インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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時間が取れたので、今のうちに投稿しておきます。


第42話

最寄りのICで幹線道路を降り、車は会場まで無事に辿り着いた。長い運転を終えた健吾は安堵の息を吐き、後部座席に座るハサウェイと静夢がそれを労った。

 

「健吾さん、ありがとうございました」

 

「相変わらず運転がうまいんだな、助かるよ」

 

「いやいや、普通だって」

 

二人から労いを受けて謙遜する健吾だが、嬉しさを隠せずにはにかむ。車を降りた三人を迎えるかのように風が吹く。森林が近くにあり、海上にあるIS学園にいた静夢にはそれが新鮮に思えた。大きく息を吸って堪能し、それを味わう彼の様子を見たハサウェイがクスリと微笑む。

 

「なんです?」

 

「いや?君が年相応で安心したのさ」

 

「確かに、静夢って大人びてるよね」

 

果たしてそうだろうか、二人の言葉に首を傾げる静夢。トランクから取り出した荷物を手に、三人は会場へと移動する。自分たちと同じように会場へ向かう人々と合流し、中には見知った面々もいて談笑しながら会場へ辿り着く。様々な言語が飛び交い、BGMとしては騒がしい。静夢たちは所属する日本支部の面々と合流すべく、人混みを掻き分けながら進む。

 

「あ、いた!父さーん!」

 

人混みの中、健吾は日本支部の一団を見つけた。健吾の声を聞いた一人の男性が振り向くと、こちらと目が合って手を挙げた。人混みから抜け出した三人はようやく合流が叶ってため息をついた。人の多さや体格の良い人々にもみくちゃにされて気が滅入っていたのだ。

 

「おかえり、健吾…公共の場だから父さんはやめような?」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

静夢たちに手を挙げた男性は健吾を迎え入れるが、公私の区別をするようにと諌める。注意されてシュンとする健吾を尻目にハサウェイと静夢は男性に挨拶をする。

 

「おかえり、ハサウェイ。静夢も久しぶりだね」

 

「ええ、ただいま戻りました」

 

「お久しぶりです、「円華支部長」―――」

 

二人と握手を交わした日本支部長を務める「円華 大吾」は、中年ながらも若々しい雰囲気を漂わせる。相変わらず爽やかさのある大吾はにこやかで、ハサウェイたちも同じく微笑んでそれに応える。健吾は大吾の長男で、父の仕事に興味を持って同じ道を選んだ。

 

ハサウェイや静夢は各地へのフィールドワークが主な仕事だが、健吾は研究室での実験や試験を担当している。

 

 

 

旧交を温める日本支部の一同、そこに一人の人物が数人のスタッフを伴ってやってきた―――。

 

 

 

「皆さん、ご機嫌はいかがかな?」

 

その人物は車椅子に乗っており、健吾を始めとする日本支部のスタッフはその声に身を硬くする。大吾、ハサウェイ、静夢はいつもと変わらぬ様子で挨拶を交わした。

 

「『マンサン教授』、本日は宜しくお願いします」

 

「大吾くん、相変わらず若々しいね。日本支部はフレッシュでいい」

 

「若いというのは、彼らのような子たちでしょう」

 

軽い雑談を交えながら、大吾はアマダ・マンサンと握手をする。車椅子の老人、アマダ・マンサン教授は植物観察局を立ち上げ、彼ら植物観察官を育て上げた第一人者である。ハサウェイ・ノアの教官でもあり、かつての宇宙世紀で彼を通じてマフティーを知ったのだ。

 

アマダは連れのスタッフを下がらせると、静夢に車椅子を押すように頼んだ。ハサウェイはその隣に控え、開場したホールへと入って行く。

会場はパソコンのスライドを使うためか薄暗く、人が入って来て騒がしくなる。

 

「向こうではうまくやれているかな?」

 

「ええ、どうにか。協力してくれる人もいて助かりますし、何よりも友人ができました」

 

「そうか、安心したよ」

 

「ハサも心配していたんですよ?ちゃんとやっているかって…」

 

アマダが笑うと、ハサウェイは気恥ずかしい気持ちで無言を貫く。何も言わないハサウェイが気になって静夢とアマダが視線を遣るが、へそを曲げるようにそっぽを向いたハサウェイであった。アマダをスクリーンに近い席へ送り届けると、ハサウェイを始めとした観察官たちはプレゼンの準備に移る。

