インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
2月になってしまいましたが、ようやく形になりましたのでお届けさせていただければと思います。
ドックから飛び出したクスィーとペーネロペー、洋上を飛び交い互角の戦いを続けていた。ビームライフルから放たれる一筋の光を躱し、同じように相手を狙う。射撃と回避が続き、レーンは左腕に装備されたウェポンユニットを構えた。
するとハサウェイも肩に装備されたグリップを抜き放つ、発生したビームが刃となりペーネロペーを肉薄した。
二機のビームサーベルが交差し、火花と閃光が散る。クスィーが腕を返して体勢を崩すと、ペーネロペーの両肩にあるビームキャノンが火を噴く。それを躱すクスィーが再び接近、鍔迫り合いが続く。
「キサマは何一つ変わっていない…」
「なに…?」
「お前は、新たなマフティーを生み出そうとしている!彼を引き入れるとは、そういう事だ!」
ペーネロペーがクスィーを蹴りつけて距離を取った、ビームライフルの弾幕でクスィーを遠ざける。最低限の回避で体勢を立て直し、ハサウェイは勝つためのカードを切る。
「行け…!」
両腕、両膝に装備されたミサイルが放たれる、サイズは大小様々で真っ直ぐペーネロペーに向かっていく。
「ッ、同じ手を何度も…!」
脳裏に蘇るビジョンがレーンの感情を煽る、ペーネロペーのビームキャノンでミサイルを一掃すると、レーンはこの後に来るはずの本命を待ち構える。それはマフティー・ナビーユ・エリンと初めて対峙した時であった―――。
相手の陽動に気を取られ、ミサイルの雨に打たれた愛機は海に沈んだのだ。
同じやり方で倒せるという自負、楽観―――レーンにはどちらとも捉えられた。大人を気取ったようなハサウェイのやり方は気に食わなかったのだ。
爆煙の中にいるであろうクスィーを見据え、ビームライフルを構えた瞬間であった。
「なに…!?」
爆煙の中から飛び出したのは数基のミサイル、通常のミサイルではないその形状をレーンは知っている。後方に下がりながら頭上に跨る大きな機首からバルカンを連射、這い寄るミサイルを撃ち落としていく。
「「ファンネル・ミサイル」か…!」
通常のミサイルに比べ、そのミサイルは「とある技術」が使用されている。脳波による軌道のコントロールが可能となっているのだ。
しかし、今回は数が少なく、レーンは難なくそれをクリアした。
「フッ…!」
「ウゥッ…!」
安心した束の間、クスィーが飛び出して来た。左手のビームサーベルの一閃から感じたプレッシャーに反応してか、レーンは左腕のウェポンユニットのビームサーベルを起動させていた。
そのまま左手を伸ばし、ビームが突き刺さした―――。
「「ッ……!」」
互いのビームサーベルは直撃を免れていた。それぞれの額から伸びるインターフェース、右のブレードアンテナを掠めていた。ビームで焦げるそれが音を放ち、睨み合いが始まる。
「他に方法があれば、教えてもらいたいものだな…!」
「何を…!」
「人質を盾にして、トラップを使わなければまともに戦えない……君こそ何も変わっていない!」
歯噛みするレーンは言葉に詰まった、それがハサウェイの言葉が正しいと認めてしまっていた。上官の命でガウマンを人質とし、その上官が連れ回す女の勘を頼る、言葉で否定してもそれを受け入れざるを得なかった過去が一気に蘇る。
「相変わらず…情けないヤツなのだな」
「よくも…!」
互いにサーベルを振り下ろし、ダメージを与えるもののどちらも退かない。再びサーベルの鍔迫り合いとなり、火花と閃光が散る。二人の頭から一夏の処遇は消えていた―――目的を阻む宿敵、秩序を乱す怨敵、子供染みた意地の張り合いにも見える。
―――情けないのはキサマの方だ。
ポツリと零したレーンに、ハサウェイは眉をひそめる。レーンは変わらず、悔しさを滲ませた目で訴えた。
「私を通して…「英雄」を見ていた奴の方がよっぽど情けないとは思わないか!!」
「―――喋るな」
「……ッ」
「それ以上、喋るなぁぁぁ!!」
