インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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past.6

一夏と不死鳥の邂逅、微動だにしないそれらを前にマフティーは戦闘から警戒へ移行した。一夏の願い通り、状況は落ち着きつつある。いつでも戦闘ができるよう、ハサウェイを始めとしたIS部隊は警戒を続けている。

 

メカニックのメンバーも、模擬戦をしていたクスィーとペーネロペーの整備に奔走している。エネルギーとミサイルの補給、稼動部のチェックと仕事はある。整備に携わる褐色肌の少女は、ペーネロペーの整備をしながら一夏と不死鳥を一瞥する。

 

「彼が気になるか?」

 

「まさか、私は不死鳥のほうを気にしてる」

 

「そうだったな…」

 

「ジュリア!終わったらこっちも!」

 

「わかったよ」

 

一夏たちを一瞥したジュリア・スガにレーンが尋ねた。ジュリアはそれを鼻で笑うと、ペーネロペーの脚部の整備を終えて足元の工具箱を手にする。薄着で肌の露出が多い彼女が屈む度、柔い胸が見えそうになる。

レーンはそんな彼女から目を逸らしながら、まだ動きを見せない一夏たちを見つめる。

 

ジュリアは呼ばれ、また別の場所で仕事を始めた。

 

ハサウェイもレーン同様、一夏たちを注視している。その表情はどこか固く、苦虫を噛み潰したようだった。不死鳥の装甲から滲み出るように見えた青い光、それと似た光を知っているからだろう。

 

「どうするつもりだ?」

 

「……今は様子を見るしかない、これではな」

 

レーンの声でハッとして、メッサーの様子を窺うハサウェイ。二機のガンダムと数機のメッサー、これで不死鳥と真っ向から戦っても勝てはしないだろう。そんな予測が簡単に付くほど、不死鳥は強く不気味なのだ。

居ても立ってもいられない束が走り出す。しかし、彼女は途中で何かに弾かれるようにして体勢を崩した。唖然とする束に、ハサウェイはため息を漏らした。

 

不死鳥と一夏を中心として、青い光がドームのように広がっていた。一夏以外の人間を拒むかの如く、不可侵の領域を作っていた。束が触れようとする度に、その光のドームは彼女の手を弾く、

 

「―――「サイコフィールド」か…」

 

「まさか、「アクシズショック」の再来とは言うまいな…?」

 

ハサウェイが口にした言葉に相槌を打つようにレーンが返す、二人の会話を聞いた数人のメンバーは体を強張らせる。

 

 

 

―――宇宙世紀0093、「シャアの反乱」と呼ばれる大きな戦争があった。

 

 

 

宇宙に生きるスペースノイドの自治権確立を目指し、それは中立や否定していた者たちを巻き込んで大きな組織体制を成し遂げた。

そのやり方は些か、まともとは言えない。隕石を地球に落下させるという蛮行、悪行は狂気とも言えよう。

 

それが成し遂げられていたのなら、敵対する全ての者は軍門に下り、首魁は暴君として名を馳せることになるだろう。

 

しかし、それを阻む白き者がいた―――。

 

曰く英雄、曰く悪魔―――最初は敵対し、時を経て手を取り合った。しかし、それも長くは続くことはない。互いの信じる物、目指すものが彼らの運命を分けた。人を信じたいと願う彼と、人を信じられない首魁は隕石と共に地球に堕ちる。

その時に見せた奇跡は人々に齎したもの……。

 

 

 

「何か分かったか?」

 

「やはりサイコフレームによる物だな、初めて見た」

 

ハサウェイはドームの近くでデータを集めているメカニックに尋ねた。メカニックのマクシミリアンはゴーグルを通した目で、不思議な現象に感心した。不死鳥と一夏を包むドームは変わらず彼らを守るように明滅する。

 

「全ては、彼に委ねられたか…」

 

「……」

 

今の自分たちではどうする事もできない、悟ったように呟くレーン。ハサウェイも同様だが、その視線は誰よりも鋭く悲しげだった。

彼はその目で奇跡を目の当たりにしていたからだ。二人の英雄の背を見て彼はここまでやってきた、その結果が望まぬものでも彼は後悔しなかった。

 