静夢もハサウェイの手伝いをしようと仕事に取り掛かろうとするが、アマダが彼を引き止める。

 

「―――静夢くん」

 

「どうしました?」

 

呼び止められ振り返った静夢、アマダは手招きをして静夢を近くに呼んだ。静夢はアマダの言葉をしっかり聞き取ろうと車椅子の横に控える。

 

「『クワック・サルヴァー』がまた会いたいと言っている、時間を作って連絡をしてほしいとのことだ…」

 

「―――わかりました、ありがとうございます」

 

アマダの口から出た人物の名に目を見開く静夢だが、平静を保って返事をする。そして、再び早足でハサウェイたちの元へ合流した。

ヤブ医者というコードネームを持つ男、それがクワック・サルヴァーだ。マフティーという組織を結成し、マフティー・ナビーユ・エリンという架空の存在を作り上げた男でもある。

 

ハサウェイはアマダを通じてクワックと出会い、組織にのめり込んでいった。この世界での再会は予期しておらず、行動を前に足踏みしていた彼らにとっては嬉しい誤算だった。篠ノ之 束の協力が勢いに拍車をかけて、組織は以前よりも大きくなった。

ハサウェイを経由して、静夢はクワック・サルヴァーとの出会いを果たした。これまでに出会ったどんな人間よりも底が知れない存在だった、知らず知らずのうちに闇に引き込まれるような不気味な感覚もあり、しばらくは鳥肌が収まらなかった。かと思えば、歯を見せて笑うようなフランクな態度を取るこの男。やはりやり手なのだと静夢は実感した。

 

アマダ・マンサンは静夢にハサウェイと同じものを感じていた、向かう先は破滅か創造か……アマダは、ハサウェイたちに混じって準備をする静夢を見つめていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園を出発して数時間、バスに揺られた一行は目的地に到着する。バスを降り、生温い海風を浴びたヴァルト・パークスは不快な湿気に顔を歪める。

 

「堪らんな、この湿気は……」

 

荷物を抱えるヴァルトに歩み寄るケネスは、鬱陶しい湿度を紛らわすためにシャツの襟元を仰ぐ。

 

「来い、お前たちの部屋はこっちだ」

 

そう言って歩き始めるケネスの後に続いてヴァルトと織斑が移動を始める。訪れた宿泊地となる旅館の玄関口では他の生徒たちが整列して待機している。

全員が整列を終え、点呼を完了すると千冬が号令を出す。

 

「今日からお世話になる旅館の方々だ、迷惑をかけないように!」

 

『よろしくお願いします―――!』

 

「はい、よろしくお願いします」

 

この旅館は、恒例行事となった臨海学校で世話になっている。女将は何年も見慣れた光景にほほ笑みを浮かべ、一礼する千冬に礼をする。

 

「今年もお世話になります。しかも、今回は……」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。織斑先生にはいつもご贔屓にしてもらっていますので」

 

このやり取りはもう何度目だろうか、互いに勝手知ったる仲ともいえる女将と千冬は苦笑いを浮かべた。そして、千冬の後方に控える男衆を見遣る。

 

「初めまして、新任のケネス・スレッグです。よろしくお願いします」

 

「ようこそいらっしゃいました、よろしくお願いします」

 

ケネスが差し出した手を握りながら、女将は歓迎の意を示す。旅館では様々な外国人を相手にしてきた、彼女にとってケネスとの握手は些事である。

 

「こんな美人さんが女将とは、来た甲斐がありました」

 

「まぁ、お上手ですこと。お世辞でも嬉しいですよ」

 

「そんな、思った事を口にしたまでで…」

 

クスクスと笑みを浮かべる女将。優男として認識されたケネスだが、その言葉は本心であった。軍の上層部にも口が上手くてことごとく躱す者たちがいた、この女将を始めとした日本人はどうも謙遜に徹底して、それに近いものを感じた。

 

「て、そちらが噂の?」

 

「ああ、そうです。お前たち、挨拶をしろ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「―――どうも」

 

ケネスに促され、織斑とヴァルトは挨拶をする。緊張する織斑と素っ気ないヴァルトに子供らしさを感じた女将が歓迎すると、ここである事に気付いた。

 

「三人とお聞きしてましたが?」

 

「所用がありまして遅れます、ご迷惑をおかけします」

 

「ああ、そういう事でしたか。お忙しいのですね」

 