ビームサーベルを振り払ったハサウェイは、ゼロ距離でペーネロペーにビームライフルを向ける。銃口を見たレーンに走る死の予感、一瞬の戸惑いが身体を硬直させて文字通り足を引っ張る。
やられる―――レーンも、モニター越しで見ていたマフティーのメンバーもそう思った。だが、彼はビームを受ける事はなかった。
クスィーがペーネロペーをロックし、ハサウェイが引き金に指をかけた時である―――。
二人の脳裏には、青い光を放つ金色の鳥がよぎった―――。
衝撃が収まったドックは未だ騒然としている。誰も気づかないほどのスピードで迫り、ここに辿りついたのは一機のISであった。
青い光を纏い、金色に輝くその機体は悠然とした姿で佇む。敵地でありながら武器は持たず、警戒しているとは思えなかった。メッサーに急ぐエメラルダさんたちを気にした様子はない、ハサウェイさんやレーンさんがいないドックは一気に死地と化す。
「なんで、こんなやつがいるんだよ…」
「噂は本当だったのか…!」
「エメ!」
「やってるよ!」
レイモンドさんとシベットさんは絶望したような表情をしていて、参謀役のイラムさんはエメラルダたちの発進を急がせる。声を荒げるエメラルダさん、フェンサーさんやゴルフさんも続いてISに搭乗する。
「メッサー」―――この組織が主力としているISが、金のISを取り囲むように配置された。イラムさん始めとした戦闘員では無いメンバーは、メッサーの後ろに隠れながら様子を窺っている。
「クソッ、なんだってこんな時に…!」
他とは形状が異なるメッサーを纏うガウマンさんが文句をこぼす。少しだけど頭痛が治まり始めた僕は、束さんが何かを知っているのではないかと視線を向ける。
「………」
尋ねようとした束さんの表情は険しかった。もしかしたら、束さんさえ知らないマシーンなのかもしれない。
だとしても、どうしてあの機体は浮遊したままで、何もしないんだ……?
「いっくん…!?」
「おい…!」
「行くな、坊や!」
好奇心か探求心か、僕はそのISに近づいた。束さんたちが制止するなか、僕の足は金の姿に引き寄せられていた。頭の中に流れるこの歌声のような音の正体が分かるかもしれない。そんな小さな理由が、僕の足を進めていた。
僕に気づいたそのISは、顔を動かし身体の向きを変えて僕と向かい合うようにした。ドックに着地しても、悠然とした雰囲気は変わらない。何処となく感じていた敵意の有無は、これでハッキリとした。
「待て!そいつは危険だ!」
「下がれ、少年!」
遅れて到着したハサウェイさんとレーンさんが、金のISにビームライフルを向ける。顔をハサウェイさんたち向けたIS、表情は見えないけど横槍を受けて眉を顰めたように見えた。
「待ってください!多分、敵じゃない!」
慌てて全員に語りかけ、武装解除を願い出る。このマシーンに敵意は無いと踏んだ僕は、もう一歩踏み出した。人同士の対話のような距離まで詰めよると、ISは右腕を僕に差し出した。
それが何を意味するのか分からない、でも…不思議と怖いといった気持ちはなかった。
僕は差し出されたISの手を取った瞬間……エレベーターに乗った時のような妙な浮遊感を覚えると、僕は光の波に呑まれていった―――。
「……あれ?」
光に呑まれ、閉じた目を開いた。周りは真っ暗で、何も、誰もいなかった。
「束さん?ハサウェイさん?」
二人を呼んでも返事がない、違和感を感じた僕は焦りを覚えて歩き出す。焦りは大きく膨れ上がり、歩みは走りに変わっていった。
―――すると、視線の先に光が見えた。
出口を見つけ、ただ近くにワープでもしたのかと、ドッキリを仕掛けられたような気持ちでため息も出た。
しかし、本当の違和感はここからだった―――。
出口が近づくにつれ、声が聞こえて来る。それは悲鳴だ、焦りや恐れが入り交じり、只事ではないような空気だった。僕がすぐそこから出てくれば収まるだろう、何事もなかったと証明して終わりだ。
「ご心配をおかけしまして、この通り……」
意気揚々と出口から飛び出した。しかし、その先に見えたのは……。