“アナハイムめ…”

 

この世界には存在しないだろうが、元のMSを作った企業の業の深さは手に負えない。レーンのいう通り、一夏に任せるしか手はない。

子供に全てを押し付けるという、情けない大人を体現している自分に呆れながらハサウェイは一夏と不死鳥を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海辺で出会った不思議な少女、リタ・ベルナル。ISを触れてから観たリアルなビジョンに、彼女が関わっているのだろうか…。そして、それからは打って変わって穏やかなこの情景に戸惑いながら、僕は彼女に尋ねた。

 

「これは、さっきの光景は夢?それとも、いや、まさか…」

 

「私が見たものだよ?」

 

リタは首を傾げながら、僕の方が可笑しな話をしているような口調で宣った。それが最も聞きたくない言葉でもあったからだ。

世界の滅亡、宇宙の鳥、間違いなくさっきのビジョンは―――。

 

「別の世界、宇宙世紀の出来事なんだね?」

 

「そう、そして、これも…」

 

僕の言葉に頷いたリタが腕を広げると、再び広がった宇宙という暗闇。見回すとシャボン玉のように丸いものが幾つか浮遊している。

ジッとそれを見つめた。少年がロボットに乗り込んでいる、一つ目の緑のロボットが向ける銃を受けながらも、少年の乗るロボットは大地に立った。

 

別の玉には、似たカラーリングのロボットがいた。人型かと思えば飛行機のようなフォルムに変わり、空中を駆け抜ける。

それに気を取られていると、別の玉が視界に入ってきた。自己主張の激しさを感じながらも、その玉を見つめる。

 

さっきのロボットよりも大きいロボットの額から、巨大なビームが放たれる瞬間だった。

 

それが終わると新たな玉から流れるビジョンを目にする。赤と白のロボットの激突、前のビジョンよりも遥かに大きい岩石を押していた。

地球に落ちるそれを必死にとめる白き機人、それに感化されたのか他のロボットたちもそれに加勢するが、熱に焼かれて散るものもあった。岩石の落下は阻止できない、そう思った時だった―――。

 

白のロボットから放たれた光の波が岩石と地球を包み込む。やがて、それは大きな光となって岩石を押しのけた。地球は救われたんだ、言葉では言い表せない神秘の力だった。

 

そのビジョンがシャボン玉のように弾けて消えた。見てきたビジョンを思い返していると、全てのビジョンに共通する点があった。

人と同じような顔をしたロボットたちである。細部は特徴があるが、カラーリングなどの似通った部分が見られた。

 

「ハサウェイさんやレーンさんのISと似ている…?」

 

 

 

―――"ガンダム"

 

 

 

どこか既視感を覚え、ハサウェイさんたちのISが思い当たった。すると、リタが呟いた。

 

「ガンダム…?」

 

「戦いを大きく変えるもの、なんて呼ばれているけど…人間はすぐには変わらない、事実と現象だけが人から人へと語り継がれる」

 

さっきの光もそうなのだろうか、あの光を見た人たちには何か心の中で変化や奇跡を感じ取ったんじゃないか、そんな事ばかり考えてしまう。

 

「人がすぐに変わらないのは、どこも同じかな?」

 

「そうかな、そうかも…でも」

 

『今が全部じゃない』―――僕とリタの声が重なった、どこか安心して僕は自分の思いをぶつける。

 

「人間がいる限り、世界は変化していく。そこで間違えて、大きな争いにも発展する。でもその度に人間は間違いに気付く、それを繰り返さないようにって、努力できると思う。だから、僕は今あるこの世界を信じたい。人間が持つ可能性を…」

 

「……」

 

「それに、宇宙世紀から来たハサウェイさんたちが、この世界のために必死で戦っている。僕が何もしないなんて、嫌だな」

 

言いたい事は伝えたつもりだ。リタは少し考えるように海の方を見つめていた。すると、彼女の中で答えが出たのか、僕の方へ向き直る。

 

「うん、決めた」

 

「え、なに…?」

 