千冬の説明を聞いて納得し、女将は一同を旅館の中へと案内した。生徒たちは事前に割り当てられた部屋へ向かい、荷物の整理を始めた。臨海学校の初日は自由時間となっており、彼女たちは水着に着替えて海へと駆け出して行く。ヴァルトたちは教師たちと同じ部屋になっており、これは混乱や風紀の乱れを防ぐためである。

 

千冬やケネス、真耶といった教師はまだ仕事が残っている。荷物を置いて早々に部屋を出ると、ヴァルトと織斑が部屋に残される。二人の沈黙は険悪で、第三者から見れば関わりたくは無いものだろう。荷物を部屋の隅に置いたヴァルトは貴重品を持って早足で部屋を出た。

 

近くの自販機でドリンクを買い、建物から出た瞬間に突き刺さる紫外線にため息を吐く。海沿いの道を歩いていると着ぐるみのような姿の本音に遭遇する。彼女曰く水着だそうで、ヴァルトは日本人の創意工夫に驚かされた。

すると、本音の後ろに隠れるように、水着姿の簪が顔を覗かせる―――。

 

「かんちゃん、パーくんに見せるためにおめかしして来たんだよ〜?」

 

「本音……!」

 

思わず声を上げた簪が本音の後ろから飛び出した。結果的に水着姿をヴァルトに見せる事となり、上着であるパーカーのジッパーを上げて身体を隠す。

コメントに困ったヴァルトは視線を下げ、どうやって切り抜けようかと逡巡する。

 

「じゃあ、遊んで来るね〜」

 

「ちょっと〜!」

 

そそくさとその場を後にする本音は速かった。嵐のように過ぎ去り呆気に取られる二人、ふと視線が合いサッと逸らす。

 

「えっと、泳がないの…?」

 

沈黙に耐えられなくなった簪が私服のまま歩くヴァルトに尋ねる。

 

「バニラに海なんて無くてな、今日は雰囲気だけ味わっておく」

 

そう言って浜に続く階段に腰を下ろしたヴァルトは、持っていたドリンクを簪に差し出す。まだ蓋が開いていないドリンクを見て、受け取るか迷っている様子だった。そんな様子にため息を吐くヴァルト、立ち上がって簪へ近づくと強引にドリンクを押し付けた。

 

「簪―――」

 

「………」

 

「夏休みになったら、どこか出ないか?」

 

「……ッ」

 

思わぬ誘いに簪は顔を上げた。目の前のヴァルトはどこか照れくさそうにそっぽを向く。せめて見栄だけでも崩すまいとしていたが、簪はヴァルトのその姿が幼い子供のように見えてクスリとする。どうにも格好のつかず、ヴァルトはため息を吐いて目を伏せた。

 

「私も、ヴァルトとお出かけしたい」

 

「………そうか」

 

心に嬉しさが溢れ出し、照れくさい感情が消えたヴァルトは心が軽くなった気がした。

 

「少し歩かないか?」

 

「うん…!」

 

二人は肩を並べながら歩き始めた。生温い風が今は心地よい、ヴァルトは不思議な気分になった。父親との関係、喧嘩で荒んだ生き方を続けていた自分が、こんな風に誰かのことを考えるようになった。

かつての幼馴染を思い浮かべ、故郷が懐かしくなったヴァルトは里帰りを考えた。この数ヶ月はとても濃密だった、父親の計らいを感謝しようと考え始めた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上を悠々と進むヴァリアントとシーラック、船内は浮足立っていて、ドックに人員が集中している。大型のクスィーやペーネロペーのために確保された奥のスペース、そこにISは無かった。

あるのはガウマン・ノビルが搭乗するMメッサー、ISとは違う別のマシンであった―――。

 

そのマシンは平面で、中央部にはスペースがある。大きさを考えると人間は勿論、ISも載せる事が出来るだろう。

 

「行けるのかい?」

 

「システムに問題は無いよ。レイモンド、操縦桿を引いて!」

 

「分かった!」

 

エメラルダ・ズービンはマシンの傍でコンソールパネルを叩く篠ノ之 束に尋ねる。セットアップを終えてコンソールを消し、彼女は離れた場所にいるレイモンド・ケインに叫んだ。

大きな声で応えたレイモンドはレーシングゲームのような硬い椅子に座っていた、目元を覆うゴーグルを装着した彼は右の操縦桿をゆっくり引く。

 