ドックではない場所だった。何台もの車、何人もの人で溢れかえり、阿鼻叫喚そのものであった。よく見るとマフティーのメンバーではなかった。
何がどうなっているのか、呆然とする僕の体は熱くなっていく。夜のような暗い中、僕は空を見上げた。
その先にあったもの―――。
「………」
暗い空、その中で赤赤と燃える丸い物体―――太陽ではない、中心部には機械のようなものが見える。僕を目掛けて段々と近づいてくる、阿鼻叫喚はこいつのせいだったんだ…。
これは地獄そのものだ。逃げ惑う人、膝を着いて祈るもの、全てを飲み込まんと空のあれがゆっくりと落ちてくる。
何もかもが無意味だ、足の力が抜けた僕はその場にへたり込む。この世の終わりを直に感じ、笑ってしまうような状況に為す術などありはしない。
終末を味わうなてて―――諦めと同時に吐き出す溜息はいつもと違った。僕は目を閉じて、訪れる終わりを全身で受け止めた―――。
「………えぇ?」
焼かれるような熱量を味わい、終わったと思ったら……また暗闇にいた。まるで夢を見ているような舞台転換に、いつものように呆れた溜息を吐く。
ただ前と少し違うのは、体が浮いているということ。スカイダイビングのように落ちていく感覚も、高級なベッドに飛び込んだような幸福感も無い。なんとも不思議な感覚だ、これは貴重な経験なのではないか、そう思って僕は体の力を抜いてこの感覚に身を委ねた。
そんな時だった。僕の目の前を通り過ぎる大きな岩、それを皮切りにいくつもの岩石が浮遊して僕を避けるようにして通っていく。
どうやら本当に夢のようだ、先程の週末も目前の岩も全ては幻想、何事も目を閉じて眠りから覚めれば終わる。
そう思っていた僕の目、遠くで光る何かを見つけた。ほんの一瞬、僅かだけど光ったそれは別の場所でまた光る。するとそれは物凄いスピードで接近していた、目で確認できる大きさになってようやくその正体を知った。
―――それはまさしく、金色の鳥だ。
さっきとは違う。巨躯を翻し、この闇を駆け抜けた。美しい、そう思った矢先、異変は起こる―――。
巨体が苦しむように身体を丸めると、背にある翼が割れ、青い光が見えた。脚、腰、腕と続き、無機質な顔が翻り、人のような姿を見せた。やがて、怒りを露わにするかのように赤く目を光らせ、青い光と共に飛び立つ。
船のような物体が遠くから鳥を狙う。針の穴に糸を通すように鳥は羽ばたくと、背にある翼が分離する。船に向かったそれは見事に突き刺さり、船を半壊にまで至らしめた。それを見届けた鳥の元に翼が帰って来る。
満足したのか、興味が失せたか、鳥は踵を返すように振り返る。
同時に僕は鳥と向かい合うような形となった。常識に当てはまらない事だらけに鳥肌が立つ、鳥は僕をジッと見つめて手を伸ばした。
これは夢なのか、現実なのか、もう何も分からない……僕を包み込んだ鳥の手が、不思議と温かく感じた。
やっぱりこれは夢なのかな……目の前が暗くなる瞬間、誰かを見かけた気がした―――。
「……んん?」
閉じた瞼を貫くかのように、ぼんやりと明るくなる感覚。カモメだろうか、甲高い鳴き声が幾つも聞こえた。同時に鼻は潮の香りを察知する。
目を開いた先には空、太陽は昇っていて空は雲が覆っている。
ゆっくりと身体を起こすと、海岸で横になっていたようだ。遠くには鳥が飛んでいて、波の音は一定で不思議なことに安心を感じていた。
「やっぱり夢なのかな…」
「―――そうかもね」
僕の呟きに誰かが答えた。驚いて肩を震わせ、横を振り向いた先……一人の女の子が立っていた。
肩までかかる金髪が波風に揺れ、翡翠のような瞳が目を引く。背はさほど大きく無くて、僕よりも幼く感じた。
「君は―――」
「私はリタ―――「リタ・ベルナル」」
キルケーの魔女はご覧になられましたか?
1作目から小説を読んだ私。結末を知る身としては、期待と不安でゴチャゴチャです。 ストーリーを思い返して答え合わせをする感覚と、オリジナルの演出による驚きと嬉しさは特別だと思います。
では、また次回に。
ハサ、病院に行こうか…。