「もう少しこの世界を見てみる、世界が変わっていくかどうか」

 

「変わる、変えてみせるよ」

 

これで彼女とはお別れだ、彼女の後ろに現れた金の不死鳥がそれを物語る。見上げた不死鳥は光に照らされていて少し眩しい、リタにお別れをしようと見ると彼女はもういなかった。

ああ、そうか―――彼女の居場所はそこだったんだ。

 

見上げた不死鳥は青い光を纏い、フワリと浜辺から足を離した。ゆっくりと浮遊し、やがて空の向こうへと姿を消した。次第にこの景色も泡のように輪郭を失っていく、数少ない奇跡の一つだったんだ。

 

僕は久しく、光に飲み込まれた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

マクシミリアンのタブレットから警告音が鳴り響いた。ハサウェイはライフルを構え、臨戦態勢となった。一夏と不死鳥を包むサイコフィールドが消えると、一夏が意識を取り戻したのか不死鳥から離れた。

 

「また、会えるかな…?」

 

一夏の問いに不死鳥は沈黙したままだった。だが、その手が一夏に触れたことがその答えと言えた。

 

「今度は一緒に飛ぼう、僕が飛べるか分からないけどね」

 

苦笑いを浮かべる一夏だが、今度は不死鳥が頷いた。やがて光を纏った不死鳥が浮遊し、このドックから飛び去った。建物という鳥籠から解放された不死鳥はどんどんスピードを上げていった。それは観測する者たちを驚かせるほどに。

 

「ウソ、これ、光の速度だよ…」

 

「一体、何だってんだよ…」

 

「一夏くん、大丈夫か?」

 

束は理解が追いつかない不死鳥に言葉を失い、ガウマンは意図の読めない不死鳥に呆れた。危機は去ったと見て、ハサウェイはクスィーを解除して一夏に歩み寄る。力が抜けてその場に座り込む一夏は、安堵の表情を浮かべていてホッとため息を吐いた。

 

一夏のメディカルチェックを終え、暫しの休息を取った面々。コンテナに腰をかけた一夏の隣に束が控え、ハサウェイは対面するようにしてコンテナに腰を下ろす。

 

「一夏くん、不死鳥から何か見たり聞いたりしたのかい?」

 

「はい、宇宙世紀のことを少し…」

 

その言葉にメンバーたちは動揺し、それが一夏にも伝わった。ソワソワとする一夏の肩に束は手を置いて、彼を落ち着かせる。それから一夏は自分が見たものを簡潔に伝えた。

そうか、ハサウェイはそれを聞いてどうしたものかと考え込む。

 

「レーンさんやハサウェイさんのISも、ガンダムなんですか?」

 

「そうだ、私のペネロペーが最初に作られた。アナハイムめ、マフティーにまでガンダムを…」

 

「それは此方のセリフだよ…」

 

壁際で背中を着けながら、レーンは一夏の言葉を肯定した。

 

「あんな事が起こっていたなんて…」

 

「いっくん…」

 

ビジョンとはいえ、恐ろしい終末を味わった一夏。思い返すと肩が震えて、抑えようと必死に体を抱きしめる。

 

「先程も言ったが―――」

 

「…ッ」

 

「我々はこの世界を良く思っていない。この世界に蔓延る風潮は、特権階級に胡座をかく政府高官と何ら変わりはない。世界と戦う覚悟はあるか?」

 

ハサウェイは改めて一夏に問う。一夏が実際に宇宙世紀を知ったなら、自分たちと同じ空気を感じたはずだ。自分を組織や現実を教えたヤブ医者もこんな気分だったのかと、自笑するハサウェイ。かつての彼を重ねて、ケリア・デースの表情は曇る。

 

「あります、僕は戦います。どんな目にあったとしても…後悔なんてしません」

 

「……だ、そうだ。束、僕は彼の意思を尊重する。レーンもいいか?」

 

「…いいだろう。少年、私は君を歓迎するよ」

 

「レーンさん…」

 

「ただし、自分の仕事はしっかりと果たしてもらう。厳しくなるぞ?」

 