すると、マシーンはドローンのようにフワリと浮遊を始めた。Mメッサーに乗ったガウマンや周囲のメンバーが歓声を上げる。左右の旋回、上昇と下降を繰り返す。

 

「まさか、「ギャルセゾン」を復元させちまうとはな…」

 

ガウマンは操作に慣れるためにぎこちない動きをするマシーン、ギャルセゾンを眺めながら束を一瞥する。その視線にピースサインで応えた束は、近くでデータを取るマクシミリアンからタブレットを受け取る。

ギャルセゾンとは―――宇宙世紀でマフティーが運用していたSFS(サブフライトシステム)である。

元々は宇宙での運用が前提であるMSだが、地上では地球の重力によって大きく制限される。歩行能力による活動範の制限、推進剤の大幅な消費を解消するために考案されたのがSFSだ。主な目的はMSの運搬や移動、MSだけでなく物資や人員の運搬も可能だ。単機での戦闘も可能であり、その証拠として機首と思われる部分には機銃が設置されている。

 

「レイモンド、降ろして!メッサーを載せてみよう!」

 

「了解!」

 

レイモンドがギャルセゾンを着地させると、束は再びコンソールを起動させる。マクシミリアンから受け取ったタブレットを見ながらデータを取り、すぐさまギャルセゾンに反映させていく。

ジュリア・スガも興味があるのか、束の後ろからディスプレイを覗いている。それを見た束がジュリアに教えるようにしてデータを見せた。

 

「よし!ガウマン、いいよ」

 

「あいよ…」

 

ガウマンがメッサーを操作し、ギャルセゾンのスペースに載せた。スペースの前方からグリップが出ると、ガウマンはそれを掴んでメッサーをギャルセゾンに固定させる。

 

「いいぜ、レイ」

 

「行くぞ…」

 

ガウマンが通信で伝えると、レイモンドは再び操縦桿を引いた。MSの時の感覚を思い出し、ガウマンは懐かしい浮遊感を覚える。再びギャルセゾンが上昇と下降を繰り返し、懐かしい光景に歓声が大きくなる。

 

「順調かな?ギャルセゾンは」

 

メッサーを載せたギャルセゾンを見上げながら、ハサウェイ・ノアは束に尋ねた。ISと言えどもエネルギーを消費する、エネルギー消費を抑える意味でもギャルセゾンの運用は必要不可欠だった。

 

「先にロンド・ベルやジオニックの方に取りかかってたから……遅れてごめんね?」

 

「いや、いいんだ。無理を言ったのはこちらだし、君も大変だろう?」

 

逆にハサウェイに気を遣われて、束は苦笑いを浮かべた。これまでにロンド・ベルとジェニックでのリリースを予定していて、束はそちらに時間を割いていた。メカニックたちのノウハウを吸収し、ギャルセゾンの完成までどうにかこぎつけたのだ。

しかも、マフティーはテロ組織だ。優先順位を間違えれば、世間の風当たりも悪くなってしまう。束の判断は正しい、ハサウェイは束の世渡りを称賛する。

 

「一夏のところに行くのかい?情報では少し先のハズだが」

 

「行くよ?誰かさんが約束を破ったから」

 

白い目を向ける束のプレッシャーを誤魔化すため、ハサウェイは明後日の方を向いて目を合わせないように努めた。一夏と共にロンド・ベルを訪れた際、偶然にも束と再会した。情報を共有したわけではないが、彼女は一夏が戦場に出たと気付いていた。

それからというものの、束はしつこくハサウェイを責める。束のそれは正当性があり、ハサウェイも彼女との約束を破った後ろめたさを感じていた。

 

「彼女と会う事になるが、大丈夫なのか?」

 

ハサウェイの言葉に束は手を止める、ハサウェイの言う彼女は千冬のことだ。一夏に会いに行く、それは千冬との再会も同義である。実の妹である箒との再会もそうだ、姉として妹をどう導くか……束は決断を迫られている。

 

「これで最後になるかもね……」

 

ハサウェイは束の呟きを聞き流し、メッサーを載せたギャルセゾンを観察する。メカニックに呼ばれたハサウェイはマクシミリアンと合流して、メンバーの中に紛れていった。

一人になった束はワイシャツの袖を捲り、ギャルセゾンの調整に集中するのだった―――。

 

 

 




支部長は光の人をイメージしました。

海のシーンはあんまり原作と変わらないので、カットさせてもらいました。しっかりとストーリーを進めたい所存です。
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