を待たせるとはいい度胸だ……」

 

対戦相手である織斑 春十は、なにやら機嫌を損ねているようだ。口調からそれを感じたが、静夢にはどこ吹く風といった様子だった。織斑の口上が続き、暇を持て余していた。

 

"こうしていると、「ハサ」や「レーン大尉」と戦ったことを思いだすな……"

 

過去に運命の出会いをした静夢は、世界を相手にする戦いに身を投じた。恩人の一人である篠ノ之 束には反対されたものの、ハサウェイ・ノアは彼の意思を尊重してくれた。

雑務やフォローを主に仕事とし、やがては戦場へ赴くこととなる。

 

そこで直に感じた殺気や命のやり取り、人間に対して引き金を引く覚悟―――。

 

彼は少年でありながら、過酷な環境を生き抜いてきた。実際に己が手を汚し、葛藤したこともあった。

―――それでも、彼は立ち止まることはなかった。

出会った人や、手に入れたものが静夢の支えとなったからだ。

 

自分の隠れ蓑として、ハサウェイを通じて植物監察官の訓練生となり世界を回った。

植物や自然だけでなく、その地にいる人々との出会いもまた、静夢を構成する一部となったのだ。

 

「おい!無視するな!」

 

「ん、終わった?」

 

昔を懐かしんでいると、織斑が声を荒げていた。ようやく始まると思うと、静夢は深呼吸をして戦闘態勢に入る。

 

「そんな変哲もないISで来るとは、乗っている人間と同じとは滑稽だ!」

 

「………へぇ」

 

織斑の言葉に、静夢の目が鋭くなる。織斑は図らずも静夢の逆鱗に触れた、その言葉は静夢の怒りを買うには充分だった。

 

「君は知ってる?」

 

「は?」

 

「……ISに込められた願いを」

 

「はぁ?何言ってるんだお前。そんなものは必要ない!俺は選ばれた存在、この才能があれば俺は無敵だ!」

 

高笑いをする織斑に対し、静夢は白い目を向けた。溜息を吐いて、ぼそりと呟く。

 

「よく喋るやつ……」

 

「なんだと?」

 

「昔から言うだろ?弱いやつほど、よく吠えるって」

 

口元を三日月のように歪めた静夢は、両手を広げながら肩を竦めた。

 

「……謝るなら今の内だぞ?俺は冷静さを欠こうとしている」

 

わなわなと肩を震わせる織斑は、最後通告として言葉を発した。

 

「ああ。虚勢を張るのは、自分を強く見せて自尊心を保つためって聞いた事があるけど……実際はどうなの?」

 

静夢は構わずに続けた。焦る様子も見受けられず、込み上げて来た怒りは知らぬ間に息を潜めていた。

 

「そんなに痛めつけられたいなら、望み通りにしてやる!後悔するなよ!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れた織斑は、試合開始のブザーと共に武装を展開する。

手にした日本刀のような近接ブレード「雪片二型」―――それはかつて、織斑 千冬が使用していた武器を改良したものであった。

 

飛び出す織斑に対し、静夢は自然体を保ったままであった。徐々に迫る織斑だが、静夢は尚も冷静だ。

 

「オラァァ!!」

 

間合いに入った織斑は自慢の剣を振るった。

 

開幕の一太刀を確信した織斑はニヤリとするが、その思いは裏切られることとなる。

 

「…………」

 

「……なに!?」

 

軌道を見切った静夢は体を屈める。それだけでなく、織斑の右手をすり抜けて背後を取った。

 

躱されたことに驚く織斑は、スピードを殺せずにアリーナのバリア付近でようやく止まった。

 

「てめぇ……!」

 

「攻撃を避けるのは当然だろ?それとも、絶対に当たる自信があったのかい?」

 

「ふざけたことを……!」

 

「それはこっちの台詞だよ、遊んでないで本気でやってよ」

 

静夢の口車に乗せられ、織斑は雪片二型を握り直した。勢いに任せた特攻とも見えるそれを、静夢は難なく回避していく。尚も怒りを煽る静夢は、自分から攻めることをしなかった。

 

"どんなものかと思ったけど……まぁ、こんなものか"

 

静夢が回避に徹していたのは、織斑の実力を見定めていたからだ。この場所に潜入するからには、敵戦力として専用機を持つ人間の情報を得る必要がある。

だからこそ、こうして攻撃をかわしているのだが、あまりにも退屈で肩透かしを食らった気分になった。

 

静夢と織斑との間には大きな実力の差があった。静夢は戦場に出るために、仲間たちから対人格闘や射撃の訓練を受けて来たのだ。

何度も訓練を繰り返し、素人には負けないくらいの力を持つこととなった。

 

"街の不良を相手にするより楽だな……"

 

世界をめぐり、様々なトラブルも経験してきた静夢にとって、織斑の相手は暇つぶしにもならなかったのだ。

 

まっすぐに振り下ろされた雪片を避けると、静夢は織斑の右腕を掴んだ。動きを封じたところで、左の裏拳を放つ。

 

「ガァ…!?」

 

その裏拳が顔面に当たり、織斑はのけぞった。

ISの持つシールドバリアがあるとはいえ、衝撃はパイロットへ伝わる。軽減されてはいるものの、顔面の衝撃は誰にでも効く。

 

ここぞとばかりに、静夢は攻撃に転じた。そこには若干の苛立ちがあった。

 