少し柔らかくなったレーンの雰囲気を感じた一夏。嬉しくて立ち上がり、レーンに向かって頭を下げた。

 

「わかった、いっくんが望むなら…」

 

「束さん…」

 

「でも約束して!絶対に危険な事はさせないって!」

 

「……ああ、約束するよ」

 

束の懇願に対して、ハサウェイはそう言うしか無かった。だが、特別な権限はない。何よりもマフティーは人手が足りないのだ。事と次第によっては、一夏も前線に出ることになる可能性はある。全ては一夏が自分で決める事だ。

 

 

 

「ようこそ、マフティーへ―――」

 

 

 

立ち上がったハサウェイが歓迎し手を差し出した、一夏はそれをしっかりと掴んだ。これを期に、少年は世界を敵に奮闘していく。これから待ち受ける数々の戦いは、彼を大きく変化させるものとなる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕がマフティーのメンバーとなって半年が過ぎた。覚えることが多すぎて、最初は首が回らない始末だった。メカニックや物資運搬の補給、裏方に回って仕事を覚えた。素人である僕にすぐ出来る事は無く、足を引っ張らないように立ち回ることを優先した。

後ろから作業を見て、詳しい事をメンバーに尋ねて覚えるまでの繰り返し。何よりも大事なことだと痛感した。

 

他には自衛のため、ガウマンさんを始めとしたパイロットの人たちから対人格闘の訓練も行う。ガウマンさんは元が軍人ということもあり、コツやポイントを丁寧に教えてくれた。素人がすぐに上達する訳もなく、何度も船に身体を打ち付けてボロボロになった。

 

「ふっ…!」

 

「おっと、甘いな!」

 

「ッ!?」

 

カバーを付けたナイフを使った模擬戦で、僕が突き刺したナイフを躱したガウマンさん。腕を掴み、引きながら押し倒されてしまう。

 

「ッ〜〜!」

 

「さっきも言ったぜ?ただ突くだけじゃダメだ、フェイントを入れたり不意を突くんだ」

 

「もう1度、お願いします…!」

 

「いいぜ、『坊やちゃん』。満足するまで付き合うぜ」

 

取り柄もない僕は、こうして倒れても立ち上がるしか無かった。何度もやられて、暫くは痣が消えなかった。他にもフェンサーさんに誘われて筋トレに勤しんだり、レイモンドさんやシベットさんに教わってチームでの白兵戦について学んだ。

 

「随分と熱心だね…」

 

「よぉ、ハサウェイ」

 

「どうしたんだ?」

 

「うん?いや、目に付いてね」

 

遠くでハサウェイさんが、ゴルフさんやシベットさんに声をかけていた。それに気を取られていると、いきなり視界が反転した。じんわりと訪れる背中の痛みに言葉を失い、口を横一文字にして耐える。

 

「余所見は厳禁だ、実戦なら死んでるぞ?」

 

「……はい、すいません」

 

レイモンドさんが怒気を含んだ声で注意する。僕のやった事はきっとタブーだ、どんな時でも目の前の事から目を離してはいけない。

 

「少し休もう。一夏、立てるか?」

 

「はい、大丈夫です…」

 

「…ン」

 

片手にペットボトルを持ったイラムさんに声をかけられ、僕は素早く立ち上がろうとした。だが、足が震えて力が入らない。見兼ねたレイモンドさんが手を差し出してくれて、それを掴んで漸く立ち上がる事ができた。

 

「何かあったのか?」

 

「ああ、近く作戦を決行する」

 

ハサウェイさんとイラムさんの来訪にレイモンドさんが訪ねると、イラムさんが眼鏡の位置を直しながら、ペットボトルを僕に差し出した。僕はそれを受け取って少し飲み、返そうとするがイラムさんはそれを断った。

 

「場所は?」

 

「あぁ、フランスに行く」

 

コンテナに腰を下ろしていたガウマンさんが尋ねる。ハサウェイさんの言葉にメンバーたちの顔つきが変わる。

 

 

 

「―――目標はフランス、デュノア社だ」

 

 

 

 

 




キルケーの魔女、二回目を見に行きました。

配信やBlu-rayが待ち遠しいです。
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