今度は左手で織斑の右腕を掴み、大きく振って正面を向かせる。がら空きになったところに、右フックを放った。

最後は右足で織斑を蹴り飛ばした。

 

"終わらせる?いや、ヴァルト君のインターバルもあるし……"

 

早々に終わらせることも可能だが、この後に控えるヴァルトのために、時間を稼ぐ必要もあった。ヴァルトはどちらでもいいと言ったが、すぐに終わらせてもヴァルトの回復が間に合わないだろう。

 

「ま、いいか」

 

なんとでもなる―――深く考えることを止めた静夢は、武装を展開した。

右前腕部に現れたバレルアーマーが展開され、静夢は狙いを定めてトリガーを引く。

 

「そんなものに……」

 

白式からの警告に、織斑は回避行動を取る。たとえ距離があったとしても、弾道を読んで接近すればいい。織斑は右に回避するが、その選択は失策だった。

 

 

次の瞬間、信じられないことが起こる―――。

 

 

アーマーから発射されたビームが、軌道を変えたのだ。それはまるで、リボンのように緩やかな軌道を描いて、織斑に迫った。

 

「なに……!うおッ……!?」

 

あり得ないビームの軌道に驚き、動きが止まった織斑はその攻撃を受ける。静夢は再びトリガーを引いて、淡々と織斑を追い詰めていく。

 

「クソッ…!」

 

読めない弾道を前に、織斑は手も足も出ない。ネックである遠距離、さらには曲がるビームを対処しなければいけないのだ。

 

「負けてたまるか!こんな雑魚に……!」

 

「本当によく喋るね、もう黙ってくれない?耳障りなんだけど……」

 

「ふざけるなぁぁ!!」

 

ボロボロになりながらも、ようやく弾幕を抜けた織斑。すると、白式が光を纏った。

 

「零落白夜」―――白式に備えられたワンオフアビリティー。自身のエネルギーを消費することで、相手のエネルギーを大きく削るというものである。

かつて、織斑 千冬が使用したものを改良したものだが、諸刃の剣であるということに変わりはない。

 

「これで終わらせてやる!覚悟しろ!」

 

「…………」

 

相手が切り札を切ったという展開だが、静夢はもはや無気力に近い状態だった。

 

世間が「天才」や「逸材」と持ち上げる織斑 春十だが、手を合わせてみれば只の子供だったのだ。姉の七光りに縋るようなISに乗り、大した力もなく自信を見せる様子は道化にすら劣って見えた。

 

"面倒だな、もう終わらせよう……"

 

バレルアーマーを前腕部に収納すると、先ほどのように脱力して織斑を待った。

無理に相手の土俵に立つ必要はないのだが、逆を言えば相手の得意分野で負かせば鼻も折れるというものだろう。

 

「ハァァァ!!」

 

静夢を再び間合いに入れた織斑は、残る力を振り絞った。どれだけ劣勢にあろうとも、この一太刀が当たれば、間違いなく勝利を掴めるという自信があった。

散々、コケにされた分をここで返さなければ、気が収まらないというのが本心でもあった。

 

 

しかし、大きく離れた差を埋める程の力を、彼は持ち合わせていなかった―――。

 

 

「くらえ!」

 

「……!」

 

相対する二つの白、決着はすぐであった。

 

静夢は、振るわれる雪片を屈んで躱した。同時に右フックを放ち、織斑の腹へと打ち付けた。

衝撃によって仰け反るも、織斑は再び切りかかる。

 

水平に振るおうとするが、静夢がそれをさせなかった。白式の左腕を制し、織斑の頭を掴んで押さえつけると、膝を打ち込んだ。

 

白式の腕を掴みなおし、そのまま背後に回り込んで腕を締め上げる。

武器だけを押さえてしまえば、静夢にとってはただの的だ。

 

静夢は織斑を解放してやると、正面を振り向く織斑を追撃した―――。

 

白式の右腕を蹴り上げ、その手から得物を離す。静夢はすぐさま距離を詰めて、懐へ入り込んだ。

 

「フッ!フッ!」

 

「ウッ!?ゲフッ…!」

 

短い間隔で、静夢は腹へ二発の拳を打ちこむ。怯んで顔を上げた織斑に、右肘をぶつけた。さらに体を捻って、右の回し蹴りを放つ。

 

武器を失い、ふらふらになる織斑。静夢は左手に新たな武装を展開した。

左手を覆い隠すような、巨大なアーマーが出現した。観客席とピットにいる誰もが、静夢の行動を予見した。

 

「せぇ、の!」

 

「グァァァ!?」

 

勢いを付けた静夢は、左手のアーマーで織斑を殴りつけた。回避も防御もできない織斑は、アリーナの地面に向かっていった。

轟音と土煙を上げ、織斑はアリーナの地面に激突した。土煙が晴れると、そこにはISを解除して大の字になっている織斑がいた。

 

『勝者―――累 静夢』

 

試合終了のブザーとアナウンスが流れた。静夢は虚無感を得ると同時に、溜息を吐いていた。

 

「何にも感じなかったな……ごめん、『ユニコーン』」

 

ほとんど無傷とはいえ、託されたこの力を意味のない事に使ってしまった。静夢は愛機であるIS「ユニコーン」に対して謝罪したのだった―――。

 

 

 




今回は特に戦闘描写が雑になってしまったと思います。

次回からは静夢VSヴァルトになります。

物語の進展と共に、改善していきたいと思います。
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